前回は「付加価値は構造によって生み出されること」「付加価値の中身は潜在ニーズと影のニーズで占められること」を解説しました。
付加価値の大半を占める「未来の付加価値=影のニーズ」は、簡単に作り出すことができません。なぜならば、クライアントから「条件付きで」もたらされるからです。
しかし、この条件をクリアする術があります。それが今回紹介するコンサルティングセールスの技法です。今回は、付加価値を生み出す影のニーズ、そしてニーズを引き出すコンサルティングセールスについて解説します。
「未来の付加価値」は営業で生み出されない
まず、未来の付加価値をもたらす影のニーズについて、もう一度おさらいしておきましょう。影のニーズとは「クライアントは認知しているが、何らかの理由でこちらに知らされないニーズ」です。
例えば「社内秘であるがゆえに、外部の人間には言えないこと」「予算や稟議の都合から、現時点でははっきりと言えないこと」などが該当します。しかし、潜在ニーズとは違ってクライアントは認知していて、いつかは解決すべき(向き合うべき)だと考えている事柄でもあります。
こうした影のニーズを引き出す役割は、営業が担ってきました。しかし近年は、営業だけで影のニーズを引き出すことが難しくなっています。
年々受け入れられなくなる「営業」
ここ数年で、「プッシュ型営業」が徐々に衰退し、「プル型営業」が好まれるという話題を目にする機会が増えました。
しかしプル型営業は、プッシュ型営業のようにクライアントの懐に強引に飛び込んでいくという手法は採れません。そのため、影のニーズを獲得するまえに取引が成立してしまい、無難に顕在ニーズだけを満たして次のクライアントを探す…といったスタイルになりがちです。この点はプル型営業の弱点でもあります。
かといって、普通の営業もあまり聞き入れられないので、営業だけでは影のニーズ、つまり未来の付加価値の源泉を得ることは難しいのです。
情報価値を届けることがニーズを引き出す
影のニーズを引き出すための方法は、「クライアントの信頼を得ること」につきます。では信頼を得るためにはどうすれば良いのでしょうか。一般的には「ヒアリング」を重ね、業界知識を駆使して提案し、ニーズを満たし続ける……といった行動の積み重ねになるでしょう。
しかし、これだけでも弱いかもしれません。もっとストレートに影のニーズに近づく方法があります。それは、クライアントに対して「成功事例を届ける」ことです。
現代はインターネットでさまざまな情報が手に入ります。BtoB領域でもそれは例外ではなく、以前なら業界の人間のみが知っていたマニアックで専門性が高い知識も、ほんの数十分で得ることができます。知識を得るためのコストが非常に低くなっていて、知識自体の付加価値が下がっているのです。
こうした状況下では、単に情報(知識)を提供し続けても信頼は高まらないでしょう。では何を届けるべきなのか。それは実利、つまり「成功するとどうなるか」「どんな成功の方法があるか」という成功論とも言うべきストーリーです。端的に言えば「成功事例」ですね。
クライアントの信頼を得て、未来の付加価値につながる影のニーズを得るためには、成功事例を蓄積し、セオリーを知り、情報の付加価値を高めて届ける必要があるのです。
この方法は、従来の営業だけでは難しいかもしれません。もっと別の方法でクライアントに接近し、密接にかかわっていくスタイルが好ましいでしょう。
営業≠コンサルティングセールス!でニーズを探り当てる
ここからが今回の本題です。結論から述べると、「コンサルティングセールス」で影のニーズを掘り当てるというのが弊社の考えです。
弊社の考えるコンサルティングセールスは、営業とは違います。営業はもちろん必要な仕事ですが、高利益の知的創造企業を目指すうえでは、それほど重要な職種だと考えていません。なぜなら、従来の営業がやっている「クライアントのニーズを引き出し、付加価値につなげる」という行為は、コンサルティングセールスで賄えるからです。
コンサルティングセールスの目的は、「売ること」ではなく「クライアントが最適な意思決定を行えるようにサポートすること」です。もちろん、自社製品やサービスを購入していただければそれに越したことはありません。しかし、これまで何度も述べたように「影のニーズ」を引き出すためには信頼を勝ち取る必要があり、信頼は単に自社のものを売ることだけでは得られないのです。
影のニーズを引き出すためには、「この人になら話しても大丈夫かな」と感じてもらえるだけの信頼が必要です。この信頼を得るために、プロービングやサポーティングというテクニックを用います。
プロービングとサポーティングで影のニーズを得る
コンサルティングセールスで用いられる2つのテクニック、プロービングとサポーティングについて簡単に紹介しますね。
プロービング
プロービングは、簡単に言えば「精密なヒアリング」です。クライアントの顕在ニーズを完全に、ズレなく理解していることが前提です。また、ニーズをもとに「機能性や価格」「理由や背景」にまで踏み込んでいくことがプロービングの特徴です。
クライアントの顕在ニーズを単に知るだけなら誰にでもできますが、「機能」「価格」「規模」「背景」などを精密に理解するためには、市場の知識や商品知識が必要です。この点は従来の営業と似ていますね。
知識が豊富であり、成功事例を沢山知っていると、クライアントは「もっと聞かせてほしい」という態度を示します。この態度が出てくるとニーズの探索がやりやすくなり、影のニーズに近づけるのです。
サポーティング
もうひとつの重要なテクニックが「サポーティング」です。サポーティングとは「価値情報の提供」です。端的に言うと「利点」「実利」をしっかり伝えるテクニックですね。
一般的に商品説明をする際、多くの人は「特徴」を語ってしまいがちです。メリットを述べているつもりで特徴紹介になっている資料を見たことがありませんか?特徴紹介は、主体が「製品やサービス自体、もしくは自社」になっています。一方で、利点や実利の紹介は、主体が「クライアント」です。
製品やサービス自体に「何が備わっているか」ではなくて、クライアントがどう変化するかを語るのです。これがサポーティングですね。例えば「何時間の無駄が削減できるか」「仕入れが早くなるか」「在庫調整がどれくらい便利になるか」などを定量的に示すことができれば、サポーティングは成立するでしょう。
もうお気づきだと思いますが、サポーティングを成立させるためには、商品理解とクライアントの業務理解が欠かせません。なので、前述のプロービングをしっかりと行ったうえでなければ成立しえないと言えます。
コンサルティングセールスが成立すると「競合」がいなくなる
このようにコンサルティングセールスでは、豊富な商品知識や成功事例をベースにしながら、徹底的にヒアリングを行います。プロービングで影のニーズに近づき、サポーティングで「実利」をしっかり描くことで、クライアントの信頼を勝ち取るわけです。
ここでコンサルティングセールスが持つ最大のメリットが発揮されます。それは「競合がいなくなる」ということ。
どんな製品・サービスでも、自社だけを見て判断するクライアントはいません。BtoBのように金額が大きい領域では特にそうです。必ず相見積もりの場に引き出されます。
しかしコンサルティングセールスが成立すると、「信頼」という付加価値が既に発生しているため、価格や機能性で競合する他社よりも一歩抜き出ることができるわけです。
この状況を作り出すことがコンサルティングセールスの醍醐味であり、付加価値創出への第一歩なのです。
バーチャル経営でも重視するコンサルティングセールス
コンサルティングセールスが付加価値創出につながるという考えは、バーチャル経営でも取り入れています。バーチャル経営は「会社の規模は変えずに売り上げを伸ばす」というコンセプトが根底にあります。
言い換えると「最小の人員で付加価値を最大化する」ことが目的であり、弊社ではそのためのノウハウを蓄積してきたつもりです。もちろん、製品知識や成功事例はしっかりと保有しています。特にERP・CRM・MA・RPAを活用したニーズ探索には実績があります。この点については、過去の事例を参照いただけると幸いです。
こうした実績を積み上げる中で、「対話と信頼関係の構築」+「知識とノウハウをミックスさせて実利を伝えること」が、売上に貢献しやすいことを実感しています。
実際にコンサルティングセールスに取り組むと、問題や課題は多種多様であるものの「実利」の部分は意外とシンプルなことに気が付きますね。つまり、入り口は多様だがゴールは数パターンに集約されるのです。
大半のクライアントは「雑務とタスクからの解放」「厳しく生産性が低い労働からの解放」が影のニーズになっています。もちろん、実際にはもう少しディテールが複雑ですが、概要としてはほぼ同じです。この場合の付加価値(実利)としては、
- 人の負担を減らし、属人化をなくす
- 生産性をあげて、給料をあげて、退職者を減らす
- 業界平均より良いオファーを通して、社員を増やしていく
といった提案が可能です。こうした付加価値を提案すると、クライアントとの距離が一気に縮まり、導入提案がやりやすくなると感じています。
まとめ
ここでは、前回に引き続き「付加価値」を生み出す仕組みとしてのコンサルティングセールスを紹介しました。私たちが一般的に認識している「付加価値」の多くは、競争に巻き込まれてコモディティ化しがちです。しかし、これを回避する方法として”ニーズ探索型のコンサルティングセールス”があると考えています。コンスタントに付加価値を生み出し、提供できる仕組みが整えば、企業は肥大化せずに成長できるはずです。