高利益の知的創造企業への道のり②~付加価値とは何か?構造がもたらす付加価値経営の第一歩

前回の記事では、高利益の知的創造企業を目指すために「経営の可視化」を紹介しました。今回は、「付加価値」に関する考え方を紹介したいと思います。

高利益の企業とは、端的に言えば「付加価値を生み出すのが上手い企業」です。では付加価値とは何なのでしょうか?この問いに正面から答えられる方は少ない印象です。

利益を高めるためには、何らかの付加価値を生み出していかなくてはなりません。しかし、付加価値とは何か?どうやって成立するのか?という点については、体系的に学ぶ場がないのです。

ここでは、知的創造企業への土台となる「付加価値」の作り方について再度確認しておくことにします。

目次

そもそも付加価値とは

まず、付加価値の定義を明らかにしておきましょう。ここでは、会計的な定義と経営的な定義の2パターンを紹介します。

会計的な定義

まず付加価値の会計的な定義からです。会計的な意味での付加価値とは、以下の合算を指します。

  • 営業純益・役員給与および賞与
  • 従業員給与および賞与
  • 福利厚生費
  • 支払利息
  • 動産および不動産賃借料
  • 租税公課

また、別の視点からは、次のような式でも表せます

売上高-外部購入価額

ちなみに外部購入価額は、いわゆる「人件費以外に、商売をするためにかかったコスト全般」ですね。直接・間接材料費+買入部品費+外注加工費+運賃や、仕入額などが該当します。

上の式では、売り上げからコストを差し引いているので、ざっくり言うと粗利になります。ということで、会計的な意味での付加価値とは「利益」に非常に近い存在なのです。

経営的な定義

しかし、経営の現場でよく言われる「付加価値」は、会計的な定義を述べているものではありません。

経営的な意味での付加価値は「顧客のために”何かをする”という明確な意思のもとで提供される価値」です。つまり、付加価値とは「意識して取り組むことで生み出される価値」なのです。

この説明をすると、「差別化のことか」と勘違いされる方がいますが、差別化と付加価値は違います。差別化は「競合との違い」「他社でやっていないこと」を創出することで、差別化=付加価値になるとは限りません。

例えば、「特定の顧客のためだけに提供するオプション契約」があるとしましょう。この契約が本当に顧客のビジネスに貢献するものであれば、明確な付加価値です。しかし、同様のオプション契約を競合他社が提供しているとすれば、少なくとも独自性はありません。

このとき、付加価値を伝わりやすくする材料として「特別な値引き」や「ほかにはない機能」などを付与します。これが差別化です。付加価値の提供と差別化はセットにすると非常に訴求力が強くなります。

付加価値を生みだすには「構造」の再定義が必要

では、付加価値はどのように生み出されるのでしょうか。「明確な意思のもとで提供する」と書きましたが、これには枕詞があります。それは「構造を作ったうえで」です。

付加価値は構造によって生みだされ、構造を「意識して作る」ことが経営者の仕事であるとも言えます。

大半の人間は「構造」に従う

企業経営を語るときに、「文化」や「理念」を第一に持ってくる方は少なくありません。確かにこれらは非常に大切なのですが、「付加価値を生み出す」という点においては具体性に欠けます。

付加価値を生み出しているのは「構造」、つまり仕組みなのです。なぜ構造が大事かというと、人間は大半が構造に従って動いているからです。

例えば家の中に部屋が4つあると、人間は4つの部屋を最大限活用して生活しようとします。最初のうちは用途が決まらない部屋がありますが、1年2年と住んでいくと、必ずどの部屋も役割が決まってきます。これは「今あるリソース(空間)を最大限活用して、できるだけ便利に暮らせるようにしよう」という行動の結果です。

部屋が3つでも5つでも同じ行動を起こします。このように人間は構造に「動かされる」という側面があり、企業でも同じことが言えるのです。

「構造」の定義と構築が経営者の役目

経営者は、「人を動かす構造」「人が動かされる構造」という点を意識しながら、自分も含めた全員が「付加価値」を生み出す構造を作らなくてはなりません。

しかし、中小企業の場合、「構造」を作るまでもなくビジネスが成立していることがよくあります。いわゆる「業務属人化」なのですが、特定の「人」が常に付加価値を生み出す存在になっていれば、そうそう変えるわけにもいきませんから。

しかし、人はいつか辞めますし、ずっと同じパフォーマンスを維持できるとも限りません。また、その優秀な人が持つ力を、他のメンバーに浸透させるには、やはり「構造(仕組み)」が必要です。そこで、「付加価値を生み出すメンバーの力を、構造に変える」ことを意識してみましょう。この点は、属人化しやすい領域ほどやりやすいもの。例えば営業ですね。

営業も構造化できる

営業は「人物によってパフォーマンスが変化する」、つまり属人性が強い業務領域です。しかし、構造化できる点は多くあります。例えば、提案書ですね。

提案書にはセンスが出ると思われがちですが、実際には「投下したリソースの量」がそのまま出ています。優秀な営業メンバーは、準備にかける量が多く、行動ルーティーンの中に組み込まれています。つまり、構造化されているのです。さらに、準備によって獲得した知見を、顧客側の視点から付加価値に結び付ける行動にもたけています。

見込み客が何を欲しがり、何を探し、どのような痛みを抱えているのかをヒアリングし、それを「潜在ニーズ」に結びつけることで、「読ませる提案書」を書いているのが売れる営業です。

付加価値の正体を知ろう

ここまで、付加価値は構造化によって生み出されるという話をしてきました。ではもっと深く、具体的に「付加価値とは何なのか」という点について掘り下げたいと思います。

付加価値は構造によって生み出されるものですが、付加価値自体にも構造があります。わかりやすく言うと、大きな構造(付加価値を生み出す仕組み)で小さな構造(付加価値本体)を製造しているイメージですね。

ちょうど生産ラインと製造物のような関係です。どんな製造物を作るかによって生産ラインも変わりますよね。なので、付加価値自体の構造を知っておくことも大事です。

弊社では、付加価値を以下の4段階に分けてとらえています。

・レベル1
ベースとなる「コスト(原価)」

・レベル2
コストに上乗せされる「利益」の部分(損益分岐点よりも必ず大きくなる値)

・レベル3
クライアントが気づいていないニーズに対応した価値(潜在ニーズ)

・レベル4
これから作られる付加価値(未来の付加価値)=影のニーズ

まず、レベル1と2に関しては説明不要だと思います。付加価値のベースとなるのは「コスト」と「損益分岐点を超える部分(利益)」です。この点は会計的な視点とも共通していますね。重要なのはレベル3と4です。

レベル3の「潜在ニーズ」についてですが、これは「クライアントが気づいていないニーズ」と表現できます。こちらも比較的メジャーな言葉なので説明は割愛しますが、潜在ニーズを突くことができれば、付加価値の創出に大きく近づきます。

逆に潜在ニーズを突かない売り方は、「原価+利益」の部分でしか評価されないので、値を高くしても売れません。なので、潜在ニーズの検知というのは、付加価値創出の上で非常に重要なのです。

未来の付加価値=「クライアントが話してくれない”実利”」

一般的な付加価値の説明は、大体この「潜在ニーズ」の部分で止まってしまいます。しかし弊社ではもう一歩踏み込んで「未来の付加価値」を定義しています。

未来の付加価値とは、端的に言えば「クライアントが認知しているが、こちらに話してくれないニーズ」です。影のニーズと言っても良いかもしれません。

「潜在ニーズと同じではないか?」と考えがちですが、影のニーズと潜在ニーズは明確に異なります。

潜在ニーズは「クライアントが認知していないが、こちらは認知している」ニーズです。これに対して影のニーズは「クライアントは認知しているが、こちらには”あえて”知らせてくれないニーズ」です。つまり、こちら側が何らかの理由で知ることができない情報なのです。

例えば、「本当は経理部門のシステムを全部入れ替えたいが、そこまでは予算が採れないだろうから、とりあえず請求書の発行業務だけを効率化したいことにしておこう」というクライアントがいたとします。このクライアントからもたらされるのは、

請求書の発行業務を効率化したい(顕在ニーズ)

のみです。また、こちら側としては

請求書の発行業務を効率化したいという奥には、バックオフィス業務の自動化というニーズがあるのだろう(潜在ニーズ)

に気が付くことができます。しかし、潜在ニーズは必ずしも当たりませんし、潜在の状態では付加価値につなげにくいのが実情です。当たり外れがありますから。

一方で、影のニーズはクライアントがしっかりと認知していて、こちらに知らせてくれさえすれば当たり(付加価値として提供可能)です。実はこの「影のニーズ」こそが付加価値を増大させる源泉なのです。

影のニーズは、一定条件をクリアすることで獲得できます。獲得できさえすれば、将来的には付加価値として提供できる可能性が高いため、「未来の付加価値」と表現できるわけです。

では、影のニーズはどのように知るか。この点は、「クライアントにとって特別な存在」となるための工夫が必要です。そして、その工夫も構造化できます。この構造化こそが「コンサルティングセールス」です。

まとめ

ここでは、「付加価値は構造から生み出されること」「付加価値の構造」について説明しました。付加価値は会計の面のみならず、経営の面で最も重要な指標です。しかし付加価値に真摯に向き合い、学べる機会は少ないもの。付加価値を生み出すための構造を意識することで、価値創造の再現性が高まっていきます。次回は、影のニーズを知り、未来の付加価値につなげるための構造化テクニック「コンサルティングセールス」について説明したいと思います。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次