バーチャル経営イノベーション実践編~ビジネスモデル構築の指針「ビジネスモデルキャンバス」

前回の記事では、ビジネスモデルの重要性を解説しました。今回はビジネスモデルを構築する上で欠かすことのできないツール「ビジネスモデルキャンバス(BMC)」を紹介します。ビジネスモデルキャンバスは、新規事業の立ち上げや現状分析など、ビジネスモデルの構築・分析・刷新に役立つ汎用性の高いツールです。ぜひ参考にしてみてください。

目次

ビジネスモデルキャンバスとは

前回の記事でも説明したように、ビジネスモデルとは「どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的かつ構造的に記述したもの」です。しかし、価値創造の仕組みを可視化する=ビジネスを単純化するということではありません。ビジネスモデルは、「複雑なものを複雑なまま」構造に落とし込むものです。その一方で、その複雑さがステークホルダーの理解を妨げる可能性もあります。また、ビジネスモデルを構築する本人にとっても、複雑さがハードルになりがちです。こうしたビジネスモデル構築にまつわる課題を解決できるツールがビジネスモデルキャンバスなのです。

ビジネスモデル構築の思考を可視化「ビジネスモデルキャンバス」

では、ビジネスモデルキャンバスの成り立ちを具体的に見ていきましょう。BMCは、イヴ・ピニュール、アレックス・オスターワルダーの両氏によって開発された世界共通のワークフローです。2022年現在、ビジネスモデルを論理的に記述するにあたって最も汎用的なツールとして知られています。ビジネスモデルキャンバスは、9つの大きな要素(ブロック)で成り立つ、極めてシンプルな一枚図です。個人事業レベルから大企業まであらゆる規模のビジネスモデルを可視化することができます。

ビジネスモデルキャンパスの基本構造

以下は、ビジネスモデルキャンバスを構成する9つの要素です。

CS(顧客セグメント:Customer Segments)

「価値を提供する相手方」を定義する項目です。ただし、単に「顧客」とするのではなく、「顧客が抱えている仕事(ジョブ)」を記載していくほうが、より解像度の高い顧客像につながります。年齢・性別・職業などに加えて、顧客が置かれている状況(退屈を解決したい、週末に少しだけ車を使いたいなど)を併記すべきだと考えられています。この点が、一般的な顧客セグメントとは異なります。

VP(価値提案:Value Propositions)

前述のCSに対して提供する価値の内容、満たすニーズなどを記述します。ここで重要なのは「製品名」「サービス名」を記述するのではなく、「その製品やサービスが提供している価値の内容」を具体的に表現することです。例えばカーシェアリングサービスであれば、「PCやスマホからリアルタイムに予約できる」「気分や用途によって乗りたい車が選べる」「固定費をかけずに車を利用できる」といった内容が該当するでしょう。

VPは事業内容や顧客セグメントによって変化するため、VPをより具体的に解説するためのツール(バリュープロポジション・デザイン・マップ)などを用いることもあります。

CH(チャネル:Channels)

顧客セグメントにアプローチするための経路(チャネル)や方法を決定します。顧客接点や広告・マーケティヌの方法、流通と販売チャネル、アフターフォローの方法などが含まれます。

CR(顧客との関係:Customer Relationships)

顧客セグメントとどのような関係を構築するかを決定します。具体的には、「SNSを使ったキャンペーン」や「特定の会員に対するポイント優遇措置」など、顧客の育成や囲い込み関する内容が多いでしょう。

RS(収益の流れ:Revenue Streams)

顧客からもたらされる収益の種類や発生するタイミング、価格の高低などを記述します。平日は定価で販売しつつ認知度を上げ、週末は値引きやタイムセールで収益力を強化するのであれば、値引きとタイムセールがRSの中心となるでしょう。また、継続課金型モデルであれば月額の会員費がRSとして挙げられます。そのほか、アフターサービスや保守運用費用なども該当します。

KR(リソース:Key Resources)

価値を提供するために必要なリソースを記述します。要は、ビジネスモデルを成立させるために必要な資産ですね。生産設備のような物理的資産以外にも、プログラムやWebコンテンツ、顧客データのような無形資産、流通システムなどもKRとしてカウントします。

KA(主要活動:Key Activities)

ビジネスモデルを実行し、価値を提供するために必要とされる活動を記述します。例えば飲食店ならば「仕入れルートの開拓」「調理人の採用と育成」「店舗運営に必要な人材の採用と育成」などが該当します。そのほか、製造・サプライチェーン・マーケティング・リサーチ・人材採用などビジネスの実行に必要なアクションを全て書き出していきましょう。また、「少人数運営」や「小口・多頻度配送」など、他社との差別化につながる要因も記述することでビジネスモデルの輪郭がはっきりしてきます。

KP(パートナー:Key Partners)

ビジネスモデルを構築するうえで必要となる「取引先」や、取引先とのネットワークを記述します。ここで重要なのは「代わりがきかない取引先」を重点的に書き出すことです。

CS(コスト構造:Cost Structure)

ビジネスモデルの運営に必要なコストを記述します。飲食店であれば、「人件費」「食材費」「電気・ガス代」などが挙げられるでしょう。また、自社Webサイトの運営に必要なドメイン維持費用やサーバー費用などもCSの一部です。CSは固定費と変動費に分けることで、コスト削減のポイントが分かりやすくなります。また、そのコストが相対的に高いか低いかも合わせて記述するようにしましょう。なぜそれだけコストをかける理由があるかを明確にするためです。

ビジネスモデルキャンバスは「左右」「表裏」を意識する

ビジネスモデルキャンバスは、「顧客に何を提供できるか?」という「VP:価値提案」を中心に、「左側:自社を中心とした活動とコスト」、「右側:顧客を中心とした活動と収益の流れ」に分けて考えることができます。また、言い方を変えれば、左側は「ビジネスの裏側(バックステージ)」であり、右側は「ビジネスの表側(表舞台)」です。

ビジネスモデルキャンパスの基本構造

ビジネスモデルキャンバスの記述方法に決まりはありませんが、バーチャル経営では右側(ビジネスの表側)の「CS:顧客セグメント」から埋めていくことを推奨しています。

顧客セグメントが「顧客が抱えている仕事」ベースで具体的になることにより、そのほかの要素も具体性を増し、ビジネスモデルの輪郭がはっきりするからです。

右側(ビジネスの表側)の記述例

例えば、カーシェアリングサービスを想定して、顧客セグメントを「車が欲しいが維持費がもったいないと考えている社会人」としましょう。次に、この顧客セグメントがかかえる課題に対応する価値提案として「少額で1時間単位から、24時間いつでも使える車」を記述します。

さらに、顧客セグメントと価値提案をつなぐ要素として「CH:チャネル」を記述します。今回の場合は、「駐車場に設置する会員申し込み用チラシ」「ビジネスマン向けWebメディアへの広告出稿」などが該当するでしょう。さらに、「CR:顧客との関係」については、「月額会員制をベースとした長期的な関係」が適当かもしれません。

また、これら4つの項目をつないだ先に「RS:収益の流れ」を記載します。ここでは、月額会員費や従量課金制で支払われる車の利用料が該当します。

このように右側は顧客セグメントから開始することで、より現実的なビジネスの表側が見えてきます。

ビジネスモデルキャンパスの基本構造

左側(ビジネスの裏側)の記述例

次に左側(ビジネスの裏側)の記述例を見ていきましょう。左側は、右側で記述した「VP:価値提案」をいかに実現するか、という視点が求められます。したがって、「VP:価値提案」から出発する方法がおすすめです。

前述したように今回の価値提案は「少額で1時間単位から、24時間いつでも使える車」です。これを実現するためには「車の稼働状況を可視化するシステム」や「Webやアプリから契約可能なシステム」が必要です。したがって、「KA:主要活動」には「稼働状況可視化、24時間オンライン契約のためのシステム構築」が記述されます。さらに、自社でシステム開発を賄う場合は、人材採用なども記述する必要があるでしょう。

また、「KR:リソース」としては、前述のシステムのほかに「自動車本体、駐車スペース」などが必要になります。自社独自の自動車や駐車スペースを持たない場合は、「KP:パートナー」に自動車ディーラーや駐車場オーナーなどを記述します。

ここまで記述すると、「CS:コスト構造」が見えてきます。コストとしては「自動車本体の調達費用」「メンテナンス費用」「駐車場の契約費用」「システム運用費用」「人件費」などが該当します。

ビジネスモデルキャンパスの基本構造

ビジネスモデル=経営戦略と現場をつなぐ設計書

このようにビジネスモデルキャンバスは、右側(表側)は顧客セグメントから、左側(裏側)は価値提案から出発すると、論理性と具体性を備える内容になりやすいです。

ビジネスモデルは経営戦略を「計画」とすれば、それを実際のビジネスプロセスに落とし込むための「設計書」です。そして、ビジネスモデルキャンバスは「設計書」を作成するためのツールであり、経営戦略と現場をつなぐ架け橋とも言えます。経営戦略が優秀であっても、ビジネスモデルに穴があればイノベーションは生まれません。逆に、ビジネスモデルキャンバスによってビジネスの論理性や構造が証明されれば、社内外のステークホルダーから賛同を得やすくなるはずです。これは、社会的イノベーションを大きく前進させるものです。

まとめ

ここでは、ビジネスモデル構築のツールとして、ビジネスモデルキャンバスを紹介してきました。ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスの表側・裏側を可視化し、論理的に整理できることが強みです。次回は、ビジネスモデルキャンバスの各要素をさらに深く解説していきます。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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