レガシーシステム刷新とERPという選択肢|「崖」の期限が過ぎた今、何を考えるか

数年前、システムの老朽化を語る文脈で「2025年の崖」という言葉が広く使われました。

経済産業省が2018年に公表したレポートの中で示された論点です。基幹システムの老朽化と、それを扱える技術者の不足が重なることへの警鐘でした。

そして、その年はすでに過ぎました。

では、課題は解決したのでしょうか。

この記事では、期限が過ぎた今の視点から、レガシーシステムの刷新を整理します。

目次

「期限が過ぎた」ことの意味

期限が過ぎたあとに起きている変化を示した図 指摘された期限が過ぎても老朽化したシステムは動き続けている一方、扱える技術者の減少、部品や保守の終了、周辺システムとのつながりにくさという3つの課題は年々進行していることを示した図です。 期限は過ぎた。課題は進行している システムは、いまも動いている 突然止まったわけではない 扱える人が減る 担当者の退職・高齢化 後任が育たない 支えが終わる 機器・OSの保守終了 部品が手に入らない つながらない 新しい仕組みと接続できない データが取り出せない 3つとも、時間とともに悪化する性質を持つ

崖は「落ちる」ものではなかった

期限を過ぎても、多くのシステムは動いています。ある日突然すべてが止まる、という形では起きませんでした。

だから「大げさだった」と受け取る向きもあります。

しかし、実際に起きているのは別のことです。

老朽化の問題は、急に落ちるのではなく、じわじわと選択肢が減っていく形で進みます。

  • 直せる人がいなくなる
  • 部品や保守が終わる
  • 新しい仕組みとつながらない

そして、この3つはいずれも時間とともに悪化します。 待っても良くなりません。

本当の危険は「止まること」ではない

多くの人が心配するのは「システムが止まったらどうしよう」です。

しかし実務で本当に困るのは、別のことです。

(1) 変えられなくなる

新しい商品を扱いたい。取引先が新しい形式を求めてきた。制度が変わった。

そのたびに「システムが対応できません」と言われる状態。

これが続くと、システムの都合で事業の判断が制限されます。主従が逆転している状態です。

(2) 中身が分からなくなる

作った人がいない。仕様書もない。動いているけれど、なぜそう動くのか誰も説明できない。

この状態では、修正すること自体がリスクになります。触れないから、さらに古くなります。

(3) 数字が出てこない

必要な集計が、決まった帳票の形でしか出ない。それ以外を見たいときは、担当者が手作業で加工する。

経営判断のスピードが、システムの制約で決まってしまいます。

(4) 人を採用できない

古い技術しか使っていない環境に、若い技術者は来ません。採用の面でも不利になります。

動いているうちに動く

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。

刷新に着手する時期によって選択肢の広さが変わることを示した図 システムが動いているうちに着手すれば比較・検証・段階移行という選択肢があるが、止まってから着手すると時間がなく選択肢が限られるという違いを示した図です。 動いているうちに着手 止まってから着手 複数の選択肢を比較できる 実データで検証できる 段階的に移行できる 業務を止めずに進められる 選ぶ時間がない 検証せずに決めることになる 一斉に切り替えるしかない 業務を止めながら進むことになる

余裕があるときにしか、良い選択はできません

止まってから動くと、選択の余地がなくなります。

比較する時間も、検証する時間も、段階的に移す時間もありません。目の前の火を消すために、条件の悪い決定をすることになります。

動いているうちに着手することの価値は、「選べること」そのものです。

「まだ動いているから」は、着手しない理由になりません

むしろ逆です。動いているからこそ、いま着手できます。

刷新の選択肢

老朽化したシステムをどうするか。選択肢は大きく4つあります。

選択肢内容向いている状況
そのまま使い続ける現状維持事業の変化が少なく、扱える人が確保できている
作り直す同じ機能を新しい技術で業務が本当に固有で、既製品に乗らない
パッケージに乗せ替えるERPなど既製の型へ業務の多くが一般的な型に収まる
部分的に置き換える段階的に移す一度に全部は無理だが、動き始めたい

なぜERPが選択肢になるのか

老朽化したシステムの多くは、その会社のためだけに作られたものです。

作った当時は、それが最適でした。既製品では業務に合わなかったからです。

しかし、状況は変わっています。

  • 既製のERPが扱える業務の幅が広がった
  • クラウドで始められるようになった
  • 中小企業でも手が届く選択肢が増えた

「昔は作るしかなかった業務」が、いまは既製品に乗ることがあります。

考え方は パッケージERPかスクラッチ開発か にまとめています。

ただし、すべてを既製品に寄せられるとは限りません

正直に書きます。業務が本当に固有で、既製品に乗らない部分は残ります。

その場合は、必要な機能だけを自社資産として作るという選択肢もあります。ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。

進め方の順序

刷新は、いきなり製品を選ぶところから始めてはいけません。

第1段階:いまのシステムを棚卸しする

何が動いているのか、誰も正確に把握していないことがよくあります。

  • どの業務が、どのシステムで動いているか
  • データはどこにあるか
  • 誰が保守しているか
  • 止まったら何が困るか

この整理そのものに価値があります。 そして、この作業には想像以上に時間がかかります。

第2段階:残すものと捨てるものを決める

古いシステムには、もう使われていない機能が必ずあります。

「念のため残す」を繰り返すと、新しいシステムも同じように肥大化します。この段階で捨てる判断をしてください。

第3段階:既製品にどこまで寄せられるかを確認する

自社の業務を、既製の型にどこまで合わせられるか。ここが費用と期間を大きく左右します。

考え方は OdooとFit to StandardOdoo導入の要件定義の進め方 にまとめています。

第4段階:段階的に移す計画を立てる

一斉切り替えは、可能なら避けてください。

業務を止めるリスクが大きく、問題が起きたときの切り分けも難しくなります。

進め方は Odoo導入の進め方と期間 をご覧ください。

【最大の関門】データをどう移すか

刷新でもっとも時間がかかるのが、ここです。

古いシステムのデータには、次のような問題が潜んでいます。

  • 同じ取引先が複数の名前で登録されている
  • コード体系が途中で変わっている
  • 使われていない項目が大量にある
  • そもそもデータを取り出せない形式になっている

最後の項目は深刻です。 古いシステムから、データを標準的な形式で取り出せないことがあります。

移すデータを絞る

現実的な進め方は、マスタ(取引先、商品など)だけを移し、過去の取引明細は旧システムに残すというものです。

すべてを移そうとすると、時間も費用も膨らみます。「過去はどこまで必要か」を先に決めてください。

詳しくは Odooへのデータ移行の進め方 をご覧ください。

よくある質問

Q1. 「2025年の崖」は結局どうなったのですか?

ある日一斉に何かが起きる、という形では顕在化しませんでした。

ただし、老朽化の課題そのものは進行しています。扱える技術者の減少、機器や保守の終了、新しい仕組みとつながらないこと。これらは時間とともに悪化します。

期限が過ぎたことと、課題が解決したことは別です。

Q2. まだ動いているのに、なぜ今なのですか?

動いているうちにしか、選ぶ余裕がないからです。

止まってから着手すると、比較も検証も段階移行もできません。条件の悪い決定をすることになります。

Q3. 費用はどのくらいかかりますか?

システムの規模と、既製品にどこまで寄せられるかで大きく変わります。

ライセンス費用だけでなく、データ移行、業務の見直し、教育を含めた総額で見てください。考え方は Odoo導入にかかる費用の構造 にまとめています。

Q4. 現場が反対しています

よくあることです。いまのやり方に慣れている人ほど、変化を負担に感じます。

「システムを新しくする」ではなく「この作業がこう楽になる」という説明から入ってください。定着の考え方は Odooを社内に定着させる方法 にまとめています。

Q5. 一部だけ置き換えることはできますか?

できます。むしろ、段階的に進めるほうが現実的なことが多いです。

在庫だけ、販売だけ、というように業務単位で切り出す方法があります。ただし、旧システムとの連携をどうするかは設計が必要です。

まとめ

「2025年の崖」という言葉が語られた年は、すでに過ぎました。

そして、ある日一斉に何かが起きる形では顕在化しませんでした。

しかし、課題は解決していません。老朽化は、急に落ちるのではなく、じわじわと選択肢が減っていく形で進みます。

扱える人が減る。機器や保守が終わる。新しい仕組みとつながらない。この3つは、待っても良くなりません。

そして、本当に困るのは「止まること」ではありません。変えられなくなること、中身が分からなくなること、数字が出てこないことです。システムの都合で事業の判断が制限される状態になります。

だからこそ、動いているうちに動いてください。

止まってから着手すると、比較する時間も、検証する時間も、段階的に移す時間もありません。動いているうちに着手することの価値は、「選べること」そのものです。

進め方には順序があります。棚卸し、残すものと捨てるものの決定、既製品にどこまで寄せるかの確認、段階的な移行計画。

そして最大の関門はデータ移行です。すべてを移そうとせず、「過去はどこまで必要か」を先に決めてください。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「いますぐ全部を刷新すべき」という提案はしません。 まず、いまのシステムに何が乗っているかを棚卸しし、どこから手をつけるかを一緒に整理するところから承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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