Odooの導入事例の読み方|事例を自社の判断に使うために

システムを検討するとき、多くの人が導入事例を探します。

「同じ業種で使っている会社はあるか」「どんな効果が出たのか」。当然の行動です。

しかし、事例には読み方があります。そのまま受け取ると、判断を誤ることがあります。

この記事では、事例をどう読めば自社の判断材料になるのかを整理します。

なお、この記事では特定の企業名や具体的な数値は扱いません。 事例そのものは、Odoo公式サイトなどで公開されているものをご確認ください。ここでは「読み方」に徹します。

目次

事例は「うまくいった話」として書かれます

まず、前提を確認します。

公開されている導入事例に書かれることと書かれないことを比較した図 導入事例には成功した結果や改善された数値が書かれる一方、途中で発生した問題、断念した要件、追加でかかった費用や期間、そして導入をやめた事例は書かれないことを対比した図です。 事例に書かれること、書かれないこと 書かれること 導入前の課題 導入した機能 改善された数値 担当者のコメント = 完成後の姿 書かれないこと 途中で起きた問題 諦めた要件 超過した費用と期間 やめた会社の話 = そこに至る過程

これは、誰かが不誠実だからではありません

事例は、製品を提供する側と、導入した企業の双方が納得した内容として公開されます。

うまくいかなかった話を出す動機は、どちらにもありません。導入した企業にとっても、社内の失敗を公表する理由がないからです。

だから、事例は「完成後の姿」を写した写真になります。

そこに至るまでの過程 ―― 途中でつまずいたこと、諦めた要件、想定より膨らんだ費用 ―― は、たいてい写っていません。

読み手が補うしかありません

だからこそ、読む側が「書かれていない部分」を意識する必要があります。

失敗のパターンについては Odoo導入の失敗パターンと回避策 にまとめています。事例と併せて読むことをおすすめします。

事例を読むときの5つの視点

導入事例を自社に当てはめて読むための5つの確認視点を示した図 規模、業務の形、導入した範囲、体制、そして国と制度という5つの視点で事例と自社を比べることで、その事例が自社に当てはまるかを判断できることを示した図です。 その事例は、自社に当てはまるか ① 規模 従業員数・拠点数 取引の件数 ② 業務の形 在庫を持つか 受注生産か見込生産か ③ 導入した範囲 どのアプリを使ったか 全社か一部門か ④ 体制 社内に技術者がいたか 誰が支援したか ⑤ 国と制度 どの国の事例か 日本の制度は関係するか ⑤が、日本の読者にとって最大の落とし穴 海外の事例では、日本固有の要件が課題になっていない

⑤を強調します

Odooの公開事例には、海外の企業のものが多く含まれます。

海外の事例では、次の論点が課題として登場しません。

  • インボイス制度(適格請求書)への対応
  • 電子帳簿保存法
  • 月末締めの合計請求書という商習慣
  • 日本の給与計算
  • 日本国内の決済端末やモール連携

つまり、日本で導入する場合の最大の確認事項が、事例からは読み取れません。

「海外では順調に動いている」ことは事実でも、それが日本でもそのまま成り立つとは限らないということです。

日本対応の全体像は Odooの日本対応状況 をご覧ください。

①〜④も、ずれていれば参考になりません

規模が10倍違う会社の事例は、そのままは当てはまりません。

とくに注意したいのが③です。 「Odooを導入した」と書かれていても、実際には販売と在庫だけ、というケースがあります。

自社が想定している範囲と同じかを確認してください。

事例から本当に学べること

では、事例は役に立たないのか。そんなことはありません。

読み方を変えれば、有用な情報が得られます。

(1) 導入前の課題

ここは、もっとも参考になる部分です。

「どんな状態だった会社が、導入を決めたのか」

自社の状況と照らして、似ているかどうかを見てください。課題が似ていれば、検討する価値がある可能性が高まります。

(2) 使ったアプリの組み合わせ

どのアプリを、どう組み合わせたか。ここは具体的で、応用が利きます。

自社の業務に照らして、同じ組み合わせで足りるかを考えてみてください。

(3) 段階の踏み方

一度に全部入れたのか、段階的に広げたのか。

多くの成功事例は、段階的に進んでいます。 この点は自社の計画にも活かせます。

進め方は Odoo導入の進め方と期間 にまとめています。

(4) 業種特有の使い方

同じ業種の事例なら、その業種でどこにOdooが効くのかが見えます。

業種ごとの論点は、次の記事にまとめています。

数値をどう受け取るか

事例には「作業時間が◯%削減」といった数値が載ることがあります。

この数値は、次の点を意識して読んでください。

何と比べた数値か

多くの場合、導入前が非常に非効率だったことが前提になっています。

紙とExcelで回していた会社が、システムを入れて大幅に改善した。これは事実でしょう。

しかし、すでに何らかのシステムを使っている会社が同じ改善幅を得られるとは限りません。

いつの時点の数値か

稼働直後か、1年後か。定着してからの数値かどうかで意味が変わります。

誰が測ったか

測定の方法が示されていないことがほとんどです。厳密な比較として受け取らないほうが安全です。

では、どう使うか

数値そのものより、「どの作業が減ったか」に注目してください。

「転記がなくなった」「集計の作業が不要になった」。こうした変化の内容は、自社に当てはめて考えられます。

事例より確実な判断材料

正直に書きます。事例は、判断材料としては間接的です。

より確実なのは、次の2つです。

(1) 自社のデータで動かしてみる

実際の商品データ、実際の取引先データで試すこと。 これに勝る判断材料はありません。

  • 自社の商品マスタを取り込めるか
  • 自社の業務の流れが標準機能で回るか
  • 帳票が要件を満たすか

カタログや事例では判断できないことが、ここで分かります。

とくに OdooのPOSレジ機能 で扱っている機器の検証や、日本の帳票要件の確認は、実機でしか判断できません。

(2) 支援できる相手と話す

その事例を、実際に支援した人と話せるか。

公開された文章には限界があります。「どこで苦労したか」を聞けるなら、そちらのほうが有用です。

よくある質問

Q1. 日本国内のOdoo導入事例はありますか?

公開されている事例は、海外の企業のものが中心です。日本国内の公開事例は、まだ多くありません。

これはOdooが日本では発展途上であることの表れでもあります。この点は正直にお伝えすべきリスクです。

Q2. 同じ業種の事例が見つかりません

業種が完全に一致する事例を探す必要はありません。

見るべきは「業務の形」です。在庫を持つか、案件単位か、店舗があるか。ここが似ていれば、業種が違っても参考になります。

Q3. 失敗事例はどこで読めますか?

公開されている失敗事例は、ほとんどありません。 出す動機がないからです。

代わりに、失敗のパターンを構造として整理した記事をご用意しています。Odoo導入の失敗パターンと回避策 をご覧ください。

Q4. ベンチャーネットの事例を見せてもらえますか?

この記事では、支援先の企業名や件数といった情報は扱っていません。 守秘義務に関わるためです。

具体的なご相談の場では、お話しできる範囲でご説明します。

Q5. 事例がないと不安です

その感覚は自然です。ただし、事例の数は「自社でうまくいくか」を保証しません。

より確実なのは、自社のデータで動かしてみることです。そして、困ったときに相談できる相手を確保することです。

まとめ

導入事例を探すのは、当然の行動です。しかし、読み方があります。

事例は、「完成後の姿」を写した写真です。そこに至る過程 ―― つまずいたこと、諦めた要件、膨らんだ費用 ―― は、たいてい写っていません。

これは誰かが不誠実だからではなく、出す動機が双方にないからです。だから、読む側が意識して補う必要があります。

事例を自社に当てはめるときは、5つの視点で確認してください。規模、業務の形、導入した範囲、体制、そして国と制度。

とくに5つ目が重要です。Odooの公開事例には海外企業のものが多く、日本固有の要件が課題として登場しません。 インボイス制度、電子帳簿保存法、月末締めの請求、給与計算。日本で導入する際の最大の確認事項が、事例からは読み取れません。

一方で、事例から学べることもあります。導入前の課題、アプリの組み合わせ、段階の踏み方、業種特有の使い方。

数値については、「何%削減」より「どの作業が減ったか」に注目してください。 変化の内容のほうが、自社に当てはめて考えられます。

そして最後に。事例は、判断材料としては間接的です。

より確実なのは、自社のデータで実際に動かしてみること。そして、困ったときに相談できる相手を確保することです。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「事例がこれだけあります」という説得はしません。 自社のデータで動かして確かめるところから、ご一緒しています。

あわせて読みたい記事

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次