レガシーシステム刷新とERPという選択肢|「2025年の崖」後の4つの道と進め方

基幹システムを作った担当者が、あと2年で定年を迎える。保守会社からは、サーバーの保守を終えるという通知が届いた。

それでもシステムは、今日も普通に動いている。だから経営会議では、刷新の話がいつも「来期に検討」で終わる。

数年前、この状況を指す言葉として「2025年の崖」が広く使われました。経済産業省が2018年に公表したレポートで示された、基幹システムの老朽化と技術者不足への警鐘です。その年は過ぎ、多くのシステムはいまも動いています。

ただ、課題が解決したわけではありません。直せる人、保守の支え、ほかの仕組みとのつながりが少しずつ失われ、選べる道が減っていきます(「崖」の期限が過ぎたことの意味)。

裏を返せば、動いているうちなら道を選べます。刷新先には、作り直す以外に、ERPのような既製のパッケージに乗せ替える道もあります。ERPとは、販売・在庫・会計などの基幹業務を一つにまとめて扱う仕組みです。

動いているうちに着手すると、たとえば次のことができます。

  • 製品を比べ、実際のデータで検証してから決める
  • 販売から、在庫からと、業務を止めずに段階的に移す
  • 使われていない機能を捨て、新しいシステムを肥大化させない
  • 残りを移す順番と時期を、経営会議で決めておく

ただし、すべてを既製品に寄せられるとは限りません。固有の業務が残れば、必要な機能だけをAIスクラッチ開発で作る道もあります(開発費・保守費は別途)。

残る問いは、何から手をつけるかです。順番はベンチャーネットが刷新の最初に確かめることにまとめました。

CommunityとEnterpriseの区別について

Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。刷新先の選択肢としてOdooを検討する場合も、どちらを土台にするかで初期の機能範囲が変わります。

目次

「2025年の崖」の期限が過ぎたことの意味

期限が過ぎたあとに起きている変化 指摘された期限が過ぎても老朽化したシステムは動き続けている。一方で、扱える人が減る、支えが終わる、つながらないという3つの課題は、時間とともに悪化していく。 期限は過ぎた。課題は進んでいる システムは、いまも動いている 突然止まったわけではない 扱える人が減る 担当者の退職・高齢化 後任が育たない 支えが終わる 機器・OSの保守終了 部品が手に入らない つながらない 新しい仕組みと接続できない データが取り出せない 3つとも、時間とともに 悪化する性質を持つ
期限が過ぎたあとに起きている変化

崖は「落ちる」ものではなかった

期限を過ぎても、多くのシステムは動いています。ある日突然すべてが止まる、という形では起きませんでした。

そのため「大げさだった」と受け取る向きもあります。しかし、実際に起きているのは別のことです。

老朽化は、ある日急に落ちる形では進みません。「じわじわと選択肢が減っていく」形で進みます。

  • 直せる人がいなくなる
  • 機器や保守の提供が終わる
  • 新しい仕組みとつながらない

この3つは、いずれも時間とともに悪化します。待っていても良くはなりません。

レガシーシステムの本当の危険は「止まること」ではない

多くの経営者が心配するのは「システムが止まったらどうしよう」です。けれども実務で困るのは、止まる前から起きている次の4つです。

(1) 変えられなくなる

新しい商品を扱いたい。取引先が新しい形式を求めてきた。制度が変わった。

そのたびに「システムが対応できません」と言われる。これが続くと、システムの都合で事業の判断が縛られます。主従が逆転した状態です。

(2) 中身が分からなくなる

作った人がいない。仕様書もない。動いているのに、なぜそう動くのかを誰も説明できない。

この状態では、修正そのものがリスクになります。触れないので、さらに古くなる。

(3) 数字が出てこない

集計は、決まった帳票の形でしか出てこない。それ以外を見たいときは、担当者が手作業で加工する。

経営判断のスピードが、システムの制約で決まってしまいます。

(4) 人を採用できない

古い技術しか使っていない環境には、若い技術者が集まりにくくなります。採用の面でも不利です。

自社の状態を確かめるチェックリスト

経営会議で、次の項目を一つずつ確認してみてください。

  • □ システムの中身を説明できる人が、社内に1〜2人しかいない
  • □ その人が退職・異動したときの引き継ぎ先が決まっていない
  • □ 保守会社や機器メーカーから、保守終了の案内が届いている
  • □ 取引先や制度の変化に、システムの改修が追いつかないことがある
  • □ 経営会議の数字を、毎月誰かが手作業で集計している
  • □ 必要なデータを、Excelなどの形で自由に取り出せない

2つ以上当てはまるなら、「まだ動いている」うちに検討を始める時期です。

刷新は、動いているうちに動く

着手の時期で、選べる道の広さが変わります。

余裕があるときにしか、良い選択はできない

止まってから動くと、選択の余地がなくなります。

比較する時間も、検証する時間も、段階的に移す時間もありません。目の前の火を消すために、条件の悪い決定をすることになります。

動いているうちに着手する価値は、「選べること」そのものにあります。「まだ動いているから」は、着手しない理由になりません。動いているからこそ、いま着手できるのです。

着手する時期で選択肢の広さが変わる 動いているうちに着手すれば、比較・実データでの検証・段階的な移行ができ、業務を止めずに進められる。止まってから着手すると、選ぶ時間がなく、検証せずに一斉に切り替えることになり、業務を止めながら進むことになる。 着手の時期で、選べる道が変わる 動いているうちに着手 ・複数の選択肢を比較できる ・実データで検証できる ・段階的に移行できる 業務を止めずに進められる 止まってから着手 ・選ぶ時間がない ・検証せずに決めることになる ・一斉に切り替えるしかない 業務を止めながら進むことになる 余裕があるうちにしか、良い選択はできない
着手する時期で選択肢の広さが変わる

レガシーシステム刷新の4つの選択肢

老朽化したシステムをどうするか。選択肢は大きく4つあります。

選択肢内容向いている状況
そのまま使い続ける現状維持事業の変化が少なく、扱える人が確保できている
作り直す同じ機能を新しい技術で業務が本当に固有で、既製品に乗らない
パッケージに乗せ替えるERPなど既製の型へ業務の多くが一般的な型に収まる
部分的に置き換える段階的に移す一度に全部は無理だが、動き始めたい

なぜERPが選択肢になるのか

ERPとは、販売・在庫・会計などの基幹業務を一つにまとめて扱う仕組みです。

老朽化したシステムの多くは、その会社のためだけに作られたものです。作った当時は、それが最適でした。既製品では業務に合わなかったからです。

しかし、状況は変わりました。

  • 既製のERPが扱える業務の幅が広がった
  • クラウドで始められるようになった
  • 中小企業でも手が届く選択肢が増えた

「昔は作るしかなかった業務」が、いまは既製品に乗ることがあります。考え方は パッケージERPかスクラッチ開発か にまとめました。

すべてを既製品に寄せられるとは限らない

業務が本当に固有で、既製品に乗らない部分は残ります。

その場合の選択肢が、必要な機能だけをAIスクラッチ開発で自社資産として作る方法です。ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。

ERPに乗せ替える刷新の良い点と、気をつけること

作り直すのではなく、既製のERPに乗せ替える。その道で得られることと、先に覚悟しておきたい負担を並べます。

良い点は、次の5つです。

  • 既製の型に乗せられる:昔は作るしかなかった業務が、いまは既製品に乗ることがある
  • クラウドで始められる:中小企業でも手が届く選択肢が増えた
  • 業務単位で移せる:販売から、在庫からと、順番と時期を決めて段階的に移す
  • 肥大化を持ち込まない:使われていない機能を捨てる判断を、経営者と一緒に行う
  • 合わない部分は別の道を選べる:固有の業務は、AIスクラッチ開発で必要な機能だけ作る

気をつけることは、次の4つです。

  • すべては寄せられない:業務が本当に固有で、既製品に乗らない部分は残る
  • 標準に合わせる見極めが要る:Fit to Standardがどこまで通用するかで、費用と期間が大きく変わる
  • データ移行がいちばんの関門:重複した取引先や途中で変わったコード体系を、移す前に整える
  • 総額で見る:ライセンス費用だけでなく、データ移行・業務の見直し・教育を含める

両方を1枚の図に並べました。

ERPに乗せ替える刷新の良い点と、気をつけること 良い点は、既製の型に乗せられる、クラウドで始められる、業務単位で移せる、肥大化を持ち込まない、合わない部分は別の道を選べること。気をつけることは、すべては寄せられない、標準に合わせる見極めが要る、データ移行がいちばんの関門、総額で見ること。 ERPへの刷新の良い点と注意点 良い点 既製の型に乗せられる 作るしかなかった業務が乗ることも クラウドで始められる 中小企業でも手が届く選択肢 業務単位で移せる 販売から、在庫からと段階的に 肥大化を持ち込まない 使われていない機能を捨てる 合わない部分は別の道を選べる 固有の業務はAIスクラッチ開発で 気をつけること すべては寄せられない 既製品に乗らない部分は残る 標準に合わせる見極めが要る 費用と期間を大きく左右する データ移行がいちばんの関門 重複やコード体系の変化を整える 総額で見る 移行・業務の見直し・教育を含める AIスクラッチ開発は開発費・保守費が別途かかる
ERPに乗せ替える刷新の良い点と、気をつけること

注意点の避け方は、刷新の最初に確かめることとデータをどう移すかにまとめています。

ベンチャーネットが刷新の最初に確かめること

刷新は、いきなり製品を選ぶところから始めません。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、次の順番で確かめていきます。

ステップ1:いまのシステムに何が乗っているかを棚卸しする

何が動いているのか、誰も正確に把握していない。そんな会社は珍しくありません。最初に、次の4点を一覧にします。

  • どの業務が、どのシステムで動いているか
  • データはどこにあり、取り出せる形か
  • 誰が保守しているか
  • 止まったら、どの業務がどれだけ困るか

この一覧そのものに価値があります。刷新するかどうかに関わらず、経営の資産になるからです。

ステップ2:残すものと捨てるものを決める

古いシステムには、もう使われていない機能が必ずあります。

「念のため残す」を繰り返すと、新しいシステムも同じように肥大化します。捨てる判断を経営者と一緒に行うのは、この段階です。

ステップ3:3〜5年後の姿から、刷新先を逆算する

いまの業務を写すのではなく、3〜5年後の事業規模や拠点数から考えます。そのうえで、標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」がどこまで通用するかを確かめます。

費用と期間を大きく左右するのは、この見極めです。考え方は OdooとFit to Standard と Odoo導入の要件定義の進め方 にまとめています。

  • 中小〜中堅規模で、業務の多くが標準に乗る → Odooが候補
  • 規模の拡大や多拠点・海外展開を見込む → NetSuiteも比較
  • 固有の業務が中心で、パッケージに乗らない → AIスクラッチ開発も比較(開発費・保守費は別途)

Odooが合わないと判断したときは、そのままお伝えします。

規模が大きく、多拠点や海外展開まで視野に入る場合の刷新の進め方は、基幹システム刷新をクラウドERPで進める方法(NetSuiteの教科書)で解説しました。

ステップ4:業務単位で段階的に移す計画を立てる

一斉切り替えは、できる限り避けるのが原則です。業務を止めるリスクが大きく、問題が起きたときの切り分けも難しくなるからです。

販売から、在庫から、というように業務単位で順番と時期を決めます。進め方は Odoo導入の進め方と期間 をご覧ください。

【最大の関門】刷新でデータをどう移すか

刷新でもっとも時間がかかるのが、データの移し替えです。古いシステムのデータには、次のような問題が潜んでいます。

  • 同じ取引先が複数の名前で登録されている
  • コード体系が途中で変わっている
  • 使われていない項目が大量にある
  • そもそもデータを取り出せない形式になっている

最後の項目は深刻です。古いシステムから、データを標準的な形式で取り出せないことがあります。

移すデータを絞る

現実的なのは、「マスタ(取引先、商品など)だけを移し、過去の取引明細は旧システムに残す」進め方です。

すべてを移そうとすると、時間も費用も膨らみます。「過去はどこまで必要か」を先に決めてください。

詳しくは Odooへのデータ移行の進め方 をご覧ください。製品を問わない棚卸し・クレンジング・並行稼働の段取りは、基幹システムのデータ移行ガイド(NetSuiteの教科書)にまとめています。

よくある質問

Q1. 「2025年の崖」は結局どうなったのですか?

ある日一斉に何かが起きる、という形では表に出ませんでした。

ただし、老朽化の課題そのものは進んでいます。扱える技術者の減少、機器や保守の終了、新しい仕組みとつながらないこと。どれも時間とともに悪化します。

期限が過ぎたことと、課題が解決したことは別の話です。

Q2. まだ動いているのに、なぜ今なのですか?

動いているうちにしか、選ぶ余裕がないからです。

止まってから着手すると、比較も検証も段階移行もできません。条件の悪い決定を迫られます。

Q3. 費用はどのくらいかかりますか?

システムの規模と、既製品にどこまで寄せられるかで大きく変わります。

ライセンス費用だけでなく、データ移行、業務の見直し、教育を含めた「総額」で見てください。考え方は Odoo導入にかかる費用の構造 にまとめています。

Q4. 現場が反対しているときは、どう説得すればよいですか?

「システムを新しくする」ではなく、「この作業がこう楽になる」という説明から入ってください。

反対はよくあることです。いまのやり方に慣れている人ほど、変化を負担に感じます。定着の考え方は Odooを社内に定着させる方法 にまとめました。

Q5. 一部だけ置き換えることはできますか?

できます。むしろ、段階的に進めるほうが現実的な場合が多いです。

在庫だけ、販売だけ、というように業務単位で切り出す方法があります。ただし、旧システムとの連携をどうするかは設計が必要です。

Q6. レガシーシステムをERPに刷新するメリットは何ですか?

昔は作るしかなかった業務を既製の型に乗せられることです。

既製のERPが扱える業務の幅は広がり、クラウドで始められるようにもなりました。業務単位で段階的に移せば、業務を止めずに進められます。一方で、既製品に乗らない固有の業務は残り、データ移行には時間がかかります。良い点と注意点はERPに乗せ替える刷新の良い点と、気をつけることに並べました。

まとめ:レガシーシステムの刷新は動いているうちに始める

「2025年の崖」の年は過ぎましたが、課題は解決していません。老朽化は、じわじわと選択肢が減っていく形で進みます。

本当に困るのは「止まること」ではありません。変えられなくなること、中身が分からなくなること、数字が出てこないことです。

だからこそ、動いているうちに動いてください。進め方には順序があります。

  • 棚卸しで、何が乗っているかを一覧にする
  • 残すものと捨てるものを決める
  • 3〜5年後の姿から、既製品にどこまで寄せるかを決める
  • 業務単位で段階的に移す

最大の関門はデータ移行です。すべてを移そうとせず、「過去はどこまで必要か」を先に決めてください。

1年後、保守終了の通知が届いても、社内で慌てる人はいません。最初の業務は新しい仕組みで動き、残りを移す順番と時期が、経営会議の資料に載っています。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「いますぐ全部を刷新すべき」という提案はしません。 まず、いまのシステムに何が乗っているかを棚卸しし、どこから手をつけるかを一緒に整理するところから承っています。

あわせて読みたい記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次