「地頭のいい人を採りたい」と、私たちは言ってきた
採用の面接で、何を見ているでしょうか。
受け答えの速さ。話の筋道の通り方。初めて聞く話をどれだけ早く飲み込むか。言葉にするなら「地頭」でしょうか。多くの会社が、ここを見てきました。
昇進も似ています。頭の回転が速く、判断の早い人から上に上げていく。理屈は通っています。難しい判断ができる人が上にいたほうが、会社はうまく回るからです。
ただ、最近になって、この当たり前が少しだけ揺らいで感じられる場面があります。
調べものの速さでは、もう差がつきません。資料をまとめる速さも、比べる作業の丁寧さも同じです。かつて「頭がいい」と評価されていた仕事の一部が、誰にでもできるようになりつつあります。
これは、何が起きているのでしょうか。
そろばんの時代に、何が起きたか
似たことが、以前にも一度ありました。
昭和のなかごろまで、銀行の事務や経理の職に就くには、そろばんが弾けることが条件でした。珠算の検定を受け、級を履歴書に書く。それが就職の切符になった時代です。「読み、書き、そろばん」と言われたとおり、計算する力は商売の基礎技能でした。
計算が速い人は、貴重でした。だから、その能力に給料がつき、役職がつきました。
電卓が普及し、コンピュータが行き渡ると、この前提は消えました。いま、計算の速さで採用を決める会社はありません。誰でも一瞬で計算できるからです。
では、会社は困ったでしょうか。
困りませんでした。仕事がなくなったわけでもありません。別の仕事が残ったからです。 何を計算するのかを決めること。出てきた数字をどう読むのかを決めること。計算そのものが誰にでもできるようになると、その手前と、その先が仕事になりました。
ここで、一つの問いが立ちます。
同じことが、いま「考える」という仕事で起きようとしているのではないか。
会社の仕組みは、希少性の上に建っている
もし「考えられる人は少ない」という前提が変わるなら、影響は採用だけでは終わりません。
会社の仕組みの多くが、この前提の上に建っているからです。
長期育成。一人前になるには時間がかかる、という前提があります。だから何年もかけて育て、その間の給料を会社が負担してきました。
肩書。判断できる人は限られている、という前提があります。だから、判断できる人に印をつけて、周りに分かるようにしました。
報酬。知識や判断力を持つ人は希少だ、という前提があります。だから、そこに給料を厚く配分してきました。
権限。分かっている人にしか決めさせられない、という前提があります。だから、決定を上に集めました。
どれも、いい加減に作られたものではありません。むしろ合理的でした。前提が正しかったからです。
土台が動くなら、その上に載っているものも、いずれ問い直しの対象になります。
では、どう作り直すのか
正直に書きます。答えは、まだありません。
前提が揺らいでいることは、多くの経営者が肌で感じています。けれど、では代わりにどういう仕組みにすればいいのか。その設計図を持っている人を、ベンチャーネットは知りません。ベンチャーネット自身も、持っていません。
いま言えるのは、問い直しがもう始まっているということだけです。4つの仕組みそれぞれに、すでに手がついています。
評価をどうするか。何ができたら評価するのかを、あらためて言葉にする作業が要ります。この手順は人事評価制度がない会社の作り方で扱っています。
報酬をどうするか。工夫した人が損をしない配分をどう設計するか。優秀な社員ほど、AI活用法を隠すで、還元の設計として整理しました。
権限をどこまで渡すか。何を任せ、何を人に残すのか。その線引きはCompany Brain(会社の脳)とはで考えています。
育成をどう変えるか。答えを覚えるのではなく判断の軸を身につける学び方は、AIから「答え」ではなく「判断軸」を学ぶに整理があります。
どれも部分です。全体を貫く新しい設計思想が出てくるには、まだ時間がかかるでしょう。
ただ、部分から始めることはできます。そろばんの時代も、誰かが全体設計を描いてから変わったわけではありません。目の前の仕事が変わり、それに合わせて仕組みが後から追いついていきました。
知能が行き渡ると、何が希少になるか
ここまで読んで、暗い気持ちになった方がいるかもしれません。長く働いてきた社員の顔が浮かんだ方も、いるはずです。
しかし、そろばんの時代を思い出してください。計算が誰にでもできるようになったとき、経理の仕事はなくなりませんでした。残る仕事の中身が、変わっただけです。
同じことが起きるとすれば、では何が残るのか。2つあると考えています。
一つは、何をやるかを決めることです。
考える力がいくら安く手に入っても、それは「問いに答える力」です。何を問うかは、決まっていません。どの市場に出るか、何をやめるか、誰と組むか。これらは、答えを探す前に決めなければならないことです。経営学者ドラッカーが繰り返し説いたのも、正しい答えを出すことより、正しい問いを立てることの難しさでした。問いの立て方そのものは「答えをもらう」から「問いを設計する」へで扱っています。
そして、問いの手前には、もっと厄介なものがあります。何かをやりたいと思う気持ちです。AIは、自分から欲しがりません。この点はAIは、欲しがらないで詳しく書きました。
もう一つは、責任を引き受けることです。
判断の材料は、いくらでも手に入るようになりました。しかし、その判断が外れたときに引き受ける人は、依然として必要です。取引先に頭を下げるのも、社員の生活に責任を持つのも、人の仕事です。
考える力が行き渡るほど、この2つの価値は上がります。誰でも答えを出せる時代には、何を問うかと、誰が引き受けるかだけが残るからです。
前提を疑うところから、経営は変わる
会社の仕組みは、その時代の希少なものを中心に組み立てられてきました。計算が希少なら計算できる人を中心に。考える力が希少なら、考えられる人を中心に。
その希少性が変わりつつあります。だとすれば、仕組みのほうを問い直す番です。
急ぐ必要はありません。制度をいま全部作り替えろという話でもありません。ただ、自社の仕組みが「何を希少だと思って作られたのか」を一度考えてみる価値はあります。長期育成も、肩書も、報酬も、権限も、誰かが何かを前提にして決めたものだからです。
その前提を、いま自分の言葉で言えるでしょうか。
言えないとしたら、それは会社が悪いのではありません。前提とは、疑わないから前提なのです。当たり前になっているものほど、中にいる人には見えません。
ベンチャーネットは、中小企業の経営を「見える化」し、「わかる化」を経て「儲かる化」へつなぐ伴走を続けてきました。その先に見ているのが、バーチャルトランスフォーメーション——人とAIが役割を分け合いながら、会社のかたちそのものを組み直していく道筋です。
答えを持っているとは言いません。ただ、前提を一緒に掘り起こすことはできます。
御社の仕組みは、何を希少だと思って作られたのか。一度、話してみませんか。
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