AIが、人の仕事を担い始めました。では、経営者の仕事は、どうなるのでしょうか。この記事は、その問いにベンチャーネットなりの答えを書いたものです。
「AIが、その仕事をやる日」
AIエージェント——人に代わって判断し、作業し、実行までするAI——が、ホワイトカラーの仕事を担い始めています。
ニュースでは、こんな言葉が飛び交います。「成果そのものを売るAIが出てきた」「事務の多くが自動化される」。
それを見て、ふと手が止まる方も多いと思います。
では——経営者の仕事も、いずれAIがやるのでしょうか。
この問いから、話を始めます。
任せられる仕事が増えるほど、何が残るのか
会計の数字を、「経営の計器盤」と呼んだ人がいます(稲盛和夫・京セラ公式サイト)。
計器盤が狂っていれば、飛行機は正しく飛べない。数字がいい加減なら、会社も誤った方向へ進む。半世紀前の言葉ですが、AI時代に、いっそう重くなりました。
なぜなら、計器盤を読むのが、人間だけではなくなるからです。
ここから先は、3つの段階で考えると見通せます。
AI時代の経営は、3つの段階で進みます。計器盤(正確な数字)が壊れたStage 1から、人とAIが同じ数字を見るStage 2、そしてAIが主体となるStage 3へ。段階が進むほど、人の役割は「操縦」から「行き先を決めること」へ移ります。
いきなりStage 3にはなりません。けれど、問いはその先にあります。
AIに任せられる仕事が増えるほど、経営者には何が残るのか——。
AIは操縦できる。でも、行き先は決められない
ひとつ、はっきりしていることがあります。
AIは、計器盤を読んで操縦できます。けれど、どこへ向かうかは決められません。
計器盤は、今の状態を正しく示すもの。羅針盤は、どこへ向かうべきかを示すもの。会計には、その両方の役割があります。
AIに任せる範囲が広がるほど、経営者の仕事は変わります。「操縦すること」から、「行き先を決めること」へ。
そして、行き先を正しく決めるには、経営者自身が計器盤を読めなければなりません。
この事業は、本当に価値を生んでいるか。どの市場へ向かうべきか。AIは、正しい方向に飛んでいるか。
判断を任せることはできても、その判断を理解する力までは、手放せません。タスクは外せても、理解は外せない。ここが、AI時代の経営の分かれ目です。
学びを手放さない——それが「バーチャルトランスフォーメーション」
では、どう備えるか。
入口は、計器盤を整えることです。売上・原価・在庫・取引を、一箇所に、リアルタイムに、正確なデータとして集める。これを担うのが、ERP(Enterprise Resource Planning=経営に必要な情報を一元管理する仕組み)です。
正確な数字がひとつに揃えば、人もAIも、同じ計器盤を見て動けます。ベンチャーネットは、この「人・AI・データが同じ数字で動くチーム」を、まず自社で実装しながら磨いてきました。
ここで、もうひとつ大事なことがあります。
作業は、AIに任せられます。けれど、組織が積み重ねた学び——判断の勘どころ、現場の暗黙知——は、自社に残し続けるべきものです。
汎用的なAIは、誰もが同じものを使えます。差がつくのは、そのAIが持っていない「自社の中の情報と学び」だけ。だから、学びを自社に残す設計が、AI時代の足場になります。
こうして、見える化・わかる化・儲かる化という足元の変革(コーポレートトランスフォーメーション)の先に、次の景色が見えてきます。
組織そのものが、ひとつのシステムのように動き出す。AIが動き続け、人間の役割は「意志を入れること」——どこへ向かうかを決めること——に絞られていく。
ベンチャーネットは、これをバーチャルトランスフォーメーションと呼んでいます。
私たちも、最初から分かっていたわけではない
正直に書きます。ベンチャーネットも、この景色が最初から見えていたわけではありません。
代表の持田は、新卒で入った会社で、ある朝こう気づいたといいます。通勤電車の窓から見える景色が、30年後も同じかもしれない、と。
守られた構造の中にいるより、構造そのものを設計したい。そう思って、26歳で、何もないところから会社を始めました。顧客もゼロ、社員もゼロ。レンタルオフィスの一席からの出発でした。
そこから、リード獲得の自動化、営業の自動化、マーケティングの自動化、そして経営の自動化(ERP)へと、扱う仕事は移ってきました。一貫していたのは、「経営をテクノロジーで設計する」という一点だけです。
順調に伸びた時期もありました。けれど、いちばん苦しかったのは、数字だけを追っていた頃です。「会社員が一生で得る収入を超える」——そんな目標を立て、届けば何かが変わると思っていました。ところが、超えても何も変わらない。何のために稼ぐのか、という問いだけが残り、燃え尽きてしまいました。
一度、立ち止まりました。しばらく海外で暮らし、仕事と距離を置いて、学び直しました。稲盛和夫の考え方に触れ、岡本吏郎先生のもとで、一つずつ。そこで分かったのは、外の大きさ——市場の規模や、上場といった見え方——を追うより、内側のこだわりにこそ価値がある、ということでした。数字は、手段でしかない。本当に大事なのは、どこへ向かうかを、自分で決めることだ、と。
思想が先にあったわけではありません。実務を重ねる中で、後からつながった、というのが正直なところです。
ある日、腑に落ちました。私たちが本当に向き合いたいのは、組織に良い経営を根づかせたいと願う経営者なのだ、と。
過去のできごとの意味は、後から変わります。つらかった経験が、「あれがあったから」に変わることがある。経営も同じで、語り直すことで、進む先が見えてくる。これは、学びの中でベンチャーネットが大切にしている考え方です。
そして、何より大事なのは、私たち自身がまず試していることです。新しい技術は、誰より先に自分たちで使ってみる。手ごたえがあったものだけを、お客様に届ける。
「奪われる」のではなく、本質に向かう
最初の問いに戻ります。経営者の仕事は、AIに奪われるのでしょうか。
ベンチャーネットの答えは、こうです。奪われるのではなく、より本質的な仕事に向かえる、と。
作業から解放された分、経営者は「どこへ向かうか」を決めることに集中できます。それは、人にしかできない仕事です。
その先に、何があるか。
ベンチャーネットは、儲かる化のさらに先に、ひとつの景色を見ています。同じ志を持つ仲間と、頼り、頼られながら働くこと。人の幸せを長く追った研究が示したのも、近いことでした。
だからこそ、最後にひとつ、問いを置きます。
あなたの会社の計器盤は、正確ですか。
半世紀前の問いは、AI時代になっても、色あせません。
未来は読めない。だから、耐える構造をつくる
10年後の世界を、正確に言い当てられる人はいません。
けれど、ひとつだけ確かなことがあります。計器盤が正確で、数字で語れて、AIと共に動ける会社は、どんな未来が来ても揺らぎにくい、ということです。
逆に、計器盤が壊れたまま飛び続けた時間は、どんな未来が来ても取り戻せません。
これは、未来を予測する話ではありません。未来に耐える構造を、今つくる話です。
ただ、ひとつだけ、自分ひとりでは難しいことがあります。自分の計器盤がどこで歪んでいるか——その思い込みは、自分では見えにくいものです。だからこそ、隣で同じ数字を見るもう一人がいると、経営は動き出します。
ベンチャーネットは、まず自社でその漕ぎ方を試しながら、人が前提の経営から、人とAIが共に動く経営へ、同じ船の乗組員として伴走します。
AIに何を任せるのか——その具体は、第6章で各論として扱います。そして、その伴走をどう形にするかは、終-4「ベンチャーネットエンジンという伴走」へ続きます。
そして、最初の問いに戻ります。「なぜ今、経営を見直すのか」。その答えを探す旅は、序章から始まり、また序章へと還っていきます。

