差別化は、狙って作れない——売上を決めているのは、立地かもしれない

前回は、世の中を見る三枚のレンズ——大枠・分布・普遍——を訪ねました。では、レンズを磨いたあと、何を決めればいいのか。同じ講演の後半で、岡本吏郎先生は打ち手の側の当たり前について語っています。そこで最初に出てくるのが、多くの経営者がいちばん力を入れている言葉を、真正面から否定する話でした。差別化です。

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差別化は、努力するほど遠ざかる

先生は、ビジネスの自明の二つ目としてこう言います。ビジネスというのは競争相手からシェアを奪うことではありません、と。

シェアの奪い合いは、コストばかりかかって割に合わない。それをやらないで勝つから面白い、というのが先生の見方です。やるべきは、競争相手より収益を上げること。そのために何を工夫するか、という話になります。

ところが現場で起きるのは、その逆です。「差別化だ差別化だって努力すれば努力するほど、大体ろくなことにならないんですよ」。人と違うことをしようと全員が努力した結果、みんなが同じ方向に走ってしまう。先生はある自動車ブランドを例に挙げました。かつて安全の代名詞と言われていたのに、格好よくしようと努力を重ねるうちに、その代名詞ではなくなってしまった、と。

差別化を狙った努力が、差別化を消していく。これは私たちの業界でも見慣れた光景です。新しい手法が話題になると、みんなが同じ手法を導入し、半年後には横並びになっている。

もう一つ、先生が繰り返すのが持続性です。世の中の成功事例を見ていると「持続的じゃないものが多いんですよ見ててね、打ち上げ花火だってわかっちゃうもんね」。今年がいい、では意味がない。人生は短いけれど、それなりに長い。その全部で書かなければいけない、と先生は言います。

差別化を狙う努力が、差別化を消していく 狙って作ろうとすると 人と違うことをしようとする みんなが同じ方向へ走る 横並び・コスト増 結果として生まれるとき 自分の生存ポイントを知る そこを意図的に組み立てる 気がついたら違っている 差別化は目的ではなく、当たり前を積み重ねた結果として現れる 出典: 岡本吏郎先生の講演(2016年・マンスリーCD収録)の内容をもとに作図

図1 差別化の二つの道——狙って作ろうとすると横並びになり、生存ポイントから組み立てると結果として差が現れる

では、何が売上を決めているのか

差別化でないなら、何が決めているのか。先生の答えは、身も蓋もありません。立地です。

先生は、日本中のほとんどの会社さんの売り上げは立地が決めているだけだ、と言い切ります。先生自身、これは多少過激に言っているだけで、そうでないことは承知していると断っています。それでも、あえてそう言い切るだけの実感があるということです。

印象的な例が語られます。ある医院が、顧客サービスを高めて患者を増やしたいという理由で、待合室を禁煙にしたいと相談してきた。先生は、待合室を禁煙にして診療報酬が増えるのか、と問い返します。そのうえで地図を出してもらい、その医院の場所と、周辺の同業がどこにあるかを全部確認しました。

打ち手を検討する前に、まず自分がどこに立っているかを見る。ここで先生が使うのが、生存ポイントという言葉です。自分の生存基盤は何なのか。腕がいいからうちは大丈夫だと言っていた経営者が、実は立地に支えられていたと気づく、ということは珍しくありません。

「みんなそれぞれ生存ポイントって違います。だからこれがわかってないと戦えません」。同じ業種でも生存ポイントは案外違う、と先生は言います。そして、こう続けます。「自社が目指している本質は何か、それをどこで生かせば強みになるのか、この検証というのは絶対に必要ですよね」。

隣がやっているから、という理由で打ち手を選ぶと、必ずずれます。ずれるのは、隣の生存ポイントと自分の生存ポイントが違うからです。

関係性は、偶発的な学習から生まれる

次に来るのが、学習です。先生は、全ての人は学習している、と言います。

ここでいう学習は、勉強のことではありません。学習の多くは偶発的なものだ、と先生は言います。トンネルの崩落事故が起きれば、途端にトンネルが怖くなる。ブランドを選ぶのも、間違いがなかったという学習の結果です。お客様は日々、意識しないまま学習を積み重ねています。

先生は、ある動物病院のアンケートを紹介しました。来院理由でいちばん多かったのは、家から近いこと。つまり立地です。そして残りの回答の多くは、話をよく聞いてくれる、説明がわかりやすい、といったものでした。項目は細かく分かれていましたが、まとめてしまえば、コミュニケーションがうまくいっているかどうか、という一点に集約されます。

ここで先生は、アンケートの読み方についても釘を刺します。同じアンケートで、看板を見て来たという回答はごくわずかでした。だからといって看板に意味がないわけではありません。看板の効果は絶大なのに、アンケートを取るとこうなる、と先生は言います。人は自分がなぜそこを選んだかを、正確には答えられないのです。

そして核心です。「商売においてはこの関係性っていうのはもう絶対なんです。この関係性っていうのは何か生まれるか、偶発的学習から生まれるんです」。しかも「これが無意識的に起きてるんです」。お客様の好き嫌いは偶発的学習からできていて、先生はそれを怖いことだと言います。「おっかないのが一度構築されるとほぼ一緒なんですよね」。

だから、関係性は道具では作れません。データベースを構築すれば関係性が作れるわけではない、と先生は言います。それは関係性という広い世界のなかの、たった一つの道具でしかないからです。

お客様の中で起きていること 日々の小さな体験 (意図されていない) 偶発的学習 無意識に起きている 関係性・好き嫌い 一度できると変わりにくい お客様は「なぜ選んだか」を正確には答えられない アンケートの回答と、実際に効いている要因はずれる 道具を入れれば関係性ができる、わけではない 気づけばコントロールできる余地が生まれる、というのが講演の要点

図2 偶発的学習と関係性——無意識のうちに積み重なり、一度できあがると変わりにくい

打ち手は、意図的に組み立てる

ここまで聞くと、経営者にできることは何もないように思えてきます。しかし先生は、そこで終わりません。気づけば、コントロールできるようになる、と言います。

一つの王道として挙げられるのが、スイッチングコストです。他へ乗り換えるときに失われるものが大きいほど、関係性は続きます。ただし、立地がたまたまスイッチングコストになっている場合、それは実力ではありません。「運が良かったって話です」と先生は言い切ります。そして続けます。「そうじゃなくてそれをどう意図的に組み立てるかっていうのが経営。だと思うんですね僕は」。

もう一つが、戦う場所の選び方です。先生は、市場が小さく競争相手の参入がないところを基本に挙げます。利益が溜まっている領域は、必ず見つけられて人が押し寄せます。かつて空いていた分野が、十年もすれば混み合うのは、そういう理屈です。

それでも「小さい市場が美味しいです」と先生は言います。問題は、みんな大きいほうへ行きたがることです。ある事業者が、隣接する儲かりそうな分野へチラシを撒こうとしたとき、先生はやめさせました。その分野には、圧倒的に優れた事業者が敵としている。それより、今の仕事を通じて自然に依頼が来る形を維持するほうがいい、という判断です。

差別化を狙うのではなく、自分の生存ポイントを把握し、乗り換えにくさを意図的に組み立て、小さくても勝てる場所を選ぶ。これが打ち手の当たり前です。

打ち手の三つの当たり前 生存ポイント 自分は何に支えられて 生きているのか 同じ業種でも違う スイッチングコスト 乗り換えにくさを 意図的に組み立てる たまたまなら、それは運 戦う場所 小さく、参入が少なく 自分が勝てるところ 大きい方へ流れない 結果として、差が生まれる 狙って作るのではなく、当たり前を積み上げた先に現れる

図3 打ち手の三つの当たり前——生存ポイント・スイッチングコスト・戦う場所

まとめ——差は、あとからついてくる

この講演の打ち手編を整理すると、こうなります。

差別化は狙って作ろうとするほど遠ざかる。売上を決めているのは、多くの場合、自分が思っている理由ではない。関係性は偶発的な学習から無意識に生まれ、一度できあがると変わりにくい。だから経営者にできるのは、自分の生存ポイントを知り、乗り換えにくさを意図的に組み立て、勝てる場所を選ぶことです。

私はここに、このサイトで書きつづけている考え方と同じものを見ます。差別化は目的ではなく、結果です。自分が何者かを知り、当たり前を積み重ね、夢中でやっているうちに、気がついたら人と違っている。順序が逆になった瞬間に、差は消えていきます。稲盛和夫の「心を高める、経営を伸ばす」という言葉も、経営の打ち手がその人のあり方の後ろについてくることを示していると、私は受け取っています。

ここまでで、レンズと打ち手が揃いました。しかし先生の講演には、まだ先があります。同じことを学びつづけていても、ある地点から先には進めない。次の記事では、講演の終盤で語られたイルカの実験を訪ねます。学習には、段が違うものがあるという話です。

よくある質問

Q1. 差別化を目指してはいけないのですか?

目指すこと自体が悪いのではなく、狙って作ろうとすると全員が同じ方向に走り、かえって横並びになる、というのが岡本先生の指摘です。まず自分の生存ポイントを把握し、そこを意図的に組み立てていく。差はその結果として現れる、という順序で考えます。

Q2. 「生存ポイント」とは何ですか?

自社の売上や存続を実際に支えている基盤のことです。立地であることもあれば、特定の関係性であることもあります。同じ業種でも会社ごとに違うため、他社の打ち手をそのまま真似ると必ずずれます。まず自分の生存ポイントを検証することが出発点になります。

Q3. お客様アンケートは役に立たないのですか?

読み方に注意が必要だ、ということです。人は自分がなぜその店を選んだかを正確には答えられません。回答の言葉をそのまま集計すると、実際に効いている要因を見落とします。項目を丸めて構造で読み、実際の行動と突き合わせることが大切です。

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この記事を書いた人

Takuomi Mochidaのアバター Takuomi Mochida 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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