基幹システムの入れ替えを考え始めると、たいてい製品比較から入ります。機能表を並べ、価格を並べ、導入事例を読む。
その進め方は、半分は正しいのですが、順番が逆です。
製品を比べる前に、自社の側で決めておくことがあります。 ここが決まっていないと、どの製品を選んでも「入れたけれど、思ったほど変わらない」に着地します。
AIを同僚として使う前提の会社なら、基幹システムを選ぶ前に決めておく条件は5つです。製品名は出しません。どれを選ぶかは、この5つが決まったあとの話だからです。
なぜ、比較から入ると失敗するのか
製品比較は、機能の有無を見る作業です。ところが、導入後の満足度を決めているのは、機能の数ではありません。
自社が何を固定し、何を任せるかを決めていたかどうかです。
決めていない状態で比較に入ると、判断の基準が「機能が多いほうがよさそう」になります。そして、多機能な製品を選んで、使わない機能の分まで払うことになる。あるいは、比較の途中で議論が止まり、選定そのものが1年先送りになる。
どちらも、製品の問題ではありません。
もうひとつ、いま特有の事情があります。AIを前提にすると、基幹システムに求めるものが変わります。
これまで基幹システムは、人が入力し、人が見るものでした。これからは、AI社員が読み、AI社員が書き込む相手になります。見る人が変われば、選ぶ基準も変わります。
AIを前提に会社を設計するという考え方はAIファースト経営とはにまとめました。
選ぶ前に決める、5つの条件
図:5つとも、製品の機能ではなく自社の側で決めること。
条件1:データを、自社のものとして取り出せるか
いちばん最初に確認することです。
基幹システムに入る数字は、会社の資産です。その資産を、必要なときに自社の手元へ取り出せるか。形を変えて別の用途に使えるか。ここが閉じていると、データは「預けたまま」になります。
なぜこれが最初かというと、AI社員に渡せる材料かどうかが、ここで決まるからです。取り出せないデータは、AIから見れば存在しないのと同じです。
資産という考え方は資産を育てる経営に、数字を一つにつなぐ意味は単一データベースが3段を貫くにまとめました。
条件2:人以外も、読み書きできるか
これまでの基幹システムは、人が画面を見て入力する前提で作られてきました。
AI社員が同僚になると、前提が変わります。効いてくるのは、画面の操作ではなく、正式な口から出し入れできるかどうか。口が用意されていれば、AI社員は安定して動けます。無ければ画面を操作させることになり、画面が変わるたびに止まってしまう。
ここで見るのは、機能の有無より扱いの設計です。読む権限だけを渡せるか。書き込みには承認を挟めるか。記録は残るか。この3つが分かれていれば、安全に任せられます。
組み立ての構造はバーチャル社員の作り方の「手」の部分にあたります。
条件3:言葉の基盤と、つながるか
数字だけでは、AI社員は判断できません。
「この取引先は納期を優先する」「この案件は特別な条件で受けた」。こうした判断の基準と経緯は、基幹システムには入りません。別の場所に貯まります。
だから、数字の基盤と言葉の基盤が並んでいて、両方をAI社員が読める状態にしておく必要があります。どちらか片方だけでは、平均的な答えしか返ってきません。
両者の組み合わせは数字の基盤と言葉の基盤に設計図をまとめています。
条件4:やめるときに、何が残るか
入れる前に、やめるときのことを確かめます。
気が早い話に聞こえますが、これは撤退の想定ではなく、主導権の確認です。やめられない状態は、条件が悪くなっても受け入れざるを得ない状態でもあります。
見るのは3つ。データを持ち出せるか。業務の手順が自社に残るか。設定や判断の理由が、自社の言葉で記録されているか。
伴走が終わるときに何が残るか。同じ論点を、FDE伴走はどう終わるのかにも書いています。
条件5:標準に寄せられる業務が、どれだけあるか
5つ目は、製品ではなく自社を見る条件です。
いまの業務のうち、標準的なやり方に寄せられるものがどれだけあるか。逆に、どうしても自社の形を残したいものがどれだけあるか。この比率が、導入の難易度をほぼ決めます。
注意したいのは、「うちは特殊だ」と思っている業務の多くが、実は単なる慣習だということです。慣習と強みを分けないまま比較に入ると、機能表のチェック項目が無駄に増えます。
線の引き方はどこを標準に合わせ、どこを自社流で残すかにまとめました。選定の前に、この仕分けだけでも一度やっておく価値があります。
5つが決まってから、製品を見る
ここまで決まると、製品比較の景色が変わります。
機能の数ではなく、5つの条件に照らして見るようになるからです。どの製品にも長所と短所があり、どれを重く見るかが自社の条件で決まります。
図:比べる前に決める。決めてから比べる。
製品カテゴリそのものの違い(クラウド会計・ERP・基幹システム)はクラウド会計・ERP・基幹システムの比較にまとめています。費用と段取りの相場はERP導入の費用はいくら?へ。
なお、規模や業務の複雑さによって、選ぶ層は変わります。大企業向けの製品、中堅企業向けのクラウド、コストを抑えた選択肢、そして個別開発。ベンチャーネットは複数を扱っており、どれか1つに誘導しない立場を取っています。
選定を社内で通すための段取りはRFI・RFP・稟議に、導入後の組織変革の順番はERP×AIで組織を変えるロードマップにあります。
よくある質問
Q. 5つを決めるのに、どのくらいかかりますか?
A. 条件1〜4は、経営者と数名で話せば数時間です。時間がかかるのは条件5(慣習と強みの仕分け)で、ここは業務の棚卸しが要ります。
Q. いま使っているシステムを続ける判断もありますか?
A. あります。5つの条件に照らして大きな支障がなければ、入れ替えより、言葉の基盤を足すほうが効く場合があります。入れ替えは手段であって、目的ではありません。
Q. 小規模でも、基幹システムは必要ですか?
A. 規模より、数字がバラバラになっているかどうかで判断してください。台帳が分かれていて突き合わせに時間がかかっているなら、規模にかかわらず効きます。
まとめ:決めてから、比べる
基幹システムの選定は、製品比較から入ると基準が定まりません。先に自社の側で5つを決めます。
データを自社のものとして取り出せるか。人以外も読み書きできるか。言葉の基盤とつながるか。やめるときに何が残るか。標準に寄せられる業務がどれだけあるか。
5つとも、製品の機能表には載っていません。自社が決めることです。決まってから比べれば、比較は驚くほど早く終わります。
そして、選んだ先にある経営の形はバーチャル経営とはにまとめました。基幹システムは、その土台にあたる部分です。
5つのうち、社内で議論が止まるのは条件4(やめるときに何が残るか)です。入れる前提で動いているプロジェクトの中で「やめるときの話を先にしましょう」と言い出すのは、水を差す発言に聞こえるからです。けれど、やめられる状態を保っているから、条件を対等に話せます。それを確かめられるのは、入れる前だけです。
御社の5つを、ベンチャーネットと一度並べてみませんか(→FDE型の伴走とは)。製品の話はそのあとです。売り込みではなく、まず壁打ちから。


