ベンチャーネットがAXに課している数字は、時間でも件数でもない——「発見が出たか」を見る

ベンチャーネットは、AIの導入がうまくいっているかどうかを、時間の短縮でも処理件数でもなく、「発見が出たか」で見ています。発見とは、AIに聞いてはじめて出てきた、自社について知らなかったことです。

この記事では、なぜ数えやすい指標を選ばなかったのか、発見とは具体的に何を指すのか、そしてこの見方の弱点は何かを書きます。

これはVN-Lab——ベンチャーネットが自社で試していることを、都合の悪い部分も含めて公開するシリーズの1本です。

目次

「AIで何時間減りましたか」に、答えられない

この質問は、よくいただきます。そして、ベンチャーネットは即答できません。

答えを隠しているわけではありません。その数字を持っていないのです。測っていないからです。

効果測定の型としては、これは正しくありません。ベンチャーネット自身、AIの効果は、どう測る?という記事で、成功指標を1〜2個決め、導入前の現状値を記録し、同じ物差しで測ることを勧めています。時間・件数・日数のように、すでに数えられるものから始めよ、とも書きました。

にもかかわらず、自社では別の見方をしています。理由があります。

同じ記事の中で、ベンチャーネットはこうも書いていました。社長一人で指標を決めると、つい測りやすい数字を選びがちで、本当に経営に効く一手を外すことがある、と。

自社に当てはめたとき、その但し書きのほうが重いと判断しました。だから、数えにくいほうを選んでいます。

時間で測ると、何が見えなくなるか

時間短縮は、良い指標です。分かりやすく、比べやすく、誰にでも説明できます。

ただし、時間短縮が測っているのは「同じ仕事を、どれだけ速くやれたか」です。

同じ道を速く走るか、道を引き直すか 時間短縮が測るもの 道は同じ。走る速さだけが変わる 40分が25分になった 要らない作業でも、速くやれば 数字の上では改善に見える 発見が示すもの 道そのものが引き直される その作業自体が要らなかった やり方が変わったかどうかは 時間の数字には映らない 速くなることと、変わることは、別の話

図:時間短縮は同じ道の速さを測る。道を引き直したかどうかは、そこには映らない。

ここに落とし穴があります。そもそもやらなくてよかった作業を高速化しても、時間の指標は改善して見えます。以前から「まず削除、それから自動化」と書いてきたのは、この順番を間違える会社が多いからです(AIや自動化に飛びつく前に)。

ベンチャーネットがAXと呼んでいるのは、業務を速くすることではなく、業務と経営の形そのものを組み替えることです。組み替えが起きたかどうかを、時間の数字は教えてくれません。

だから、別の物差しが要りました。

「発見」とは、何を指すのか

発見という言葉は曖昧なので、定義を決めています。AIに聞いてはじめて出てきた、自社についての知らなかったこと。次の3種類です。

発見と呼んでいる3種類 1 知らなかった事実 「この取引先だけ、手順が違っていた」——記録を並べて、はじめて見える 2 言語化できていなかった判断基準 「なぜそう決めたのか」を聞かれて、はじめて自分の基準に気づく 3 前提の誤り 「その作業、そもそも要らなかった」——いちばん効くが、いちばん出にくい すでに知っていたことをAIが言い直しただけのものは、発見に数えない

図:発見の3種類。条件は「AIに聞いてはじめて出てきたこと」であること。

1つ目は、知らなかった事実です。記録をまとめて読ませると、日々の中では見えなかったものが出てきます。「この取引先だけ、他と違う手順で処理されている」。担当者にとっては当たり前でも、会社としては誰も把握していなかった、という類のものです。

2つ目は、言語化できていなかった判断基準です。これがいちばん多い。「なぜそう決めたのですか」と問われて、はじめて自分の基準に気づく。業務の地図でいう3層目、名詞でも動詞でもなく判断基準にあたる部分です。

3つ目は、前提の誤りです。「その作業、そもそも要らなかったのでは」。いちばん効きますが、いちばん出にくい。長く続けている業務ほど、疑う対象から外れているからです。

そして条件が1つあります。すでに知っていたことをAIが言い直しただけのものは、発見に数えません。これを数え始めると、いくらでも水増しできてしまいます。

どう見ているか——数えてはいない

正直に書きます。発見の数を数えてはいません。カウンターも、集計表も持っていません。

見ているのは、痕跡が残っているかです。

ベンチャーネットは、会議の記録も検討の経過も言葉の基盤に集めています。発見のための専用の記録簿があるわけではありません。ただ、何かに気づけば、その検討の経過が自然にそこへ残ります。逆に、そうした痕跡が見当たらない期間は、何も出ていなかったということです。

発見が出ない月は、問いが浅い 答えを知っている問い 「この資料をまとめて」 知っていたことが、整って返る 速くなるが、何も増えない 答えを知らない問い 「食い違っているのはどこか」 知らなかったことが、返る 言葉の基盤に、痕跡が残る 何も出ない月は、AIの性能ではなく、こちらの問いを疑う

図:発見が出ないとき、疑うのはAIの性能ではなく、こちらの問いの深さ。

何も出ない期間が続いたとき、疑うのは2つです。

AIをそもそも使っていないか。忙しい時期は、道具を開くこと自体が後回しになります。

あるいは、問いが浅いか。こちらのほうが多いと感じています。「この資料をまとめて」のように、答えを自分が知っている作業だけを投げていると、返ってくるのは整った既知です。速くはなりますが、何も増えません。

発見が出るのは、自分が答えを知らない問いを投げたときです。「この2つの記録で、食い違っているのはどこか」「この判断の基準は、他の案件と揃っているか」。答えを知らないから、返事が予想と違い、そこで気づきが起きます。

つまりこの指標は、AIの性能ではなく、こちらの問いの深さを測っています。そこが気に入っています。

この見方の弱点

万人に勧められる指標ではありません。弱点を3つ挙げます。

主観が入ります。何を発見と呼ぶかは、判断です。基準を厳しくすればゼロが続き、緩めれば毎日出ていることになります。ここを都合よく動かせてしまう以上、客観的な指標とは言えません。

他社と比べられません。「発見が月に3つ出ました」と言われても、多いのか少ないのか誰にも分かりません。業界平均も存在しません。

外に説明しにくい。銀行や投資家に「AI投資の効果は」と問われて、この指標で答えるのは無理があります。そこは時間や金額で答える必要があります。

だから、AIの効果は、どう測る?で時間・件数・日数を勧めているのは、いまでも正しいと考えています。あの記事は撤回しません。

では、どちらを選ぶべきか

2つの物差しは、対立していません。見ているものが違うだけです。

定型業務を効率化したいなら、時間で測ってください。請求処理、集計、一次対応。やることが決まっている業務にAIを入れるなら、導入前の現状値を記録して、同じ物差しで比べる。それが正しい進め方です。

やり方そのものを変えたいなら、発見を見てください。業務の形を組み替える取り組みは、時間の数字には現れません。むしろ、組み替えの途中は一時的に遅くなることさえあります。

両方持って構いません。ベンチャーネットも、お客様の案件では時間や日数で測ります。自社のAX推進については、発見を見ています。目的が違えば、物差しも違う。それだけのことです。

そして、どちらの数字を見るにせよ、続けるか・直すか・やめるかを決めるのは人です。AIは材料を出せますが、決めた結果は引き受けてくれません。

よくある質問

Q. 発見をゼロにしないために、何かしていますか?
A. 特別な仕組みはありません。ただ、答えを知っている作業ばかり投げていないか、と自問するようにしています。

Q. 社員にもこの指標を課していますか?
A. 課していません。数を目標にすると、水増しが始まります。目標にするより、話題に出るかどうかで十分だと考えています。

Q. 発見が出たら、どうしますか?
A. 形はどうあれ、文字にすることだけは決めています。専用の記録簿は作っていません。口頭だけで共有すると、その場では盛り上がっても、翌月には誰も覚えていないからです。

Q. AIがなくても、発見は出るのでは?
A. 出ます。優秀な人が丁寧に見れば同じことに気づきます。ただ、そのための時間を取れる会社は多くありません。AIが効くのは、その時間を大幅に短くできる点です。

Q. うちも同じ指標にしてよいですか?
A. 定型業務の効率化が目的なら、時間で測るほうが確実です。この指標を選ぶ理由があるのは、やり方そのものを変えようとしている場合です。

Q. 発見が出ないのは、AIが賢くないからでは?
A. その可能性もありますが、まず問いを疑うほうが早いところです。答えを知っている質問には、知っている答えしか返りません。

まとめ:数えやすい数字を選ぶと、外すことがある

ベンチャーネットは、自社のAX推進を「発見が出たか」で見ています。時間短縮でも処理件数でもありません。時間は同じ道の速さを測る指標で、道が引き直されたかどうかは映らないからです。

発見と呼んでいるのは3種類。知らなかった事実、言語化できていなかった判断基準、そして前提の誤り。条件は、AIに聞いてはじめて出てきたものであること。

数えてはいません。専用の記録簿も作っていません。言葉の基盤に痕跡が残っているかを見ているだけです。何も出ない期間は、AIの性能ではなく、こちらの問いの深さを疑います。

ベンチャーネットは、中小・中堅企業向けにFDE型の伴走支援を行う会社です。数字の基盤(NetSuiteまたはOdoo)と言葉の基盤(Notion)の上でAIを動かし、業務と経営を組み替える。これをAX(AIトランスフォーメーション=AIを前提に業務と経営を組み替えること)と呼んでいます。その組み替えが起きているかを、この指標で見ています。

ただ、この見方には、自分たちでは埋めにくい穴があります。発見は、自社について出にくい。

知らなかったことに気づくには、知らないことがあると分かっている必要があります。ところが、AIに投げる問いは、こちらの頭の中から出てきます。社内の常識の内側から出た問いは、その常識の外側には届きません。だから、いちばん効く3つ目の発見——「そもそも要らなかった」——が、社内だけではほとんど出ないのです。

「AIを入れたが、何が変わったのかよく分からない」という段階で構いません。どんな問いを投げれば発見が出るのか、そこから一緒に考えられます。売り込みではなく、まず壁打ちから。

次に読むなら

「効果測定の型そのものを知りたい」
AIの効果は、どう測る?——「入れたが、儲かったか分からない」を解く効果測定の型

「自動化の順番を確かめたい」
AIや自動化に飛びつく前に——マスクの5段階に学ぶ「まず見える化、そして削除」

「判断基準を書き出す方法を知りたい」
業務の地図とは——名詞・動詞・判断基準で、会社をAIに読ませる

「発見をどこに残すのか知りたい」
数字の基盤と言葉の基盤——NetSuite・Odoo×Notion×AIの設計図

「会議の記録の貯め方を知りたい」
ベンチャーネットは、自社の会議をどうNotionに貯めているか

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次