AI時代のブートストラッピング——人を雇わないから、借りずに始められる

起業の資金計画を作るとき、最初に出てくる問いがあります。「いくら借りられるか」です。

創業融資の枠を調べ、自己資金と足して、その範囲で事業を組む。順番として自然に見えます。けれど、この順番には前提が隠れています。始める前に、まとまった固定費を約束する、という前提です。

日本政策金融公庫の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月発表、回答2,165社)があります。開業時に苦労したことの1位は「資金繰り、資金調達」で、56.9%でした(確認日2026-09-22)。資金の調達額は平均1,219万円。そのうち金融機関などからの借入が827万円で67.9%、自己資金は279万円で22.9%です。公庫の融資先が母集団なので借入の比率は高めに出ますが、それでも「借りて始める」が標準の形になっていることが分かります。

その順番は、入れ替えられます。借りる額から決めるのではなく、約束する固定費を先に小さくする。人を雇わない前提に立つと、借りずに始められる余地が、思っているより広がります。では、どの固定費を、どう置き換えればよいのでしょうか。

目次

なぜ、借りる前提になるのか

理由は単純です。固定費を先に決めるからです。

事務を一人雇う。営業を一人雇う。オフィスを借りる。設備を入れる。この4つを決めた瞬間、売上が立つ前から毎月出ていくお金が確定します。売上が立つまでの数か月分を先に用意しなければならない。その用意が、借入になります。

つまり、借入の額は事業の大きさで決まっているのではありません。売上が立つ前に約束した固定費の大きさで決まっています。

ベンチャーネットの代表・持田は、2020年に『レバレッジ起業』の第7章で二つの見出しを並べました。「自己資金だけで起業するブートストラッピング」と、「起業しても銀行はお金を貸してくれない」です。当時の提案は、小さく始めて自己資金で回す、というものでした。

AI時代に変わったのは、固定費そのものの大きさです。当時は、人を雇わない代わりに外部の人を集める必要があり、そこにも費用がかかりました。いまは、毎日のタスクを1台のPCに組んだAI社員が回します。事務の人件費が、月額の利用料に置き換わる。オフィスの席が、1台のPCに置き換わる。約束する固定費が、桁で変わりました。

だから、借りずに始める余地が広がりました。

固定費を、「約束しない形」に置き換える

固定費を減らす、という言い方は正確ではありません。正確には、売上が立つ前に約束する費用を、売上に連動する費用に置き換えます。

「約束する費用」を「連動する費用」へ 売上が立つ前に、約束する費用 この合計が、借りる額になる 人件費(事務・営業を雇う) オフィスの家賃・敷金 設備の購入 年間契約のシステム 置き換える 売上に連動する費用 売上が立ってから、増やせる AI社員の利用料(月額) 成果型パートナーへの対価 1台のPC(席の代わり) 月額のツール(いつでも止められる) 左が小さいほど、始める前に用意する資金は小さくなる

図1:約束する費用を、連動する費用に置き換える。左の合計が、借りる額になる。

人件費は、AI社員の利用料と成果型の対価に。 毎週起きる事務は、1台のPCに組んだAI社員が回します。かかるのは月額の利用料で、売上がなければ止められます。自分にない専門は、外部の人やサービスに成果ベースで頼む。成果が出たときに払うので、売上に連動します。ベンチャーネットは、この2種類をまとめてバーチャル社員と呼んでいます。雇用によらず会社の仕事を一緒に進めてくれる存在で、AI社員と成果型バーチャル社員の2類型です。

オフィスは、1台のPCに。 事務の人が座る席が要らなければ、席そのものが要りません。最小構成については一人と1台のPCから始めるに書きました。

設備と年間契約は、月額に。 買う前に、月額で借りられないかを見る。年間契約の前に、月ごとに止められる契約を選ぶ。止められる費用は、約束した費用ではありません。

固定費を変動費に変える4つの選択肢と選び方は、固定費を変動費に変えるに整理しています。起業時は、その考え方を「始める前」に適用する形です。

目指すのは、左の欄をゼロにすることではありません。左の合計を、自己資金で数か月回せる大きさまで下げることです。それができれば、借入は「始めるため」ではなく、「回り始めてから加速するため」のものに変わります。

資金の順番は、手元で回してから加速する

固定費の置き換えができたら、資金の順番が変わります。

資金の順番:回してから、借りる 1 約束を最小に 人・席・設備を約束しない AI社員+成果型で回す 自己資金で数か月回る大きさへ 2 手元で回す 請求と入金の日数を短く 売上と費用を連動させる 利益とお金のずれを見る 3 回ってから、加速する 補助金・借入は加速のために 回った実績が、交渉の材料 始めるための借入ではない 別の入口:既にある会社を引き継ぐ 回っている事業を受け取り、AI社員に渡す準備と承継の準備を同時に進める

図2:資金の順番。約束を最小にし、手元で回し、回ってから加速する。

1. 約束する固定費を、最小にする。 図1の左の欄を、自己資金で数か月回せる大きさまで下げます。ここが、ブートストラッピングの土台です。

2. 手元で回す。 売上が立ったら、請求から入金までの日数を短くします。売上に連動する費用なら、入金より前に大きな支払いが来ることは減ります。利益は出ているのに手元にお金がない、という状態を避ける見方は黒字倒産を防ぐキャッシュフロー経営にまとめました。

3. 回ってから、加速する。 借入や補助金は、ここで使います。回った実績があれば、金融機関との話も変わります。原著が2020年に書いた「起業しても銀行は貸してくれない」は、裏を返せば、回ってからなら話が通る、ということでもあります。補助金は毎年変わるので、最新の一覧は中小企業のAI・DX補助金 一覧をご覧ください。クラウドファンディングのような手段も原著では扱いました。自社に合うかどうかは、事業の性質で変わります。

別の入口:既にある会社を引き継ぐ。 原著の第7章が「新しい選択肢」として挙げた事業承継は、いまも有効です。回っている事業を受け取れば、順番の1と2を飛ばせます。しかも、引き継いだ会社の業務を言葉にする作業と、AI社員に渡す準備は、ほとんど重なります(事業承継とAX)。

この順番で進めると、借入は「始めるため」のものではなくなります。回っている事業を、もう一段速くするための道具になります。

つまずきやすい3つ

AIの月額を積み上げて、固定費に戻す。 便利なツールを次々に契約すると、月額の合計が人件費に近づきます。月額は止められる費用ですが、止めなければ固定費と同じです。使っていないものを月に一度見直す習慣が要ります。

成果型の対価を、時間で払う。 外部の人に「月いくら」で頼むと、それは約束する費用です。頼むのは成果で、払うのも成果に対して。この線を越えると、雇っているのと変わらなくなります。成果の定義に「自社に残るもの」を入れる頼み方は成果型バーチャル社員の使い方へ。

借りられるから、先に借りる。 創業融資の枠があると、使いたくなります。けれど、借りた瞬間に返済という約束が増えます。回る前に借りると、その返済が固定費になります。順番の3まで待てるかどうかが、分かれ目です。

よくある質問

Q. 借りないほうがいい、という話ですか?
A. 違います。順番の話です。始めるために借りるのではなく、回ってから加速するために借りる。回った実績があるほうが、条件も話の通り方も変わります。

Q. 補助金は、最初から使えますか?
A. 制度によります。ただ、補助金は原則として後払いで、申請から入金まで時間がかかる。始める前の資金として当てにすると、順番が崩れます。回ってから、加速のために使うほうが安全です。

Q. もう借りて始めています。手遅れですか?
A. いいえ。図1の左の欄を、いまから右へ動かせます。次に人を雇う判断が来たとき、AI社員と成果型で受けられないかを先に見る。それだけで、次の借入が減ります。既存の会社が採用ゼロで回す順番は採用ゼロで伸ばす12か月にあります。

まとめ:借りる額は、約束した固定費の大きさで決まる

起業で最初に苦労するのは資金調達で、調達の7割弱は借入です。けれど、借りる額は事業の大きさで決まっているのではなく、売上が立つ前に約束した固定費の大きさで決まっています。

AI時代は、その固定費が桁で下がりました。人件費はAI社員の利用料と成果型の対価に、オフィスは1台のPCに、設備は月額に置き換えられます。約束する費用を自己資金で数か月回せる大きさまで下げ、手元で回し、回ってから加速する。借入と補助金は、その3番目で使います。

2020年に『レバレッジ起業』が提案した「自己資金で小さく始める」は、いまのほうが実行しやすくなっています。仲間にAI社員が加わったからです。章ごとの読み替えは『レバレッジ起業』AI時代アップデート版にまとめています。

ただ、「何を約束し、何を連動させるか」の線引きは、自分では見えにくいものです。人を雇うのが当たり前だと思っていた仕事ほど、AI社員に渡す候補に入りません。月額で借りられる設備ほど、買うものだと思い込んでいます。

御社の費用を左右の欄に並べるところから、ベンチャーネットがFDE型の伴走としてご一緒できます。売り込みではなく、まず壁打ちから。

なお、融資や補助金の個別の条件は、金融機関や各制度の窓口でご確認ください。ベンチャーネットが担うのは、その手前にある費用の設計の側です。

出典:日本政策金融公庫 総合研究所「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月5日発表、図-13・14・23)

出典:『レバレッジ起業——普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる「バーチャル社員」があなたを救う』持田卓臣、KADOKAWA、2020年、第7章

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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