「クラウドにすれば、安くなる」
そう考えて移り、数年後に利用料の総額がオンプレミスを上回る。
そんな会社もあります。
クラウドシステムとは、インターネットを通じて使う情報システムのことです。
自社でサーバーやソフトを持たなくても、ネットにつながれば使えます。
安くなるかどうかは、置き場所では決まりません。
何を事業者に任せ、何を自社で持つか。
クラウドを選ぶとは、この線を引くことです。
では、自社はどこに線を引けばよいのか。
この記事で分かること
- クラウドシステムの定義と、SaaS・PaaS・IaaSの違い
- オンプレミスとの違い(費用・導入期間・運用)
- クラウドの代表例「クラウドERP」の位置づけ
- 自社に合う形の選び方と、よくある3つの失敗
- オンプレミスを使っていて、更新を迎える会社の考え方
(読了時間の目安:約10分)
クラウドシステムとは
オンプレミスとの違い
従来は、自社の中にサーバーを置き、そこにソフトを入れて使うのが一般的でした。
これをオンプレミス(自社設置型)と呼びます。
クラウドシステムでは、サーバーやソフトを提供事業者がインターネット上で管理します。
利用者は、必要なときに必要なだけ使えばよくなりました。
Webメールやオンラインのファイル保管も、身近なクラウドシステムです。
会社の基幹業務を支える大きなシステムも、いまはクラウドで提供されています。
国際的に使われている定義
クラウドの定義として広く参照されるのが、米国国立標準技術研究所(NIST)の定義です。
NISTは、クラウドを「5つの特徴・3つのサービスモデル・4つの配置モデル」で説明しています。
(出典:NIST「The NIST Definition of Cloud Computing」SP 800-145、2026年9月確認)
5つの特徴は、次のとおりです(日本語は本記事の訳)。
- オンデマンド・セルフサービス:利用者が自分で、必要なときに使い始められる
- 幅広いネットワークアクセス:ネット経由で、さまざまな端末から使える
- リソースの共用:事業者の設備を、多くの利用者で分け合う
- 迅速な伸縮性:利用量に合わせて、すばやく増やしたり減らしたりできる
- サービスの計測:使った量が測られ、見える
この5つがそろうほど、「クラウドらしい」仕組みです。
サーバーを外に置いただけでは、そろわないこともあります。
クラウドシステムの種類|どこまで任せるか
SaaS・PaaS・IaaS
クラウドは、事業者が提供する範囲によって3つに分かれます。
NISTの定義の「3つのサービスモデル」にあたります。
- SaaS(サース):完成したソフトをそのまま使う形。メールや会計ソフトなど
- PaaS(パース):アプリを開発するための土台を借りる形。開発者向け
- IaaS(イアース):サーバーやネットワークなどの基盤だけを借りる形
3つの違いは、どこまでを事業者に任せるかにあります。
| 形 | 事業者が持つ範囲 | 自社が持つ範囲 | 向く使い方 |
|---|---|---|---|
| SaaS | 基盤からソフトまで | 設定・データ・使い方 | 業務ソフトをすぐ使いたい |
| PaaS | 基盤と開発の土台 | 自社で作るアプリとデータ | 独自のアプリを作りたい |
| IaaS | サーバー・ネットワーク | OS・ソフト・データのすべて | 既存のシステムを載せ替えたい |
| オンプレミス | なし | すべて | 社外に置けない要件がある |
SaaSは最も手軽で、専門の知識が少なくても使えます。
PaaSやIaaSは自由度が高い分、扱うには技術の知識が要ります。
AIの取り入れ方も、任せる範囲で変わります。
SaaSは、事業者の更新でAIの機能が届きやすい形です。
PaaSはAIの部品を組み込みやすい反面、作る力が要ります。
IaaSやオンプレミスでは、AIとつなぐ仕組みを自社で一から用意します。
多くの会社がまず使うのはSaaSです。
第4章で扱うクラウドERPも、SaaSに含まれます。
パブリック・プライベートなどの配置の違い
NISTは、クラウドの配置を4つに分けています。
- パブリック:多くの利用者で共有する
- プライベート:1つの組織が専用で使う
- コミュニティ:共通の目的を持つ組織で共有する
- ハイブリッド:これらを組み合わせる
ERPの場合、同じ「クラウド」でも、次の2つは中身が違います。
- 全利用者が同じ基盤を共有する形(マルチテナント型)
- 会社ごとに専用の環境を用意する形(プライベートクラウド型)
前者は、事業者の更新が全利用者に届きます。
後者は、自社の予定に合わせて更新しやすく、作り込みもしやすくなります。
どちらが優れているかではなく、自社が何を優先するかで選びます。
オンプレミスとの比較とメリット
| 比較の軸 | クラウドシステム | オンプレミス(自社設置型) |
|---|---|---|
| 初期費用 | 抑えやすい | 設備の投資が要りやすい |
| 導入期間 | 短い期間で始めやすい | 設計・構築に時間がかかりやすい |
| 拡張性 | 利用量に応じて増減しやすい | 増設に手間と費用がかかる |
| 保守・運用 | 事業者が担う部分が多い | 自社で担う |
| 災害への備え(BCP) | 遠隔でデータを守りやすい | 自社の設備が被災するリスクがある |
| 作り込みの自由度 | 事業者の決めた範囲の中で | 高い |
BCPとは、災害などが起きても事業を続けるための備えのことです。
表から見えるクラウドのメリットは、4つです。
- 初期の投資を抑えられる:サーバーなどの資産を持たず、機器の購入や維持の費用が軽くなる
- 短い期間で使い始められる:事業の変化に、すばやく対応できる
- 場所を問わず使え災害にも強い:リモートワークでも業務を進められ、データは遠隔で守られる
- 小さく始めて広げられる:必要になった機能を、事業の成長に合わせて後から加えられる
一方で、高度な作り込みが欠かせない場合は、オンプレミスが向くこともあります。
冒頭の「安くなる」は、初期費用の話にすぎません。
総額の話は、第6章の失敗1で扱います。
代表例「クラウドERP」とNetSuite
クラウドERPとは
ERP(Enterprise Resource Planning)とは、会計・販売・在庫など、会社の主な業務を1つの仕組みでつなぐシステムです。
これをクラウドで使えるようにしたものが、クラウドERPです。
以前はオンプレミス型が主流でしたが、いまはクラウド型が広がっています。
この記事が扱うのは、クラウドシステム全般の入口です。
クラウドERPの提供形態・選び方の判断軸・合う会社の条件は、クラウドERPとは?で詳しく扱っています。
基幹システムとERPの違いは、基幹システムとERPの違いとは?をご覧ください。
NetSuiteの概要
クラウドERPの代表例の1つが、Oracleが提供する「NetSuite」です。
財務・販売・在庫・eコマースなどの業務を、クラウド上で一元管理する統合型のシステムです。
世界220地域・44,000社以上で使われています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月確認)。
190通貨・27言語に対応しています。
クラウドERPの先駆けとして知られ、Oracleは「#1 AI Cloud ERP」とうたっています。
料金の考え方は、NetSuiteの料金・費用・ライセンス体系で扱っています。
判断の物差し|自社に合う形を選ぶ
クラウドが向いている会社・向いていない会社
向いている会社
- サーバーの管理を担う人が社内にいない、または足りない
- 拠点が複数あり、どこからでも同じデータを見たい
- 事業の変化が速く、使う範囲を後から広げたい
向いていない会社
- 法令や取引先の条件で、データを社外に置けない
- 今の業務のやり方を、細部まで変えずに続けることが最優先
- ネット回線が不安定な現場で、止まらずに動くことが欠かせない
基幹業務なら、どの道があるか
| 選択肢 | 合う条件 | 注意点 |
|---|---|---|
| NetSuite(マルチテナント型のクラウドERP) | 複数の業務・拠点を1つにつなぎたい。更新は自動で受け取りたい | 標準の業務の型に合わせる姿勢が要る |
| Odoo | 必要なアプリから小さく始め、費用を抑えて広げたい | 設計と運用を担う体制が要る |
| 国産ERP(プライベートクラウド・オンプレミス) | 日本の商習慣や業種の要件を、作り込んで生かしたい | 作り込むほど、更新の負担が増えやすい |
| AIスクラッチ開発 | 独自の業務そのものが事業の強み | 作った後の保守を誰が担うかを先に決める |
| いまは替えない | 今のシステムが業務に合い、保守期限にも余裕がある | 期限の前に、次の判断の時期を決めておく |
比べ方は、ERP・クラウドERPを徹底比較でまとめています。
これから選ぶ会社、オンプレミスで更新を迎える会社
これから選ぶ会社は、最初に何のために入れるかを1つに絞ります。
そのうえで、課題に合っているか、いまの仕組みとつながるか、導入後に相談できる相手がいるかで比べます。
選定の進め方は、NetSuite導入で失敗しないERP選定ガイドで扱っています。
オンプレミスの会社にとって、機器やソフトの保守期限は大きな節目です。
次の3つの道を並べて比べます。
- 同じ製品の新しい版に、オンプレミスのまま更新する
- 同じ製品のクラウド版(プライベートクラウドなど)へ移す
- 別のクラウドERPに乗り換える
比べるときは、5年ほどの総額と、これまでの作り込みをどこまで持っていくかを見ます。
作り込みをすべて持っていく前提だと、クラウドの利点が小さくなるからです。
3つの道と比べる物差しを図にすると、次のとおりです。
乗り換えの進め方は、基幹システムのリプレイスとは?で扱っています。
よくある3つの失敗
失敗1:「クラウドにすれば安くなる」と思い込む
起きること:初期費用は下がったが、数年たつと利用料の総額がオンプレミスを上回った。
原因:初期費用だけで比べ、ユーザー数やオプションの増加を見込んでいなかった。
避け方:5年ほどの総額で比べます。
ユーザー数が増えた場合の費用も、見積もりで聞いておきます。
費用の相場は、クラウドERPの費用・料金相場で扱っています。
失敗2:オンプレミスと同じ作り込みを、クラウドに求める
起きること:追加の開発が膨らみ、事業者の更新のたびに動作の確認に追われる。
原因:今の業務のやり方を、すべて再現することを前提にしていた。
避け方:業務を「標準に合わせる」「どうしても残す」に仕分けます。
残す部分だけを、決められた拡張の方法で補います。
失敗3:事業者任せにして、安全面とデータの出口を見ない
起きること:解約や乗り換えのときに、データの取り出し方が分からず手間取る。
原因:「クラウドだから事業者が全部やってくれる」と考えていた。
避け方:契約の前に、事業者の安全対策の体制と、データを外に出す方法(APIやファイルの書き出し)を聞きます。
APIとは、外部のシステムとデータをやり取りするための窓口のことです。
失敗の型の全体は、ERP導入はなぜ失敗するのかで扱っています。
ベンチャーネットならこう見る|「変わること」を先に並べる
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱っています。
SAPからのリプレイスにも対応しています。
国産ERPやフルスクラッチも含め、どれが優れているかではなく、それぞれに長所があるという立場です。
クラウドの相談で、最初に聞くのは次の3つです。
- 事業者に任せたいのは、サーバーの管理か、更新か、業務の型そのものか
- 法令や取引先の条件で、社外に置けないデータはないか
- いまの追加開発のうち、本当に要るものはどれか
型:「任せられること」と一緒に「変わること」を渡す
クラウドに移ると、任せられることが増えます。
その裏で、変わることもあります。
ベンチャーネットは、この2つを同じ場で並べてお伝えします。
任せられること
- サーバーの管理と入れ替え
- 定期的な更新
- 災害への備え
変わること・注意が要ること
- 利用料は毎年かかり、構成によってはいまより上がることがある
- 帳票の形や、締め処理の考え方が、いまと違うことがある
- 画面の操作感が変わる。作り込んだ部分は、更新のたびに動作を見る
2つを並べて図にしました。
安く見える話でも、後から「変わること」を知れば「話が違う」になります。
先に並べておけば、失敗1と失敗2は避けやすくなります。
比べた結果、「いまは替えない」という答えになることもあります。
今日できること|1時間で「任せたいもの」を書き出す
今使っている業務のシステムを、次の表に書き出してみてください。
| システム | 置き場所・保守期限 | 管理している人 | 事業者に任せたいか |
|---|---|---|---|
| (例)販売管理 | 社内サーバー・2027年3月 | 情シス1名 | はい(管理の人手が足りない) |
保守期限が近く、「はい」が付いたシステムが、クラウドを検討する最初の候補です。
期限を書き出すだけでも、判断の時期が見えてきます。
よくある質問
Q1. クラウドシステムとオンプレミスは、どちらがよいですか
任せたいものと社外に置けないデータで決まります。
初期費用を抑え、短い期間で始めたい場合は、クラウドが向きやすいです。
高度な作り込みが欠かせない場合や、データを社外に置けない場合は、オンプレミスが選ばれることもあります。
Q2. SaaS・PaaS・IaaSの違いは何ですか
事業者にどこまでを任せるかの違いです。
SaaSは完成したソフトを使う形、PaaSは開発の土台を借りる形、IaaSは基盤だけを借りる形です。
業務ソフトをすぐ使いたい会社には、SaaSが手軽です(第2章)。
Q3. クラウドシステムの導入には、どれくらいの期間がかかりますか
オンプレミスより短い期間で始めやすいのが一般的です。
ただし、使う範囲や業務の複雑さで、必要な期間は変わります。
小さく始めて段階的に広げると、立ち上げの負担を抑えられます。
Q4. クラウドシステムとクラウドERPは、何が違いますか
クラウドERPはクラウドシステムの一種です。
会計・販売・在庫など、会社の主な業務を1つにつなぐERPを、SaaSとして使う形です。
仕組みと選び方は、クラウドERPとは?で扱っています(第4章)。
Q5. クラウドシステムは、安全面が心配です
事業者の体制を見て自社の要件と照らして判断します。
広く使われるクラウドの多くは、安全対策の体制を備えています。
自社でサーバーを管理するより、安全性が高まる場合もあります。
あわせて、データを外に出す方法も聞いておきます(第6章)。
Q6. オンプレミスのERPを使っています。更新とクラウドへの乗り換え、どちらがよいですか
5年ほどの総額と作り込みの扱いで比べます。
作り込みをすべて持っていく前提だと、クラウドの利点は小さくなります。
保守期限から逆算して、比べ始める時期を決めておきます(5-3)。
まとめ
- クラウドシステムは、ネット経由で使う情報システム。サーバーやソフトは事業者が管理する
- 種類はSaaS・PaaS・IaaS。違いは「どこまで事業者に任せるか」
- 同じクラウドでも、共有型と専用型では、更新の受け取り方と作り込みやすさが違う
- 比べるときは、初期費用ではなく5年ほどの総額で
- 任せられることと一緒に、変わることを先に並べる
「クラウドにすれば安くなる」かどうかは、どこまで任せるかで決まります。
まずは、いまのシステムごとに「任せたいか」を書き出してください。
もう少し詳しく知りたい方へ
クラウドへの移り方は、今のシステムと業務の形によって変わります。
任せたいものの整理から、ご相談をお受けしています。
- クラウドERPの導入を検討している方へ:SaaS型クラウドERP NetSuite導入支援
- NetSuiteの画面を実際に見たい方へ:NetSuite 無料体験デモ
- 自社に合う形を相談したい方へ:お問い合わせ

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