「答えをもらう」から「問いを設計する」へ——AIで”多視点リサーチ”して経営判断の死角を消す

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AIに聞いて、最初の答えで閉じていませんか

調べ物をAIに頼む社長は、ここ数年で一気に増えました。

ありがちなのは、こんな流れです。質問を投げる。返ってきた答えをコピーする。タブを閉じる。なんとなく分かった気にはなる。でも、人に説明できるほど深くはなっていない。

後になって「で、結局どういうことだったか」を思い出せない。これは、賢い相棒を、ただの”速い辞書”として使っている状態です。

調べ物が浅いままだと、困るのは経営判断の前です。見落としに気づけず、片側の情報だけで決めてしまう。本当はもう一つの視点があったのに、それを聞きそびれる。

この記事は、その浅さを抜け出すための、AIの”問いの立て方”の話です。

一発質問 多視点で問う 多数派の見方だけ。死角が大きい 論点が埋まり、死角が小さくなる 見えている 死角(見えていない)

図1:一発質問で返るのは「多数派の見方」一つだけで、死角が大きく残る。5つの視点で問うと、見えていなかった論点が埋まり、死角が小さくなる。

なぜ”一発質問”だと浅くなるのか

AIに「○○について教えて」と聞くと、返ってくるのはたいてい多数派の見方です。いちばんよくある枠組み、表面の整理。無難ですが、深くはありません。

でも、一つのテーマには、ふだん別々の人が別々のことを見ています。

たとえば「リモートワークは生産性を上げるか」を、現場の実務家・研究者・懐疑派・お金の流れを追う人・歴史を知る人の5人に聞いたとします。返ってくる答えは、まるで違うはずです。実務家は現場の現実を、懐疑派は推進派が無視している事実を、お金の目は「誰が得をするか」を持ち出してきます。

この差を、数字で示した研究があります。スタンフォード大学が公開したSTORMという研究システムです。STORMは、テーマを渡すと多視点で問いを立てて記事を組み上げる仕組みです。自然言語処理の国際会議NAACL 2024で発表されました(arXiv:2402.14207)。

STORMが示したのは、ひとつの視点から調べるより、複数の視点から問いを立てて調べたほうが、できあがる記事の質が上だった、という結果です。経験を積んだ専門家の評価で、「整理されている」と判断された記事の割合が、比較対象より25%多くなりました。扱う範囲も、明確に広くなっています。

要するに、「視点を増やすと、一発質問では見えない死角が見える」ということです。そして、この”多視点で問う”という考え方そのものは、専用ソフトがなくても、いつものAIで真似できます。

解決策:多視点で問う”4つの型”

難しい設定は要りません。AIに4つの指示を順番に投げるだけです。ベンチャーネットの言葉で、4つのステップとして整理します。

ステップ1:5つの立場で洗う

まず、AIに5人の専門家になりきって分析してもらいます。

  • 実務家:毎日それを扱う人。学者が見落とす現場の現実は何か
  • 研究者:証拠が実際に示しているのは何か。通説と食い違う点はどこか
  • 懐疑派:いちばん強い反論は何か。推進派が都合よく無視している事実は何か
  • お金の目:誰が得をするか。どんな利害が情報を歪めているか
  • 歴史の目:似た過去のパターンは何か。それらはどう転んだか

各視点に、中心の主張・いちばん強い根拠・その視点だけが言える一言を、出させます。

そのままAIに貼れる指示の例:
「[調べたいテーマ]について深く理解したい。次の5人になりきり、各立場から分析してください。①実務家(現場の現実)②研究者(証拠が示すこと・通説との食い違い)③懐疑派(最も強い反論・推進派が無視する事実)④お金を追う人(誰が得をするか・利害の歪み)⑤歴史を知る人(過去の類似と結末)。各視点について、中心の主張・最も強い根拠・その視点だけが言えることを一つずつ。」

ステップ2:意見がぶつかる所を地図にする

次に、5人の声がどこで食い違うかを、AIに探させます。意見が衝突する場所こそ、本当の理解が眠っている所です。

指示の例:
「上の5つの視点をもとに、意見がぶつかる点を整理してください。①どの視点が真っ向から食い違うか②根拠が最も強い視点・弱い視点はどれか③全員が一致している点(確からしい)④どの視点も触れなかった点(この分野の死角)。」

全員が一致した点は、おそらく正しい。誰も触れなかった点は、その分野の空白そのものです。

ステップ3:1枚のメモに統合する

ここまでの材料を、AIに1本のメモへまとめさせます。

指示の例:
「5つの視点と対立点を、1枚のメモにまとめてください。①一段落の要約②重要な発見を確からしい順に5つ(各点に賛成・反対の視点を添える)③重ねて初めて見える意外なつながり④中小企業の経営者は具体的に何を変えるべきか⑤答えが出れば理解が一変する一つの問い。」

ひとりの専門家には書けない、論点の地図ができあがります。

ステップ4:AI自身に査読させる

最後に、自分の出力を自分で採点させます。ここが歯止めです。

指示の例:
「いまのメモを、あなた自身で査読してください。①重要な発見それぞれに信頼度1〜10と理由②最も自信のない主張と、検証に必要な情報③効きすぎた視点はないか④結論を変えうる”6人目”の視点はなかったか⑤第三者の専門家なら何点をつけ、どこを直せと言うか。」

この4つで、論点出し・矛盾の分析・統合・確からしさの採点まで、5分ほどで一周します。

①5つの視点 で洗う 約1分 ②矛盾を 地図にする 約2〜3分 ③1枚に 統合する 約3〜4分 ④AIに 自己査読 約5分 0分 5分で一周 出てきたメモは”検証すべき仮説”。固有名・数字・日付は、最後に人が一次情報で裏を取る。

図2:4つの指示を順番に投げるだけで、論点出し・矛盾分析・統合・確からしさの採点まで約5分で一周する。ただし出力は「検証すべき仮説」であり、最後の裏取りは人の仕事として残る。

“答えをもらう人”から”問いを設計する人”へ

この型は、調べ物の入り口なら、だいたいの場面で効きます。経営者にとっては、たとえばこんな場面です。

  • 提案資料や社内資料を書く前:他の人が触れていない角度を、最初から押さえられる
  • 大きな意思決定の前:実務家が「現実に何が動くか」、懐疑派が「何がまずいか」、お金の目が「誰が得をするか」を出すので、賛成側だけの資料より腰が据わる
  • 知らない分野を学び始める前:何を先に学ぶべきか、何が過剰に持ち上げられているかが見え、遠回りを減らせる

共通しているのは、「答えをもらう」ためではなく「論点を出しきる」ために使っている点です。最終的に決めるのは社長自身。これは、判断材料を漏れなく並べるための道具です。

データを集めて、そこから判断を導く、いわば経営の”わかる化”とも、この姿勢は地続きです。(関連記事:データを経営判断に変える「わかる化」へ)

使うときの3つの落とし穴

便利な一方で、気をつけたい点が3つあります。

ひとつ目は、ハルシネーションです。 ハルシネーションとは、事実に基づかない、もっともらしい誤情報をAIが生成することです。5つの視点で具体的に語らせるほど、回答は説得力を増します。でも、説得力と正しさは別物です。固有名詞・数字・日付は、ステップ4の査読で「弱い」と出たものから順に、必ず一次情報で裏を取ってください。ここだけは省けません。

ふたつ目は、ソースバイアスの転移です。 AIが裏で見ている情報源が偏っていると、その偏りがそのまま出力に乗ります。これはSTORMの論文も弱点として挙げている話で、参照元の偏りが記事に移ったり、関係ない事実どうしが結びつけられたりします。5つの視点がそろって同じ方向を向いていたら、「本当に全方位か、それとも同じ偏りを共有しているだけか」を一度疑うとよいです。

みっつ目は、「5分で専門家になれた」という過信です。 この型が速いのは下ごしらえであって、専門知そのものではありません。出てきたメモは「これから検証すべき仮説のリスト」だと思って扱うほうが、結局いい判断につながります。

いちばん大事なのは、ここです。AIの出力は、答えではなく”検証すべき仮説”です。最後に判断し、その結果に責任を負うのは、社長自身です。AIに任せきりにしない最後の一手を、いつも手元に残しておく。(関連記事:AIにどこまで任せ、どこで人が判断するか)

よくある質問

Q. 専門知識がなくても使えますか?

使えます。難しい設定は要らず、4つの指示を順番に貼るだけです。専門用語が出てきたら「中学生にも分かるように」と添えれば、AIが噛み砕いて説明します。

Q. どのAIでもできますか?

対話型のAIなら、同じ考え方で使えます。大事なのはツールではなく「5つの視点で問う」という型のほうです。出力の質はAIで差が出るので、固有名や数字は最後に必ず人が裏を取ります。

Q. 自分で全部やると、かえって時間がかかりませんか?

この型は、むしろ時間を節約する下ごしらえです。一周5分ほどで、一発質問では見落とす論点まで並びます。全部を調べ直すより、”どこを深掘りすべきか”が先に分かるぶん速くなります。

まとめ:価値は「問いを設計する人」へ移っていく

AIが普通に良い答えを返す時代になりました。差がつくのは、「どれだけ答えを知っているか」ではなく、「どんな問いを、いくつの角度から立てられるか」のほうに移ってきています。

ひとつの検索結果を眺めて閉じるのは、入り口で引き返すようなものです。同じ5分でも、5つの視点で洗い、矛盾を地図にし、統合し、自分で査読まで回せば、出発点がまるで変わります。

そして、これはAIの使い方であると同時に、経営そのものでもあります。良い問いを立て、視点を尽くし、最後は自分で決める。

この型は、AIに5つの視点で問わせて死角を減らすものでした。でも、ひとつだけ自分では埋めにくい死角があります。”自分の問いそのものの偏り”です。AIに5視点で問わせても、5つが同じ方向を向くことがある。同じように、自社のことになると、立てる問いはいつも似た角度に寄りがちです。自分の思い込みは、自分からは見えにくいものです。

だからこそ、外からもう一つの視点、いわば”6人目”が入ると、問いの設計が動き出します。ベンチャーネットは、AIを道具にしながら、その”6人目”として経営判断の伴走をしています。次に何かを大きく決める前に、「どんな問いを立てるか」から一緒に考えたい方は、気軽に声をかけてください。(関連記事:「で、うちはどうする?」を言葉にする経営の問いの立て方)

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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