「AIで何とかならないか」。そう考え始めた経営者は、少なくないはずです。きっかけは、経理の担当者が請求書づくりと入金の確認で遅くまで残る、月末の光景かもしれません。
ただ、非効率な業務をそのまま自動化しても、「速く非効率になるだけ」です。ムダを除いてから載せれば、効果のある省力化になります。
省力化とは、ムダを取り除いたうえで、業務にかかる人手を減らすことです。経営をつなぐ10の視点のひとつでもあります。
先に使うのは、ECRSという業務改善の順序です。なくせないか、まとめられないか、順番を変えられないか、単純にできないか(ECRSでムダを洗い出す考え方)。残った作業を、Odooの承認フローや自動化、AIに載せます。
この順で進めると、たとえば次のことが変わります。
- 毎月の作業を「1回の所要時間×月の回数」で並べ、効果の大きい順に手を付けられる
- なくせる作業に自動化の投資をするムダを避けられる
- 確認や承認の工程を、Odooの承認の仕組み(Enterprise版)に載せられる
- 請求書をOCR(文字の読み取り)とAIで読み取り、記録を自動で作れる
ただし、その都度の判断が要る業務は、単純には自動化できません。人が関わる部分を残す設計が要ります。良い点と負担は省力化の良い点と、気をつけることに並べました。
では、数ある作業のうち、どれから手を付ければよいのか。答えは自動化の前に確かめる4つのことのステップ1と2にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
承認フローの自動化(Approvals)と、マーケティングの自動化(Marketing Automation)。いずれもEnterprise版(有償)が対象で、Community版(無料)では使えません。
「省力化」とは何か:自動化の前にムダを取り除く
「省力化」とは、業務にかかる人手を、ムダを取り除いたうえで減らすことです。
順序が肝心です。ムダを取り除かずに自動化すると、ムダな作業をシステムが速く実行するだけになります。
そのため省力化には、自動化やAI活用の前に、業務そのものを見直す工程が含まれます。
省力化ができていない会社に起きる問題
問題1:自動化したのに、業務時間が減らない
回り道の承認経路や、二重の確認作業をそのまま自動化したケースです。手間は残ったまま、形だけが変わります。
問題2:何から自動化すべきか、優先順位が付けられない
「全部自動化したい」という発想では、効果の大きい業務から手を付けられません。
問題3:AIツールを入れても、使われない
業務の流れに組み込まれていないAIツールは、現場から「追加の手間」と受け取られ、定着しません。
そのまま1年続けると、どこで詰まるか
省力化されていない作業は、誰かの時間を毎月一定量、確実に奪います。1回が短い作業ほど見過ごされます。
最初に起きるのは、残業の常態化です。締め日にだけ発生する転記作業が、毎月同じ人の時間を使う。年12回繰り返せば、まとまった日数になります。
次に、改善に使う時間がなくなります。手を動かす作業で一日が埋まり、やり方を見直す余裕が残りません。忙しいから改善できず、改善しないからさらに忙しくなる。
そして、人を増やしても解決しません。手順が人に紐づいたままだと、新しく入った人の教育にまた時間がかかります。省力化は、人を増やす前に済ませておきたい順序の話でもあります。
ECRSでムダを洗い出し、自動化とAIに載せる考え方
ECRS(イー・シー・アール・エス)は、業務改善を検討する順序を示す考え方です。Eliminate(排除)・Combine(結合)・Rearrange(交換)・Simplify(簡素化)の頭文字です。
考え方1:まずECRSの順で業務を見直す
最初に「なくせないか(Eliminate)」、次に「まとめられないか(Combine)」を検討します。
そのあとで「順番を変えられないか(Rearrange)」「単純にできないか(Simplify)」を考えます。この順序が重要です。なくせる業務を自動化するのは、投資のムダです。
「まず見える化し、削れるものを削ってから自動化する」という順序の考え方は、バーチャルブログのAIや自動化に飛びつく前にでも扱っています。
考え方2:見直した業務を、Odooの承認フローで自動化する
確認や承認が必要な工程は、承認の仕組み(Approvalsアプリなど)に載せられます。どの条件で誰が承認するかは、導入時に業務に合わせて設計する部分です。
考え方3:定型的な情報発信は、マーケティングの自動化に載せる
顧客への定期的な連絡や案内は、条件をあらかじめ設定したマーケティングの自動化(Marketing Automation)に任せられます。
データ入力の手間を減らすAI機能もあります。請求書は、OCR(文字の読み取り)とAIで読み取り、記録を自動で作れます(出典:Odoo公式ドキュメント「Document digitization」、2026年10月確認)。経費も、領収書をOCRで読み取って記録にできます(出典:Odoo公式ドキュメント「Log expenses」、2026年10月確認)。
会議で使える:その作業、自動化してよいかのチェックリスト
自動化の候補に挙がった作業ごとに、次の5つを確かめてください。1つでも「いいえ」があれば、先に見直しが必要です。
- □ その作業をなくしたら誰が困るか、具体的に答えられる
- □ 同じ内容を、別の人や別の表でも入力していない
- □ 毎回ほぼ同じ手順・同じ判断で終わる(その都度の判断が少ない)
- □ 担当者が休んでも、手順書があれば別の人が代われる
- □ 月あたりの回数と1回の所要時間を、ざっくりでも言える
ベンチャーネットが自動化の前に確かめる4つのこと
省力化の相談を受けたとき、ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、いきなりツールの話をしません。次の順で確かめます。
ステップ1:毎月同じ形で発生する作業を3つ挙げてもらう
請求書の作成、入金の消込、定例レポートの作成あたりが候補です。それぞれ「1回の所要時間×月の回数」を書き添えます。掛け算した数字が、その作業に使っている時間です。
ステップ2:いちばん大きい数字の作業を、ECRSにかける
自動化の前に「なくせないか」「まとめられないか」を一緒に見ます。小さい作業から始めると効果が見えにくく、社内の納得も得られません。
ステップ3:残った作業が、Odooの標準機能に載るかを見る
業務を標準機能に合わせる「Fit to Standard」の考え方で、設定の範囲に収まるかを確かめます。承認やマーケティングの自動化まで使うなら、Enterprise版が前提になることも、この時点で伝えます。
ステップ4:合わない部分は、合わないと伝える
標準で載らない固有の作業が大きいならAIスクラッチ開発も選択肢になりますが、ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。取引量や拠点が大きい会社には、NetSuiteのほうが合う場合もあります。
製品ありきではなく、作業の中身から手段を選ぶための順番です。冒頭の「どれから手を付けるか」への答えは、ステップ1と2にあります。始めるのは、掛け算した時間がいちばん大きい作業からです。
省力化の良い点と、気をつけること
この順で省力化を進めて得られることと、先に覚悟しておきたい負担を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 効果の大きい作業から始められる:「1回の所要時間×月の回数」を比べれば、優先順位が付く
- 自動化の投資のムダを避けられる:ECRSでなくせる作業を先に除くので、それを自動化せずに済む
- 承認を仕組みに載せられる:確認や承認の工程を、Approvalsアプリなどの承認の仕組みに載せる
- 定型の連絡を任せられる:顧客への定期的な連絡や案内を、マーケティングの自動化に任せる
- 入力の手間を減らせる:請求書はOCRとAIで読み取って記録を作れ、領収書もOCRで読み取れる
気をつけることは、次の4つです。
- 見直しの工程が先に要る:ECRSを飛ばすと、非効率な業務を効率よく回すだけになる
- 承認と定型発信の自動化は有償版が前提:承認フローとマーケティングの自動化はEnterprise版が対象
- その都度の判断は人に残す:判断が要る業務は単純に自動化せず、人が関わる部分を残す
- AIが目的になりやすい:省力化したい業務が先にあり、AIはその手段にとどめる
両方を1枚の図に並べました。
つまずき方の詳しい中身は省力化でよくある2つの失敗に、版ごとの線引きはCommunity版とEnterprise版の対応範囲にまとめています。
この視点をOdooで実装する記事
省力化は、対象となる作業ごとに手段が変わります。自社で時間を使っている領域から読んでください。
| 記事 | 何が分かるか | どんな会社向けか |
|---|---|---|
| 仕訳入力に疲弊している経理へ | 仕訳の手入力を減らす考え方 | 月次の締めに時間がかかる会社 |
| 入金消込の自動化から始める経理DX | 銀行データと消込をつなぐ流れ | 入金確認に人手をかけている会社 |
| 商品番号を覚えない・集計しない | 検索と集計を仕組みに任せる方法 | 商品数が多く、探す手間が大きい会社 |
| OdooのAI機能まとめ | AIで置き換えられる作業の範囲 | AI活用の当たりをつけたい会社 |
Community版とEnterprise版の対応範囲
| アプリ | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 承認フロー(Approvals) | 対象外 | 利用可能 |
| マーケティングの自動化(Marketing Automation) | 対象外 | 利用可能 |
| アプリ内のAI機能(請求書・経費の読み取りなど) | 提供範囲が限られるため、公式情報での確認が必要 | 契約プラン・対象アプリにより利用可能 |
承認やマーケティングの自動化まで含めて省力化するなら、「Enterprise版が前提」になります。
省力化でよくある2つの失敗
失敗1:ECRSを飛ばして、いきなり自動化ツールを探す
「まず自動化」から入ると、非効率な業務を効率よく回すだけになります。見直しから始めてください。
失敗2:AI活用そのものを目的にしてしまう
「AIを使うこと」が目的になると、業務に合わないツールを無理に入れることになります。省力化したい業務が先にあり、AIはその手段です。
AIの自動化を急がなくてよい条件と、急ぐと得をする条件の見分け方は、バーチャルブログのAIの自動化、まだ急がなくていいにまとめています。
よくある質問
省力化と仕組み化は、どう違いますか?
目指す状態が違います。仕組み化の目的は「誰がやっても同じ結果になる」ことです。省力化はその先の「より少ない人手で回す」ことを目指します。仕組み化ができてから省力化に進むのが、自然な順序です。
ECRSは、どんな業務にも当てはまりますか?
多くの定型業務に当てはまります。ただし、その都度の判断が必要な業務は、単純に自動化せず、人が関わる部分を残す設計が必要です。
Community版でも省力化はできますか?
業務の見直しまでは、版に関係なく進められます。ただし、承認フローやマーケティングの自動化まで含めるには、Enterprise版が前提です。
省力化はどこから始めればよいですか?
いちばん時間がかかっている定型業務から始めてください。その業務を洗い出し、ECRSの順で見直します。
Odooで省力化するメリットと注意点は何ですか?
見直した業務を承認やマーケティングの自動化とAIに載せられることがメリットです。
請求書はOCRとAIで読み取って記録を作れ、顧客への定期的な案内も自動化に任せられます。注意点は、承認フローとマーケティングの自動化がEnterprise版の対象であることです。ECRSでの見直しを飛ばさないことも欠かせません。一覧は省力化の良い点と、気をつけることにあります。
まとめ:ECRSで見直してからOdooの自動化に載せる
省力化は、業務にかかる人手を、ムダを取り除いたうえで減らすことです。
- ムダを残したまま自動化すると、速く非効率になるだけ
- ECRS(排除・結合・交換・簡素化)の順で、まず業務を見直す
- 見直した業務を、承認フローやマーケティングの自動化に載せる
- 承認・マーケティング自動化まで含めるなら、Enterprise版が前提になる
- AI活用は目的ではなく、省力化したい業務があって初めて意味を持つ手段
1年後の月末、経理の担当者は請求書と消込の山ではなく、承認待ちの一覧を確認して定時に帰っている。空いた時間で「次にECRSにかける作業はどれか」を話し合っている。省力化の成果は、そんな月末の風景に表れます。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社のどの業務から省力化すべきか」という整理から、ご相談を承っています。毎月いちばん時間を取られている作業を1つ、そのままお聞かせください。
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