中小企業の生存戦略②~ニッチをつかみ続けるためのrk戦略

前回の記事では、中小企業の生存戦略として「意図的に小さくなり、ニッチを獲得する」という観点を紹介しました。ニッチの獲得とは「強み」と「成長のきっかけ」を見出すことでもあり、GAFAのような大手企業の戦略にも通ずる部分があります。つまり、汎用的な生存戦略と言えるわけです。今回は、ニッチ獲得のための方法論を具体的に解説します。

目次

どこでどのようにナンバー1になるか

前回の記事でも少し触れましたが、ニッチの獲得は自然界で当たり前のように行われてきました。競争力で劣る弱者が生き残るにはニッチの獲得が必須であり、その結果が多種多様なナンバー1が共存する、現在の自然界と言えるわけです。ニッチとは「無数にある頂の一つ」であり、その座に就くことがオンリー1かつナンバー1へと至る近道であり、生存戦略の肝なのです。

では、彼らはどこで、どのようにニッチを獲得しナンバー1に成り得たのでしょうか。前回の記事では「ずらし、変化する」ことがニッチの獲得に欠かせないと述べましたが、この点についてもう少し掘り下げていきたいと思います。

ニッチをつかむ方法

カブトムシは人間の目線で見れば、森の昆虫の中でナンバー1かもしれませんが、現実的にはカブトムシよりも小さく力の弱い昆虫もすぐ近くに生息しています。この状態は、ナンバー1しか生き残れないという自然界の掟に反しているように見えるのですが、実際はそうではありません。なぜなら、両者の活動時期は微妙にずれています。カブトムシは夏が主な活動時期ですが、そのほかの昆虫は時期と地域を微妙にずらし、ナンバー1を維持しているのです。この状況は、見方を変えれば「弱者側が強者を避け、強者のいない環境でナンバー1になっている」と言えるわけです。同じような状況は他の生物でも確認されており、これが弱者の戦略(=ニッチの獲得)の基本的な原理であると考えられます。

以上のことから、ニッチをつかむ方法として以下が挙げられます。

小さく絞り込む

強者の活動している時期や範囲を特定し、そこを避けることでニッチをつかみやすくなります。ビジネスの世界でいえば「商圏」が似ていますが、それ以外にも「製品カテゴリ」「サービスの種類」で大手と直接競合しないような領域を見つけることが、ニッチの獲得につながるでしょう。それでもニッチが見つからない場合は「オプションの種類」や「契約期間」などで大手と差別化を図ることもひとつの手かもしれません。このような差別化は、顧客側からすれば「別の選択肢」として移るため、より細かいニーズを取り込んでニッチを形成する可能性があります。

弱みを特徴に転換する

例えば駅から徒歩5分のラーメンチェーンAと徒歩30分以上の個人経営店Bがあるとしましょう。一般的に見れば立地の観点からAが有利です。Bは広告力・集客力ともにAに劣ります。

しかし、Bがもし広い駐車場を保有していて、車でアクセスしやすい場合はどうでしょうか。めったに混雑せず、Aとは全く系統の違うスープを使うBは、車で食べにいけることや混雑でイライラしないことなどを重視する消費者から支持を集めます。こうすることで、AとBは全く異なるフィールド(顧客層)で活動することになり、それぞれのフィールドでナンバー1を目指すことができます。

ニッチの発見と獲得にはABMと「限定された濃い市場」の活用が役立つ

前述のBのようにAとは全く異なるフィールドを見つけるためには、「自然発生し、かつ独特なニーズを持つ層」に着目しなければなりません。こうした層を補足するのがABMの役割だと考えています。

ABMは、企業単位でうまくいきそうな相手を見つけ出し、引き寄せるためのアプローチ方法です。また、「限定された濃い市場」は、ローカルで独特でありながら常に濃い需要を抱える市場を指しています。

具体的な例としては、「マニア向けの鉄道模型」や「古い洋楽レコード」などが近いかもしれません。限定された濃い市場では、常に買い手が売り手を探しています。しかし、大手(強者)が参入しにくいゆえに、需要が満たされず消費が追い付いていないのです。こうした層にアプローチすることで、強者が満たすことのできないニーズを取り込み、ニッチの獲得につながると考えられます。

GAFAも実践するニッチ戦略

ニッチ獲得のための戦略は、GAFAのビジネスモデルの中にも見出すことができます。Amazonは今やECからクラウドプラットフォームへビジネスの主軸を移そうとしていますが、その陰にはニッチ戦略があると考えられます。Amazonを始めとしたGAFAは、さまざまなビジネス領域、ビジネスモデルにチャレンジし続けてきました。その結果が、彼らが抱える膨大な量のビジネスです。小さく挑戦し、失敗することを繰り返し、その中の一握りの成功を巨大なビジネスへと成長させ、複数のニッチによって強者へと至ったのがGAFAなのかもしれません。

rk戦略でニッチを狙い続ける

しかし、残念ながらニッチは永遠ではありません。常に右肩あがりのビジネスや市場は存在しえないように、「強みを発揮できる場所」が常にあるとは限らないのです。特にニッチは小さな市場であることがほとんどですから、斜陽に差し掛かるとすぐに消滅してしまうリスクがあります。そこで、ニッチを探すための戦略が必要になります。ここで注目すべきが「rk戦略」です。

数か質か「rk戦略」

rk戦略とは生物が繁殖するときに取られる戦略です。数を重視する「r戦略」と、適応能力の高い子孫を高確率で残す「k戦略」に大別されます。rk戦略はロジスティック式によって説明されますが、ここでは式の具体的に説明は割愛します。

r戦略は、増加率rを大きくするために「手数を重視=子供の数を重視」する戦略です。なぜ子供の数を多くするかといえば、環境の変化が激しい攪乱された環境において、少しでも生存率を上げるためです。

一方、k戦略は「環境収容力kと子供の数がイコールとなること」を重視する戦略です。こちらはr戦略とは異なり、安定した環境における生存戦略だと言われています。環境収容力kは不変(環境によって固定される)なため、kの値いっぱいになるように個体数を維持しようというのがk戦略の根本的な考え方です。個体数を維持するためには「簡単に死なないような強い子供」を残すことが最も大切です。

この2つの戦略を、ニッチの獲得という観点から説明すると、以下のようになります。
・r戦略は事業の数を増やして、少しでもニッチ獲得の「数」を上げる
・k戦略は強い事業を作り(資本を投下し続け)、ニッチ獲得の「確率」を上げる

弱者のニッチ獲得はr戦略

すでにお分かりかと思いますが、r戦略こそ弱者がニッチを獲得するための近道です。環境の変化が激しい場合には、少しでも手数を増やして成功(ニッチの獲得)の絶対数を増やさなければいけません。たとえ99%が失敗したとしても、1%が成功すればナンバー1として生き残ることができるからです。さらに加えるならば、「あえて異端になる」ことを意識して手数を増やすことにより、生存率が高まるかもしれません。生物の進化を紐解いていくと「異端(=はずれもの)」と呼ばれる存在が、次の進化につながっている例が多くあるそうです。

r戦略で手数を増やすためのデジタル化を

ここまで2記事にわたって紹介してきた中小企業の生存戦略をまとめてみましょう。

  • 攪乱された時代(VUCA時代)を弱者が生き残るためにはニッチの獲得がカギを握る
  • ニッチの獲得はオンリー1でありナンバー1であることにつながる
  • ニッチの獲得のためには「ずらし、変化する」「小さく絞り込む」「弱みを特徴に転換する」
  • ニッチを探索しつづけるためには手数を増やす(r戦略)

ちなみに、r戦略の考え方は「シードバンク」の形成にも役立ちます。シードバンクとは雑草が地面の下に蓄えている膨大な種子のことです。ビジネスにおいてもスタートアップの最初期をシードと表現することから、「シード=生存のチャンス」と考えることができるでしょう。r戦略に従えば、シードはあればあるほど良いことになります。ここでいうシードとは、新規事業の計画やビジネスモデルです。

また、BMC(ビジネスモデルキャンバス)VP(バリュープロポジション)の考えを取り入れることで、質の高いシードを量産することもできそうです。

さらに、デジタルツールの活用によってシードの生成・実行・撤退が迅速に進むようになれば、ニッチの獲得にかかるコストや時間を短縮することも可能です。

まとめ

今回は、ニッチの獲得における具体的な方法論について解説しました。VUCA時代は攪乱された環境であり、考え方によっては中小企業(弱者)に有利な時代です。戦略的に手数を増やすr戦略をとりつつ、r戦略を効率よくサイクルさせるためのシステムや組織体制に注目してみてください。ベンチャーネットでは、デジタルツールの導入・運用やビジネスモデルコンサルティングなどを通して、企業の生存戦略をサポートしています。ご興味があれば是非お気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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