議事録をAIの燃料にするとは、会議の記録を「読むための文書」ではなく「AIに問いを投げるためのデータ」として、一か所に貯め続けることです。ベンチャーネットは、Zoom会議の文字起こしをNotionへ自動で流し込み、次のアクションに抜け漏れがないかをAIに点検させています。
この記事では、その流れを実際のとおりに書きます。どの会議を対象にしているか、人の手がどこまで入っているか、何を貯めていないか。そして、なぜその形に落ち着いたのか。
これはVN-Lab——ベンチャーネットが自社で試していることを、うまくいっていない部分も含めてそのまま公開するシリーズの1本です。
議事録は、書いた瞬間から開かれなくなる
会議が終わる。誰かが議事録をまとめる。共有される。既読はつく。そして、二度と開かれません。
多くの会社で、議事録は「残っていないもの」ではありません。むしろ、けっこう残っています。共有フォルダにも、チャットの履歴にも、個人のメモにもある。それなのに使われないのは、探して読み返すコストが、もう一度誰かに聞くコストより高いからです。
「先週の打ち合わせ、結局どう決まったんでしたっけ」。この一言が出るとき、記録がないわけではありません。開かないほうが速いだけです。
だから、議事録を「もっとちゃんと書こう」「もっと読み返そう」と決意しても続きません。人間の意志の問題ではなく、置かれ方の問題だからです。
ベンチャーネットも同じところでつまずきました。抜け出したきっかけは、議事録を読むのをやめたことでした。
ベンチャーネットの場合——Zoomからnotta、Notionまで
対象にしているのは、経営会議、案件の定例、顧客との打ち合わせです。ほとんどがZoomで行われます。ここが実は大きくて、オンラインが基本だから、記録が特別な作業にならない。「今日は録っておこう」と誰かが判断する必要がありません。
流れはこうです。
図:会議から言葉の基盤までを、人の手を挟まずに通す。
文字起こしにはnottaを使い、そこからNotionへ整形して格納するところは、AIエージェント(Claude Cowork)に任せています。
道具の名前は、そこまで重要ではありません。要点は人の手が入る工程を減らしたことです。
「誰かが清書してから貯める」という設計にすると、その人が忙しい週は全部止まります。止まった週の記録は、あとから遡って入れられることはまずありません。一度でも穴が空くと「あそこは入っていない」という前提ができ、貯まっているという信頼が崩れます。だから、人が判断せずに流れる形にしました。
ここに入る記録が、数字の基盤と言葉の基盤でいう言葉の基盤にあたります。基幹システムには「何が起きたか」が入りますが、「なぜそう決めたか」は入りません。その半分を引き受けているのが、この議事録の山です。
使い道は、ひとつに絞っている
貯まった議事録を、ベンチャーネットは要約して読んではいません。用途を1つに絞っています。
次のアクションに、抜け漏れがないかの確認です。
前回決めたことのうち、誰にも割り当てられていないものはないか。「持ち帰り」で終わって、そのまま消えているものはないか。前提が変わったのに、古い段取りのまま進んでいないか。こうした問いをAIに投げて、記録の中から拾わせます。
図:全部を読もうとすると続かない。問いを1つ持つと、記録は使われ始める。
用途を絞ったのには理由があります。
要約を読むために貯めると、要約が積み上がるだけで終わります。読む時間は、どの週も確保できません。その点、「抜け漏れの確認」は違います。会議の直前という決まったタイミングに、必ず必要になる作業だからです。必要になる場面がはっきりしている用途に絞ると、蓄積が使われ続けます。
そしてもう一つ、大事な線があります。
AIが出すのは指摘であって、判断ではありません。「これは割り当てが決まっていないようです」までがAIの仕事で、「では今回は見送る」「これは今週中に決める」と決めるのは人です。AIは道具であって、決めた責任を引き受けてはくれません。この線は、自社で回していても、お客様の現場に入っていても同じです。
何を貯め、何を貯めないか
全部を貯めているわけではありません。線は先に引いてあります。
図:貯めるものと貯めないものを、仕組みを回す前に決めておく。
貯めているのは、決めたことと、そう決めた理由です。あわせて、そのときの前提や制約、次に誰が何をするか、そして社内の言葉がどんな意味で使われているか。あとから読んで判断をたどれるもの、と言い換えてもいいと思います。
貯めないのは、個人のプライベートに関わる話です。ここは、その場で線を引くのではなく、先に決めておくところです。
もう一つ、はっきりさせているのは目的です。この蓄積は、社内の知識を貯めるためのものであって、誰がどれだけ発言したかを見るためのものではありません。ここが曖昧なままだと、率直な話が会議の外へ逃げていきます。表の会議は当たり障りのないものになり、貯まった記録の価値も同時に落ちます。
なお、顧客との打ち合わせも対象に含めています。ここには同意の取り方や、社内でのルールづくりが伴います。その考え方は会話が消える会社から、会話が資産になる会社へで扱っているので、これから始める方はそちらを先に読んでいただくのがよいと思います。
なぜ、この形に落ち着いたのか
ここまでの3つ——人の清書を挟まない、用途を1つに絞る、貯めない範囲を先に決める——は、どれも意図して選んだ形です。それぞれ、外した場合に何が起きるかを考えると分かりやすいと思います。
清書を人がやる形にすると、止まった週の穴が埋まりません。忙しい週は誰も清書できません。そして、遡って入れ直されることはまずない。一度でも穴が空くと「あそこは入っていないはずだ」という前提ができ、記録を当てにしなくなります。貯まっているという信頼は、量ではなく連続性で決まります。
用途を決めずに貯めると、開く理由が生まれません。「いつか役に立つから」で貯めた記録は、必要になる場面が特定されていないので、開かれないまま増えていきます。抜け漏れの確認は、会議の直前という決まったタイミングで必ず要る作業です。必要になる場面がはっきりしている用途を1つ持つほうが、あれもこれも聞ける状態より続きます。
貯める範囲を後から決めようとすると、決められません。線を引くのは、貯め始める前だから冷静にできます。すでに入ってしまったものを前にして「これは消すべきか」を議論するのは、はるかに難しくなります。
そしてもう一つ。文字起こしは、完全ではありません。人名や社内用語は、そこそこ崩れます。それでも運用が成り立つのは、用途が「抜け漏れの指摘」だからです。指摘を受けて人が記録を確認し、判断する。この使い方なら、変換の揺れは致命傷になりません。逆に、正確さがそのまま結論に効くもの、たとえば金額や契約条件、在庫数は、言葉の基盤ではなく基幹システム側に置きます。役割が違うからです。
もし精度が上がるのを待ってから始めていたら、まだ何も貯まっていなかったと思います。
よくある質問
Q. Notionでなければいけませんか?
A. いいえ。文章が一か所に貯まり、権限を分けられ、AIから参照できれば、他の道具でも成立します。ベンチャーネットがNotionを使っているのは、導入が速く、全員が使えるからです。器の選び方は経験情報は、Notionから貯め始めるで扱っています。
Q. 対面の会議はどうしていますか?
A. ベンチャーネットの会議はほとんどがオンラインなので、そこが自然に揃っています。対面が中心の会社では、録音を始めること自体が一段目のハードルになります。その場合は、まず全社ではなく、決めごとの多い会議を1つ選ぶところからをおすすめしています。
Q. 文字起こしが間違っていたら、AIの答えも間違いませんか?
A. 部分的には間違います。だから用途を「抜け漏れの指摘」に留めています。指摘を見て人が記録を確認し、判断する。数字や契約条件のように正確さが要るものは、そもそも言葉の基盤ではなく基幹システム側に置きます。
Q. 社員が「監視されている」と感じませんか?
A. その懸念は当然のものです。だからこそ、何のために貯めるのかを先に決めておく必要があります。評価には使わないと決めていること、そして貯めない範囲をはっきりさせていることが、その答えになります。
Q. どのくらいの期間で効果が出ますか?
A. 同じ案件やお客様との2周目が来たときです。会議の頻度によりますが、1か月で判断するのは早すぎます。
Q. まず何から始めればいいですか?
A. 会議を1つ選び、文字起こしを一か所に置く。それだけで始まります。整理も分類も、後からで間に合います。最初にやるべきなのは、貯めない範囲を決めることのほうです。
まとめ:特別な準備は、いらなかった
ベンチャーネットが自社でやっているのは、Zoom会議の文字起こしをNotionへ自動で流し込み、次のアクションの抜け漏れをAIに点検させる。これだけです。
うまくいった理由を挙げるとすれば、3つだと思います。人の清書を挟まなかったこと。用途を1つに絞ったこと。貯めない範囲を先に決めたこと。どれも、高価な仕組みを入れる話ではありません。
これが、数字の基盤と言葉の基盤でいう言葉の基盤の、ベンチャーネット自身の姿です。数字の基盤(基幹システム)が「何が起きたか」を持ち、この議事録の山が「なぜそう決めたか」を持つ。その両方をAIが参照できる状態が、AX(AIトランスフォーメーション)の土台になります。
ただ、ここまで読んで「同じことをやればいい」とはならないだろうとも思っています。仕組みそのものは、真似できます。難しいのは、自社にとって何が”次のアクション”にあたるのかを言葉にすることです。ベンチャーネットの場合はそれが案件の割り当てでしたが、製造業なら不良の再発防止かもしれませんし、店舗業なら仕入れの判断かもしれません。ここは会社ごとに違い、しかも社内にいると自明すぎて言語化されないまま埋もれています。
ベンチャーネットは、中小・中堅企業向けにFDE型の伴走支援を行う会社です。経営者のチームに入り、会議で何が決まっているのかを一緒に見て、貯めるべき言葉と、AIに投げる問いを設計するところから始めます。
「自社の会議は、そもそも何が決まっているのか分からない」という段階でも構いません。売り込みではなく、まず壁打ちから。
次に読むなら
「2つの基盤の全体像を知りたい」
→ 数字の基盤と言葉の基盤——NetSuite・Odoo×Notion×AIの設計図
「貯め始める手順を知りたい」
→ 経験情報は、Notionから貯め始める——AI時代の経営基盤づくり、最初の一歩
「録音のルールづくりから考えたい」
→ 会話が消える会社から、会話が資産になる会社へ
「判断の基準を書き出す方法を知りたい」
→ 業務の地図とは——名詞・動詞・判断基準で、会社をAIに読ませる
「数字を意思決定に変えるところから整理したい」
→ 「わかる化」——見える化した数字を、意思決定に変える


