原価800円の商品に、2割を乗せて960円で売る。
狙った利益率は20%でした。
ところが実際に残る利益率は、約16.7%です(数字は架空の例)。
プライシングとは、自社の製品やサービスの価格を決めることです。
価格は、会社に残る利益を直接に動かす経営の意思決定です。
それなのに、「去年と同じ」「原価に2割ほど乗せる」で決まっている会社は少なくありません。
価格は、勘や前例で決めるものではありません。
原価・需要・競合の材料をそろえて決めます。
そして一度で終わらせず、決める→確かめる→直すを回し続けます。
では、その根拠を、社内のどこに残しておけばよいのか。
この記事で分かること
- プライシングの目的と、4つの考え方
- 原価に利益率を「掛ける」と起きる、値付けの計算の誤り
- Excelで足りる段階と、システムが要る段階の見分け方
- NetSuiteで価格を決め、確かめ、直す仕組み
- 1商品群・1KPIで90日回す、見直しの始め方
プライシングとは|なぜ経営に直結するのか
プライシングは、利益率だけを追う作業ではありません。
顧客にとっての価値や、競合との違いを考えて価格を決めます。
目的は、大きく4つに分かれます。
- 売上・利益を大きくする
- 市場のシェアを広げる
- 顧客の満足を高める
- ブランドの印象をつくる
どの目的を優先するかで、同じ商品でも価格は変わります。
値決めは現場の作業ではなく経営の判断です。
だからこそ、根拠を説明できる状態が要ります。
プライシングの4つの考え方
価格の決め方には、代表的な4つの考え方があります。
どれか一つが正解ではなく、商品の性質に応じて組み合わせます。
| 考え方 | 価格の決め方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| コスト志向型 | 原価に一定の利益を上乗せ | 原価管理が欠かせない製造業など | 顧客の感じる価値や競合を反映しにくい |
| 需要志向型 | 顧客のニーズや市場調査にもとづく | 価値が伝わりやすい商品・サービス | 需要をつかむデータの分析が要る |
| 競争志向型 | 競合の価格を参考にする | 価格差が効く市場 | 価格競争に陥り、利益を削りやすい |
| 心理的価格設定 | 顧客の値ごろ感に合わせる | 小売・消費者向けの商品 | 単独では使わず、ほかと併用する |
心理的価格設定の例では、9,800円と10,000円があります。
差は200円でも、受ける印象は大きく変わります。
どの考え方でも、土台は正確な原価と、顧客・市場の動きをつかむデータです。
原価に利益率を「掛ける」と、利益率が下がる
冒頭の数字を、計算で追います(すべて架空の例です)。
- 原価800円の商品を、利益率20%で売りたい
- 誤り:800円×1.2=960円 → 利益160円÷売価960円=利益率は約16.7%
- 正しい:800円÷(1−0.2)=1,000円 → 利益200円÷売価1,000円=利益率20%
上乗せの率(マークアップ)と、売価に対する利益率は別の数字です。
1品目なら3ポイント余りの差でも、品目が多い会社ほど積み重なります。
計算の考え方は、利益率の計算方法で扱っています。
値下げで取り戻すには、どれだけ多く売る必要があるか
値下げを考えるときも、先に計算しておく数字があります。
次の数字も、すべて架空の例です。
- 売価1,000円、原価700円、1個の粗利300円の商品
- 10%値下げして900円にすると、1個の粗利は200円
- 同じ粗利の総額を得るには、300÷200=1.5倍の数量が要る
10%の値下げで、数量を5割増やす必要があるということです。
粗利率が低い商品ほど、値下げで取り戻すのは難しくなります。
逆に値上げなら、数量が多少減っても粗利の総額が保てることがあります。
粗利の見方は、売上総利益(粗利)とはで扱っています。
判断の物差し|Excelで足りる段階と、システムが要る段階
| 段階 | 目安の状態 | 価格の管理 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| A. Excelで足りる | 品目が少なく、顧客ごとの価格の違いも少ない | 価格表をExcelで管理し、年に1回見直す | 低。価格と実績が別々の表にある |
| B. 見直しの時期 | 顧客別・数量別の価格が増え、例外が口頭で決まる | 価格表と受注の突き合わせに時間がかかる | 低〜中。データが散らばり、点検から始まる |
| C. システムが要る | 品目・顧客が多く、改定の効果を月次で見たい | 価格の決まりと販売の実績を同じ仕組みで持つ | 高。価格と粗利のデータがそろい、偏りの点検をAIに任せやすい |
Bの段階で起きやすいのは、「誰がいつ、なぜこの価格にしたか」が残らないことです。
根拠がデータに残らないと、見直しの議論が毎回ゼロから始まります。
冒頭の問いへの答えは、ここにあります。
価格の根拠は、販売の実績と同じ場所に残すのです。
その場所は、NetSuiteに限りません。
- Aの段階:まず原価の集計を正確にする。仕組みはExcelで足りる
- Bの段階で販売だけ見直す:国産の販売管理システムや、Odooの販売の機能で足りる場合もある
- 価格の決め方が独自:既製の仕組みに合わなければ、AIスクラッチ開発も選択肢になる
- Cの段階:原価・受注・会計を一つで持ち、価格の効果を利益まで追いたいならNetSuiteが合う
状態から逆に引くと、次のとおりです。
NetSuiteで価格を「決める→確かめる→直す」を回す
NetSuiteは、世界220地域・44,000社以上で使われているクラウドERPです(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。
ERPとは、会計・販売・在庫・購買など会社の仕事を一つの仕組みで管理するシステムのことです。
仕入から受注・出荷・請求までを同じデータで扱えます。
Oracleのヘルプに載っている価格の機能は、次のとおりです(2026年9月確認)。
| 機能 | できること |
|---|---|
| 複数の価格(Multiple Pricing) | 品目ごとに複数の価格レベルを持つ。最大1,000。顧客ごとに価格レベルを割り当てる。オンライン用の価格も持てる |
| 数量による価格(Quantity Pricing) | 買う数量に応じて価格を自動で変える |
| 価格グループ(Pricing Groups) | 品目のグループごとに、顧客別の価格レベルを決める |
| Advanced Pricing | 顧客・品目・期間の条件で、価格レベルを自動で当てる価格ルール。原価に上乗せ・割引の率を決めるCost+ |
出典はMultiple Pricing、Item Pricing、Advanced Pricing Overviewの各ヘルプです。
価格レベルとは、「標準」「卸」「大口」のように分けた価格の段階のことです。
決める|顧客・数量・期間で価格を分ける
地域や顧客の区分ごとに、価格を変えたい場面があります。
価格レベルと数量による価格で、きめ細かく設定できます。
Advanced Pricingの価格ルールを使うと、期間を区切った価格も自動で当てられます。
確かめる|販売のデータで効果を見る
価格の判断には、過去の販売のデータが欠かせません。
NetSuiteでは、受注・原価・会計のデータが同じ仕組みにあります。
品目別・顧客別の粗利を集計し、改定の影響を見積もる材料をそろえられます。
Advanced Pricingには、価格の分析のワークブック(Sales Pricing Overview)があります。
品目別の価格の差や、価格レベル別・価格ルール別の売上を見られます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ)。
直す|AIの助けも使う
ヘルプでは、Advanced Pricingが、利益率を守り機会を見つけるための価格のインサイトをAIで示すと説明しています。
2026年2月11日の公式発表では、AIの支援つきの価格設定が紹介されました。
期間・品目の組み合わせ・顧客の区分で価格を決め、方針にもとづく価格を一元で管理する内容です。
発表では、世界の顧客に提供中とされています(出典:Oracle NetSuite公式発表、2026年9月確認)。
日本のアカウントでの使い方は、アカウントの担当に確認します。
価格の土台になる原価と需要の見方は、CVP分析(損益分岐点分析)と販売予測で扱っています。
これから仕組みにする会社と、NetSuiteで見直す会社
これからシステムで価格を管理する会社
- いまの価格表と、顧客ごとの例外を書き出す
- 例外を「数量」「顧客の区分」「期間」のどれで説明できるかに分ける
- 説明できない例外は、残すかやめるかを決める
システムに載せる前に例外を減らすほど、設定は単純になります。
NetSuiteを使っていて、価格の管理を見直す会社
価格レベルと数量による価格で回すうちに、例外が増えることがあります。
その場合はAdvanced Pricingの価格ルールが候補です。
ただし、ヘルプには注意書きがあります。
Advanced Pricingは初期は無効で、有効にすると品目のレコードが大きく変わります。
(出典:Oracle NetSuiteヘルプ)。
サンドボックス(本番と別の試験用の環境)で、受注の画面の動きを試してから切り替えます。
価格戦略でよくある3つの失敗
失敗1:勘と前例だけで値段を決める
起きること:「去年と同じ」「原価に少し乗せる」「最後は社長の感覚」で決まり、値上げも値下げも怖くて動けない。
原因:価格の根拠を、言葉とデータで説明できない。
避け方:原価・需要・競合の材料をそろえ、「なぜこの価格か」を1行で書ける状態にします。
失敗2:原価を正確に知らないまま価格を決める
起きること:売れているのに利益が残らない。どの商品が儲かっているか分からない。
原因:間接費が原価に入っていない。上乗せの率と利益率を取り違えている。
避け方:価格の前に、原価の集計を整えます。
原価の考え方は、全体最適な原価計算と原価管理と個別原価計算と総合原価計算で扱っています。
失敗3:価格を「決めて終わり」にする
起きること:何年も見直していない。改定の効果も分からないままになる。
原因:改定の前後を比べる数字を決めていない。
避け方:改定の前に、比べる数字(粗利率・数量・顧客数)と時期を決めます。
3か月後に比べる予定を、改定と同じ日に入れておきます。
ベンチャーネットならこう見る|1商品群・1KPIの90日
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、特定の製品に誘導しない立場です。
NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。
価格の相談で、仕組みの話より先に聞くのは次の3つです。
- いちばん粗利を削っている顧客・商品はどれか:値引きの例外から見る
- 原価は間接費まで入っているか:入っていなければ、価格より原価が先
- 改定の効果を誰がいつ見るか:決まっていなければ、仕組みを入れても回らない
答えが出たら、全商品を一度に見直しません。
次の2つの型で、1周目を回します。
型1:1商品群・1KPIに絞り、最短90日で1周目
見直す商品群を1つ選びます。
追う数字も、粗利率なら粗利率の1つに絞ります。
決める→確かめる→直すを、最短90日で1周させます。
失敗3の「3か月後に比べる予定」は、この1周目の締めくくりにあたります。
数字が動いたら、次の商品群に広げます。
動かなければ、原価の集計か、例外の扱いか、どこで崩れたかを見ます。
1周目の流れを図にすると、次のとおりです。
型2:営業の判断とAIの提案を、同じ条件で比べる
AIが価格のインサイトを出せるようになっても、いきなり任せません。
同じ商品・同じ期間で、営業が決めた値引きとAIの提案を並べます。
どちらが粗利を守れたかを見れば、AIに任せてよい範囲が社内の言葉で決まります。
そのうえで、Excelで回すか、販売管理を見直すか、NetSuiteで利益まで追うかを決めます。
今日できること|上位10社の「値引きの理由」を埋める
売上の上位10の顧客について、次の表を埋めてください(1時間以内)。
| 顧客 | 標準の価格との差 | その理由 | 決めた人 |
|---|---|---|---|
| (例)A社・商品X | −8% | 大口のため | 営業部長 |
「理由」と「決めた人」が埋まらない行が、価格の根拠が消えている場所です。
その行のある商品群が、1周目の候補になります。
よくある質問
Q1. 自社の価格は、何を基準に決めればよいですか
原価・需要・競合・顧客の心理の4つが基本の材料です。
商品の性質に応じて組み合わせます。
目指すのは、「なぜこの価格か」を説明できる状態です。
Q2. 値上げで顧客が離れるのが怖いです
怖さの多くは根拠がないまま動くことから来ます。
提供している価値と原価の構造をデータで押さえると、判断の精度が上がります。
一律に上げず、対象や幅を分けて考えることもできます。
Q3. 価格を変えた後、効果はどう確かめますか
改定の前後で粗利率と数量を比べます。
比べる数字と時期は、改定の前に決めておきます。
NetSuiteなら、受注と原価のデータから品目別・顧客別の粗利を集計できます。
Q4. 原価に利益率を掛けて値付けしてはいけないのですか
売価に対する利益率が狙いより下がります。
原価800円に20%を掛けると960円で、利益率は約16.7%です(架空の例)。
利益率20%にするなら、800円÷0.8=1,000円です。
Q5. NetSuiteで顧客ごとに価格を変えられますか
価格レベルを顧客ごとに割り当てられます。
数量による価格や、品目のグループごとの顧客別の価格もあります。
条件が複雑な場合は、Advanced Pricingの価格ルールが候補です。
Q6. Excelの価格表から移すタイミングはいつですか
顧客別・数量別の例外が口頭で決まり始めたときです。
価格表と受注の突き合わせに時間がかかるなら、見直しの時期です。
Excelからの移り方は、ExcelからNetSuiteへ移行すべきタイミングで扱っています。
まとめ
- プライシングは、会社の利益を直接に動かす経営の意思決定
- 4つの考え方(コスト・需要・競争・心理)を組み合わせる
- 上乗せの率と利益率は別の数字。原価に利益率を掛けない
- 価格の根拠は、販売の実績と同じ場所に残す
- 見直しは、1商品群・1KPIに絞って最短90日で1周目を回す
960円で売って、残るのは約16.7%。
その差に気づくところから、値決めはチームで判断できるものに変わります。
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