求人を出しても、人が来ない
求人広告の更新料だけが、毎月出ていく。応募は来ない。来ても採用に至らない。
一方で、仕事は待ってくれません。請求書の発行、問い合わせへの返信、資料づくり。誰かがやらなければ回らない仕事が、今日も積み上がっていきます。
「人を増やせば解決する」。そう分かっていても、簡単には踏み切れません。月々の給与は、一度約束したら簡単には減らせない固定費だからです。
売上が下がった月も、人件費は同じだけ出ていく。この重さを、経営者は肌で知っています。
6年前、一冊の本にこう書いた
2020年、ベンチャーネットの代表・持田は『レバレッジ起業』という本を書きました。核にあるのは、シンプルな考え方です。
最小のコストで、最大の利益を生む。その肝は、人件費という固定費をどうするかにある。
本の中で持田は、人件費を「小さな会社にとって、非常にリスクが高い存在」と書きました。だから、起業してすぐに人を雇うのではなく、別の形でチームを作ろうと提案したのです。
それが「バーチャル社員」でした。雇用契約を結んだ社員ではなく、業務委託や副業で「会社のビジネスを一緒に進めて、貢献してくれる人」。得意なことを持つ外部のプロと組めば、特別なスキルがない人でも、社員を雇わずにビジネスを始められる——。
これは机上の理屈ではありません。持田自身がサラリーマン時代に副業で実践し、ベンチャーネットの経営でも続けてきた形です。
「バーチャル」の本当の意味——そして、一つの失敗
ところで「バーチャル」と聞くと、多くの方は「仮想」を思い浮かべると思います。実は、この言葉にはもう一つの意味があります。
持田は本の中で、英語辞書『英辞郎』の記述を紹介しています。virtualの第一の意味は、「実質上の、事実上の、実際上の、実質的な」。実体ではないが、本質を示すもの。「仮想の」は、その次に来る意味です。
つまりバーチャル社員とは、”仮想の社員”ではなく、“実質上の社員”。雇用契約という形はなくても、実質的に会社を支えてくれる存在、という意味でした。
この考え方にたどり着く前に、持田には失敗があります。本の中で正直に書いていることです。
稲盛和夫氏の「経営者は社員の雇用を守ることが大きな社会貢献になる」という教えに感化され、勢いのままに人を増やした時期がありました。その考え自体は、いまも素晴らしいと思っています。けれど当時のベンチャーネットには、それを支え切る力がなく、大きな赤字を出しました。
雇用を守れる経営者は立派です。ただ、その体力がまだない会社が同じ形を真似ると、社員も会社も守れなくなる。この失敗が、「まず固定費を抱えない形でチームを作る」という発想の出発点になりました。
2026年の答え合わせ——担い手が変わった
あれから6年。「実質上の社員」という考え方は、変わっていません。変わったのは、その担い手です。
2020年のバーチャル社員は、人でした。業務委託のプロ、副業のエンジニア、外部のデザイナー。
2026年、そこにAIエージェントが加わりました。AIエージェントとは、指示を受けると自分で段取りを考え、作業を進めてくれるAIのことです。請求書の下書き、問い合わせの一次対応、議事録の整理、データの集計。かつて「誰かを雇わないと回らない」と思われていた仕事の一部を、月々の利用料で任せられるようになっています。
これは、いまいる社員をAIに置き換える話ではありません。「次の一人を雇わないと回らない」と思っていた仕事を、雇う前にAIエージェントに任せてみる、という順番の話です。採用がますます難しくなる中で、足りない人手の側を埋める選択肢が増えた、と言い換えてもいいと思います。
そしてAIエージェントが力を発揮するには、参照できる正しいデータの置き場が要ります。ベンチャーネットはその置き場として、ERP(販売・在庫・会計などのデータを1か所で扱う基幹システム)であるNetSuiteを使っています。増えるはずだった人件費が、AIエージェントとNetSuiteアカウントの利用料に置き換わる。これが、レバレッジ起業の2026年版の姿です。
「実質上の社員」の思想は同じまま、担い手が人からAIエージェントへ広がった。そして判断・責任・信頼は、6年前も今も変わらず人に残ります。
それでも、置き換えられないもの
ここまで読むと、「では人の仕事はなくなるのか」と思われるかもしれません。ベンチャーネットの答えは、逆です。
AIエージェントは、決められた範囲の作業は正確にこなします。けれど、何を任せて何を任せないかを決めるのは人です。判断の結果に責任を持つのも、お客様との信頼を築くのも人です。ここは6年前のバーチャル社員でも、いまのAIエージェントでも変わりません。
正直に言えば、AIエージェントは万能ではありません。指示が曖昧なら曖昧な結果が返り、データが散らかっていれば散らかった答えが返ります。任せられる形に業務を整える手間は、確かにかかります。
それでも、この置き換えには大きな意味があります。定型の作業から解放された分、社長と社員の時間が「人にしかできない仕事」に向かうからです。お客様の話を深く聞く。値付けを考え抜く。次の一手を決める。人件費を置き換える目的は、人を減らすことではなく、人の時間を”人にしかできないビジネス”に集めることです。
小さく始めて、やりながら考える
『レバレッジ起業』の結びで、持田はこう書きました。「小さく始めて、やりながら考える」。この姿勢も、6年経って変わりません。
いきなり全業務をAIエージェントに任せる必要はありません。請求書の下書き一つ、問い合わせの一次対応一つ。小さく任せて、うまくいったら広げる。この積み重ねが、気づけば会社の形を変えていきます。
考え方の各論は、それぞれの記事で扱っています。人とAIをどう組み合わせて組織を作るかは『人を雇う前に、まず”AI社員”を作る』で。固定費を変動費に変える考え方そのものは『固定費を変動費に変える』で。人のプロの力を借りる形は『外部の力を借りる——副業・フリーランス×AI』で。そしてAIエージェントへの任せ方は『AIエージェントに仕事を任せる考え方』で書いています。
自社のどの仕事から任せられるか。それは会社の数だけ答えが違い、外から一緒に見たほうが早く見つかることも多いものです。ベンチャーネットは、自らバーチャル社員と歩んできた実感を持って、その最初の一歩からご一緒します。「実質上の社員」を育てる旅を、一緒に始めましょう。


