「なぜ」をAIに問わせ、判断は人が残す——わかる化のAIファースト

わかる化のAIファーストとは、数字の変化の「なぜ」を、人が一人で考える前に、AIに候補を出させ、つながり(ループ)として描かせることです。ただし、どの候補が本当かを確かめ、どこに手を打つかを決めるのは人です。その線は、動かしません。

数字をAIに先に読ませ、問いとして受け取る形は、数字はAIに先に読ませるで書きました。問いが届いたあと、次に向き合うのが「なぜ」です。

目次

「なぜ」と聞いた瞬間、犯人探しが始まる

月曜の朝、通知が届きます。「先週の粗利率が、前週比で3ポイント下がりました。なぜ動いたと見られますか」。

ここまでは、いい流れです。問題は、その先の会議です。

「値引きが増えたんじゃないか」「営業の誰かが安請け合いした」「製造の歩留まりが落ちた」。出てくるのは、犯人の名前です。話は「誰が」に流れ、対策は「注意する」で終わる。そして翌月、同じ通知が届きます。

これは意志の問題ではありません。経営は「ループ」でできているで書いたとおり、目に見えるのは「出来事」だけだからです。出来事と出来事をつなぐ矢印は、目に見えません。だから、一つの出来事が、一人の責任に見えてしまいます。

多くの会社は、「なぜ」の段で止まっている

数字を見るところまで来た会社は、増えました。ただ、その先へ進んだ会社は多くありません。

2026年版中小企業白書に、中小企業のデジタル化の段階を4つに分けた調査があります(帝国データバンク調査、12,215社、確認日2026-09-22)。デジタルツールを使う環境に移った「段階2」が57.3%で、約6割。業務効率化やデータ分析に取り組む「段階3」は24.5%。ビジネスモデルの変革や競争力強化まで進んだ「段階4」は、2.8%でした。

数字は見える。分析も、4社に1社は始めている。それでも、そこから先に進めない。「なぜ」を構造として捉え、手を打つ段で、多くの会社が止まっています。

理由は、はっきりしています。「なぜ」を考える作業が、人の頭の中だけで行われているからです。頭の中では、矢印は描けません。描けないから、いちばん目立つ出来事と、いちばん近くにいる人に、原因が寄っていきます。

発想を入れ替える:AIに「なぜ」の候補を出させ、ループを描かせる

「なぜ」の型:AIが下書きし、人が決める ① 変化を渡す 動いた数字と、前後の 数字をAIに渡す 出どころは元のシステム 計算はさせない ② 候補とループ 「なぜ」の候補を5つ 矢印でつないで描かせる AIの仕事はここまで 出てくるのは「筋の通った候補」 ③ 人が確かめ、決める どの候補が本当かを 社内の事情で確かめる どの矢印を切るかを決める 責任もここに残る AIは「なぜ」を決めない。決めるための材料を、矢印つきで並べる

図1:変化を渡し、候補とループを描かせ、人が確かめて決める。

やることは、三つです。

① 変化を渡す。 動いた数字と、その前後の数字を、AIに渡します。数字の出どころは会計や販売のシステムです。AIに計算させた数字は使いません。この点は前の記事で書いたとおりです。

② 候補とループを描かせる。 「なぜ」の候補を5つ出させ、それぞれが他の何とつながっているかを、矢印で描かせます。ここが、人の頭の中ではできないところです。候補が一列に並ぶのではなく、矢印でつながった輪として出てくる。それだけで、犯人の名前ではなく、構造が目の前に置かれます。

③ 人が確かめ、決める。 出てきた候補のうち、どれが本当かを確かめます。値引きが増えたのは競合対応なのか、担当者の判断なのか、期末の駆け込みなのか。数字に出ていない事情を知っているのは、社内の人だけです。そして、ループのどの矢印を切るかを決めます。

問いを設計するで書いた多視点の型とは、役割が違います。あちらは、外の世界を調べるときに死角を減らす型です。こちらは、自社の中で繰り返す問題の、つながりを描く型です。

AIは、因果を決められない。だから役割を分ける

任せる範囲には、はっきり線を引きます。AIは「なぜ」の候補を出すのは得意ですが、「本当にそれが原因か」を決めるのは苦手だからです。

2024年に国際会議で発表された研究があります。相関(一緒に動く関係)から因果(一方が他方を引き起こす関係)を推論できるかを、17種類の大規模言語モデルで試したものです。結果は、ほぼランダムに近い成績でした。訓練データに似た問題では改善しますが、問い方を少し変えると、また崩れる。そのことも示されています(Corr2Cause、ICLR 2024、確認日2026-09-22)。

研究は2023年から2024年にかけてのもので、モデルはその後も進んでいます。それでも、読み取れることは変わりません。AIが出す「なぜ」は、筋の通った候補であって、確かめられた原因ではない。 一緒に動いている二つの数字を見せれば、AIはもっともらしい矢印を引きます。その矢印が本当かどうかは、現場を知る人にしか分かりません。

だから、役割を分けます。AIには、候補を広く出し、矢印でつなぐところまで。人には、確かめることと、決めること。AIが出した矢印を、そのまま原因として会議に出すのは、いまの段階では危ない橋です。

中小企業の始め方:繰り返す問題を、一つだけ選ぶ

AIが輪を描き、人が切る矢印を決める 値下げで受注を取る 利益が薄くなる 品質・サービスに手をかけられない 選ばれる理由が減る さらに値下げで取りにいく 悪循環 AIが描いた輪 人が切ると 決めた矢印 どの矢印を切るかは、AIには決められない。社内の事情と、手元の資金を知る人が決める

図2:AIが描いた悪循環の輪に、人が切る矢印を一本決める。

始め方は、小さくします。

① 繰り返す問題を、一つだけ選ぶ。 「また起きた」と感じている問題を、一つに絞ります。粗利率の低下、納期遅れ、特定の取引先の受注減。全部を一度に扱うと、全部が普通に見えます。

② AIに、候補とループを描かせる。 指示は、こんな形で十分です。

「先週の粗利率が前週比で3ポイント下がりました。前後4週の数字は次のとおりです。下がった理由の候補を5つ挙げ、それぞれが他の候補や、会社の中の何とつながっているかを矢印で示してください。輪になっているものがあれば、輪として描いてください。」

出てくるのは、候補の一覧ではなく、矢印でつながった図です。図2のような輪が、たいてい一つか二つ出てきます。

③ 候補を確かめ、切る矢印を決める。 出てきた矢印は、一本ずつ裏を取ります。「値引きが増えた」は本当か。販売のシステムで、値引き率を見れば分かります。「歩留まりが落ちた」は本当か。製造の記録で分かります。裏が取れた矢印の中から、切る一本を決めます。

経営は「ループ」でできているで書いたとおり、効く一点は、たいてい目立つ場所にはありません。図2なら、目立つのは「値下げ」ですが、切りやすいのは「利益が薄い→手をかけられない」の矢印かもしれません。薄い利益の中で、どこに手をかけるかを決め直す。それは、値下げをやめるより先にできることです。

ここで決めるのは、人です。どの矢印を切るかは、社内の事情と、手元の資金を知る人にしか決められません。

「わかる」の次は、「儲かる」

切る矢印が決まると、次の問いが出てきます。切ったあと、利益はどう変わるのか。

ここから先が、「わかる化」の出口であり、儲かる化の入口です。ループの中で切った一本が、損益分岐点をどれだけ動かすか。その見方は儲かる化とは、損益分岐点を「動かす」ことであるに書いています。

AIは、変化を拾い、問いを立て、「なぜ」の候補を矢印でつなぐところまでは担えます。確かめ、切る矢印を決め、その結果に責任を持つのは、人です。この順番が守られている限り、AIは犯人探しを、構造探しに変える道具になります。

よくある質問

Q. どのAIでもできますか?
A. 対話型のAIなら、同じ型で使えます。決め手は道具ではなく、「候補を5つ、矢印でつないで」という問い方です。図を描く機能がなくても、文章で「AがBを増やす」と書かせれば十分です。

Q. ループ図は難しそうです。
A. 難しく考えなくて大丈夫です。AIが描いた図を見て、「これは違う」「これは本当だ」と一本ずつ見ていくだけ。自分で描くのではなく、描かれたものを直す。その順番なら、初めてでも進みます。

Q. AIが出した候補を、そのまま信じていいですか?
A. いいえ。研究でも、AIは相関から因果を決めるのが苦手だと示されています。候補は「筋の通った仮説」として受け取り、社内の記録で一本ずつ裏を取ってください。裏の取れていない矢印は、会議に出さないでください。

まとめ:犯人探しを、構造探しに変える

「なぜ」と聞いた瞬間、会議は犯人探しになりがちです。目に見えるのが出来事だけで、矢印が見えないからです。数字を見るところまで来た会社は増えましたが、「なぜ」を構造として捉える段で、多くの会社が止まっています。

だから、AIに「なぜ」の候補を出させ、矢印でつないだ輪として描かせます。人の頭の中ではできなかったことが、目の前に置かれます。ただし、AIは相関から因果を決められません。出てきた矢印を確かめ、切る一本を決め、責任を持つのは人です。始め方は、繰り返す問題を一つ選ぶことから。

自社のループは、回している本人にはいちばん見えにくいものです。「なぜ」を問うと責任の話になり、当事者ほど自分の矢印を確かめにくい。AIが描いた輪を前にしても、「これは本当だ」と言いにくい矢印が、社内には残ります。

外から「この矢印は、本当に切れますか」と聞かれて、はじめて動く一本があります。ベンチャーネットはFDE型の伴走として、繰り返す問題を一つ選び、AIに輪を描かせ、切る矢印を一緒に決めるところからご一緒しています。いま「また起きた」と感じている問題を一つ持ち寄って、まず壁打ちから。

次に読むなら

「数字が届く形を、先に作りたい」
→ 数字はAIに先に読ませる——見える化のAIファースト

「ループの考え方から知りたい」
→ 経営は「ループ」でできている——悪循環を断ち、好循環を回す

「見えると、わかるは何が違うのか」
→ 「見える」と「わかる」は違う——現象の裏にある構造

「切った一本が、利益をどう動かすか知りたい」
→ 損益分岐点を「動かす」経営(縮む市場で引く2本の線)

この記事で参照した公開情報

  • 中小企業庁「2026年版中小企業白書」第1-1-31図(帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」、n=12,215)
  • Jin et al., “Can Large Language Models Infer Causation from Correlation?”
    • Corr2Cause、ICLR 2024、arXiv:2306.05836(初稿2023年6月、改訂2024年4月)

いずれも確認日2026-09-22。数値は各機関・各研究の発表に基づきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次