その効率化、順番が逆かもしれない——「行うべき仕事」を先に問う

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効率化の道具は揃った。なのに、この忙しさは何なのか

メールは、速く返せるようになりました。AIが下書きを作ってくれるからです。資料も、見積も、議事録も、以前の半分の時間で仕上がるようになった。効率化の道具は、かつてないほど揃っています。

それなのに、忙しさが減った実感がない。

朝から晩まで何かを処理し、夕方には今日のリストが明日へ繰り越される。処理は確かに速くなったのに、楽になった気がしない。そんなとき、ふと妙な違和感が湧いてきます。

自分はいったい、何を速くしているんだろう——。

この違和感は、正しいのだと思います。ベンチャーネットは、この感覚こそが経営の入口だと考えています。そして実は、この違和感には60年前に名前がつけられています。

60年前の問い——速くする前に、問うべきことがある

経営学者のピーター・ドラッカーは、1963年のハーバード・ビジネス・レビュー誌にこう書きました。そもそも行うべきでない仕事を、高い効率で行うことほど、無駄なことはない、と。

続けてドラッカーは、問題の核心をこう指摘します。「正しく行うこと」(効率)と「正しいことを行うこと」(効果)の混同こそが、根本の問題なのだ、と。

耳の痛い指摘です。私たちは効率化が好きです。メールを速く処理する技術。資料を速く作るテンプレート。会議を短くする方法。どれも役に立ちます。しかしドラッカーの問いは、その一段深いところを突いてきます。

その仕事は、そもそも行うべき仕事なのか。

速くする前に、この問いに答えなければ、私たちは「行うべきでない仕事」を、ただ高速で回し続けることになります。

問いが、長らく実用にならなかった理由

ただ、正直に言えば、この問いは長いあいだ、半分だけしか実用的ではありませんでした。

「行うべきでない」とわかっても、やめられない仕事が山ほどあるからです。

誰かが返さなければならないメール。誰かがやらなければならない月次の集計。誰かが作らなければならない報告書。経営者の仕事として「行うべき」ではなくても、会社の仕事としては消せない。その「誰か」を新たに雇う余裕がなければ、結局、自分でやるしかありません。

つまり、選択肢が二つしかなかったのです。捨てるか、自分でやるか。

捨てられる仕事なら、話は簡単です。しかし現実の仕事の多くは、捨てられない。だから問いは正しいのに、答えが選べない。ドラッカーの問いは60年間、多くの経営者にとって「正論だが、どうしようもない話」でした。

第三の選択肢が現れた

状況を変えたのが、AIエージェントの登場です。

AIエージェントとは、指示を受けて一連の仕事を自分で進めるAIのことです。リサーチ、資料の下書き、データの集計、メールの一次対応、定型処理。「行うべきでないが、誰かがやらねばならない仕事」の受け皿が、人を一人雇う費用とは桁の違う水準で、手に入るようになりました。

これが何を意味するか。

捨てるか、自分でやるか——二つしかなかった選択肢に、「移す」という第三の道が加わったのです。60年間、半分だけ実用だったドラッカーの問いが、2026年、ようやくすべての会社にとって実用の問いになりました。

誤解のないように書き添えます。AIが問いに答えてくれるわけではありません。どの仕事が「行うべき仕事」なのかは、AIには判断できません。受け皿ができただけです。問いを立て、答えを出すのは、これまでどおり人間の仕事です。むしろ、受け皿ができたからこそ、問いから逃げられなくなった、と言うべきかもしれません。

三つの箱に仕分ける

では、実際にどう進めるか。ベンチャーネットは、仕事を三つの箱に仕分けることをおすすめしています。

その仕事は、そもそも行うべきか? 捨てる 行うべきでなく、 実は誰もやらなくて よかった仕事 惰性の定例会議・日報 AIに移す 行うべきでないが、 誰かがやらねば ならない仕事 集計・下書き・定型処理 新しく増えた選択肢 人が行う 判断と責任が重く、 最後まで人に 残る仕事 方針・判断・責任 前提:業務の見える化(何があるかわからないものは、仕分けられない) どの箱に入れるかを決めるのは、AIではなく経営者

図:三つの箱の仕分け。「行うべきか」の問いを起点に、捨てる・AIに移す・人が行うへ仕分ける。AIに移す、が新しく増えた選択肢。決めるのは経営者。

一つ目の箱は、「捨てる」。 行うべきでなく、実は誰もやらなくてよかった仕事です。惰性で続く定例会議、誰も読んでいない日報。この箱の見つけ方と捨て方は、業務を「捨てる」発想の記事と、計画的廃棄の記事で詳しく書きました。

二つ目の箱は、「AIに移す」。 行うべきでないが、誰かがやらねばならない仕事です。ここが今回の主役です。型があり、繰り返しがあり、判断の重みが軽い仕事から移していきます。移し方の考え方は、AIエージェントに仕事を任せる記事で扱っています。

三つ目の箱は、「人が行う」。 判断と責任が重く、最後まで人に残る仕事です。何を残すべきかの線引きは、任せてよい仕事・手放してはいけない仕事の記事に書きました。

そして、この仕分けには前提がひとつあります。仕事の全体が見えていることです。何があるかわからないものは、仕分けられません。業務の見える化が、すべての出発点になります。

もうひとつ、正直に書いておきます。この仕分けは、一度やれば終わりではありません。会社が変われば、「行うべき仕事」も変わります。そして私たち自身、気を抜くとつい「速くする」ほうから手をつけてしまいます。効率化は目に見えて進むので、気持ちがいいからです。だからこそ、定期的に問いに立ち返る仕組みが要ります。半年に一度、三つの箱を並べ直す。それだけで、効率化の向かう先が変わります。

何を行うべきかは、AIには決められない

AIエージェントは、これからも賢くなり続けるでしょう。移せる仕事は増え、移す手間は減っていきます。

しかし、どれだけ受け皿が大きくなっても、変わらないことがひとつあります。「行うべき仕事」を決めるのは、経営者だということです。会社が何のために存在し、どこへ向かうのか。それが決まって初めて、行うべき仕事とそうでない仕事の線が引けます。この判断だけは、移せません。

そして、行うべき仕事が決まったら、次の一歩があります。人を先に、そこへ動かすことです。その順序については、DeNAの1年の実例とあわせて、別の記事で書きました。あわせてお読みいただくと、問いから実行までがつながるはずです。

もし、「三つの箱に仕分けたいが、自社の業務の全体像がそもそも見えていない」という状態でしたら、ベンチャーネットにお声がけください。私たちは、業務の見える化から、AIエージェントで回る設計まで、外の目としてご一緒しています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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