バーチャル経営アライアンス編~アライアンスパートナーの選定基準とは?トップ同士が結びつくために

前回の記事ではアライアンスの概念や日本の中小企業との親和性について解説しました。今回はもう少し具体的に、新規事業のおけるアライアンスパートナーの選び方について解説していきます。

目次

中小企業のアライアンスは「トップ同士の相性」が重要

中小企業では、経営トップが新規事業の指揮をとることが多いと思います。バーチャル経営ではこの特性を利用し「経営トップ同士がアライアンスを組み、スモールスタートで事業を開始する」ことを推奨しています。つまり、社内のリソースはあまり使用せず、既存事業を回しながら新規事業を開始するのです。

意思決定権をもつトップ同士のアライアンスですから、スピードや柔軟性は優れているはずですよね。例え失敗しそうであっても、撤退条件さえ明確にしておけば、大きなダメージを負う可能性は低いでしょう。

そのため、アライアンスではトップ同士の相性がとても大切になってきます。NTTデータ経営研究所の調査を見ても、アライアンスの成功要因と失敗要因に「相性」に関するものが含まれていました。

・成功要因
目的の一致
経営資源が補完関係にある
ビジョンが似ている

・失敗要因
目的の不一致
信頼関係の構築が不十分
企業文化の不一致

参考:NTTデータ経営研究所 企業間アライアンスの成功と失敗を分ける分水嶺とは?

https://www.nttdata-strategy.com/newsrelease/archives/151001/

ここで注目すべきは、失敗要因の部分です。「信頼関係」「企業文化の相違」が挙げられていますよね。これらはトップ同士の考え方、経営方針の相性が一致していないとも言い換えられます。

うまくいきそうなアライアンスパートナーの選定基準

では、相性の良し悪しとは具体的にどういうことか、という点を掘り下げてみたいと思います。バーチャル経営では、アライアンスパートナーの選定基準としては、下記を重視します。

アライアンス目的、ビジネスモデルで合意できること

アライアンスの目的はさまざまです。ここでは新規事業の立ち上げと成功を前提としていますが、世間一般では「技術力の強化」「販路拡大」「イノベーション」など複数の目的があります。当然のことながら、こうした目的にズレがあるとアライアンスは上手くいきません。

また、目的は一致していても想定するビジネスモデルが異なっていると、事業の成長を阻害する可能性が高まります。そのため、BMCバリュープロポジションのレベルで合意していることが前提となるでしょう。

ミッション、ビジョンの一致

ミッションは「社会に対してどのような価値を提供したいか(すべきか)」、ビジョンは「ミッションを達成することで成し遂げたい”将来像”」です。「何を価値として提供し、将来的にどうなりたいか」が一致している相手とは、アライアンスが上手くいく可能性が高いです。もちろん、完全に一致させる必要はありませんが、少なくとも新規事業については可能な限りすり合わせておきたいところです。

経営資源が補完関係にあるか

経営資源が補完関係にあると、新規事業のビジネスモデルを効率よく具体化していくことができます。例えば、「デジタルマーケティングに強い企業」と「外食チェーン企業」がアライアンスを組み「企業向けの社員食堂サービス」を立ち上げたとします。

前者はデジタルマーケティングツール・ノウハウ・人材を提供し、後者は食品の調達や調理リソースなどを提供します。こうすることで、社員食堂を欲している企業に効率よくアプローチし、外食チェーンのリソースを使ったサービスを提供することができるわけです。特に業種・業界が異なる企業とのアライアンスは、経営資源の補完関係が構築しやすくなります。

バーチャル経営が推奨する3つの基準

バーチャル経営では、上記3つのほかに以下のような独自の基準も持っています。

オリジナリティと優位性

「オリジナリティに対する考え方」も重視しています。一般的にオリジナリティは「他の企業が持っていない独自の強み、特徴」と考えられがちです。確かにこれは間違いではありませんが、気を付けたいのは「オリジナリティ=先発優位性」ではないということです。

先発優位性とは、「早期参入によって得られる優位性」を指します。一般的な先発優位性としては、「ブランドの構築」「デファクトスタンダードになれる」などが挙げられるでしょう。しかし、これらを中小企業が達成するのは容易ではありません。ブランドを維持するためには宣伝・広告に投資し続ける必要がありますし、デファクトスタンダードになるためには大企業に負けない価格形成力が求められます。したがって、必ずしも先行者が有利なわけではなく、むしろ逆のケースも多いことを念頭におくべきです。

この点について、アダム・グラント著「ORIGINALS」では、以下のように述べています。

“三〇以上の異なるカテゴリーにおいて何百ものブランドを分析したところ、ゴールダーとテリスは、失敗の確率に圧倒的な違いを見いだした。 先発企業の失敗率は四七パーセント、そして後発企業はわずか八パーセントだったのだ。先発企業は後発企業よりも約六倍、失敗率が高かったことになる。先発企業は、生き残っても、平均一〇パーセントの市場を占有するのみで、対する後発企業の占有率の平均は、二八パーセントだった。意外なことに、先発者となることは、利点よりも不利な面が大きいことがままある。”

引用:アダム・グラント. ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代 (p.164). 三笠書房. Kindle 版.

先発企業と後発企業を比較すると、失敗するリスクは先発企業のほうがはるかに高いという結果ですね。もちろん、業界や事業内容による部分も大きいと思いますが、「後発だから諦める」という考え方は捨てるべきかもしれません。むしろ、後発だからこそ先発者の失敗を見て学ぶことができ、リスクコントロールが可能になり、かつオリジナリティも高めることができます。

また、あまりにも先発優位性にこだわりすぎると、市場の見極めを誤る可能性も高まります。バリュープロポジション作成の記事でも紹介しましたが、新規事業の立ち上げでは「先駆者がいるかどうか」が非常に重要です。したがって、あえて「イノベーター」ではなく「フォロワー」を目指し、オリジナリティを高めながら後発のメリットを享受していくと、成功に近づくかもしれません。

こうしたオリジナリティに対する考え方も、アライアンスパートナーを選定する基準として持っておきたいところです。

「手段」において共通項がある

アライアンスパートナーとは、BMCやバリュープロポジションで合意しておくべきです。これはつまり、「ゴール、目的」だけではなく「プロセス、手段」でも合意が必要だということです。例えゴールが同じでも、プロセスがあまりに乖離していると仲違いのもとになります。プロセスには経営トップの価値観や事業に対する考え方が反映されやすいからです。

価値観の共通点を育てる

同盟関係や共闘関係がうまくいかない理由はさまざまですが、最も大きな要因のひとつに「横方向の敵意」が挙げられます。横方向の敵意はダートマス大学の心理学者ジュディス・ホワイトが提唱した概念で「目標を共有した者同士の間に生まれる敵意」を表しています。横方向の敵意は、不健全な派閥の発生や協調関係の破壊につながると考えられます。どちらもアライアンスの形成を阻害するものですよね。

こうしたリスクを防ぐには、「価値観の共通点を探して育てる」という心構えが必要だと感じています。

まとめ

ここでは、中小企業がアライアンスパートナー選定における基準について解説しました。中小企業のトップ同士がアライアンスを組む場合、まずビジネスモデルで合意することが大切だと思います。ビジネスモデルには手段や価値観が表れるため、効率よく共通点を見出し、育てていくための基盤になるからです。次回はアライアンスのパターンについて解説します。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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