ベンチャーネットは、自社の経営数値をNotionで見ています。NetSuiteの環境は持っていますが、そこには自社の本番データを入れていません。お客様の要望を検証し、新しい機能を試すための場として使っているからです。
この記事では、その使い分けをそのまま書きます。なぜ実験の場に自社データを入れないのか。なぜ小さい会社ではNotionのほうが向くのか。そして、どうなったら基幹システムが必要になるのか。
これはVN-Lab——ベンチャーネットが自社で試していることを、都合の悪い部分も含めて公開するシリーズの1本です。
ERPを売る会社が、自社に入れていない
先に、いちばん引っかかるところを書きます。
ベンチャーネットはNetSuiteの導入支援を主力事業にしています。その会社が、自社の経営数値を基幹システムで管理していません。
矛盾に見えると思います。ただ、理由は2つあって、どちらも設計上の判断です。
1つは、用途の分離です。ベンチャーネットのNetSuite環境は、お客様の要望を検証し、新しい機能を試すための場になっています。ここに自社の本番データを入れると、環境を壊せなくなります。
もう1つは、規模とフェーズです。基幹システムは「決まったこと」を入れる器です。事業の形が変わりやすい小さい会社では、その堅さが足かせになります。
順に開きます。
実験室に、本番データは置かない
お客様から「こういうことはできますか」と聞かれたとき、資料だけで答えることはしません。実際に環境で作って、動かして確かめます。
図:実験環境に本番データを入れると、試せる範囲が狭まる。
実験の場では、思い切ったことをします。設定を根本から変える。データを入れ直す。うまくいかなければ作り直す。新しい機能が出たら、すぐに触ってみる。
自社の請求や入金がそこに乗っていたら、こうはいきません。触る前に「これを変えたら自社の業務は止まらないか」を確かめることになります。確かめる手間が増えるほど、試す回数は減ります。
そして、試す回数が減ると、お客様への答えが「たぶんできます」に劣化します。実物を動かして確かめた「できます」と、資料を読んで言う「できます」は、別物です。
これは、社内の業務効率より優先すべきことだと考えています。自社の月次を少し楽にすることより、お客様の質問に実物で答えられることのほうが、価値が大きいからです。
基幹システムは「決まったこと」を入れる器
もう一つの理由が、規模とフェーズです。
基幹システムは、決まった業務を、決まった形で、正確に処理するための器です。だから堅くできています。勘定科目を追加するにも、承認の流れを変えるにも、手続きが要ります。
この堅さは、欠点ではありません。会社の規模が大きくなり、扱う金額が増え、監査や連結の要求が出てくると、この堅さがそのまま守りになります。
ただ、小さい会社では話が変わります。
図:性格が違う2つの器。規模とフェーズで、要るものが変わる。
小さい会社では、事業の形がよく変わります。新しいサービスを始める。提供の仕方を変える。組み合わせを試す。変わっている最中のものは、まだ「決まったこと」になっていません。
決まっていないものを堅い器に入れようとすると、入れるために形を決めることになります。順序が逆です。まだ試している段階なのに、先に型を決めることになる。
そして中小企業では、全部が一か所にあることの価値が大きいと考えています。
Notionには、数字も入れられますが、会議の文字起こしも、検討の途中経過も、メモも入ります。「この案件、なぜこの金額になったんだったか」と思ったとき、数字と、それを決めた会議の記録が同じ場所にある。基幹システムには金額しか入らないので、理由を探しに別の場所へ行くことになります。
会社が小さいうちは、扱う件数が人の目で追える範囲にあります。だから正確さの担保は自分たちでできる。それより、理由と数字が一緒に置いてあることのほうが、日々の判断に効きます。
これは数字の基盤と言葉の基盤でいう2つの基盤を、いまはまだ1つにまとめている状態です。分けたほうがよい規模になったら、分けます。
1つの場所にまとめて、何が起きたか
数字と言葉を同じ場所に置いていると、日々の動きが変わります。
「なぜこうなったか」を探しに行かなくて済みます。ある案件の金額を見て引っかかったとき、その隣に、その金額を決めた会議の記録があります。別のシステムを開いて、日付で探して、それらしいメモを見つける、という手順が要りません。判断の理由と結果が並んでいると、確認が一手で終わります。
見る項目を、その週に変えられます。新しい取り組みを始めたとき、追いたい数字も変わります。柔らかい器なら、項目をその日に足して、翌週から見られます。堅い器では、この機動力は出ません。出ない代わりに、正確さが保証されます。どちらを取るかという話です。
AIに聞ける対象が広がります。数字だけを渡すより、数字とその背景の記録を一緒に渡したほうが、返ってくる答えの精度が上がります。同じ場所にあるものは、まとめて渡せます。
一方で、失っているものもあります。取引の整合性を、仕組みが保証してくれません。受注と請求の金額が食い違っていても、器は止めてくれない。人が気づくしかありません。いまはそれで回っていますが、これは規模に依存した成立の仕方です。
では、いつ分けるのか
ここが、この記事でいちばん書きたいところです。
Notionで足りる状態は、永久には続きません。次のどれかが起きると、基幹システムが要ります。
図:4つの兆候。柔らかい器が限界を迎える境目。
1. 件数が、人の目で追えなくなったとき。柔らかい器の正確さは、人の目で担保されています。「この数字、なんとなくおかしいな」と気づける件数のうちは成立しますが、気づけなくなった瞬間に担保が消えます。
2. 拠点や法人が増えたとき。別々に集計して、あとで足し合わせる作業が発生した時点が境目です。足し合わせは必ずズレます。
3. 外に説明する必要が出たとき。銀行、投資家、監査。「この数字の根拠は」と問われて、伝票までたどって答える必要が出たら、たどれる構造が要ります。税金を計算するための決算書と、外の相手に説明するための決算書は、求められる作りが違います。
4. 入力する人が増えたとき。柔らかい器は、項目をその日に足せます。裏返すと、人によって書き方がばらつきます。同じ取引先が3通りの表記で入り始めたら、柔らかさが弱点に変わっています。
ベンチャーネットも、この4つのどれかが起きれば移します。順番としては、まず数字の基盤を分けて、Notionは言葉の基盤に専念させる形になります。
誤解されたくないこと
念のため、書いておきます。
「中小企業に基幹システムは要らない」とは言っていません。上の4つは、規模の小さい会社でも普通に起きます。とくに2と3は、社員10人の会社でも起きます。
そして厄介なのは、越えたかどうかが中からは分かりにくいことです。件数は少しずつ増えますし、表記のばらつきも一気には出ません。気づくのは、たいてい何かが合わなくなってからです。
「うちはまだ小さいから、この程度で足りている」と考えている会社の一定数は、実はもう越えています。越えていない会社が早すぎる投資をするのと同じくらい、越えた会社が気づかずに粘るのも、損失になります。
よくある質問
Q. ERPを売っている会社が自社で使っていないのは、製品への不信ではないですか?
A. 違います。使う場面が違うだけです。NetSuiteの環境は毎日触っていますが、それは検証と実験のためで、自社の経理のためではありません。
Q. Notionで経営数値を見て、正確さは大丈夫ですか?
A. いまの件数なら、人の目で確かめられる範囲です。ただ、それが担保でなくなる日は来ます。上に挙げた4つの兆候は、そのための物差しです。
Q. 会計ソフトは使っていないのですか?
A. 会計処理は会計の仕組みで行います。この記事で書いているのは、経営判断のために日々見る数字をどこに置くか、という話です。
Q. うちも同じようにNotionでいいですか?
A. 4つの兆候に当てはまらなければ、選択肢になります。当てはまるなら、柔らかい器では受け止めきれません。
Q. 後から基幹システムに移すのは、大変ではないですか?
A. 移行の手間はかかります。ただ、決まっていない業務を無理に堅い器に入れて、あとで作り直すほうが高くつくことが多いところです。
Q. Notionでなければいけませんか?
A. いいえ。文章と数字が一か所に貯まり、権限を分けられ、AIから参照できれば、他の道具でも成立します。
まとめ:器は、会社のフェーズで変わる
ベンチャーネットは、自社の経営数値をNotionで見ています。理由は2つ。NetSuiteの環境をお客様の検証と実験のための場として使っていること。そして、事業の形が変わりやすい規模では、柔らかい器のほうが向いていることです。
これは「基幹システムが不要」という話ではありません。件数が目で追えなくなる、拠点が増える、外に説明が要る、入力する人が増える。このどれかが起きれば、堅い器が要ります。ベンチャーネットも、そのときは移します。
ベンチャーネットは、中小・中堅企業向けにFDE型の伴走支援を行う会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIによる個別開発を扱い、どれか1つに誘導しない立場を取っています。数字の基盤と言葉の基盤の上でAIを動かし、業務と経営を組み替える。これをAX(AIトランスフォーメーション=AIを前提に業務と経営を組み替えること)と呼んでいます。
自社にも、いまの規模に合った器を選んでいます。だから「まだ早い会社には、まだ早い」と申し上げます。
ただ、繰り返しになりますが、越えたかどうかは中からは見えにくい。数字が合わなくなってから気づくのでは、遅いことがあります。件数、拠点、外部への説明、入力する人数。この4つを外から一度当ててみると、自社がどちら側かはすぐに分かります。
「うちはまだ基幹システムを入れる段階なのか、分からない」という状態で構いません。そこを見極めるところから、一緒にやれます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
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