ビジネスの成長には良質な人材の力が欠かせません。これは、「人手増=リスク増」という図式が顕在化した現在でも同じです。「人(固定費)は増やせない」、しかし「仕事をこなす労働力は欲しい」という、相反する欲求に悩む経営者は少なくないでしょう。この悩みに対し、バーチャル経営では「バーチャル社員」を核とした人材活用を推奨しています。
「いい人がいない」と嘆く前に経営者がやるべきこと
これまでバーチャル経営では、人材獲得の難しさを解説してきました。「労働人口減と採用難」でも紹介したように、現在の日本は「現実的な採用対象」である20代から40代の人口が著しく減少しています。その中から自社の採用ラインを満たす人材を探すとなると、人口比で数%未満になり、「出会うことすらできない」可能性が高いのです。また、DX人材・デジタルマーケティング人材については、大手企業のように「関連会社から人を吸い上げる」という施策を実行できない限り、採用・育成ともに現実的ではありません。
「それでも自社採用・育成にこだわりたい!」という決意を諫めるつもりはありません。しかしバーチャル経営では、少しの工夫と発想の転換によって、人材にまつわる問題を解決できると考えています。
結論から言えば「中堅・中小企業は“いい人探し”を一旦やめるべき」です。なぜなら、本当にやってほしいことを整理すれば、一般的な採用・育成に頼らずに良質な労働力を確保できる可能性が高いからです。
そのために、まずコア業務の中でも本当に重要な部分だけを削り出して「本質化」を進めます。次に、本質化した業務にマッチする人材を「一般的な人材市場以外の場所」から獲得していきましょう。
「バーチャル社員」~低コストで緩くつながるコア人材
抽象的な表現になってしまいましたが、要は「やってほしいことを極限までスリム化」し、そのうえで「マッチする人材をオンライン上から探す」という2つの工程で成り立つ方法です。
仕事の本質化=雑務を取り除いてスリム化
仕事の本質化は、それほど難しい作業ではないでしょう。大抵の業務には、大小さまざまな雑用が付属しているものです。例えばマーケティング業務にしても「報告書の作成」「社内会議・プレゼン用資料の作成」「会議への出席」といった雑務が固着しています。こうした雑務を全て取り除き、純粋な「マーケティング業務」を定義します。同じように他の業務も本質化していくことで、人材に求める条件も自然とスリムになっていくでしょう。
本質化が完了した後は、そこにマッチする人材を探していきます。バーチャル経営では、「本質化した仕事」を遂行する人材として「バーチャル社員の活用」を提唱しています。バーチャル社員の活用は、「固定費を増やさずに売上を伸ばす」バーチャル経営の核となる施策です。
条件は「純粋な能力」のみ~バーチャル社員活用
バーチャル社員とは「組織・雇用・勤務形態に依らず、仕事の遂行に必要な能力を持った本質的な人材」です。バーチャル社員については、過去の記事や私の著書『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)でも詳しく紹介しています。
実際にベンチャーネットでもバーチャル社員を活用していますが、彼らの間に「仕事の遂行に必要な能力を備えていること」以外の共通点はありません。年齢・経歴・思想・雇用形態もバラバラです。本質化した仕事の前では、従来の人材採用で重視されたような「属性」に関する要素は全く意味がないと考えています。むしろ、属性が統一されていない人材を活用することで生まれる視点・価値を実感する機会が多いくらいです。
日本には、さまざまな事情から一般的な人材採用市場に出てこない人材がたくさんいます。彼らの中には「年齢的な制限で採用ラインに届かない」「家庭の事情で勤務地の折り合いがつかない」「心身の事情で通勤が難しい」など、仕事の能力とあまり関係のないところがネックになり、埋もれてしまっている人たちがいます。これら「埋もれた人材」を上手く見つけ出し、バーチャル社員になってもらうことで、良質な労働力が獲得できるわけです。
バーチャル社員との付き合いは、オンラインが基本ですから、固定費もあまりかかりません。また、コスト調整が柔軟にできたり、リモートワーク環境を容易に構築出来たりといったメリットもあります。
バーチャル社員の探し方
バーチャル社員と出会う方法としては、以下3つが考えられます。
・クラウドソーシング
Lancersをはじめとしたクラウドソーシングサイトを活用する方法です。クラウドソーシングには、さまざまな経歴・スキルを持った人材が多数登録しています。彼らとオンライン上で少額の取引を開始し、徐々に仕事を任せる範囲を拡大していくことで、バーチャル社員化が可能です。クラウドソーシング上での取引はスポット契約が基本ですから、自社業務との相性を見極める面でも有用です。バーチャル社員が想定する「純粋な仕事の能力を持つ人材と、オンライン上で緩く長くつながる人材」を探すには、最適な場所のひとつだと思います。
・リファラル
いわゆる「紹介」ですね。自社社員や取引先、知人などを介してバーチャル社員の候補を探していきます。ただし、基本的には「運」や「縁」が絡むため、計画的な方法とは言い難い側面があります。
・ダイレクトリクルーティング
ここ数年で一気に広まった「攻め」の人材方法です。SNSや人材バンクを通じて、企業から人材にアクセスしていきます。従来型の「募集→応募→面接」といったプロセスよりもスピーディーかつ効率よく人材を獲得できることが強みです。ただし、最終的には従来タガの雇用形態に落ち着く可能性が高いため、「固定費を増やさない」という視点を忘れないようにしたいところです。
「バーチャル社員≒普通の社員」になる日は近い
このように、まずは「仕事の本質化」を行い、次に「バーチャル社員を探す」という2段構えの施策により、人材にまつわる問題は徐々に解決していくでしょう。とはいえ、バーチャル社員という考え方は、まだまだ一般的とは言えません。
いわゆる「普通の社員」を「月給と賞与が発生する、無期限雇用の人材」と定義すれば、バーチャル社員は異端視されても仕方のない存在です。しかし、いつまでも「普通の社員」を抱えられるでしょうか。
2019年にトヨタ自動車の豊田章男社長が、「終身雇用が難しい」といった内容の発言をしたことは記憶に新しいところです。この発言の趣旨は「終身雇用の難しさ」ではなく、「固定費として人を抱え続けることの難しさ」であると考えています。
変化の激しい現代のビジネス環境においては、日を追うごとに「固定費を支払って労働力を確保する」ことのインセンティブが小さくなっています。特に知的労働の分野は、出社や通勤自体がナンセンス化している業務が多く、「普通の社員」を雇うことが最適解とは言えないのです。
さらにコロナ禍をトリガーとしたリモートワークの一般化は、労働者側にも大きな意識変化をもたらしました。つまり「最小限のストレスで、最低限求められることを提示し、報酬をもらう」という働き方を肯定的に捉える人材が増えているのです。
このように労使双方の利害が一致することで、バーチャル社員と普通の社員の垣根は徐々に低くなり、バーチャル社員のような人材獲得が当たり前になっていくのかもしれません。
今後、中堅中小企業の未来を左右するのは「バーチャル社員ファーストなビジネスモデル・業務プロセスを構築できるか」にかかっているのではないかと考えています。
まとめ
本稿では、仕事の本質化とバーチャル社員活用による人材調達の方法を紹介しました。人手不足の解決は「普通の採用をあきらめる」ことから始まるのかもしれません。あきらめは意識変化のトリガーでもあり、発想の転換のスタートでもあります。まずは「仕事」と「人」をスリム化し、オンラインを前提とした取引から始めてみてはいかがでしょうか。次回は、「業務廃棄」に役立つAI-OCRについて解説していきます。