「決算書は、できあがってから税理士さんに説明してもらっています。」
中小企業の経営者から、よく聞く言葉です。売上と利益は毎月気にしている。けれど貸借対照表(会社の財産と借金の一覧表)は、年に一度しか開かない。銀行に自己資本比率を聞かれ、答えに詰まった経験はないでしょうか。
会社の体力が現れるのは、その開かれないほうの表です。そして体力は、3つの物差しで自分でも読めるようになります。
それが財務の3指標です。ROAは利益 ÷ 総資産、ROEは利益 ÷ 自己資本、自己資本比率は自己資本 ÷ 総資産で求めます。材料は貸借対照表と損益計算書の2つだけ。日々の記録がOdoo(オドゥー)の会計に流れていれば、残高は自動で積み上がります(ROAをOdooのどのデータから作るか)。
3指標を並べて読めるようになると、たとえば次のことが変わります。
- 決算を待たず、四半期ごとに傾きの変化に気づける
- ROEが上がったとき、稼ぐ力か借入かを見分けられる
- 設備投資の会議を、ROAがどちらに振れるかの問いから始められる
ただし、3指標ともOdooでは有償のEnterprise版の会計が前提です。決算書の確認が年1回で足りる会社なら、税理士の決算書から手で並べるほうが合っています(3指標で財務を読む良い点と、気をつけること)。
では、「自己資本比率は何%あればよいのか」。一律の数字で答えが出ない理由は、自己資本比率の見方にあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
財務の3指標は、貸借対照表と損益計算書がそろって初めて計算できます。そのため無料のCommunity版では作れません。Community版でできるのは請求書発行など基本的な範囲の会計までで、財務諸表の出力は対象外です。3指標を扱うなら、有償の「Enterprise版」の会計のフル機能が前提になります。
なぜ「財務」だけを切り出して見るのか
資金の指標は、今月会社が回るかどうかを映します。損益の指標が映すのは、いまの商売の調子。これに対して財務の指標が映すのは、「これまでの経営を積み重ねた結果」です。
利益を社内に残せば自己資本は厚くなり、借りて設備を買えば総資産がふくらみます。どちらも一夜では動きません。
だから財務の3指標は、単月で追っても得るものが少ないのです。見るのは四半期か年に一度で足ります。ただし、必ず複数の期を並べて見てください。
指標1:ROA(総資産利益率)の意味と計算式
定義
ROAとは、会社が持っているすべての資産を使って、どれだけ利益を生んだかを示す指標です。
英語のReturn On Assetsの略です。工場も在庫も現金も売掛金も、すべてが分母に入ります。
計算式
利益 ÷ 総資産 で計算します。分子は、当期純利益か経常利益のどちらかです。どちらにするかは先に決め、期をまたいで変えないでください。
見るときの考え方
水準そのものより、同じ会社の中での変化に意味があります。3期分を並べて方向を確かめてください。下がっているなら、利益が減ったのか、資産が増えたのかを分けて見ます。
目安を置かないのは、業種によって必要な資産の量が違うからです。工場を抱える業種と人が中心の事業では、分母の中身がまるで違います。
Odooのどのデータから作るか
会計アプリの仕訳データから取り出すのは、貸借対照表の資産合計と損益計算書の利益です。日々の記録がOdooの会計機能に流れていれば、残高は自動で積み上がります。
表示手段(C/E別)
財務諸表の出力を伴うため、Enterprise版の会計が前提です。Community版では、計算に必要な貸借対照表そのものを出せません。
指標2:ROE(自己資本利益率)の意味と計算式
定義
ROEとは、株主が出したお金に対して、どれだけ利益を生んだかを示す指標です。
英語のReturn On Equityの略で、分母は総資産ではなく、返さなくてよい自分たちのお金だけを使います。
計算式
利益 ÷ 自己資本 で計算します。自己資本は、資本金と社内に積み上げた利益の合計です。
見るときの考え方
ROEには、借入が多いほど高く出る性質があります。分母の自己資本が、総資産に比べて小さくなるためです。ROEだけが上がるときは、借入が増えただけではないかを確かめてください。
中小企業では、株主が経営者やその一族という会社が多くあります。外部の投資家に示す指標という色合いは、薄くなりがちです。それでも、会社に置いてきたお金がどれだけ働いているかを測る物差しになります。
比べる相手は、自社の過去です。3期分の推移で、ROAと同じ方向に動いているかを見てください。
Odooのどのデータから作るか
貸借対照表の純資産の部(資本金や利益剰余金)と、損益計算書の利益を組み合わせます。
表示手段(C/E別)
Enterprise版の会計が前提です。Community版の請求書発行の範囲では、純資産の残高を集計できません。
指標3:自己資本比率の意味と目安の考え方
定義
自己資本比率とは、会社の全財産のうち、返さなくてよいお金がどれだけを占めるかを示す指標です。
借入への依存度、言いかえれば財務の安定性を測ります。
計算式
自己資本 ÷ 総資産 で計算します。ROAの分母とROEの分母を、そのまま割り算した形です。
見るときの考え方
目安の数字を探されることが、とても多い指標です。それでも一律の水準は示しません。理由は分母の総資産にあります。
設備を多く持つ業種では工場や機械が総資産を押し上げ、同じ自己資本の額でも比率は低く出ます。大きな設備を持たない業種なら、総資産が小さいぶん比率は高く出る。同じ数字が、業種をまたぐと違う意味になるのです。
見るべきは水準より「方向」です。3期分を並べ、上がっているか下がっているかを確かめてください。上がっていれば、利益を社内に残せているということです。
外と比べたいときは、中小企業庁などが公表している業種別の統計と照らしてください。自社の数字が分布のどのあたりにあるかを見れば、感覚はつかめます。
Odooのどのデータから作るか
貸借対照表の自己資本と資産合計から計算します。使う数字は、ROAとROEで使ったものと同じです。
表示手段(C/E別)
これもEnterprise版の会計が前提です。期をまたいだ推移を1枚にまとめるには、Enterprise版のスプレッドシート機能が役に立ちます。
ROA・ROE・自己資本比率を一緒に見ると、何が分かるか
3つの材料は、どれも貸借対照表と損益計算書という同じ2つの表です。並べると、単体では見えない構造が見えてきます。経営会議では、次の表をそのまま使えます。
| 3指標の動き | 考えられる理由 | 会議で最初に確かめる問い |
|---|---|---|
| ROEは上昇、ROAは横ばい | 稼ぐ力は変わらず、借入で自己資本の比率が下がっただけ | この期に借入はいくら増えたか |
| 自己資本比率は高いのに、ROAが低い | 余剰現金や遊休設備が、分母の総資産をふくらませている | 使っていない資産は何か、どう活かすか |
| 3つともゆるやかに同じ方向へ改善 | 利益を出し、社内に残せている。積み重ねが数字に表れている | この流れを崩す投資や借入の予定はないか |
一つだけを見ていると、良い変化と危うい変化の見分けがつきません。3つ並べて初めて、変化の理由が読めます。3指標以外の財務分析の視点は、財務分析指標とは?経営者が本当に見るべき6つの視点で整理しています。
よくある2つの失敗
失敗1:見つけた目安の数字と比べて一喜一憂する
検索すれば、目安らしい数字はいくらでも出てきます。しかし、どの業種のどの規模を前提にした数字かは、たいてい書かれていません。
比べるべき相手は、自社の3期前です。他社の水準ではなく、自社の方向を見てください。
失敗2:決算のときにしか見ない
年に一度しか見なければ、気づいたときには1年分の変化が終わっています。四半期ごとに並べる習慣があれば、傾きが変わった時点で理由を探せます。
決算書を「説明してもらう」から「自分で読む」へ移る4つの段取り
財務の3指標でむずかしいのは、計算式より、毎期同じ条件で数字が出てくる仕組みのほうです。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、相談を受けたとき、次の順番で確かめます。
- 「分子と頻度」を先に決める:利益を経常利益にするか当期純利益にするか、四半期で見るか年で見るかを決めます。ここが期ごとにぶれると、推移を並べる意味がなくなります
- 過去3期分の置き場所を決める:Odoo導入前の期には仕訳がありません。過去の決算書の数字をどこに並べ、導入後の数字とどうつなぐかを先に決めます
- 四半期ごとに締まる運用かを確かめる:月次の締めが遅れている会社では、四半期の貸借対照表も出てきません。3指標より先に、締めの段取りを標準機能に合わせて整えます
- 数字を判断に使う場面を決める:見える化の次は、わかる化です。設備投資・借入・利益の残し方を決める会議で、どの表を開くかまで決めておきます
銀行や株主に説明できる決算書へ整える考え方は、税金のための決算書から、外に説明できる決算書へにまとめています。
進める前に、次の項目を社内で確かめてみてください。
- □ 直近3期分の決算書が、すぐに取り出せる場所にある
- □ 月次の試算表が、翌月のうちに締まっている
- □ 銀行や株主に、財務の数字を説明する場面が年に何度かある
- □ 設備投資や借入を、数字を並べずに決めたことがある
当てはまる項目が少なく、決算書の確認は年1回で足りる会社もあります。その場合に合うのは、Odooの会計を入れることより、税理士の決算書から3指標を手で並べることです。ベンチャーネットは、そう判断したときはそのままお伝えします。
反対に、複数の法人の数字をまとめて見る必要がある会社では、NetSuiteとOdooの会計・請求・経費の比べ方も、あわせて検討する材料のひとつです。
3指標で財務を読む良い点と、気をつけること
3指標を毎期同じ条件で並べると、決算書は「説明してもらう表」から「自分で読む表」に変わります。得られることと、先に知っておきたい負担を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 水準より方向で判断できる:3期分を並べ、上がっているか下がっているかを確かめる。業種をまたいだ数字と比べて一喜一憂しなくて済む
- 変化の理由が読める:ROEだけが上がったとき、ROAと自己資本比率を並べれば、借入で押し上げたのかが分かる
- 材料が2つの表にそろう:3指標とも、貸借対照表と損益計算書から作る。日々の記録がOdooの会計に流れていれば、残高は自動で積み上がる
- 傾きの変化に早く気づける:四半期ごとに並べる習慣があれば、傾きが変わった時点で理由を探せる
- 数字で投資や借入を決められる:設備投資・借入・利益の残し方を決める会議で、どの表を開くかまで決めておける
気をつけることは、次の4つです。
- Enterprise版の会計が前提:Community版では貸借対照表を出せないため、3指標とも対象外になる
- 一律の目安はない:業種によって必要な資産の量が違う。自社の推移と同業種の公表統計で読む
- 分子と頻度をぶらさない運用が要る:経常利益か当期純利益か、四半期か年かを先に決め、期をまたいで変えない
- 締めが遅いと数字が出てこない:月次の締めが遅れている会社では、四半期の貸借対照表も出てこない
両方を1枚の図に並べました。
気をつけることのうち、分子と頻度、締めの段取りは、上の4つの段取りの1と3で先に決められます。版の区分は対応範囲(C/E別)で確かめてください。
対応範囲(C/E別)
| 指標 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| ROA | 資産合計を出せないため対象外 | 貸借対照表と損益計算書から算出できる |
| ROE | 純資産を集計できないため対象外 | 算出でき、純資産の内訳も確認できる |
| 自己資本比率 | 同じ理由で対象外 | 算出でき、期をまたいだ推移も追える |
| 3指標を並べる | 対象外 | スプレッドシート機能で1枚にまとめられる |
版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
財務の3指標について、Community版で代替する道はありません。会計ソフトとは何かから検討している段階なら、版の選択が先の判断になります。
ROA・ROE・自己資本比率のよくある質問
ROAとROEは、どちらを先に見るべきですか?
先に見るのはROAです。借入の影響を受けにくく、事業そのものの実力に近いためです。そのうえでROEを見ると、借入がROEをどれだけ押し上げているかが分かります。
自己資本比率の目安を教えてもらえますか?
一律の目安は示していません。業種によって必要な資産の量が違い、同じ数字でも意味が変わるためです。3期分の推移で方向を確かめ、同業種の公表統計と照らす。この2つをおすすめします。
中小企業でもROEを見る意味はありますか?
あります。株主が経営者やその一族という会社が多く、上場企業と同じ意味合いではありません。それでも、会社に残した利益がどれだけ働いているかの確認に向いた指標です。
財務の3指標は、どのくらいの頻度で見ればよいですか?
四半期ごとを目安にしてください。単月ではほとんど動きません。ただし大きな設備投資や借入をした期は、その前後で必ず確かめてください。
ROA・ROE・自己資本比率をOdooで見るメリットは何ですか?
同じ2つの表から3指標を並べて読めることです。
3指標は、どれも貸借対照表と損益計算書から作ります。日々の記録がOdooの会計に流れていれば、残高は自動で積み上がります。並べれば、ROEの上昇が借入によるものかも見分けられます。ただし、3指標ともEnterprise版の会計が前提です。
まとめ:財務の3指標は推移で読む
財務の3指標は、社長のコックピットに並べる計器のうち、最もゆっくり動く計器です。
- ROAは利益 ÷ 総資産。資産をどれだけうまく使えているかを見る
- ROEは利益 ÷ 自己資本。借入が多いほど高く出る点に注意する
- 自己資本比率は自己資本 ÷ 総資産。借入への依存度と安定性を見る
- 3つとも一律の目安は置かず、3期分の推移と同業種の統計で判断する
- 財務諸表が必要なため、3指標ともEnterprise版の会計が前提になる
決算書を説明してもらう側から、自分で開いて読む側へ。違いを生むのは、毎期同じ条件で数字が並ぶ仕組みです。
1年後の銀行との面談では、社長が4四半期分の自己資本比率とROAの推移を、自分で開いて見せています。設備投資を決める会議も、「この投資で総資産がふくらむと、ROAはどちらに振れるか」という問いから始まっているはずです。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の場合、財務の3指標をどこまで自動で出せる状態にできるか」という整理から、ご相談を承っています。
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