ベンチャーネットは、会議の記録の整形、記録への問いかけ、ブログ記事の下書き、そして製品の検証をAIに任せています。任せていないのは、何をやるかを決めること、どこまで言い切るかを決めること、そして続けるか止めるかを決めることです。
この記事では、その一覧をそのまま並べます。あわせて、任せようとしてうまくいかなかったことも書きます。そこがいちばん役に立つはずだからです。
これはVN-Lab——ベンチャーネットが自社で試していることを、都合の悪い部分も含めて公開するシリーズの1本です。
「AIを何に使っていますか」に、答えに詰まる
この質問をいただくと、少し困ります。
嘘をつく理由はありません。ただ、答えようとすると「文字起こしと、記事の下書きと、あと検証環境で……」と歯切れが悪くなる。用途がばらばらで、一言でまとめられないからです。
そこで、一度並べてみることにしました。並べてみると、自分たちでも気づいていなかったことが見えてきます。
概念としての整理はバーチャル社員とはに書きました。この記事は、その自社版です。
任せていること
図:任せている4つ。いずれも手を動かす部分にあたる。
1. 会議の記録を、整えて置く。Zoomでの会議を文字起こしし、Notionへ整形して格納するところまでをAIエージェントに任せています。人が清書する設計にすると、忙しい週に穴が空くからです。詳しくは自社の会議をどうNotionに貯めているかに書きました。
2. 貯まった記録に、問いを投げる。用途は1つに絞っていて、次のアクションに抜け漏れがないかの確認だけです。AIが出すのは指摘であって、判断ではありません。
3. 記事の下書きと点検。このブログの記事は、素材を読ませたうえでAIに下書きさせ、人が工程ごとに止めて確認しています。作り方そのものはこのブログは、AIエージェントとどう作っているかに開示しました。
4. 製品環境での検証。お客様から「こういうことはできますか」と聞かれたとき、資料ではなく実物で確かめます。この環境は壊してよい前提で使っていて、自社の本番データは入れていません(ベンチャーネットのNetSuiteは、実験室である)。
並べてみると、共通点があります。どれも「手を動かす部分」です。
任せていないこと
こちらのほうが、輪郭がはっきりしています。
図:任せていない5つ。性格の違う2種類の線が引かれている。
並べて気づいたのは、線が2種類あることでした。
人が決める線は、毎回引き直します。何をやるか、どこまで言い切るか、続けるか止めるか。案件ごと、記事ごとに判断が変わるので、その都度です。
そもそも渡さない線は、最初に一度だけ引きます。個人のプライベートに関わる情報は貯めない。実験環境に自社の本番データを入れない。この2つは、判断以前の決めごとです。
後者を後回しにすると、あとで引けなくなります。すでに入ってしまったものを前にして「これは消すべきか」を議論するのは、はるかに難しいからです。
任せようとして、うまくいかなかったこと
ここからが、いちばん書きたかった部分です。
任せようとして、うまくいかなかったことが1つあります。決裁者が、本当の課題を見つけることです。
AIに材料を渡せば、課題の候補はいくらでも出てきます。処理が遅い工程。手戻りの多い作業。属人化している業務。整理された一覧が、すぐに返ってきます。
ところが、その中から「これが本当の課題だ」を選ぶところで、必ず止まります。
図:課題の候補は出せる。どれが本当の課題かを選ぶには、決裁者の中にあるものが要る。
なぜ選べないのか。理由は3つあります。
優先順位は、目的から出てくるからです。同じ「処理が遅い」でも、来期に人を増やす前提なのか、増やさない前提なのかで、手をつける場所が変わります。会社がどこへ向かっているかを知らなければ、順位はつけられません。
痛みの重さは、当事者にしか分からないからです。数字の上では小さな手戻りが、現場では毎回きつい思いをしている作業かもしれません。逆に、時間はかかるが誰も苦にしていない工程もあります。この差は、記録には出てきません。
そして、触れない事情があるからです。「あの部署のやり方は、いま変えられない」「この取引先だけは特別扱いが要る」。こうした前提は、たいてい書かれていません。書かれていないものは、渡せません。
つまり課題設定でつまずくのは、情報が足りないからではなく、情報が言葉になっていないからです。だから、材料をいくら渡しても代わりにはなりません。
そして厄介なのは、決裁者自身も、それを言葉にできていないことが多いことです。分かってはいる。ただ、聞かれないと出てこない。
3つの記事が、同じことを言っていた
並べていて気づいたことがあります。
AXの成功指標では、発見の3種類のうち「そもそも要らなかった」がいちばん出にくいと書きました。
最初の90日では、90日でいちばん難しいのは実装ではなく、30日目に動かす数字を1つに絞ることだと書きました。
そして今回、任せられなかったのは本当の課題を見つけることでした。
この3つは、同じ壁です。言い方が違うだけで、どれも「何が問題なのかを決める」という一点を指しています。手を動かす部分は、どんどん任せられるようになりました。それでも、この一点だけが残り続けています。
任せられるものが増えるほど、残ったものの輪郭がはっきりしてきます。並べてみて、いちばんの収穫はそこでした。
まだ、できていないこと
ほかにも、うまくいっていないことがあります。
過去記事との重複チェックは、人が読み直しています。新しい記事を書くとき、既存のどれと役割がぶつかるかは、いまも人が判断しています。記事が増えるほど負荷が上がる部分なので、いずれ限界が来ます。
議事録の用途は、1つに絞ったままです。抜け漏れの確認だけで、他の使い方には広げていません。絞ったからこそ続いているという実感はありますが、それ以上の使い道を試せていないのも事実です。
よくある質問
Q. どのAIを使っていますか?
A. 記事の下書きや記録の整形にはClaudeを使っています。ただ、この分野は入れ替わりが速いので、道具の名前より、何を任せて何を任せないかの設計のほうが長持ちします。
Q. 社員がAIに仕事を奪われる、という不安はありませんか?
A. 任せているのは手を動かす部分で、決める部分は増えています。むしろ、決めるための材料が増えたぶん、判断そのものに時間を使うようになりました。
Q. 顧客の情報はAIに渡していますか?
A. 顧客名や案件の中身を外に出すことはありません。この記事も含めて、書いているのは自社の実践と、固有名を外して一般化した構造だけです。
Q. 任せる範囲は、どう広げていますか?
A. 1つが回り始めてから次に移す、という順番だけ守っています。同時に増やすと、どれも中途半端になります。
Q. 「本当の課題が見つけられない」のは、AIの性能が上がれば解決しますか?
A. 一部は良くなると思います。ただ、会社の目的や、触れない事情のように、そもそも書かれていないものは渡しようがありません。そこは性能の問題ではないと考えています。
Q. 同じ一覧を作るには、どうすればいいですか?
A. いま使っているものを並べ、それぞれ「これは手を動かす部分か、決める部分か」で仕分けるだけです。難しいのは仕分けそのものではなく、どちらとも言えない項目が残ることのほうです。
まとめ:一覧は真似できるが、線は会社ごとに違う
ベンチャーネットが任せているのは、記録の整形、記録への問いかけ、記事の下書き、製品の検証。どれも手を動かす部分です。
任せていないのは、何をやるか、どこまで言い切るか、続けるか止めるか。そして、個人のプライベートに関わる情報と、実験環境への本番データは、そもそも渡しません。
そして、任せようとして最後まで残ったのが、本当の課題を見つけることでした。
ベンチャーネットは、中小・中堅企業向けにFDE型の伴走支援を行う会社です。数字の基盤(NetSuiteまたはOdoo)と言葉の基盤(Notion)の上でAIを動かし、業務と経営を組み替える。これをAX(AIトランスフォーメーション=AIを前提に業務と経営を組み替えること)と呼んでいます。
ここに並べた一覧は、そのまま真似していただいて構いません。ただ、御社の一覧は御社にしか作れません。仕分けをやってみると、たいてい「どちらとも言えない」項目が残ります。そこに、その会社らしさが出ます。
そして、いちばん重い課題設定については、正直に申し上げると、社長お一人では言葉にしにくいというのが実感です。分かっていないのではなく、聞かれないと出てこない。ベンチャーネットが伴走で最初にやっているのも、実はこの問いを投げる作業です。特別な技術ではありません。外にいる人間が、社内では誰も聞かない質問をするだけです。
「AIを入れてはみたが、何に使うべきか決めきれない」という段階で構いません。並べて、仕分けるところから一緒にやれます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
次に読むなら
「バーチャル社員の考え方から知りたい」
→ バーチャル社員とは——FDEが会社につくる「AIの同僚」の全体像
「任せる範囲の決め方を知りたい」
→ バーチャル社員に決めさせないことを、先に決める——社長が引く3本の線
「記事をどう作っているのか知りたい」
→ このブログは、AIエージェントとどう作っているか——素材主義と品質ゲートの裏側
「会議の記録の貯め方を知りたい」
→ ベンチャーネットは、自社の会議をどうNotionに貯めているか
「効果をどう見ているのか知りたい」
→ ベンチャーネットがAXに課している数字は、時間でも件数でもない


