10年前の自社を、思い出してみてください。2016年です。
求人を出せば、まだ人が来ました。事務はExcelと電話で回り、会議は紙の資料でした。社員は何人だったでしょうか。いまと比べて、多かったでしょうか、少なかったでしょうか。
10年で、道具は変わりました。けれど、いちばん変わったのは道具ではありません。人が採れなくなったことです。そして、次の10年で、その変化はさらに進みます。
2036年ごろの中小企業は、いまより人が少なく、会社の数も少なくなります。予言ではなく、確実に起きることを一つだけ置いた前提です。その前提で「小さいまま強い」を選べる会社と、選べない会社の差は、どこにあるのでしょうか。
確実に起きることは、一つだけ
未来のことで、確実に言えることはほとんどありません。ただ一つ、人口だけは違います。もう生まれている人の数で、ほぼ決まるからです。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」があります。15〜64歳の人口は、2020年の7,509万人から2035年には6,722万人へ(出生中位・死亡中位、確認日2026-09-22)。15年で、約787万人の減少です。
中小企業への影響は、2026年版中小企業白書の概要がそのまま書いています。「中小企業における雇用者数は2040年には2018年比で8割半ばまで落ち込む可能性」。そして「労働供給制約社会の中、人手不足は更に深刻化するおそれ」。
会社そのものも、減っていきます。帝国データバンクの2025年の調査(約27万社、民間調査)では、後継者不在率は50.1%。小規模企業では57.3%でした。半分の会社に、次の代がいません。
つまり、10年後の中小企業は、いまより人が少なく、会社の数も少ない。この前提は、動きません。
ここで、問いが立ちます。人が減る前提で、何を選ぶか。
「仕事が増えたら人を増やす」という設計は、分母が増え続けることを前提にしていました。その分母が、減ります。大きくなることを目指す会社は、目指す先の人がいない。ならば、増やせない前提で、どんな会社を目指すのか。
「小さいまま強い」は、我慢ではなく選択
ベンチャーネットは序章で、「小さい」は弱さではなく戦略だと書きました(成長より生存)。いまの構えの話です。その構えを、10年先まで延ばしてみます。
ベンチャーネットの代表・持田は、2020年の『レバレッジ起業』の第0章に「稲盛和夫になれなかった話」という題をつけました。大きな会社を目指す道を、自分は選ばなかった。その告白から、本は始まります。当時、それは一人の経営者の選択でした。
AI時代の読み替えでは、その選択の意味が変わります。大きくならない、ではなく、小さいまま強い。 人を増やせないから小さいのではなく、増やさなくても強くなれるから小さいままでいる。我慢ではなく、選択です。
図1:競争力は規模から資産へ。右へ移れるかは、減る前に始めたかで決まる。
10年後の中小企業の姿を、ベンチャーネットはこう見ています。
株主・役員・正社員という少数のコアがいる。その周りに、AIによってひたすらタスクを回すAI社員と、成果ベースで自社の資産を築く外部の成果型バーチャル社員がいる。この形を、ベンチャーネットはバーチャル経営と呼んでいます。
この形で、競争力の置き場所が変わります。これまでの競争力は、規模でした。人が多いほど、多くの仕事を受けられた。10年後の競争力は、資産です。判断基準、手順、記録、顧客との関係。これらは人が減っても減りません。むしろ使うほど育ち、次の代に渡せます(資産を育てる経営)。
「考えられる人は少ない」という前提で会社は設計されてきましたが、その前提が変わることは終章の別の記事で書きました。10年後は、その変化が当たり前になっています。少数のコアで、以前なら大人数が要った判断の材料を揃えられる。
ただ、動かさない線が一つあります。判断と責任は、人に残る。AI社員が材料を揃え、問いを立てても、決めるのはコアです。10年経っても、そこは変わりません。
「選べる会社」の条件は、3つ
小さいまま強い、を選べる会社と、小さいまま弱くなる会社。10年後に分かれる差は、いまの規模ではありません。3つの条件です。
図2:選べる会社の条件3つ。規模とは関係がない。
1. 人が減っても回る、仕事の形がある。 人員計画に、人の列だけでなくAI社員と成果型パートナーの列がある。毎週起きる仕事が、渡せる形になっている。人の列には、判断だけが残っている。この形がない会社は、欠員が出るたびに止まります。表の作り方は人員計画にバーチャル社員の列を足すへ。
2. 資産が貯まる仕組みがある。 判断の理由が記録に残り、手直しが手順に戻る。それが別作業ではなく、日々の仕事の副産物として起きている。この仕組みがない会社では、資産は人の頭の中にあり、人と一緒に消えます。
3. 社長の頭の外に、出ている。 判断基準が言葉になっていて、次の代にも、AI社員にも渡せる。事業承継の準備と、AI社員に渡す準備は、ほとんど同じ作業です(事業承継とAX)。後継者がいても、渡すものが頭の中にしかなければ、渡せません。
3つとも、いまの規模とは関係がありません。10人の会社でも、100人の会社でも、条件は同じです。そして3つとも、人が減ってから始めると間に合いません。減る前に、始めておく必要があります。
ちなみに、総務省の「令和8年版情報通信白書」によると、生成AIの効果として「人員不足の解消」を挙げた日本企業は26.8%でした。効率化の61.6%に対して、まだ少ない。多くの会社にとって、AIはまだ「速くする道具」で、「減っても回る形」を作る道具にはなっていません。ここに、10年後の差が生まれます。
ベンチャーネット自身は、10年後をどう見ているか
正直に言えば、ベンチャーネット自身の10年後も、断言はできません。
ベンチャーネットは2005年に設立し、20年あまり、人を増やさずに続けてきました。外部の人と組み、いまはAI社員と組んでいます。3つの条件を、自分たちの会社で回しながら、どこまで小さいまま強くいられるかを試している途中です。
ただ、方向は決めています。規模を追わない。資産を貯める。判断は人に残す。10年後に、同じ人数のまま、いまより良い判断を速くできていれば、それが答えです。
よくある質問
Q. 成長を諦める話ですか?
A. 違います。人数で測る成長を、資産と一人当たりの価値で測る成長に置き換える話です。売上も利益も、伸びて構いません。伸ばし方の前提を、人を増やすことに置かない、というだけです。
Q. 大きくなりたい会社には、当てはまりませんか?
A. 当てはまります。3つの条件は、大きくなる会社にも要ります。人を増やして大きくなる会社ほど、減っても回る形と、資産が貯まる仕組みがなければ、増やした人と一緒に資産が流出します。規模の話ではなく、設計の話です。
まとめ:減る前に、選んでおく
10年後、人は確実に減ります。中小企業の雇用者は2040年に8割半ばまで落ち込む可能性があり、半分の会社に後継者がいません。この前提は動きません。
その前提で選べるのが、「小さいまま強い」という形です。少数のコアが、AI社員と成果型バーチャル社員と働く。競争力は、規模から資産へ移る。人が減っても、資産は減りません。
選べる会社の条件は3つ。人が減っても回る仕事の形があること。資産が貯まる仕組みがあること。社長の頭の外に出ていること。規模とは関係がなく、減る前に始める必要があります。判断と責任は、10年経っても人に残ります。
御社の10年後、人は何人でしょうか。その人数で、いまの仕事は回るでしょうか。回らないなら、何を先に貯めておくべきか。答えは会社ごとに違いますが、問いは同じです。
ただ、この問いは社内では立てにくいものです。「10年後は人が減る前提で設計する」と言うことは、いまの仲間に「増やさない」と伝えることになるからです。増員を求める立場からは出てこず、経営者が一人で言えば押しつけになる。
外から「いま、社長の頭の中にしかないものは何ですか」と聞かれて、はじめて3つの条件のどれが欠けているかが見えることが多いのです。御社の10年後の人数から逆算して、いま貯めるべきものを並べるところから、ベンチャーネットがFDE型の伴走としてご一緒できます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
出典(いずれも確認日2026-09-22):
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(2023年4月26日)
- 中小企業庁「2026年版中小企業白書」概要(2026年4月24日)
- 帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」(2025年11月21日、民間調査)
- 総務省「令和8年版情報通信白書」(2026年7月)
- 『レバレッジ起業』持田卓臣、KADOKAWA、2020年、第0章


