議事録が30分から5分になった。その25分は、どこへ行ったか
AIを使い始めて、はっきり速くなった作業があります。
議事録の整理。資料の下書き。長い文書の要約。以前なら30分かかっていたものが、5分で形になる。この手応えは、多くの会社が実感しているはずです。
では、浮いた25分はどこへ行ったでしょうか。
たいていは、別の作業で埋まります。溜まっていたメール。後回しにしていた見積もり。気づけば、いつもと同じ時刻に会社を出ている。
早く帰れるようになった、というのも一つの答えです。それは悪いことではありません。
ただ、もう一つの使い道があります。その時間で、人に会いに行く。
回りくどい話に聞こえるかもしれません。効率化した時間を、いちばん効率の悪そうなことに使う。しかし、AIが広まるほど、この選択には理屈が立つようになります。
AIが読めるものは、競合も読める
まず、AIが扱えるものを確認します。
AIが得意なのは、テキストになった情報です。議事録、報告書、契約書、Web上の記事、公開されているデータ。文字になっていれば、読んで、まとめて、比べてくれます。
ここに、見落としやすい性質があります。
テキストになった情報は、誰でも同じものを手に入れられる。
自社が調べられることは、競合も調べられます。同じ検索をすれば、同じ資料に行き当たる。同じAIに聞けば、似た答えが返ってきます。道具が広く行き渡るほど、この傾向は強まります。
かつては、情報を集めること自体に手間がかかりました。だから、調べた人が有利になった。いまは、その手間が下がっています。
つまり、AIが普及するほど、テキスト化された情報の希少性は下がっていきます。
誤解のないように書いておくと、これはAIを使わない理由にはなりません。使わなければ、単に遅れるだけです。調べる、まとめる、整理する。ここはAIに任せてよい領域です。
問題は、そこで差がつかなくなる、ということのほうです。
テキストにならない情報は、どこにあるか
では、差がつくのはどこか。テキストになっていない側です。
たとえば、こういうものです。
- 「検討します」と言ったときの、相手の表情
- 予算の話になったときの、わずかな言い淀み
- 決裁者の名前を出したときの、一瞬の間
- 打ち合わせが終わって雑談になった瞬間に出る、本音
- 工場に立って初めて分かる、動線の詰まりや、置き場の散らかり方
どれも、議事録には残りません。「先方は前向きでした」という一行になって終わります。
この情報の性質は、テキスト情報とちょうど逆です。その場にいた人にしか入りません。 競合は手に入れられない。だから希少で、だから判断の材料として効きます。
AIが広まるほど、右側の希少性が上がっていきます。
ここで、以前に書いた記事との関係をはっきりさせておきます。
「会話が消える会社から、会話が資産になる会社へ」では、消えていく社内の会話を録音とAIで残す話を扱いました。記録できるものは記録して、会社の資産に変える。この方針は変わりません。
ただ、あの記事でも触れたとおり、すべてを記録すれば済むわけではありません。全部が残ると分かった場では、人は本音を言わなくなります。記録には、そもそも届かない領域がある。
記録できるものは記録する。記録できないものは、取りに行く。 本記事が扱うのは、後者のほうです。
時間をつくる、配る、使う
ここまでの話は、3つの段階に分けて考えると進めやすくなります。
時間をつくる。 まず、AIに任せられる作業を任せて時間を空けます。社長自身の仕事から手放していく方法は、社長がいちばん忙しい会社で扱いました。
時間を配る。 空いた時間を誰に返すかを決めます。ここを決めていないと、浮いた分は自然に日常業務へ吸い込まれます。工夫した人が損をしない配分の設計は、優秀な社員ほど、AI活用法を隠すで整理しました。
時間を使う。 そして、確保した時間を何に向けるか。本記事が扱っているのが、この3つ目です。
3つは順番につながっています。作らなければ配れず、配らなければ使えません。逆に言えば、使い道が決まっていないと、作る意味も薄れます。
情報が速く流れる会社ほど、この循環は回りやすくなります。その仕組みについては経営の速さは、情報の流れで決まるをご覧ください。
では、誰に会うのか
では、その時間を誰との接点に使うのか。片っ端から会いに行けばよい、という話ではありません。時間を使う以上、選択が要ります。
会うべきなのは、会うことで判断が変わりそうな相手です。
たとえば、こういう場面です。
- 提案が止まっていて、理由が書面から読み取れない相手
- 業界の変化が早く、こちらの前提が古くなっているかもしれない取引先
- 数字は悪くないのに、なぜか続きが出てこない顧客
逆に、要件がはっきりしていて、書面のやりとりで完結する相手に時間をかける必要はありません。そこはむしろ効率化する側です。顧客との接点をどう組み立てるかは、バラバラの施策をやめるで扱っています。
もう一つ、はっきりさせておきます。これは移動を勧める話ではありません。
オンラインの面談でも、成立します。大事なのは足を運ぶことではなく、やりとりに往復があることです。こちらが何か言い、相手が反応し、それを見てまた何か言う。この往復の中に、文字にならない情報が出てきます。一方的な資料送付とメールの返信では、そこが起きません。
もちろん、現場を見なければ分からないこともあります。そのときは行く。判断の基準は、移動時間の長さではなく、往復から何が得られるかです。
営業の時間をどう配分するかという観点は、営業は、人数ではなく「仕組み」で伸ばすに整理があります。
まとめ——効率化のゴールは、時間を減らすことではない
議事録が30分から5分になった。その25分をどうするか。
この問いに答えを持っている会社と、持っていない会社とで、これから差がついていきます。効率化のゴールは、作業時間を減らすことそのものではありません。時間の使い先を、自分で選べるようになることです。
そして、選ぶ先の一つが「人に会う」です。
理由は情緒的なものではありません。AIが広まるほど、文字になった情報は誰の手にも入るようになり、そこでは差がつかなくなる。差がつくのは、文字にならない情報のほうです。そしてそれは、人と直接やりとりした人にしか入りません。
何を求めているのか。何をおもしろいと思うのか。次に何をやりたいのか。こうしたことは、AIの側からは出てきません。人の側にしかない領域については、AIは、欲しがらないでも書きました。
ただ、ここに一つ難しさがあります。
自社にとって、誰に会えば判断が変わるのか。 これが、社内からは案外見えません。付き合いの長い相手ほど「分かっているつもり」になりますし、止まっている案件ほど、理由を聞きに行くのが億劫になります。会うべき相手ほど、後回しになりやすい。
ベンチャーネットは、中小企業の経営を「見える化」し、「わかる化」を経て「儲かる化」へつなぐ伴走を続けてきました。誰との接点に時間を使うかを決めることも、見える化の一部だと考えています。
御社がいま、いちばん会いに行くべき相手は誰でしょうか。一度、外から一緒に並べてみませんか。
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