前回、AI時代になぜ学ぶのかを考えました。孔子の言う「己の為に学ぶ」、つまり自分を修めるための学びです。
理由がはっきりすると、次に来るのは別の問いです。
では、何から手をつければいいのか。
このサイトには、経営者・役員・リーダーのための記事が並んでいます。
稲盛和夫さんのフィロソフィ、坐禅、易、会計、ドラッカー、アメーバ経営、ERP。
並べてみると、たしかに脈絡がないように見えます。
私自身、この順番を決めるのに時間がかかりました。今日はその地図をお渡しします。
学びの三段階——守・破・離
学びの段階を表す言葉に「守破離」があります。武道や芸事の世界で使われてきた言い方です。
初出については諸説あり、ここでは出典を特定しません。ただ、三段階の分け方そのものは、学びの実感によく合います。
守は、型を受け取る段階です。先人が残した形をそのまま真似る。自分なりの工夫はいったん脇に置きます。
破は、受け取った型を自分の状況で試す段階です。うまくいくところと、いかないところが出てきます。その差を見つけるのが破です。
離は、自分の形にして、人に渡せるようになる段階です。型から離れるのではなく、型が自分のものになった状態と言ったほうが近いでしょう。
ここで一つ、先にお伝えしておきたいことがあります。
守破離は階段ではありません。
守を全部終えてから破に進む、という順序で考えると、たいていの人は動けなくなります。
私もそうでした。古典を読み終えてから実践しよう、と思っているうちに一年が過ぎる。
実際には、この三つは往復します。一つ型を受け取ったら、すぐ自社で試す。うまくいかない。もう一度、型に戻って読み直す。この行き来が学びの実体です。
五つの部と、三段階の対応
このサイトの記事は、序章と終章を含めて五つの部に分かれています。守破離との対応は次のようになります。
図1 守破離と五部の対応——第1部が守、第2〜3部が破、第4〜5部が離にあたる
第1部 己を修める(守)
心を高める段階です。経営は判断の連続で、その判断の符号を決めるのは考え方だからです。
稲盛さんのフィロソフィ、坐禅、菜根譚や言志四録といった古典、そして自分の生き方の見つけ方。この四つを扱います。
まずは「心を高める、経営を伸ばす」から読んでみてください。このサイト全体の背骨にあたる一本です。心を静める実践に関心があれば、坐禅の三大目的へ進めます。
第2部 世界を観る(破)
自分の内側が定まったら、次は外を観ます。
易は変化の構造を読む古典です。無意識との付き合い方は、行動の七割から八割が無意識だという前提から始まります。システム思考は、出来事ではなく構造を見る道具です。
入口は易は「人生の構造」を読む地図であるがよいでしょう。
第3部 経営を伸ばす(破)
観たものを、経営の実務に落とします。
会計は計器盤です。飛行機の計器と同じで、実態を映さない数字では判断できません。経営の十二ヶ条、ドラッカーの五つの質問、アメーバ経営が続きます。
「会計がわからんで経営ができるか」から入り、全員参加の経営の設計へつなぐ流れをおすすめします。
第4部 組織に浸透させる(離)
自分が学んでも、組織が変わらなければ会社は変わりません。
フィロソフィの語り方、五つのディシプリンの実装、同志の場のつくり方、対話と傾聴。ここから先が離の領域です。
主宰する人が、いちばん学ぶは、自社版の読書会を始めたい方に向けた一本です。場をどう設計するかは『稲盛流コンパ』に学ぶで扱っています。
第5部 テクノロジーと歩む(離)
最後が道具です。AIに何を任せ、人は何に集中するか。ERPで計器盤をどう実装するか。
道具を最後に置いたのは、理由があります。同じ道具は誰でも買えるからです。技術だけを追う会社は、互いに似てきます。
ERPは経営の計器盤であるで実装の話を、最新技術を入れるほど、会社は似てくるで似てしまう理由を扱いました。
なぜ、この順番なのか
心から始めて、道具で終わる。この順番は、意図して組んだものです。
私がこのサイトを設計するとき、三つの段階を置きました。見える化、わかる化、儲かる化です。
まず、何があるのかを見えるようにする。次に、それが腹に落ちるまで噛み砕く。その上で、儲かる形にする。
この順序を飛ばして、最後の一つだけを取りに行くと、たいてい続きません。
もう一つ、順番の理由があります。
内から外へ、という原則です。
このサイトの背骨は温故知新ですが、「故き」には二つの層があると考えています。第一層は人類の古典、第二層は自分と自社の歴史です。
古典だけを読むと、同じ本を読んだ全員が同じ結論にたどり着きます。差が生まれるのは第二層、つまり自社の歴史を掘ったときです。
だから第1部で自分の内側から始めました。そして第5部で、自社の歴史と技術を掛け合わせるところに戻ってくる構造にしています。
差別化は、狙って作るものではないと思っています。
世の中をどういうレンズで見て、どんな構造になっていくかを構想し、そこに自分の意志を入れる。その材料が、過去から採掘したものと、学んだものです。
夢中になっているうちに、気がついたら差がついている。そういう順序だと考えています。
終わりから、また始まる
第5部の先に、終章を置いてあります。
道具が変わっても、心を高める、経営を伸ばすという構造は変わらない。テクノロジーを学んだ先で、もう一度「なぜ学ぶのか」に戻る。そういう章です。
図2 学びの円環——終章から序章へ戻り、二周目が始まる
易経では、六十四卦の最後が「火水未済」、つまり未完成で終わります。人生に完成はない、という思想です。
学びも同じで、終わりがありません。だからこそ続けられる、とも言えます。
一周目より二周目のほうが、同じ記事から取り出せるものが増えているはずです。己の為に学ぶは、その周回の入口にあたります。
つまずきやすいところ
最後に、私自身がつまずいた点をお伝えします。
全部読もうとしないこと。
二十三章あります。順番に全部読んでから実践しよう、と考えると、まず終わりません。私はそれで一度止まりました。
一本読んだら、自社で一つ試す。それが破です。試して合わなければ、また読み直す。この往復のほうが、通読より早く身につきます。
現在地は、人によって違います。
すでに古典を読み込んでいる方は、第1部を飛ばして第4部から入っても構いません。逆に、実務の道具は揃っているが判断に迷うという方は、第1部に戻る意味があります。
このサイトは塾ではありません。私が先生で、読む方が生徒という関係ではないと思っています。
同じものを学んでいる同志です。私もまだ、この二十三章を往復している最中です。
よくある質問
Q. どこから読むのがいいですか。
迷ったら「心を高める、経営を伸ばす」から読んでみてください。このサイト全体の背骨にあたる記事です。
すでに関心のあるテーマが決まっている方は、そこから入って構いません。
Q. 全部読む必要がありますか。
ありません。二十三章は地図であって、課題図書ではありません。
いま自分が困っていることに近い部から読み、必要になったときに別の部へ移る。そういう使い方を想定しています。
Q. 守・破・離の順に進まなければいけませんか。
いいえ。三段階は往復するものです。一つの型を受け取ったらすぐ試し、うまくいかなければ型に戻る。
この行き来を繰り返すうちに、少しずつ自分の形になっていきます。順番を守ることより、往復の回数のほうが効きます。
この記事は、経営者・役員・リーダーのための学習サイト「NEW BUSINESS ENGINEERING LABORATORY」の案内記事です。
私自身が学んできたことを、同じように学ぶ方と分かち合うために書いています。
