基幹システムの契約更新の案内が届き、請求額を見て手が止まる。「基幹システムの費用が、事業の規模に対して重い」という声を、経営者から聞くことが増えています。
ただ、重さの原因が分かれば、打てる手は見えてきます。乗り換えずに下がることもあります。規模に合う製品へ移れば、費用の発生のしかた自体が変わります。
ERPのライセンス費用の見直しは、費用をライセンス・保守・運用・改修に分け、どこが重いかを切り分けることから始まります。選択肢は、SAP、NetSuite、Odoo、AIスクラッチ開発(開発費・保守費は別途かかる)の4つです。製品を選ぶのは最後です。
金額を並べて安い・高いを比べることはしません。見るべきは課金の構造です。たとえばOdooの有償プランは、ユーザー数で料金が決まり、機能を足してもライセンスの考え方は変わりません(4つの選択肢と課金構造)。
費用の構造が分かると、たとえば次のことを判断できます。
- 製品はそのままで、契約数とモジュールの整理で下げられるか
- 規模に合う製品へ移ったとき、何が変わり、何を失うか
- 無料版やスクラッチ開発で、費用がどこに置き換わるか
- 移行の一時費用を、減る年間費用で回収できるか
ただし、連結決算・多通貨・監査対応が欠かせない会社では、いまの製品を続ける判断も十分にあり得ます。
では、見直しはどの順序で進めればよいのか。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットの手順は、費用の見直しで確かめる5つの順番にまとめました。良い点と注意点は、構造から見直すことの良い点と、気をつけることに並べています。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。ライセンス費用の見直しでは、この2つの課金構造の違いを押さえておく必要があります。
まずERPの費用の「何が重いのか」を切り分ける
見直しの前に、費用の中身を分解する作業が要ります。基幹システムの費用を形づくるのは、次の要素です。
| 費用の種類 | 内容 |
|---|---|
| ライセンス費用 | ソフトウェアを使う権利にかかる費用 |
| 保守費用 | サポートや更新に対する費用 |
| 運用費用 | 日々の利用を支える人件費・委託費 |
| 改修費用 | 業務変更に伴う設定変更や開発 |
どこが重いかで、打つべき手はまったく変わります。
ライセンスそのものが重いのか。使っていない機能に払い続けているのか。改修のたびに費用が出る構造なのか。ここを切り分けずに製品を替えると、同じ問題が繰り返されます。
ライセンスは規模の見直し、保守は契約の見直し、運用は定着支援で改善できます。改修費用だけは原因が設計にあり、製品を替えても解決しません。
ERPの費用が重くなる、よくある3つのパターン
規模に対して製品が大きすぎる
導入時は成長を見込んで、上位の製品を選んだ。しかし、想定した規模に至っていない。あるいは事業構造が変わり、当時ほどの機能が要らなくなった。
この場合は、規模に合った選択肢への見直しが検討対象になります。
使っていない機能に払っている
全社にライセンスを配ったが、実際に使うのは一部の部署だけ。契約したモジュール(機能のまとまり)のうち、稼働しているのは半分以下。
この場合は、製品を替える前に、契約内容の見直しで改善する余地があります。NetSuiteを使っている場合のライセンスの組み方は、NetSuiteのタスク専用ライセンスとはで取り上げました。
改修のたびに費用がかさむ
独自の作り込みが多く、業務が変わるたびに開発費用が出る。バージョンアップのたびに、確認と修正の費用もかかる。
この場合、原因はライセンスではなく、設計にあります。同じ設計思想で作れば、製品を替えても同じことが起きます。
自社はどのパターンか:会議で使うチェックリスト
次の項目を、経理・情報システム担当と一緒に確かめてみてください。
- □ ライセンスの契約数と、直近3か月に実際にログインした人数を比べたことがある
- □ 契約しているモジュールのうち、毎月使っているものを挙げられる
- □ 直近の改修やバージョンアップで、何にいくら払ったかを説明できる
- □ いまの製品でなければ回らない業務(連結決算・多通貨など)を特定している
- □ 3〜5年後の拠点数・社員数・事業の姿を、社内で共有している
チェックが付かない項目が、まず調べるべき場所です。付かないまま製品の比較に進むと、判断の前提がぶれます。
ERPの4つの選択肢と、その課金構造
ベンチャーネットは、基幹システムを4つの選択肢で捉えています。費用の発生の仕方は、選択肢ごとに異なります。
| 選択肢 | 課金の構造 |
|---|---|
| SAP | 大規模向け。ライセンスと保守料の体系 |
| NetSuite | ユーザー数とモジュール構成に応じたクラウド契約 |
| Odoo | ユーザー単位のサブスクリプション。無料版という選択肢もある |
| AIスクラッチ開発 | 継続ライセンスではなく、自社資産としての開発。開発費・保守費は別途かかる |
上位ERPから下の段へ移る場合
規模に対して製品が大きすぎる場合、下の段への移行が検討対象になります。
このとき変わるのは、金額の大小だけではありません。費用の発生のしかた自体が変わります。
たとえばOdooの有償プランは、アプリの数ではなくユーザー数で料金が決まります。機能を足しても、ライセンスの考え方は変わりません。詳しくはOdooの料金体系の記事で解説しています。
一方で、上位のERPが持つ機能(連結管理、高度な統制など)は失われます。それが自社に必要かどうかが、判断の分かれ目です。
無料版という選択肢
Odooには、無料のCommunity版があります。ライセンス費用はかかりません。
ただし、費用が消えるわけではありません。費用が「ライセンス」から「人と時間」に置き換わる構造です。
- サーバーの費用
- 構築・保守の工数
- バージョンアップ対応の工数
- 不具合対応の時間
社内に技術者がいて余力があれば、成立します。いなければ、外部に依頼する費用が発生します。
4つを並べる軸は、対象とする規模と要件の複雑さです。小規模・固有業務ならAIスクラッチ開発、中小〜中堅企業ならOdoo、中堅・成長企業ならNetSuite、大企業・グローバルならSAP。優劣ではなく、どれが自社に合うかで選びます。
スクラッチ開発という選択肢
業務が固有すぎてパッケージに乗らない場合、必要な機能だけを開発する選択肢があります。継続的なライセンス費用ではなく、自社の資産として持つ形です。
ただし、ここは誤解が起きやすい部分です。ライセンスがない=安い、ではありません。開発費用が発生し、その後の保守費用も必要です。作った後に誰が面倒を見るのかまで含めて、費用を考える必要があります。作った後の維持の負担は、増えたツールを「動かし続ける」コストの話で扱っています。
状況別に、最初に検討すること
| いまの状況 | 最初に検討すること |
|---|---|
| 契約数と実際の利用者数に開きがある | 製品はそのままで、契約数とモジュールの整理 |
| 連結・多通貨・高度な統制は使っていない | 規模に合う製品(NetSuite・Odooなど)への見直し |
| 連結・多通貨・監査対応が欠かせない | いまの製品か、同等の要件を満たす製品での比較 |
| 社内に技術者がいて、保守を担える | Community版を含めたOdooの検討 |
| 業務が固有で、どのパッケージにも乗らない | 開発費・保守費まで含めたAIスクラッチ開発の検討 |
ベンチャーネットがERP費用の見直しで確かめる5つの順番
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。AIスクラッチ開発はライセンスが不要な代わりに、開発費・保守費が別途かかります。どの選択肢にも寄せる理由がないため、次の順番で確かめます。
ステップ1:費用の内訳と使われ方を出す
ライセンス・保守・運用・改修の内訳を出します。あわせて、契約数のうち実際に使っているのは何人分か、どのモジュールが稼働しているかを確認します。
意外に、この段階で改善の余地が見つかることがあります。そうであれば、乗り換えの話はいったん置きます。
ステップ2:譲れない要件を洗い出す
いまの製品で「これがあるから助かっている」機能を挙げます。
連結決算、多通貨対応、監査対応。これらが必要なら、下の段に移ると業務が回らなくなります。その場合は、いまの製品を続ける判断も十分にあり得ます。
ステップ3:標準機能に業務を合わせられるかを見る
改修費が重い会社では、作り込みの一つひとつが本当に必要かを確かめます。Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で進められるかどうかで、移行後の費用の性質が変わるためです。
ステップ4:移行の一時費用と、減る年間費用を並べる
乗り換えには、次の負担がかかります。
- データ移行
- 業務の再設計
- 現場の再教育
- 一時的な業務停止のリスク
削減できる年間費用と、移行にかかる一時費用を並べて比べます。数年かけて回収できるかどうかが、判断の基準です。
ステップ5:3〜5年後から逆算する
最後に、将来から見直します。
いま小さくても成長が見込まれるなら、下の段に移ってから、また上に戻ることになります。二度の乗り換えは、二度の負担です。判断の基準は、いまの規模ではなく3〜5年後の姿です。
どの段階でも、合わない選択肢は合わないとお伝えします。
ライセンス費用の見直しで失敗しないための注意点
金額だけで判断しない
ライセンス費用が下がっても、運用の負担が増えれば総額は変わりません。
比べるなら、「自社に必要な業務範囲を満たすのに、総額でいくらかかるか」を同じ条件で並べる必要があります。ライセンス以外にかかる費用の洗い出し方は、NetSuiteのライセンスは高い?──「見えないコスト」と経営判断でNetSuiteを例に整理しています。
原因が設計にある場合、製品を替えても解決しない
改修のたびに費用がかさむ状態は、多くの場合、作り込みすぎが原因です。
同じ思想で新しい製品に作り替えれば、数年後に同じ問題が起きます。乗り換えは、業務と設計を見直す機会にすることが大切です。
「安くする」を目的にしない
費用の見直しは、手段です。目的は、事業に合った基盤を持つことです。
安くすることだけを目的にすると、必要な機能まで削ってしまい、業務が回らなくなることがあります。
構造から見直すことの良い点と、気をつけること
費用を分解し、課金の構造から選ぶ進め方には、得られることと、先に覚悟しておきたい負担があります。
良い点は、次の5つです。
- 乗り換えずに下がることがある:使われていないライセンスの整理、契約モジュールの見直し、契約条件の交渉で改善する場合がある
- 同じ問題を繰り返しにくい:原因が設計にあると分かれば、製品を替えても解決しない改修費用に手を打てる
- 費用の増え方が変わる:たとえばOdooの有償プランは、ユーザー数で料金が決まり、機能を足しても考え方は変わらない
- 規模と要件に合う製品を選べる:4つの選択肢を、自社の規模と要件に合うかで比べられる
- 二度の乗り換えを避けられる:3〜5年後の姿から逆算して決める
気をつけることは、次の4つです。
- 移行には一時費用がかかる:データ移行・業務の再設計・現場の再教育に加え、一時的な業務停止のリスクもある
- 上位ERPの機能は失われる:連結管理や高度な統制が自社に必要かを、先に確かめる
- 無料版でも費用は消えない:Community版は、費用が「ライセンス」から「人と時間」に置き換わる
- スクラッチ開発にも費用がかかる:ライセンスがない代わりに、開発費と保守費が別途かかる
両方を1枚の図に並べました。
負担の多くは、移る前に数えておけば判断材料に変わります。一時費用と年間費用の並べ方は、費用の見直しで確かめる5つの順番のステップ4で説明しています。
よくある質問
どれくらい費用が下がりますか?
下がり幅は、現在の契約内容、必要な業務範囲、ユーザー数で大きく変わります。
まずは、費用の内訳と使われ方を出すところから始めてください。そこが分からないままでは、どの会社も正確な見積もりは出せません。
乗り換えずに費用を下げる方法はありますか?
あります。
使われていないライセンスの整理、契約モジュールの見直し、契約条件の交渉などです。製品を替えずにできることが、残っている場合があります。乗り換えは負担が大きいため、まずこちらを確認するのが順序です。
無料のERPに移せば、費用はゼロになりますか?
なりません。
ライセンス費用は不要になりますが、サーバー費用と構築・運用の工数が発生します。社内に担える人がいなければ、外部への委託費がかかります。費用の性質が変わるだけで、消えるわけではありません。
スクラッチ開発なら、ずっと費用がかからないのでは?
そうではありません。
初期の開発費用があり、その後も保守と改修の費用が必要です。継続ライセンスがない代わりに、システムを維持する責任を自社が持つことになります。この点を見落とすと、数年後に苦しくなります。
ERPを乗り換えるとき、何に費用がかかりますか?
データ移行と業務の再設計と現場の再教育です。
これに、一時的な業務停止のリスクも加わります。削減できる年間費用と、移行にかかる一時費用を並べて比べてください。数年かけて回収できるかどうかが、判断の基準です(費用の見直しで確かめる5つの順番)。
まとめ:構造を見てから、選択肢を選ぶ
- 「重い」の原因を、ライセンス・保守・運用・改修に分解する
- 使われていないライセンスの整理で改善する場合もある
- 選択肢は4つ。それぞれ課金の構造が違う
- 無料版もスクラッチ開発も、費用が消えるわけではなく性質が変わる
- 移行の一時費用と、削減できる年間費用を並べて判断する
- 判断の基準は、いまの規模ではなく3〜5年後の姿
費用の見直しは、単なるコスト削減ではありません。何を自社で持ち、何を外部に任せるのか。その線引きを決める、経営の判断です。
見直した結果、「いまの製品を続けるのが最善」となれば、ベンチャーネットはそうお伝えします。
1年後、次の契約更新の案内が届いたとき、利用者数と稼働モジュールの一覧がすでに手元にある。更新する・減らす・移るのどれにするかを、期限に追われずに決められている。そんな状態を目指してください。
もう少し詳しく知りたい方へ
「うちの費用は、構造として妥当だろうか」と感じたら、内訳の整理からご一緒します。
関連記事
