マーケ・コンテンツをバーチャル社員に——「AIが書き、人が公開する」実例

マーケティングでバーチャル社員(AIに仕事を渡す形)に任されているのは、下書きと図版までです。公開されている事例では、事実の確認と公開の判断は人が持っています。そして問題が起きた事例を読むと、原因はAIの性能ではなく、人の確認が飛ばされたことでした。

では、その確認はどこで飛ばされたのでしょうか。

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記事を出したいが、書く人がいない

発信したほうがいいのは分かっている。けれど書く人がいない。外注すれば1本あたりの費用がかかる。社長が夜に書いて、月1本が精一杯。

だからAIに書かせたい。ただ、AIが書いた文章をそのまま出すのは怖い。

この怖さは、実際に使っている現場の悩みとも重なります。オウンドメディア運営企業100社への調査では、生成AIを何らかの形で使っている会社が95%。一方で課題の上位は「自社らしい独自性が出ない」52%、「記事の品質・専門性の低下」42%、「ハルシネーション(嘘の情報)の確認」40%でした。制作時間は「2〜3割減った」が50%で、「あまり変わらない」も27%あります。(シンプリックの調査、2026年6月4日発表、調査は2026年5月11〜26日、有効回答100、確認日:2026年9月21日)

入れれば速くなる、という単純な話ではありません。分かれ目は、どこを任せ、誰が最後に見るかです。

公開事例に見る、任せている範囲

コンテンツの工程と、任せる範囲 AIが受け持つ ・素材を集めて整理する ・構成案と本文の下書きを作る ・図版やタイトル候補を出す 人が受け持つ ・数字と固有名詞の確認 ・自社らしい言い回しへの調整 ・公開の判断と、その責任 AIを使ったことを読者にどう伝えるかも、人が決める

図1:下書きと図版までを渡し、事実の確認と公開の判断は人が持つ形が共通しています。

エゾウィン(国内・北海道標津町、2019年設立):1本2〜3時間が、30分〜1時間に。同社は生成AIを使って原則1日1本の発信を30日間続け、その結果を公開しました。AIに任せたのはタイトル候補の生成、本文の作成、画像作成の支援です。期間中の合計は21,468PV、メディアへの転載は833件、1本あたり平均700PV超(従来は50〜100PV)。作成時間は従来2〜3時間かかっていたものが30分〜1時間になったと報告しています。一方で、SNSの新規フォロワーは2名増にとどまったことも、同じ資料に書かれています。人が行うのは、具体的な数値や固有名詞の確認と、企業らしい表現への統一です。(同社発表、2025年7月29日、検証期間2025年6月29日〜7月29日、確認日:2026年9月21日)

うまくいった部分と、効かなかった部分を並べて出しているのが、この事例の価値です。

日本経済新聞社:入力する素材を限り、断り書きを付ける。同社は、企業が公開するプレスリリースを自動で集め、その内容をもとにAIが記事の下書きを作る運用を試験しています。公開までに編集者や記者が原文に照らし合わせて内容を確認し、必要に応じて加筆・修正します。そのうえで、記事ごとに断り書きを添えています。編集の工程の一部で生成AIを使っていること、生成結果をそのままは使わず、編集者と記者が確認・加筆・修正していること。この2点を短く記した一文です。(同社発表、2025年7月22日、確認日:2026年9月21日)

参考になるのは2点です。AIに渡す素材を「公開済みのプレスリリース」に限っていること。そして、開示の文面が短く具体的なことです。

ベンチャーネット(自社):書くのはAI、公開のボタンは人。このブログも、素材を読み、骨子を組み、本文を書くところまでをAIに任せています。品質チェックの工程と、公開の判断は人が持ちます。裏側はこのブログは、AIエージェントとどう作っているかで公開しました。

問題が起きた事例で飛ばされたのは、人の確認だった

2025年5月、米国のシカゴ・サンタイムズ紙が、別刷りの特集に実在しない書籍を推薦図書として掲載しました。15冊のうち10冊が架空だったとされます。

経緯はこうです。外部の配信元と契約したフリーランスの書き手がAIで原稿を作り、事実確認をしないまま納品した。配信元も十分に確認しなかった。新聞社側は、編集部門の確認を通さずにその原稿を受け入れ、外部制作だと読者に示さないまま自社名義で掲載した。そして経営トップは、この特集の中身を調べずに継続を承認していた。

親会社の最高経営責任者は、自らの署名記事で「ここに至った過ちについて、申し訳なく思う」という趣旨の謝罪をしています。再発防止も示されました。編集の確認と開示なしにAI生成記事を出さない方針の明文化。部門横断のAI監督委員会の設置。第三者から仕入れた記事は出所を明示する、という編集基準です。該当の別刷りはデジタル版から削除され、購読者には返金が案内されています。(同紙および親会社の公式説明、2025年5月20日・5月29日、確認日:2026年9月21日)

犯人はAIではありません。人の確認が、4つの段階で続けて飛ばされたことが原因でした。

中小企業にとって、この事例でいちばん危ないのは、外注先がAIを使っていることを知らないまま、自社の名前で出すことです。これは、規模に関係なく起こります。

検索エンジンは、作り方ではなく中身を見ている

「AIで書いたらGoogleに嫌われるのでは」という心配もよく聞きます。Googleの公式ガイダンスを読むと、論点は作り方ではありません。

  • 評価するのは中身の品質であり、どう作られたかではない
  • ただし、順位を操作する目的で大量のページを作ることは、スパムの方針に反する
  • 読者に価値を足さないまま大量生成することも、同じく問題になる
  • AIを使ったことの開示は義務ではないが、読者にとって意味のある形で説明を添えることを検討するよう推奨されている

(Google 検索セントラルの公式ドキュメント、2025年12月10日更新、確認日:2026年9月21日)

つまり、1本ずつ価値のあるものを出すかぎり、AIで下書きすること自体は問題になりません。問題になるのは、価値を足さない量産のほうです。AI検索の時代に見つけてもらう考え方はAI検索時代の「見つけてもらう経営」にまとめました。

中小企業の始め方:素材を絞り、確認者を1人決める

公開までに決めておく4つ 1 素材を絞る 自社の実績・公開 資料など、出所の 分かるものだけ 2 確認者を1人 数字・固有名詞・ 引用を見る人を、 名前で決める 3 外注先に聞く AIを使うか、 事実確認は誰が するかを決める 4 開示の一文 AIをどう使い、 誰が確認したかを 短く書いておく

図2:素材を絞り、確認者を決め、外注先に聞き、開示の一文を用意する。

1. AIに渡す素材を絞る。自社の実績、社内の資料、公開されている一次情報。出所の分かるものだけを渡します。日経が入力を公開プレスリリースに限っているのと同じ発想です。ここを絞ると、架空の事実が混ざりにくくなります。

2. 事実を確認する人を、名前で決める。数字、固有名詞、引用の3つを誰が見るかを決めます。「みんなで見る」は、誰も見ないのと同じです。サンタイムズの件は、この一点が連鎖で抜けた結果でした。

3. 外注先に、AIの利用と事実確認の担当を聞く。使うこと自体は問題ではありません。危ないのは、使っているかどうかを知らないまま自社名義で出すことです。発注時に一文を入れておけば足ります。

4. 開示の一文を用意する。「下書きに生成AIを使い、内容は担当者が確認しています」程度の短い一文で足ります。日経のように、記事ごとに同じ一文を添える形が分かりやすいはずです。

そして、出す本数を競わないことです。Googleが問題にしているのは、価値のない量産でした。1本ずつ自社の一次情報を足すほうが、長く効きます。

よくある質問

Q. AIが書いた記事だと、読者に嫌われませんか?
A. 嫌われるのは、中身が薄いときです。自社の実績や現場の判断が入っていれば、下書きをAIが書いたかどうかは主な論点になりません。ただし、隠していたと後から分かるほうが印象を損ねます。

Q. 自社らしさが出ないのですが。
A. 調査でも最大の課題でした(「自社らしい独自性が出ない」52%)。効くのは、社長や現場の言葉を素材にすることです。AIに考えさせるのではなく、自社にしかない話を材料として渡します。

Q. 画像もAIで作ってよいですか?
A. 使えます。ただし、ロゴや文字が入る画像は崩れやすく、自社の商品写真を加工すると表示が変わることもあります。商品や価格が写るものは、人が最後に見る対象に入れてください。

まとめ:書くのは任せられる。公開の責任は残る

公開事例で渡されているのは、素材の整理、構成、本文の下書き、図版までです。数字と固有名詞の確認、自社らしい言い回しへの調整、そして公開の判断は人が持っています。問題が起きた事例でも、原因はAIではなく、人の確認が飛ばされたことでした。検索エンジンも、作り方ではなく中身を見ています。

いちばん難しいのは、自社にしかない素材を掘り出すことです。社内の人にとっては当たり前すぎて、価値が見えません。ベンチャーネットは、自社のブログをAIと作りながら、FDE型の伴走として、素材の掘り出しと確認の工程づくりをご一緒しています。まずは、社内で一番よく聞かれる質問を3つ持ち寄って、壁打ちから。

次に読むなら

「このブログの作り方を知りたい」
→ このブログは、AIエージェントとどう作っているか——素材主義と品質ゲートの裏側

「AI検索で見つけてもらう考え方を知りたい」
→ 儲かる仕組みも、見つけてもらえなければ意味がない——AI検索時代の「見つけてもらう経営」

「ほかの職種の実例も見たい」
→ ここまでできるバーチャル社員——国内外の実例から見る「AIに任せられる仕事」の現在地

「うまくいかなかった例をもっと知りたい」
→ うまくいかなかった実例——バーチャル社員を縮小・撤回した会社から、中小企業が学ぶこと

この記事で参照した公開情報

  • シンプリック「オウンドメディアの生成AI利用実態調査」(2026年6月4日発表、調査2026年5月11〜26日、有効回答100)
  • エゾウィン 発表(2025年7月29日、検証期間2025年6月29日〜7月29日)
  • 日本経済新聞社 発表(2025年7月22日)
  • シカゴ・サンタイムズおよびシカゴ・パブリック・メディアの公式説明(2025年5月20日・5月29日)
  • Google 検索セントラル「生成AIによるコンテンツに関するガイダンス」(2025年12月10日更新)

数値はいずれも各社・各調査の発表に基づきます。最新の状況は公式発表をご確認ください。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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