前回までは、生成AIの概要や具体的なツールについて解説してきました。生成AIは高付加価値経営の実行と生存力の強化のために、必須と言って良いツールかもしれません。しかし、AIだけで全てのタスクを実行することはできません。そこで、ヒト+AIの混合チームに目を向けてみましょう。
「ヒト」を見つけ、育てることの難しさ
経営やマネジメントに関わったことがある方であれば、人材確保・育成の難しさは理解していると思います。ITツールが経営に欠かせない時代になった現代も、企業の最重要資産は「ヒト」です。ヒトを見つけ、人財に昇華できるかで企業の成長力・生存力は大きく変化します。特にヒトの絶対数が少ない中小企業は、この傾向が強いです。
しかし、ヒトの確保・育成に失敗してしまうと、無視できないほどのコストが積みあがってしまいます。さらに、確保に成功したとしてもヒトが「財」になるかは運に左右される点も否定できません。採用したヒトが活躍できる場があれば良いのですが、急激に変化する市場の流れによって、その「場」自体が消滅してしまうこともあるからです。
一方、人財に恵まれた企業が生み出す組織力や集合知は、企業をとても強くします。ヒトの確保と育成が難しいのであれば、別の方法を考えなくてはいけません。最近、その方法のひとつに、「生成AIの活用」があるのでは?と考えるようになりました。例えば「ヒトとAIの混合チームによって、組織力と集合知を手に入れる」という方法です。これならば既存人材とAIの組み合わせですから、リスクは小さくなるでしょう。
ヒト+無人機によって作戦遂行能力を高める戦闘機隊
「そんなことが可能なのか?」と思われるかもしれませんが、すでに軍事の分野ではヒトとAIがチームを組み始めています。
例えば、米軍が創設した「AIドローン戦闘機隊」や、オーストラリア空軍が進めている「ロイヤルウイングマン計画」など、AIを戦闘機に搭載して半自律的な作戦行動を任せる構想が現実のものになってきています。
どちらもまだ試験段階ですが、AIを搭載したドローン戦闘機の飛行はすでに成功しており、これまで作戦行動のネックになっていた「パイロットの人命保護」や「作戦機の増設」などは解消されるのかもしれません。
また、AIドローンを活用した戦闘機隊については、有人機1につき無人AI機が3機という基本フォーメーションになる可能性があるとのこと。つまり、ヒトとAIの混合チームですね。チームの支配、統制と作戦のトリガーは有人機が行い、実際の作戦行動はAI機が担うといったチームになる可能性が高そうです。
軍事領域は、極限状況下で組織力やチーム力が試されるため、そこで得られたノウハウが経営の分野に応用されることがあります。したがって、「ヒト+AI」のチーム編成は、今後の経営においてトレンドになっていくのかもしれません。
特に生成AIは、認識・識別・分析だけに特化していた従来型のAIとは異なり、ある種の実行力を持つものばかりです。独創的なタスクの実行、創造的なアウトプットの生成が可能なため、人間のアウトプットと比較し、融合させながら新しい付加価値を生み出す可能性が高いのです。
ヒト+AIチームで解決できる課題
軍事領域でのAI戦闘機の使われ方から考えると、
- 人材不足
- 育成コストの削減
- 生産性の向上(優れた人材の行動を拡張し、何倍もの成果を得る)
- 労働時間に関する法的な制限(AIが稼働し続ける限り法の規制対象外)
などが挙げられます。特に「優れた人材の行動を拡張できること」には注目すべきかもしれません。これまでも優秀な人材を現場に置くか、育成(マネジメント)にまわすかという課題がありました。優秀な人材は数が限られています。そして増やしにくいものです。この限られたリソースにどれだけレバレッジをかけられるか、という点においてAIとの混合チームは強みを持っていると感じます。
ランチェスター戦略第1法則「弱者の戦略」をAIで強化
経営理論の古典ともいえる「ランチェスター戦略」に当てはめても、ヒト+AIの混合チームは理にかなっています。なぜなら、弱者の戦略(第1法則)の理論を体現できるからです。
ここでランチェスター戦略について簡単におさらいしておきます。ランチェスター戦略は、英国の自動車・航空工学のエンジニアだった「フレデリック・ランチェスター」が研究課程で生み出した数理モデル「ランチェスター法則」を土台にしています。
ランチェスター法則には2つのルールがあり、
- 第1法則…戦闘力 = 兵力数 × 武器効率
- 第2法則…戦闘力 = 兵力数の二乗 × 武器効率
という式で表され、第1法則を用いた戦略が「弱者の戦略」です。弱者の戦略は企業経営のお手本として紹介されることが多いようですね。第1法則は武器効率を高めることで強者に対抗しやすいと考えられています。
第1法則では、広域戦を避け、局地戦で武器効率を極限まで高めていくという戦略が採られます。「ヒト=兵力」「生成AI=武器効率」と考えれば、生成AIをうまく活用することで兵力を増やさずに戦闘力を高め、局地戦で勝つ確率を上げていけるわけです。
バーチャルチーム+生成AIで高めるチーム力
局地戦の勝利とは、言い換えれば「ニッチの獲得」です。勝つ可能性の高い局地戦を増やすことでニッチを複数獲得でき、生存能力が高まっていくでしょう。ニッチと生存戦略については、こちらの記事でも紹介しています。
さらに生成AIをバーチャルチームに加えることで、チームが持つ仕事の能力を高めることができるかもしれません。バーチャルチームとはバーチャル経営が推奨する組織体制で、「チーム型組織の特性を備えつつ、アジャイルの要素も加えた有機的な小組織」を指します。
バーチャルチームは、バーチャル社員(時間と場所に縛られない本質的な仕事能力を持った人材)で構成されます。このバーチャル社員を生成AIにサポートさせ、本人が持つ能力を拡張しつつ、チームとしても力を発揮できないかと思案中です。
バーチャル社員×生成AIによるチームのメリットは、
- 人的コストの調整が容易
- 失敗による損失が少ない
- ヒトの判断を生成AIが増幅するためスピーディーに成果を得られる
など多岐にわたると考えられます。人件費の増大を最低限におさえつつ、さまざまな事業に挑戦し、ニッチの獲得を目指すためには最適な体制ではないでしょうか。
まとめ
今回はAIの軍事利用の話題と、ヒトと生成AIの混合チームについての構想を紹介しました。生成AIは文章や絵、音楽といったクリエイティブな分野だけではなく、ヒトの能力を拡大・増幅する存在として捉えることもできます。そう遠くない未来には、有人戦闘機と無人戦闘機のように、本質的な能力を持った人材+AIでの経営が可能になるかもしれませんね。