成長よりも生存「両利きの経営」から見える生存力向上のヒント

現在の日本では、「斜陽」や「衰退」に結びつく話題が多くみられます。また、トレンドの変化が激しく、成長する市場の見極めが非常に難しくなっています。こうした状況の中で企業は、「成長」と同時に「生存」の力も伸ばすべきと言えるでしょう。ここでは、企業の攻守両面を強化する、「両利きの経営」の概要と、生存力向上のためにやるべきことを紹介します。

目次

攻守両面の補強を両立させる「両利きの経営」

経営は攻守両面から語られることが多いものの、攻めや守りの定義はさまざまです。一般論を言えば、「景気拡大期には新規事業に投資すべき」「不況期にはコストを減らしながら既存事業を守るべき」といった内容になるのでしょう。

しかし、現代は「好景気・不景気」で分類できるような期間は短く、さまざまな市場が勃興しては消え、業界業種の垣根も徐々に曖昧になっています。昔ならば「変革期」と呼ばれたような状況が常に続いており、「VUCA時代」といった言葉も生まれました。つまり混沌が常態化していて、「攻め・守り」を切り替えるのが非常に難しいのです。

こうした時代では、「種類の異なる”攻め”」をバランスよく配置しながら生存能力を高めていく方法が適していると考えられます。攻めの施策を複数持つことで、結果的に攻守両面に強い企業へと進化するわけです。この方法論が「両利きの経営」です。

両利きの経営=探索と深化のバランス力

両利きの経営は、1991年にスタンフォード大学のジェームス・マーチ教授が発表した「Exploration and Exploitation in Organizational Learning(組織学習における探索と活用)」によって広く知られるようになりました。この論文で示された内容をもとに、チャールズ・オライリー教授とマイケル・タッシュマン教授が、実務家向けの理論として磨き上げたと言われています。

両利き経営は、ざっくり説明すると「探索(新規事業の開拓)と深化(既存事業の強化)を並行する」ことです。探索と深化という2本の柱を確立することで企業は成長力と同時に生存力も獲得できる、という理解で良いと思います。ここで言う「探索と深化」をもう少し具体的に述べると、

・探索…認知の範囲を拡げ、新規事業の種を創り出すこと
・深化…探索した範囲から成功しそうなものをピックアップして深堀りし、ブラッシュアップすること

となります。探索と深化は別々に並行するわけではなく、サイクルさせながら良い流れを作り出すことも重要な要素です。

企業の多くは、すでに利益を上げた実績のある既存事業に対し、常に内容の見直しやコスト削減などのブラッシュアップを行っています。これが「深化」に該当するわけですが、つながるわけですが、そのためには新しい知見の獲得が必要です。

一方、「探索」はどうでしょうか。新規事業を立ち上げるにあたり、企業は技術開発や市場リサーチ、人材獲得と育成など、さまざまなリスクを伴う活動を進めます。もしこうした活動がうまくいけば、新規事業は軌道にのって収益が生まれ、さらに新たな知見をも獲得できるはずです。

これら「既存の価値をさらに大きくするための深化活動」と「リスクとコストを投入して新たな知見を獲得する探索活動」のバランスをとりつつ、「積極的に二兎を追う」ことが両利き経営の本質だとされています。

「両利き経営」で生存力を高める

次に両利きの経営を、「生存戦略」としてとらえてみましょう。生存戦略とは普通に考えれば「生き残りのための戦略」であり、既存事業のブラッシュアップや再定義を想像することが多いと思います。しかし、成功している企業の動きを俯瞰すると、必ずしもそうとは言えないのです。

生存力とは「既存事業の維持」ではない

近年、国内外の大手・優良企業が両利きの経営を実践し、収益基盤の強化に成功しています。少し古いですが、典型的な例はAmazonですね。Amazonはネット通販事業の最大手に成長しましたが、並行してクラウドコンピューティングプロバイダ事業に投資し「AWS」をリリースしました。AWSは現在、AzureやGCPと並ぶ世界三大クラウドプロットフォームのひとつにまで成長していることはご存じのとおりです。また、国内ではビール会社のキリンが発酵関連の知的財産を活かし、バイオ・農業の分野で事業を発展させています。

これらはまさに、深化と探索による両利き経営の成功例といえるかもしれません。混沌とした現代のビジネス環境では、既存事業が常に右肩上がりで成長することはありえません。市場自体は成長するかもしれませんが、「市場の成長を追い風にして自社も上昇気流に乗る」ことが難しいのです。したがって、企業には常に「転身」を念頭に置いて新しい分野に目を向けつつ、既存事業も磨いていくという狡猾さが求められます。

両利きの経営でコンピテンシートラップを回避

ここで両利きの経営を成功させた企業の特徴をもう少し分析していくと、ある共通点が見えてきます。その共通点とは「コンピテンシートラップ」を回避しているということです。

コンピテンシートラップとは、「過去の成功に依存し、現在もその成功パターンを過度に信頼することで、新しい能力やスキルの習得、革新的な取り組みを避けてしまう」ことを指します。コンピテンシートラップに陥った企業は、変化に対応しきれず、生存力が低下してしまうといわれています。

両利きの経営を成功させた企業は、このコンピテンシートラップを回避するために、意識的に「探索(新規事業に関するリサーチや投資)」を続け、少しずつ収益構造を変化させながら”転身”しています。

バーチャル経営が考える生存戦略としての両利きの経営

バーチャル経営では、両利きの経営を生存戦略の柱として考えるべき、というスタンスを取っています。そこで、バーチャル経営が考える生存戦略について、両利きの経営を含めて紹介したいと思います。

「知の探索」への投資

これまでも述べたように、両利きの経営は「探索」と「深化」を両輪とした理論です。ここでは、この2つの車輪を構成するパーツを紹介します。まず探索から見ていきましょう。

人材と人脈の多様化

人材については、「ゆるやかで柔軟かつ適時性のある人の結びつき」を大切にします。

近年は「リスキリング」という言葉にも表れているように、ベテラン社員にも新しい知見とスキルを取得させる動きが強まっています。ベテラン社員は、「既存分野の深化」では素晴らしい働きを見せる一方で、新規分野の開拓や既存+新規事業の融合という点では、うまく力を発揮できないことが少なくありません。これは、その社員個人の問題というよりも、組織能力が欠落しているからとも言えます。かといって、社内の人間を入れ替えることも、必要以上に人材を獲得することもできませんよね。したがって、新しい分野や新規事業に関する知見は、外部の人材とのつながりで補填すべき、というのがバーチャル経営の考えです。

バーチャル経営では、こうした外部の人材を「バーチャル社員」として定義しました。バーチャル社員とは、端的に言えば「ゆるくつながるコア人材」です。外部の人材ですから、できるだけ低コストで済むようにこちらも「雑務」を取り除き、本当にやってほしいことだけを依頼します。つまり「本質」の部分だけを任せ、その本質的な部分に対して遂行能力を持つ人材と、長期的な関係を構築するのです。採用とは違い、能力の部分だけにフォーカスすれば、自社とマッチする人材はそれなりにいるものです。バーチャル社員については、こちらで詳しく紹介しています。

ニッチをつかむ

中堅・中小企業の成長戦略としてよく語られる「ニッチ」ですが、ニッチの本質を把握している人はそれほど多くないと感じています。ニッチは、オンリーワンの言い換えではありません。ニッチの本質は「生存のために、限定された領域を支配したもの」です。つまり、ナバー1だからこそのオンリー1なのです。ニッチをつかむことは両利きの経営の深化を進める大前提かもしれません。意図的に小さくなり、一点集中能力を高めるのです。ニッチについてはこちらでも解説しています。

「手数」の意味を知り実践する

一点集中とは言ったものの、現実は厳しく、リソースを集中しすぎてしまうと失敗のリスクが大きくなります。また、混沌とした現代のビジネス環境では、準備に時間をかけすぎること市場そのものが消失することさえあるわけです。

そのため、大資本を持たない企業がニッチを獲得するためには、手数を増やして生存力を高めるという戦略が必須です。手数が増えれば、成功の確率もあがり、成功の「数」も増えていきます。また、手数を増やすにあたっては「ずらし、変化する」「小さく絞り込む」「弱みを特徴に転換する」などの工夫が必要です。バーチャル経営では、これらニッチ獲得のための戦略を生存戦略の一部として捉えています。ニッチ獲得の手数についてはこちらでも解説しています。

オーシャン(海)よりも小さいポンド(池)を狙う

よく市場は「オーシャン(海)」として例えられますが、大半の海はすでに発見されているうえに強者が跋扈しています。そこでもっと小さい市場、つまり海よりも小さい「ポンド(池)」に目を向けるべきです。この戦略は「ブルーポンド戦略」と呼ばれるもので、ニッチ獲得のための有望な施策になりえます。前述した「手数」を増やすためには、小さく有望な池(ブルーポンド)をいかに見つけ、作り出すかが重要です。そのためには、ABMやSEOなどさまざまなデジタルツールを使いこなす必要があるでしょう。ブルーポンド戦略についてはこちらも参照してみてください。

ビジネスモデルを可視化し、共有する

新しい分野で事業を始めるためには、協力者を集め、彼らの賛同を得なくてはなりません。その際に役立つのが「ビジネスモデルの可視化」です。つまり、「どのように価値を創造し、どうやって顧客に届けるかを、論理的かつ構造的にあらわす」ことが必要です。バーチャル経営では、ビジネスモデル可視化の方法として「BMC(ビジネスモデルキャンバス)」を推奨しています。

アライアンスで価値共創の仲間と出会う

新規事業を軌道に乗せるためには、価値を共に創り、分かち合うパートナーが必要です。企業目線で言えば「アライアンスパートナー」ですが、このパートナーをどういった基準で選定するかも、知の探索では非常に重要な要素です。アライアンスパートナーの選定基準については、こちらで詳しく解説しています。

デジタルツールで知の深化を促進する

ここからは、両利きの経営のもうひとつの車輪である「知の深化」、つまり既存事業の強化に活用できるノウハウを紹介します。

高付加価値を実現する定量的な指標

既存事業の強化は、「稼ぐ力を一層高める」ことにほかなりません。では「稼ぐ力」とは何なのでしょうか。バーチャル経営では、漠然としがちな「稼ぐ力」を定量的な指標に置き換えることを推奨しています。労働生産性の向上を達成するために、ROAや経常利益、付加価値額、労働分配率、F/M比率などを可視化してブラッシュアップしましょう。指標についてはこちらで紹介しています。

デジタルマーケティングで自社と顧客を知る

中堅・中小企業が強者と対等以上に戦うためには、「低コストかつ即効性の高い集客・販促」を実行していかなくてはなりません。バーチャル経営では、BtoB領域で通用するデジタルマーケティングを、深化活動の一部として定義しています。BtoBデジタルマーケティングでは、コンテンツマーケティングやABMを駆使した多方向からの攻めが重要です。

生成AIで雑務を自動化する

知の深化を構成する最後の要素として、「仕事の廃棄」があります。経営理論の大家であるドラッカー氏は、イノベーションは「仕事の廃棄」から始まると説きました。バーチャル経営でも、仕事の廃棄は「企業の進化」につながると考えています。特に近年は、ChatGPTに代表される生成AIの台頭で、雑務の廃棄が一層容易になりました。資本力を持たない企業こそ、生成AIの恩恵を受けやすいはずです。

まとめ

ここでは、企業の生存力を高める方法として「両利きの経営」を紹介しました。両利きの経営は、今後の日本企業が生存していくために意識すべきことが凝縮された考え方といえます。バーチャル経営では、両利きの経営に軸足をおきつつ、戦術としての自動化やデジタル化を推奨していく所存です。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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