議事録をAIの燃料にするとは、会議の記録を「読むための文書」ではなく「AIに問いを投げるためのデータ」として、一か所に貯め続けることです。ベンチャーネットは、Zoom会議の文字起こしをNotionへ自動で流し込み、次のアクションに抜け漏れがないかをAIに点検させています。
形は3つにまとまります。人の清書を挟まない。用途を1つに絞る。貯めない範囲を先に決める。では、なぜその形に落ち着いたのでしょうか。
これはVN-Labの1本です。ベンチャーネットが自社で試していることを、うまくいっていない部分も含めてそのまま公開しています。
議事録は、書いた瞬間から開かれなくなる
会議が終わる。誰かが議事録をまとめる。共有される。既読はつく。そして、二度と開かれません。
多くの会社で、議事録は「残っていないもの」ではありません。むしろ、けっこう残っています。共有フォルダにも、チャットの履歴にも、個人のメモにもある。それなのに使われないのは、探して読み返すコストが、もう一度誰かに聞くコストより高いからです。
「先週の打ち合わせ、結局どう決まったんでしたっけ」。この一言が出るとき、記録がないわけではありません。開かないほうが速いだけです。
だから、議事録を「もっとちゃんと書こう」「もっと読み返そう」と決意しても続きません。人間の意志の問題ではなく、置かれ方の問題だからです。
ベンチャーネットも同じところでつまずきました。抜け出したきっかけは、議事録を読むのをやめたことでした。
ベンチャーネットの流れは、Zoomからnotta、Notionへ
対象にしているのは、経営会議、案件の定例、顧客との打ち合わせです。ほとんどがZoomで行われます。ここが実は大きくて、オンラインが基本だから、記録が特別な作業にならない。「今日は録っておこう」と誰かが判断する必要がありません。
流れはこうです。
文字起こしにはnottaを使い、そこからNotionへ整形して格納するところは、AIエージェント(Claude Cowork)に任せています。
道具の名前より、人の手が入る工程を減らしたことが効いています。
「誰かが清書してから貯める」という設計にすると、その人が忙しい週は全部止まります。だから、人が判断せずに流れる形にしました。
ここに入る記録が、数字の基盤と言葉の基盤でいう言葉の基盤にあたります。基幹システムには「何が起きたか」が入りますが、「なぜそう決めたか」は入りません。その半分を引き受けているのが、この議事録の山です。
使い道は、ひとつに絞っている
貯まった議事録を、ベンチャーネットは要約して読んではいません。用途を1つに絞っています。
次のアクションに、抜け漏れがないかの確認です。
前回決めたことのうち、誰にも割り当てられていないものはないか。「持ち帰り」で終わって、そのまま消えているものはないか。前提が変わったのに、古い段取りのまま進んでいないか。こうした問いをAIに投げて、記録の中から拾わせます。
図:全部を読もうとすると続かない。問いを1つ持つと、記録は使われ始める。
用途を絞ったのには理由があります。
要約を読むために貯めると、要約が積み上がるだけで終わります。読む時間は、どの週も確保できません。その点、「抜け漏れの確認」は違います。会議の直前という決まったタイミングに、必ず必要になる作業だからです。必要になる場面がはっきりしている用途に絞ると、蓄積が使われ続けます。
もう一つ、線を引いています。
AIが出すのは指摘であって、判断ではありません。「これは割り当てが決まっていないようです」までがAIの仕事で、「では今回は見送る」「これは今週中に決める」と決めるのは人です。AIは道具であって、決めた責任を引き受けてはくれません。この線は、自社で回していても、お客様の現場に入っていても同じです。
何を貯め、何を貯めないか
全部を貯めているわけではありません。線は先に引いてあります。
図:貯めるものと貯めないものを、仕組みを回す前に決めておく。
貯めているのは、決めたことと、そう決めた理由です。あわせて、そのときの前提や制約、次に誰が何をするか、そして社内の言葉がどんな意味で使われているか。あとから読んで判断をたどれるもの、と言い換えてもいいと思います。
貯めないのは、個人のプライベートに関わる話です。ここは、その場で線を引くのではなく、先に決めておくところです。
もう一つ、はっきりさせているのは目的です。この蓄積は、社内の知識を貯めるためのものであって、誰がどれだけ発言したかを見るためのものではありません。ここが曖昧なままだと、率直な話が会議の外へ逃げていきます。表の会議は当たり障りのないものになり、貯まった記録の価値も同時に落ちます。
なお、顧客との打ち合わせも対象に含めています。ここには同意の取り方や、社内でのルールづくりが伴う。その考え方は会話が消える会社から、会話が資産になる会社へに書いています。これから始める方は、先にそちらをご覧ください。
なぜ、この形に落ち着いたのか
ここまでの3つ(人の清書を挟まない、用途を1つに絞る、貯めない範囲を先に決める)は、どれも意図して選んだ形です。外すと、それぞれ次のことが起きます。
清書を人がやる形にすると、止まった週の穴が埋まりません。忙しい週は誰も清書できません。そして、遡って入れ直されることはまずない。一度でも穴が空くと「あそこは入っていないはずだ」という前提ができ、記録を当てにしなくなります。貯まっているという信頼は、量ではなく連続性で決まります。
用途を決めずに貯めると、開く理由が生まれません。「いつか役に立つから」で貯めた記録は、必要になる場面が特定されていないので、開かれないまま増えていきます。必要になる場面がはっきりしている用途を1つ持つほうが、あれもこれも聞ける状態より続きます。
貯める範囲を後から決めようとすると、決められません。線を引くのは、貯め始める前だから冷静にできます。すでに入ってしまったものを前にして「これは消すべきか」を議論するのは、はるかに難しくなります。
そしてもう一つ。文字起こしは、完全ではありません。人名や社内用語は、そこそこ崩れます。それでも運用が成り立つのは、用途が「抜け漏れの指摘」だからです。指摘を受けて人が記録を確認し、判断する。この使い方なら、変換の揺れは致命傷になりません。逆に、正確さがそのまま結論に効くもの、たとえば金額や契約条件、在庫数は、言葉の基盤ではなく基幹システム側に置きます。役割が違うからです。
もし精度が上がるのを待ってから始めていたら、まだ何も貯まっていなかったと思います。
よくある質問
Q. Notionでなければいけませんか?
A. いいえ。文章が一か所に貯まり、権限を分けられ、AIから参照できれば、他の道具でも成立します。ベンチャーネットがNotionを使っているのは、導入が速く、全員が使えるからです。器の選び方は経験情報は、Notionから貯め始めるに書いています。
Q. 文字起こしが間違っていたら、AIの答えも間違いませんか?
A. 部分的には間違えます。だから用途を「抜け漏れの指摘」に留めているのです。指摘を見て人が記録を確認し、判断する。数字や契約条件のように正確さが要るものは、そもそも言葉の基盤ではなく基幹システム側に置きます。
Q. まず何から始めればいいですか?
A. 会議を1つ選び、文字起こしを一か所に置く。それだけで始まります。整理も分類も、後からで間に合います。最初にやるべきなのは、貯めない範囲を決めることのほうです。
まとめ:特別な準備は、いらなかった
ベンチャーネットが自社でやっているのは、Zoom会議の文字起こしをNotionへ自動で流し込み、次のアクションの抜け漏れをAIに点検させること。これだけです。
うまくいった理由を挙げるとすれば、3つだと思います。人の清書を挟まなかったこと。用途を1つに絞ったこと。貯めない範囲を先に決めたこと。どれも、高価な仕組みを入れる話ではありません。
これが、数字の基盤と言葉の基盤でいう言葉の基盤の、ベンチャーネット自身の姿です。数字の基盤(基幹システム)が「何が起きたか」を持ち、この議事録の山が「なぜそう決めたか」を持つ。その両方をAIが参照できる状態が、AX(AIトランスフォーメーション)の土台になります。
ただ、「同じことをやればいい」とはならないだろうとも思っています。仕組みは真似できても、自社にとって何が”次のアクション”にあたるのかを言葉にするのが難しいからです。ベンチャーネットの場合は案件の割り当てでしたが、製造業なら不良の再発防止、店舗業なら仕入れの判断かもしれません。ここは会社ごとに違い、社内にいると自明すぎて、言語化されないまま埋もれています。
ベンチャーネットはFDE型の伴走で経営者のチームに入り、会議で何が決まっているのかを一緒に見て、貯めるべき言葉とAIに投げる問いを設計するところから始めます。「自社の会議は、そもそも何が決まっているのか分からない」という段階でも構いません。売り込みではなく、まず壁打ちから。
序章全体の見取り図は、「見える化・わかる化・儲かる化」の全体地図(序章ハブ)にまとめています。
次に読むなら
「2つの基盤の全体像を知りたい」
→ 数字の基盤と言葉の基盤——NetSuite・Odoo×Notion×AIの設計図
「貯め始める手順を知りたい」
→ 経験情報は、Notionから貯め始める——AI時代の経営基盤づくり、最初の一歩
「録音のルールづくりから考えたい」
→ 会話が消える会社から、会話が資産になる会社へ
「判断の基準を書き出す方法を知りたい」
→ 業務の地図とは——名詞・動詞・判断基準で、会社をAIに読ませる


