バーチャル経営ではこれまで、今後の中小企業が目指すべき姿をさまざまな側面から解説してきました。ここからは、これまでの集大成として「高利益の知的創造企業を目指すための方法論」を紹介していきます。第1回目となる今回のテーマは「経営の可視化」です。経営の可視化は頻繁に目にする経営課題ですが、意外と対策が難しいことで知られています。しかし、現在はICT活用によって比較的容易に達成できうるうえに、即効性も高い施策です。
中小企業が目指すべき姿とは
まず、これまでバーチャル経営の構成要素を簡単におさらいしておきます。バーチャル経営は、「人と労働力の本質化」をキーワードに、会計的数値の活用やデジマによる集客、自動化などを絡めた中小企業向けの経営戦略です。
バーチャル経営の構成要素と目指す姿
バーチャル経営の基本的な構成要素は以下4つです。
- 人と労働力の本質化(バーチャル社員活用)
- 会計的数値による付加価値の計測(ROA、経常利益、付加価値、労働分配率、F/M比率)
- デジマによる販促と集客(BtoBデジマ、コンテンツマーケ、SEO、ABMなど)
- 自動化による効率化と価値の連鎖(決済自動化、雑務自動化、SEO自動化、ABM自動化など)
また、これらに加えて、組織体制の構築や新規事業の始め方、アライアンス、生成AIの活用なども紹介してきました。
バーチャル経営が目指すのは「会社の規模は大きくせずに利益率を高めること」です。さらにベンチャーネットでは、バーチャル経営という戦略のもとで「高利益の知的創造企業」を目指しています。これを達成するには、次のような施策が必須であると感じています。
分散、独立型の事業をいくつも生み出す
企業が成長するためには、何らかの事業を成功させなくてはなりません。このとき、どうしても「単一の事業に特化」しがちです。しかしVUCA時代の中で単一の事業にオールインする施策は非常にハイリスクです。しがたって、分散・独立した事業を並行して生み出すことで生存力を高めるべきだと考えています。具体的にはバーチャル経営でも紹介している「ブルーポンド戦略」や「rk戦略」を取り入れた新規事業の立案です。さまざまな事業の種を生み出し、小規模かつ柔軟なチーム構成で運営することで、リスク低減と成功確率の向上が期待できます。
月次決算データによる舵取り精度の向上
経営に安定化には、決算による定期的な振り返りが必須です。しかし、決算を「納税額の把握」や「経営状態の報告」のために行っている企業は少なくないと思います。裏を返せば、必要最低限の決算のみを行っていて、「月次決算」にまでは着手していないという企業が多いのではないでしょうか。特にオーナー経営者の経験やノウハウで運営している場合、月次決算はなおざりにされがちです。
一方で、舵取りがうまい経営者は、手元に必ず月次決算のデータを置く傾向があります。変化の激しい現代において、意思決定の参考とすべきは「月単位の動向」であることを知っているからなのでしょう。弊社でも、精密な月次決算が高成長の原資になると考えています。
透明性とリアルタイム性の高い経営
利益率を高めるための第一歩は経営の徹底的なシステム化です。なぜ利益率が高まるかというと、システム化によって透明性とリアルタイム性が向上し、仕事の廃棄や効率化が進み、コア業務へ投下できるリソースが増えるからです。
ちなみにバーチャル経営では、経営のシステム化を実現するソリューション群として「ベンチャーネットエンジン」を提供しています。詳細はリンク先の記事で説明していますが、ベンチャーネットエンジンでは、下記のように複数のソリューション・サービスで経営のシステム化をサポートします。
ベンチャーネットエンジンの前提は「経営にまつわるあらゆるデータを可視化」することです。可視化は決して難しいことではありません。NetSuiteのようなクラウドERPや、セルフサービスBIが持つダッシュボード機能によって、比較的容易に達成できます。一方で、意外にできていない企業が多いことも事実です。
即効性の高い「経営の可視化」
上記3つの中で最も即効性が高いのは、3番目の「透明性とリアルタイム性の高い経営」を目指すことです。その理由としては下記3つが挙げられます。
ステップが少ない
1つ目の理由は「ステップが少ない」ということです。経営の可視化に必要な材料は常に生み出されていて、単に整理されていないだけであることが大半です。したがって、整理→可視化という2ステップですぐに可視化が進みます。
中小企業の場合、ビジネスモデルは比較的シンプルですから、整理すべきデータも限定しやすいはずです。例えば、「素材を仕入れ、加工し、納品する」というビジネスモデルであれば、「人件費」と「購買と出荷に関するデータ」のみを整理するだけで、経営の可視化は一気に進みます。
ツールの成熟
2つ目の理由は、可視化に必要なツールが成熟していることです。特に、「セルフサービスBIツール」の普及は経営の可視化を一気に容易にしました。BIツールは社内に蓄積されたデータを抽出・加工し、さまざまな分析によって意思決定を支援するツールです。
しかし、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの多くは組み込み型で、レガシーシステムの一部として機能するものが大半でした。また、組み込み型であるがゆえに導入コストも高く、比較的規模の大きな事業でなければ採算が合わないことが多かったのです。さらに、データ抽出に1日以上の時間を要することもあり、リアルタイム性がやや弱いことも課題でした。
一方で、近年普及が進んでいるセルフサービスBIツールは「独立型・低コスト・リアルタイム」という特徴を備えています。一般的なPC用のアプリのように、手元ですぐにデータ抽出と分析、可視化が行える点が売りです。さらに、ダッシュボード機能によってグラフ化が容易であり、データ分析と可視化に特別なITスキルを必要としません。
こうしたツールの成熟により、「経営者みずからが、手元ですぐに意思決定の材料を得る」ことが可能になりました。
データドリブン経営の基礎になる
「データドリブン経営」という言葉が世に出て数年が経ちました。データドリブン経営は、簡単にいえば「企業活動の中で発生するさまざまなデータを駆使し、動的に捉えて意思決定に活かす」という経営手法を指します。
中小企業の経営者には、頻繁な意思決定の変更、精緻なかじ取りが求められます。そこでデータを根拠とした経営(データドリブン経営)が役立つわけですが、その前提は「データの可視化」です。
NetSuite+Power BIによる経営の可視化
では、経営データの可視化に関する一般的な方法を紹介します。経営データの可視化は「経営ダッシュボード」を作ってしまえば非常にスムーズに進みます。
経営ダッシュボードの作り方
まず、一般的な経営ダッシュボードを紹介します。経営ダッシュボードは、下記のステップで進めます。
まず、ステップ1から3までは「下準備」の段階です。経営ダッシュボードは意思決定に必要な情報を「一枚絵」のように見せるものであり、その中で使用する材料を整理するステップだと考えてください。
ちなみにすべてを手作業で行うと、ステップ1と2の作業量が非常に大きくなります。特に2は細かく地味な作業の連続であり、従業員のリソースをかなり消費するでしょう。したがって、先にツールを決めておき、ツールの仕様に沿ってデータ整理を進めていく方法がおすすめです。
経営ダッシュボードを作成するメリット
経営ダッシュボードを作成することで、下記のようなメリットが発生します。
現状把握の精緻化
現状把握はどの経営者も行っていると思いますが、問題はその精度です。日々発生する生のデータを基礎とすることで、高精度な現状把握が積み重ねられ、自社に対する解像度が上がります。
意思決定のタイミングが適正化される
データドリブン経営やデータの可視化では「意思決定の迅速化」がメリットとして挙げられます。確かに迅速化は良いことなのですが、本当のメリットは「タイミングを外さなくなる」という点です。「必要なデータが遅滞なく、一定のタイミングで揃う」ことによって、「手遅れ」を防ぐのはもちろんのこと、時期尚早な判断の抑止にもつながります。
NetSuiteのダッシュボード機能による可視化
経営ダッシュボードの実装は、ERPに組み込まれているものを利用することでも可能です。例えば、弊社が取り扱っているクラウドERP「NetSuite」には、経営ダッシュボードとして利用可能な機能が標準搭載されています。
経営ダッシュボード
また、経営ダッシュボードをブレイクダウンして業務領域ごとに表示できる各種ダッシュボードも充実しています。
費用ダッシュボード
費用・経費に関連する情報を表示するダッシュボードです。支出動向やパターンを迅速に理解できます。
財務ダッシュボード
財務状況や業績に関するダッシュボードです。財務の健全性やリスク、投資の機会などを評価するのに役立ちます。
営業、マーケティングダッシュボード
営業活動やマーケティング活動の成果をとりまとめて表示するダッシュボードです。経営者、営業チーム、マーケティングチームで施策ごとの成果を共有し、調整を行うためのデータベース的な役割を果たします。
顧客ダッシュボード
顧客関連のデータを中心に、顧客の動向、行動、満足度などの情報を視覚化したダッシュボードです。効果的なマーケティングやサービスの提供、顧客対応の実施につながります。
PowerBIでより使いやすい経営ダッシュボードも実現可能
また、NetSuiteに渡すデータを事前に集計・抽出する、もしくはNetSuiteに蓄積したデータを別なフォーマットで表示したい場合には、「Power BI」の活用もおすすめです。Power BIは、Microsoft社が提供するビジネスアプリケーション開発プラットフォーム「Power Platform」の一部です。いわゆる「クラウド型のセルフサービスBI」であり、データ抽出や変換、統合、レポート作成などを半自動で実行できます。
また、Power BIは「ノンプログラミング」がテーマのひとつであり、非IT人材であっても自由にカスタマイズ・運用できる点が強みです。さまざまなデータソースとの接続も可能で、エクセルからの変換やNetSuiteとの連携にも対応できます。
ちなみにPower BIは、デスクトップアプリ・SaaS・モバイルアプリの3つの形態で利用可能なほか、モバイルであればAndroidやiOSにも対応可能です。このことから、デバイスやOSを限定することなく、経営ダッシュボードの作成が進められます。
移動中や出先ではスマートフォンから、オフィスではPCからといった具合にアクセス環境が異なる場合でも、常に一定の情報を得られるという点が大きなメリットです。
まとめ
今回は「高利益の知的創造企業」を目指すための第一歩として、ダッシュボードによる経営データの可視化を紹介しました。ダッシュボードによる可視化は、「BIツール」と「ダッシュボード機能」の活用で容易に達成できます。可視化はDXや両利きの経営の実践という観点からも欠かせない施策であり、中小企業が最初に着手すべきものだと考えています。どちらも自前で実装するにはハードルが高いのですが、ツールの力を借りることで安価かつ迅速に実現可能です。もしご興味があるようでしたら、是非お気軽にお問合せください。