バーチャル経営と生成AI~中小企業の進化は生成AIで加速するかもしれない

前回の記事では、2023年時点における生成AIの現在地を紹介しました。生成AIは今後、BtoBの分野でも活用が拡がると考えられます。特に中小企業は、売上や事業規模の拡大といった「成長」よりも、生成AIを活用した「進化」に活路を見出すべきだと考えています。

目次

中小企業に必要なのは「成長」ではなく「進化」

今後の中小企業は「成長」ではなく「進化」を意識した改革に着手すべきです。なぜこのように考えるかと言えば、従来型の「成長」には限界があるからです。ここで言う成長とは、事業規模・売上・人員の増大などです。従来型の成長を実現するためには、市場トレンド、社会情勢など土台となる要素が揃っていなくてはなりません。

ご存じのように現代はVUCA時代と呼ばれており、市場トレンドはほぼ予測不可能です。また、突発的な戦争による素材の高騰など、社会情勢についても経営にプラスとは言えない状況が続いています。大企業であれば成長の原資となる「人・モノ・カネ・情報」を一括で確保し、備蓄しておくことが可能ですが、中小企業にはこうした体力がありません。そこで、今ある原資を可能な限り有効活用し、これまで以上のアウトプットを生み出す企業に生まれ変わる必要があるでしょう。

例えば、日本企業の多くが取り組み始めているDXも、もとをただせば「改革」「変化」を推奨する概念です。もう少し簡単に述べると「デジタル活用によって成長しやすい土台を作るための進化」とも言い換えられます。デジタイゼーション、デジタライゼーションを経て、業務プロセスのみならず従業員の意識も変えていき、最終的にはデジタル活用が当たり前になるような文化を醸成する。これがDXの趣旨であり、企業のデジタル進化を後押しする考え方であるのは明白です。

バーチャル経営が想定する「中小企業のデジタル進化論」

しかし、DXはそれ自体に膨大なコストと時間が必要であり、一朝一夕には達成できません。そこでもっと低コストに、即効性のある施策を盛り込んだ「中小企業のデジタル進化論」的な考え方が必要になってきます。バーチャル経営では、中小企業のデジタル進化を支える考え方として「バーチャルトランスフォーメーション」を提唱しています。

バーチャルトランスフォーメーションで仮想世界の力を取り込む

バーチャルトランスフォーメーションは、「現実世界の変革、仮想世界との融合」です。メタバースやAPIエコノミー、xR系(VR、AR、MR)の技術、AIなどが技術的な要素で、これらを活用しながら現実世界と仮想世界の双方で価値を生み出す企業へと進化します。従来型のAIは「認識」「識別」が主な役割でしたが、生成AIによる強力な創造性はバーチャルトランスフォーメーションの柱になると考えられます。

コロナ禍が終息しつつある今も、現実と仮想の融合は止まることがありません。すでに現実世界のみで価値を生み出し続けるのは不可能に近い状況だからです。

BtoCではすでに、製品キャンペーン動画を通じたライフスタイルの提案、3Dモデルによる商品の仕様確認など、さまざまな付加価値がオンライン上で提供されています。これらはBtoBにも波及し、BtoB ECやメタバースといった形で企業間の取引に組み込まれていくでしょう。中小企業もこの流れに乗り、積極的にオンライン(仮想・バーチャル)の力を取り込んでいくべきです。

デジタル進化のカギは生成AIの突破力

特に生成AIの活用は、自社が保有する情報資産をオンラインに乗せるための「発射台」のような役割を担うため、ぜひとも活用を視野に入れるべきです。生成AIの強みは「業務プロセスを一切変えず、アウトプットの速度だけを高められる」という点です。人間の思考と手作業を部分的に代替し、アウトプットを素早く「提案」してくれるため、人間は「選択と判断」に力を注ぐことができます。これまでもRPAなどが作業を代替していましたが、これには「明確な答え」が必要でした。つまり、顧客に対する「定型文の返信」は自動化できても、「気分を害さないように断りのメールを書いてくれ」といった命令は実現できなかったわけです。

一方、生成AIを活用すると、

  • 業務で使用するメールの文面を学習し、返信元メールを参照しながら文面を自動提案
  • セミナーで使用するスライドの半自動的な生成
  • エクセルシート内に記述してある関数を言語化し「何をしているか」を説明
  • エクセルシート内の数値を自動分析し、数式を自動生成
  • 複数のプログラミング言語によるコーディング作業の自動化
  • オンライン上に存在する動画の要約、翻訳の自動化

などが可能です。もっと簡単に言うと「読む・考える・書く(描く)」といった人間の最もベーシックな論理構築作業を代替してくれるので、既存の業務プロセスが飛躍的に効率化されます。

このように生成AIを組み込んで得られたアウトプットをどんどんオンラインに乗せていくことで、価値創出のタイムパフォーマンスを上げることが可能です。余剰コストは削減してもよいですし、ほかの事業に差し向けても良いでしょう。

生成AIは“破壊者“ではない

生成AIに関しては、すでにさまざまな業界から賛否両論が巻き起こっています。その中には、まるで生成AIが破壊者であるかのような内容も含まれていることがあります。以下は、生成AIに対して否定的な意見の一部です。

  • 米国の学校の一部でChatGPTの使用を禁止
  • 金融大手ゴールドマンサックスにおいて会社のデータをChatGPTに用いることに否定的な反応

このように生成AIを危険視する声がある一方で、IT業界や教育業界の関係者からは「次世代の標準スキルのひとつになる」といった声も挙がっています。

どちらの意見が「正」になるのかはわかりません。しかし、爆発的な普及が起こり、世に受け入れられ始めているという事実は変わらないわけです。

また、「急激に成長した仕組みに対する反応」という意味において、Youtubeの黎明期ととても良く似ている点に注目です。現在では動画プラットフォームのメジャープレイヤーとなったYoutubeも、登場してすぐは著作権がらみの訴訟を多数抱えるなど、危険視された存在でした。

強烈な反発の裏で同等レベルの支持が巻き起こり、両者が拮抗しつづけることによってさらに認知が拡大していく。その結果が今のYoutubeなのです。

Youtubeも安定して成長するまでは、多くの個人や企業が使い方を模索し、最適解を見つけ出していきました。したがって生成AIも、今は「使い方を探る段階」と言えるでしょう。
生成AIの性質から考えると、一部の職業やそこで発生する労働に関しては、淘汰が発生するかもしれません。しかし、経営に関して言えば、自動化や省人化に対する特効薬になりえる存在だと考えています。

まとめ

今回は中小企業の進化と生成AIについて紹介しました。繰り返しになりますが、中小企業に今後必要なのは成長ではなく進化の視点です。人・モノ・カネ・情報のいずれも調達が難しい今、現実的な進化への道としてデジタルツールの活用があります。その中でも生成AIは、瞬時に具体的な成果を示すものとして存在感を増す可能性が高いでしょう。次回は生成AIのより具体的な例と使い方について解説します。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次