「AS400を分かっている担当者が、あと2年で定年を迎える」。
改修を頼める人が一人しかいない。帳票を1枚変えるにも、その人の予定を待つ。長年止まらずに動いてきたシステムだけに、刷新の決断は重くなります。
ただ、AS400からの移行は、一度に全部を替えなくても進められます。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットが勧めるのは、領域を区切って順に移す「段階移行」です。
AS400の系譜にあるIBM iは、今も提供が続いています。移行を急ぐ理由は、技術の寿命より人と柔軟性の側にあります。国内中心で業務範囲がはっきりしていれば、Odoo(オドゥー)は移行先の現実的な候補です。Odooはアプリ単位で導入でき、販売だけ、在庫だけといった形で始められます(Odooが候補になる条件)。
段階移行で進めると、たとえば次のことが変わります。
- 担当者の頭の中にあった処理の理由が、棚卸しの一覧として社内に残る
- 販売・在庫など影響の限られた領域から、効果を確かめながら広げられる
- 自社サーバーでの運用を続けたい場合も、移行先の候補が残る
- 「この会社しか触れない」状態を繰り返しにくくなる
ただし、グループ連結や多数の海外拠点がある会社には、NetSuiteのような上位の製品のほうが合います(Odooが候補にならない条件)。
では、長年動いてきたシステムを、どこから移し始めるのか。答えはAS400の移行でもっとも大きな課題にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。長期の段階移行では、公式サポートを受けられるEnterprise版のほうが、判断の拠り所を持ちやすくなります。
AS400(IBM i)の移行で、まず誤解を解いておく
「サポートが切れるから移行が必要」ではない
AS400と呼ばれてきたシステムは、その後IBM iというプラットフォームとして発展し、現在も提供が続いています。プラットフォームそのものが、明日なくなるわけではありません。
「サポートが切れるので早急に移行を」と説明されたことがあれば、その前提を一度確かめてください。
※IBM iのサポート方針は変更されることがあります。自社が使用しているバージョンの状況は、契約先にご確認ください。
では、なぜ移行を考えるのか
移行を検討する本当の理由は、多くの場合、次のいずれかです。
| 理由 | 現場で起きていること |
|---|---|
| 技術者の確保が難しくなっている | システムを理解している人が退職を迎える |
| 改修に時間がかかる | 業務を変えたくても、手を入れられる人が限られる |
| 中身が見えなくなっている | なぜその処理があるのか、誰も説明できない |
| 他システムとつながらない | EC、経費精算、外部サービスとの連携が難しい |
どれも、技術の寿命の話ではありません。人と柔軟性の問題です。この見立てを誤らないことが、判断の出発点になります。
AS400からの移行で、もっとも大きな課題
「何が動いているか分からない」
長年運用されたシステムに共通するのは、次の3つです。
- 独自に開発された処理が積み上がっている
- 仕様書が残っていない、または実態と合っていない
- 「この処理はなぜあるのか」を説明できる人がいない
この状態のまま新しいシステムに移そうとすると、必ず行き詰まります。中身の分からないものは、移しようがないからです。
だから、棚卸しから始まる
移行プロジェクトの実質的な第一歩は、「現行システムの棚卸し」です。棚卸しとは、動いている処理と帳票を一つずつ洗い出し、要・不要を仕分ける作業を指します。
どの処理が業務に必要で、どれが惰性で残っているか。この作業には時間がかかります。それでも、ここを飛ばした移行は、ほぼ確実に途中で止まります。
OdooがAS400の移行先候補になる条件
次のような状況なら、Odooは現実的な選択肢です。
国内中心で、業務範囲が明確
販売・在庫・購買・生産といった範囲で、業務が完結している。海外拠点をまたぐ複雑な管理は要らない。この条件なら、Odooの適用範囲に収まります。
自社サーバーでの運用を続けたい
AS400を自社で運用してきた企業は、クラウドへの移行そのものに慎重な場合があります。
Odooはオンプレミス(自社サーバーでの運用)も選べる製品です。クラウド専用の製品では検討から外れる場面でも、選択肢に残ります。
ただし、自社運用を選ぶなら、運用の責任も自社が負います。この点はAS400と同じ構造です。
段階的に移したい
Odooはアプリ単位で導入でき、販売だけ、在庫だけといった形で始められます。
一度にすべてを切り替えなくてよい。長年動いてきたシステムからの移行では、この点が大きな意味を持ちます。
特定ベンダーへの依存を避けたい
「この会社しか触れない」という状態で苦労した経験があるなら、この点は重要でしょう。
Odooはソースコードが公開され、扱える技術者が世界中にいます。同じ轍を踏みにくい構造です。
Odooへ段階移行する良い点と、気をつけること
4つの条件に当てはまる会社にとって、Odooへの段階移行は、業務を止めずに刷新を進める方法です。得られることと、先に見込んでおきたい負担を並べます。
良い点は、次の4つです。
- 一度に替えずに始められる:アプリ単位で導入でき、販売だけ、在庫だけといった形で始められる
- 業務を止めるリスクを抑えられる:影響範囲が限定的な領域から始め、効果を確かめながら次の領域を足す
- 自社サーバーでの運用も選べる:オンプレミスも選べるので、クラウド専用の製品では外れる場面でも候補に残る
- 特定ベンダーに依存しにくい:ソースコードが公開され、扱える技術者が世界中にいる
気をつけることは、次の4つです。
- 棚卸しに時間がかかる:仕様書が残っていない場合は、棚卸しだけで相当の時間がかかる
- 並行稼働には手間がかかる:業務を止めるリスクは下がるが、その期間は手間が増える
- 自社運用なら責任も自社が負う:オンプレミスを選ぶ場合、運用の責任はAS400と同じく自社にある
- 給与は別のサービスと組み合わせる:Odooには日本向けの給与計算の標準対応がない
版の選び方では、公式サポートを受けられる有償のEnterprise版のほうが、長期の段階移行で判断の拠り所を持ちやすくなります。両方を1枚の図に並べました。
棚卸しをどう進めるかは、ベンチャーネットが棚卸しで最初に確かめることで扱います。
Odooが移行先の候補にならない条件
次の表に当てはまる場合は、他の選択肢を検討してください。社内で移行先を話し合うときの叩き台にも使えます。
| 自社の状況 | 検討したい選択肢 | 理由 |
|---|---|---|
| グループ連結や高度な内部統制が必要 | NetSuiteのような上位の製品 | 規模が大きいほど、上位の製品が合います |
| 多数の海外拠点がある | 上位の製品 | グローバル要件が広範なら、上位の製品の領域です |
| 独自処理が事業の中核そのもの | AIスクラッチ開発 | 競争力の源泉を、無理にパッケージへ合わせない |
| 給与も同じシステムで扱いたい | 給与は別のサービスと組み合わせる | Odooには日本向けの給与計算の標準対応がありません |
| 上のどれにも当たらない | Odoo | 国内中心・段階移行なら適用範囲に収まります |
AIスクラッチ開発は、必要な機能だけを開発する方法です。ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。独自処理が本当に競争力の源泉かを見極めてから選ぶのが、順序です。
AS400からOdooへの段階移行という進め方
なぜ一度に替えないのか
AS400で動いている基幹システムは、事業の中心を支えています。止まれば、業務が止まる。一度にすべてを切り替える方法は、そのぶんリスクが高くなります。
データ移行・並行稼働・教育という3つの論点は、移行元がAS400でも変わりません。詳しくは基幹システム移行プロジェクトのリスク一覧と対応策にまとめています。
進め方の例
領域を区切り、順に移していく形です。
| フェーズ | 移す領域 |
|---|---|
| 第1フェーズ | 影響範囲が限定的な領域から始める(販売管理、在庫管理など) |
| 第2フェーズ | 効果を確かめながら、次の領域を足す |
| 第3フェーズ | 会計など、慎重な検証が必要な領域を移す |
並行稼働の期間を設けることもあります。手間はかかりますが、業務を止めるリスクは大きく下がります。
全部を移さない選択もある
すべての処理を、新システムに移す必要はありません。
一部の処理を残したまま、連携でつなぐ設計もあり得ます。現実的に進むのは、「全部を一度にきれいにする」ことを目的にしない場合です。
ベンチャーネットがAS400の棚卸しで最初に確かめること
ベンチャーネットは、AS400からの移行をITの入れ替えではなく、経営プロジェクトとして進めます。最初の段階で確かめるのは、次の5点です。
ステップ1:移行を考える理由を、経営者の言葉で確かめる
技術者の確保か、改修の柔軟性か、連携か。理由によって、最初に移す領域が変わります。担当者の退職時期が決まっているなら、その人しか知らない処理の聞き取りを最優先にします。
ステップ2:処理と帳票を「毎月使う・たまに使う・使っていない」に分ける
何が動いていて、何が使われていないか。ここがすべての出発点です。使っていない帳票が見つかれば、移行の範囲はその分だけ小さくなります。仕組みを入れる前に不要な業務を削る考え方は、自動化の前に「見える化、そして削除」の記事で扱っています。
ステップ3:要件を「いまの視点」で作り直す
現行機能の一覧を、そのまま要件にしないでください。非効率な業務まで移植することになります。ここで、Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で置き換えられる処理を見極めます。
ステップ4:3〜5年後の姿から、移行先と順番を決める
事業の広がりを踏まえ、Odooで足りるか、NetSuiteが合うか、AIスクラッチ開発が向くかを並べて比べます。AIスクラッチ開発を選ぶ場合は、開発費と保守費が別途かかる前提で比べます。
ステップ5:最初の領域を、少人数で小さく試す
候補が絞れたら、少人数で本番と同じ環境を試します。カタログだけで判断しないためです。
本稼働後も、最初の90日で何を定着させるかが次のフェーズを決めます。Odoo導入 最初の90日プランもあわせてご覧ください。
よくある質問
AS400のデータは移行できますか?
技術的には可能です。ただし、そのまま移すことはおすすめしません。
古い取引先、使われていない品目、重複した情報。これらを持ち込むと、新システムでも同じ混乱が続きます。移行の前に、何を残し何を捨てるかを決める工程が必要です。
独自開発した処理は、どうなりますか?
すべては再現せず、どうしても必要な処理だけを作り込みます。全部を再現しようとすると、費用も期間も膨らむからです。
まず「本当に必要な処理」と「惰性で残っている処理」を仕分けてください。そのうえで、標準機能で代替できるものは代替します。
移行にはどれくらいかかりますか?
期間は、現行システムの状態次第で大きく変わるものです。
とくに仕様書が残っていない場合は、棚卸しだけで相当の時間がかかります。まず現状を把握し、そのうえで期間を見積もります。
担当者が退職する前に、何をしておくべきですか?
その人しか知らない処理の理由を、書き残してもらうことです。
画面の操作手順より、「なぜこの処理が必要か」のほうが失われやすい情報です。この聞き取りは、移行先を決める前からでも始められます。キーマンの退職に備える考え方は、キーマンが辞めても会社が止まらない仕組みにまとめています。
何から相談すればよいですか?
「何が動いているか分からない」という状態そのものが、相談の出発点です。
棚卸しの進め方から一緒に整理できます。移行を決めてから相談する必要はありません。
AS400からOdooへ移行するメリットは何ですか?
一度に替えずに段階的に移せることです。
Odooはアプリ単位で導入でき、販売や在庫など影響の限られた領域から始められます。ソースコードが公開され、特定ベンダーへの依存も避けやすい製品です。一方で、棚卸しや並行稼働の手間はかかります。両方の一覧はOdooへ段階移行する良い点と、気をつけることにあります。
まとめ:AS400の移行は、技術の寿命ではなく人と柔軟性の問題
- IBM iというプラットフォームは現在も提供が続いている。「サポート切れ」を前提にしない
- 移行を考える理由は、技術者の確保・改修の柔軟性・連携のしやすさにある
- 最大の課題は「何が動いているか分からない」状態。棚卸しが第一歩
- Odooが候補になるのは、国内中心・業務範囲が明確・段階的に移したい場合
- 一度に全部を替えない。領域を区切って段階的に移す
長年動いてきたシステムの刷新は、技術の入れ替えである以上に、事業の棚卸しです。何を残し、何を手放すのか。それを決めるのは経営です。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。要件を整理した結果、Odooが合わなければ、正直にそうお伝えします。
1年後、販売と在庫はOdooで回り、AS400に残るのは会計など慎重に移す処理だけになっています。定年を控えた担当者の頭の中にあった処理の理由は、棚卸しの一覧として社内に残っています。
もう少し詳しく知りたい方へ
AS400の中身がどこまで分かっているか、という段階からご相談いただけます。移行を決める前の棚卸しの進め方から、一緒に整理します。
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