展示会でもらった導入事例を、役員会に持ち込んだ。「同業のこの会社で成功しているなら、うちも大丈夫だろう」。
そう言われると、誰も反論の材料を持っていない。けれど、なぜか決めきれない。
その迷いは、読み方を変えれば判断の材料になります。同じ業種の事例なら、その業種でOdooがどこに役立つのかも見えてきます。
Odooの導入事例は、導入した企業の「完成後の姿」を写したものです。そこに至る過程は、たいてい写っていません。だから自社に当てはまるかを、規模・業務の形・導入した範囲・体制・国と制度の5つで見比べます(事例を読むときの5つの視点)。
読み方が身につくと、たとえば次のことが変わります。
- 同業の事例を前にしても、「その会社は何人規模か」と問い返せる
- 「何%削減」より「どの作業が減ったか」を見て、自社に当てはめられる
- アプリの組み合わせと段階の踏み方を、自社の計画に生かせる
- 事例に出てこない日本の要件を、別に調べる段取りが組める
ただし、日本国内の公開事例は、まだ多くありません。公開されている事例は、海外の企業のものが中心です。
事例を読む前提として、Odooには無料のCommunity版(オープンソース)と有償のEnterprise版があり、使える機能が違います。個々の事例は、Odoo公式サイトなどで公開されているものをご確認ください。
では、写っていない部分があるなら、事例から何を学べばよいのか。答えは事例から本当に学べることに、読み方の良い点と限界はこの読み方の良い点と、気をつけることにあります。
導入事例は「うまくいった話」として書かれます
これは、誰かが不誠実だからではありません
事例は、製品を提供する側と、導入した企業の双方が納得した内容として公開されます。
うまくいかなかった話を出す動機は、どちらにもありません。導入した企業にも、社内の失敗を公表する理由がないからです。
だから、事例は「完成後の姿」を写した写真になります。
途中でつまずいたこと、諦めた要件、想定より膨らんだ費用。そこに至る過程は、たいてい写っていません。
読み手が補うしかありません
書かれていない部分は、読む側が意識して補う必要があります。
失敗のパターンは Odoo導入の失敗パターンと回避策 にまとめました。事例と併せて読むことをおすすめします。
Odooの導入事例を読むときの5つの視点
事例と自社を比べる視点は、規模・業務の形・導入した範囲・体制・国と制度の5つです。どれか1つでも大きくずれていれば、その事例はそのまま当てはまりません。
⑤国と制度:日本の要件は事例に出てこない
Odooの公開事例には、海外の企業のものが多く含まれます。
海外の事例では、次の論点が課題として登場しません。
- インボイス制度(適格請求書)への対応
- 電子帳簿保存法
- 月末締めの合計請求書という商習慣
- 日本の給与計算
- 日本国内の決済端末やモール連携
日本で導入するときの最大の確認事項は、事例からは読み取れないわけです。
「海外では順調に動いている」ことは事実でも、それが日本でもそのまま成り立つとは限りません。
日本対応の全体像は Odooの日本対応状況 をご覧ください。
①〜④も、ずれていれば参考になりません
規模が10倍違う会社の事例は、そのままは当てはまりません。
とくに注意したいのは③です。「Odooを導入した」と書かれていても、実際には販売と在庫だけ、という場合があります。自社が想定している範囲と同じかを確認してください。
Odooの成功事例から本当に学べること
事例が役に立たないわけではありません。読み方を変えれば、有用な情報が得られます。
(1) 導入前の課題
もっとも参考になるのは、「どんな状態だった会社が、導入を決めたのか」です。
自社の状況と照らして、似ているかを見てください。課題が似ていれば、検討する価値がある可能性が高まります。
(2) 使ったアプリの組み合わせ
どのアプリを、どう組み合わせたか。ここは具体的で、応用が利く部分です。
自社の業務に照らして、同じ組み合わせで足りるかを考えてみてください。
(3) 段階の踏み方
一度に全部入れたのか、段階的に広げたのか。
多くの成功事例は、段階的に進んでいます。この点は自社の計画にも活かせます。
進め方は Odoo導入の進め方と期間 にまとめました。
(4) 業種特有の使い方
同じ業種の事例なら、その業種でOdooがどこに役立つのかが見えてきます。
業種ごとの論点は、製造業、小売業、卸売・商社、サービス業・プロジェクト型ビジネス、建設業のOdoo活用の記事で扱いました。
事例の数値(削減率など)をどう受け取るか
事例には「作業時間が◯%削減」といった数値が載ることがあります。読むときは、次の3点を意識してください。
何と比べた数値か
多くの場合、導入前が非常に非効率だったことが前提です。
紙とExcelで回していた会社が、システムを入れて大幅に改善した。これは事実でしょう。
しかし、すでに何らかのシステムを使っている会社が、同じ改善幅を得られるとは限りません。
いつの時点の数値か
稼働直後か、1年後か。定着してからの数値かどうかで、意味が変わります。
誰が測ったか
測定の方法は、示されていないことがほとんどです。厳密な比較として受け取らないほうが安全です。
では、どう使うか
数値そのものより、「どの作業が減ったか」に注目してください。
「転記がなくなった」「集計の作業が不要になった」。こうした変化の内容なら、自社に当てはめて考えられます。
導入事例を読むときの5つの問い
海外の公式事例を読むときは、次の5つを自分に問いかけてください。真に受けるためではなく、確認するための問いです。
- その会社は何人規模か:従業員数が違えば、同じ機能でも運用の重さが変わります。
- どの国の制度の上で動いているか:会計・税・給与は国ごとに異なります。とくに日本のローカライズは、公式情報で記載を確認できない領域があります。
- どの版・どのプランを使っているか:Community版(無料・オープンソース)かEnterprise版(有償)かで、使える機能は変わります。標準プランかカスタムプランかでも、扱える範囲が違ってきます。
- どこまで自社でやり、どこから外に出したか:事例には体制が書かれないことが多いものです。社内に担当者がいたかどうかで、再現性は変わります。
- いつの話か:バージョンが違えば、できることも画面構成も違います。
社内会議では、次の表をそのまま使えます。
| 問い | 事例で探す場所 | 確認できないときの扱い |
|---|---|---|
| ①何人規模か | 会社紹介・導入の背景 | 「自社と同規模とは限らない」前提で読む |
| ②どの国の制度か | 国名・拠点の記載 | 日本での適用は、日本対応の情報で別途確かめる |
| ③どの版・プランか | Community/Enterpriseの記載 | 不明なら、機能の話を鵜呑みにしない |
| ④体制はどうだったか | 担当者コメント・支援会社名 | 記事には出にくい。支援する会社に直接聞く前提で保留する |
| ⑤いつの話か | 公開時期・バージョン表記 | 古ければ、現行版で再確認する |
5つとも、事例本文に明記されているとは限りません。確認できない項目があるのは、普通のことです。
その場合は「分からない前提で保留する」。それが、誤った期待を持たないための対応です。
事例は答えではなく、「質問のリスト」として使うものです。「うちもできそうだ」と判断する材料にはなりません。自社の条件と照らして、何を確かめるべきかを洗い出すために使います。
この読み方の良い点と、気をつけること
5つの視点と5つの問いで読むと、事例は「うちもできそうだ」と思わせる話から、質問のリストに変わります。得られることと、先に知っておきたい限界を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 期待をふくらませすぎない:事例が「完成後の姿」だと分かっていれば、途中の苦労や膨らんだ費用を読む側で補える
- 自社との違いが見える:規模・業務の形・導入した範囲・体制・国と制度の5つで、事例と自社のずれが分かる
- 応用できる部分を拾える:導入前の課題、アプリの組み合わせ、段階の踏み方、業種特有の使い方は、自社の計画に生かせる
- 数値を自社に当てはめられる:「何%削減」より「どの作業が減ったか」を見れば、自社の業務に置き換えて考えられる
- 社内会議でそのまま使える:5つの問いの表で、事例のどこを見て、分からないときにどう扱うかをそろえられる
気をつけることは、次の4つです。
- 問いの答えが書かれているとは限らない:5つとも、事例本文に明記されているとは限らない。分からない項目は、分からない前提で保留する
- 日本の要件は事例から読み取れない:インボイス、電子帳簿保存法、締め請求、給与計算は、日本対応の情報で別に調べる
- 体制は記事に出にくい:社内に担当者がいたか、誰が支援したかは、支援する会社に直接聞く前提で保留する
- 事例は判断材料としては間接的:最後は、自社のデータで標準機能のまま回るかを試して判断する
両方を1枚の図に並べました。
書かれていない部分を埋めていく順番は、事例を読んだあと、ベンチャーネットが確かめることに書きました。
事例を読んだあと、ベンチャーネットが確かめること
事例は、判断材料としては間接的です。より確実なのは、自社のデータで動かしてみることと、実際に支援する人と話すことです。
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットでは、お客様が事例を持って相談に来られたとき、次の順番で確かめます。
- 事例の「導入前の課題」と自社の課題を並べる
似ている点と違う点を書き出します。3〜5年後にどんな会社でいたいかから逆算し、今回解く課題を1〜2個に絞ります。課題の絞り方は、打ち手の前に「課題は何か」を明確にする(バーチャルブログ)が参考です。 - 自社のデータで、標準機能のまま回るかを試す
実際の商品マスタや取引先データを取り込み、業務の流れが回るかを見ます。帳票が要件を満たすかも、ここで分かります。業務を標準機能に合わせる考え方(OdooとFit to Standard)が前提です。 - 事例に出てこない日本固有の要件を洗い出す
インボイス、電子帳簿保存法、締め請求、給与計算。対応できるかは断定せず、実機と顧問の税理士などの専門家と一緒に確かめます。OdooのPOSレジ機能 で扱う機器の検証も、実機でしか判断できません。 - 範囲と順番を決める
事例と同じ範囲を一度に入れる必要はありません。まず数字を見える化し、次に原因が分かる状態へ、最後に利益につなげる。この順で段階を切ります。 - 合わなければ、合わないと伝える
規模や要件によっては、Odoo以外が合うこともあります。成長の速さや複雑さによってはNetSuite(OdooとNetSuiteの比較)を、パッケージに乗らない固有業務ならAIスクラッチ開発を検討します。AIスクラッチ開発はライセンスが要らない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。
公開された文章には限界があります。「どこで苦労したか」を聞ける相手がいるなら、そちらのほうが有用です。
Odooの導入事例についてよくある質問
Q1. 日本国内のOdoo導入事例はありますか?
日本国内の公開事例は、まだ多くありません。公開されている事例は、海外の企業のものが中心です。
これは、Odooが日本では発展途上であることの表れでもあります。導入を検討するうえでのリスクとして、知っておいてください。
Q2. 同じ業種の事例が見つからないときは?
業種が完全に一致する事例を、探す必要はありません。
見るべきは「業務の形」です。在庫を持つか、案件単位か、店舗があるか。ここが似ていれば、業種が違っても参考になります。
Q3. 失敗事例はどこで読めますか?
公開されている失敗事例は、ほとんどありません。出す動機がないからです。
代わりに、失敗のパターンを構造として整理した記事があります。Odoo導入の失敗パターンと回避策 をご覧ください。製品を問わない失敗の原因は、ERP導入はなぜ失敗するのか(NetSuiteの教科書)で扱っています。
Q4. ベンチャーネットの事例を見せてもらえますか?
支援先の企業名や件数といった情報は、記事には載せていません。守秘義務に関わるためです。
具体的なご相談の場では、お話しできる範囲でご説明します。
Q5. 事例が少ないと、導入を決めるのが不安です。どう考えればいいですか?
事例の数は、「自社でうまくいくか」を保証しません。不安に感じるのは自然なことです。
より確実なのは、自社のデータで動かしてみること。そして、困ったときに相談できる相手を確保することです。
Q6. Odooの成功事例から、何を学べますか?
導入前の課題とアプリの組み合わせなどです。
どんな状態だった会社が導入を決めたのか。どのアプリを、どう組み合わせたか。一度に入れたのか、段階的に広げたのか。この3つと業種特有の使い方は、自社の計画に生かせます。数値は「何%削減」より「どの作業が減ったか」を見てください(事例から本当に学べること)。
まとめ:事例は「質問のリスト」として使う
事例は、「完成後の姿」を写した写真です。つまずいたこと、諦めた要件、膨らんだ費用は、たいてい写っていません。誰かが不誠実だからではなく、出す動機が双方にないからです。
自社に当てはめるときは、規模・業務の形・導入した範囲・体制・国と制度の5つの視点で確かめてください。
とくに国と制度。Odooの公開事例には海外企業のものが多く、日本固有の要件が課題として登場しません。
一方で、導入前の課題、アプリの組み合わせ、段階の踏み方、業種特有の使い方は学べます。数値は「何%削減」より、「どの作業が減ったか」を見てください。
事例は、判断材料としては間接的です。最後に頼れるのは、自社のデータで動かしてみること。そして、困ったときに相談できる相手を確保しておくことです。
1年後、役員会で誰かが他社の事例を持ち出したとき、「その会社は何人規模で、どの国の制度で動いている話か」と自然に問い返せる。そのうえで、自社のデータで確かめた結果をもとに話が進んでいる。事例との付き合い方が、そう変わっているはずです。
もう少し詳しく知りたい方へ
気になっている事例があれば、そのままお持ちください。自社の条件と照らして、何を確かめるべきかを一緒に整理します。
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「事例がこれだけあります」という説得はしません。 自社のデータで動かして確かめるところから、ご一緒しています。
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