「今期も黒字だった。でも、なぜこの利益になったのかは説明できない」。
経営者との会話で、たびたび出てくる一言です。昇給を決める場面でも同じで、「人件費を上げて大丈夫か」と聞かれても根拠を示せない。額を見ているだけでは、利益の中身が分からないからです。
中身は、4つの比率で分けて見られます。F/M比率・労働分配率・人件費生産性倍率・労働生産性です。どれも粗利益を軸に、稼いだ粗利が固定費と人件費にどう流れたかを映します。社長のコックピットの計器のうち、利益の中身を受け持つのがこの4つです。
材料は、Odooの会計アプリにある損益データです。売上と売上原価で粗利益を出し、固定費や人件費は勘定科目を集計します(F/M比率の計算式と見方)。
4指標を毎月並べると、たとえば次のことが変わります。
- 売上が落ちたとき、赤字までの距離を固定費の重さで読める
- 昇給や採用を、人件費の何倍を稼げているかで判断しやすくなる
- 生産性の上昇が、会社に残る利益につながったかを確かめられる
- 残業で稼ぎを支えていないかを確かめられる
ただし、4指標とも損益計算書の数字を使うため、Enterprise版の会計が前提です。事業部や拠点ごとの連結が重い会社には、NetSuiteのほうが合う場合もあります。
では、一律の目安と比べずに何と比べ、4つを並べると何が見えるのか。答えは4指標を一緒に見ると、何が分かるかにあります。
CommunityとEnterpriseの区別について
4指標はいずれも損益計算書の数字を使うため、有償の「Enterprise版」にある会計のフル機能が前提です。ただし労働生産性の分母になる総労働時間は、工数の記録が無料の「Community版」でも集められます。
なぜ「損益構造」だけを切り出して見るのか
売上や利益の額は、結果を教えてくれます。けれども、なぜその結果になったのかまでは教えてくれません。
ここで扱う4指標には、共通点があります。いずれも、粗利益を分母か分子に置いていることです。
粗利益から、固定費が引かれ、人件費が支払われます。この4つは、利益の中身を分解して見る手段です。資金の指標が存続を映すのに対し、こちらは利益の作られ方を映します。
指標1:F/M比率の計算式と見方
定義
F/M比率とは、固定費 ÷ 粗利益で求める、粗利のうち固定費で消える割合です。
Fは固定費(Fixed cost)、Mは粗利益(Marginal profit)の頭文字です。稼いだ粗利のどれだけが固定費に吸われるかを示します。
計算式
固定費 ÷ 粗利益。固定費とは、売上の増減にかかわらず発生する費用です。家賃やリース料、正社員の給与などが当たります。
見るときの考え方
業種によって、意味が大きく変わる指標です。設備や店舗を多く抱える事業とそうでない事業では、読み方が違います。
そのため、一律の目安は示しません。自社の3期分を並べ、上がっているか下がっているかを見てください。同業種の水準は、中小企業庁などの業種別統計で確かめられます。
Odooのどのデータから作るか
元になるのは、会計アプリの損益データです。売上と売上原価で粗利益を出し、固定費の勘定科目を集計します。
表示手段(C/E別)
固定費も粗利益も会計データのため、Enterprise版の会計のフル機能が前提です。
指標2:労働分配率の計算式と目安の考え方
定義
労働分配率とは、人件費 ÷ 粗利益で求める、粗利のうち人に配分した割合です。
稼いだ粗利を、どれだけ社員に分けたかを表します。
計算式
人件費 ÷ 粗利益。人件費には、給与のほか賞与や法定福利費も含めます。
見るときの考え方
業種による差が、とりわけ大きい指標です。人手が中心の事業では高く、設備が中心の事業では低く出ます。
低ければ良い、という指標でもありません。下げすぎれば、採用も定着も苦しくなる。見るべきは、水準より方向です。
Odooのどのデータから作るか
会計アプリの人件費の勘定科目と、粗利益を並べて求めます。部門別に見る場合は、分析会計(勘定科目とは別の切り口で費用や収益を分ける仕組み)の区分を使います。
表示手段(C/E別)
人件費も粗利益も会計データのため、Enterprise版の会計が前提です。
指標3:人件費生産性倍率の計算式と見方
定義
人件費生産性倍率とは、粗利益 ÷ 人件費で求める、人件費1に対して何倍の粗利を生んだかです。
労働分配率の逆数、つまりひっくり返した数字にあたります。
計算式
粗利益 ÷ 人件費。労働分配率が分かっていれば、集計し直さずに求められます。
見るときの考え方
逆数なので、労働分配率と同じ情報しか持ちません。それでも、別に見る価値はあります。「配分の目線から、回収の目線に切り替わる」からです。
人件費に払った分の何倍を稼げているか。こう問い直すと、採用や昇給の判断がしやすくなります。
Odooのどのデータから作るか
労働分配率と同じデータです。会計アプリの人件費と粗利益から算出します。
表示手段(C/E別)
こちらもEnterprise版の会計のフル機能が前提で、Community版の範囲では算出できません。
指標4:労働生産性の計算方法(人数・時間)
定義
労働生産性とは、粗利益 ÷ 従業員数、または粗利益 ÷ 総労働時間で求める、1人あたり・1時間あたりの稼ぎです。
会社の稼ぐ力を、人の数や時間で割り戻した指標です。
計算式
粗利益 ÷ 従業員数。時間で見る場合は、粗利益 ÷ 総労働時間になります。
見るときの考え方
人数で割るか時間で割るかで、見えるものが変わります。人数で割ると採用の効果が、時間で割ると残業を含めた実態が見える。
短時間勤務の比率が高い会社では、時間で見るほうが実態に近くなります。目安は示しません。同じ割り方で、3期分を並べてください。
Odooのどのデータから作るか
分子の粗利益は会計データです。分母の従業員数は従業員台帳、総労働時間は工数の記録や勤怠の記録から集めます。
表示手段(C/E別)
分母側の工数や勤怠の記録は、Community版でも蓄積できます。ただし、分子の粗利益と掛け合わせる部分は、Enterprise版の会計とスプレッドシート機能が前提です。
4指標を一緒に見ると、何が分かるか
4つを別々に眺めるだけでは、判断を誤ります。組み合わせて初めて見えるのは、次の3つです。
逆数の関係
労働分配率と人件費生産性倍率は、片方が分かればもう片方も決まります。両方を並べる意味は、情報を増やすことではありません。
粗利をどう配ったかと、人件費から何倍を回収したか。狙いは、この見方の切り替えにあります。
生産性と配分のずれ
労働生産性が上がっても、同じ時期に労働分配率も上がっていれば話は変わります。稼ぎは増えたが、取り分も増えたことになる。会社に残る利益は、変わっていない可能性があります。
変動への耐性
F/M比率が高い会社は、売上が落ちたときの耐性が低くなります。固定費は、売上が減っても自動では減らないからです。粗利が縮むとすぐに、赤字までの距離が短くなります。固定費と粗利の関係から打ち手を考える方法は、儲かる化とは、損益分岐点を「動かす」ことであるで扱っています。
経営会議で使う:数字の動きから何を問うか
3期分を並べたあと、会議で最初に確かめる問いを表にしました。答えを出す表ではなく、問いを立てる表です。
| 3期分の動き | まず疑うこと | 会議で確かめる問い |
|---|---|---|
| F/M比率が上がっている | 固定費の伸びが粗利の伸びを上回っている | 増えた固定費は、来期の粗利につながる投資か |
| 労働分配率が上がっている | 粗利が伸びないまま人件費が増えている | 人を増やした部門で、粗利は増えているか |
| 労働生産性(人数)が上がり、(時間)は横ばい | 残業で稼ぎを支えている | 同じ粗利を、少ない時間で出せる仕事の仕方か |
| 労働生産性も労働分配率も上がっている | 稼ぎの増加が取り分に回っている | 会社に残る利益は、狙いどおり増えているか |
| 4指標とも急に動いた | 粗利益の出し方が変わった | 原価に含める範囲を、期の途中で変えていないか |
よくある2つの失敗
失敗1:目安の数字を探して、そこで止まる
労働分配率の適正値を調べ、自社の数字と見比べて終わる。よくあるパターンです。
業種も事業モデルも違う会社の平均値と比べても、手は打てません。見るべきは、自社の3期分がどちらへ動いているかです。
失敗2:粗利益の定義が期によってずれている
4指標は、すべて粗利益を使います。粗利益の出し方が変わると、推移そのものが崩れます。
原価に何を含めるかを決め、勘定科目の使い方を固定してください。粗利と限界利益などの違いは、中小企業向け・5つの利益の使い分けで整理しています。
4指標を毎月並べるまでに、ベンチャーネットが確かめること
4指標の計算式は単純です。つまずくのは計算ではなく、その手前のデータのそろえ方です。ベンチャーネットは、次の順で確かめます。
- 粗利益の定義を決める:原価に何を含めるかを、経理と経営者で言葉にします。ここが揺れると、4指標すべての推移が崩れます
- 固定費と人件費の勘定科目を仕分ける:いまの科目の使い方で、固定費と人件費を過不足なく集計できるかを確かめます。足りなければ、科目の使い方を先にそろえます
- 労働生産性の分母を選ぶ:人数で割るか、時間で割るかを決めます。時間で割るなら、工数や勤怠の記録が日々残る運用かどうかも見ます
- 版と見せ方を決める:会計のフル機能が要るため、Enterprise版が前提になります。どの会議で、誰が、どの形で見るかも同時に決めます
- 過去3期分を同じ定義で並べ直す:新しい定義で過去の数字をそろえてから、毎月の推移を追い始めます
進め方の軸は、「見える化→わかる化→儲かる化」の順です。まず数字が並び、次に動きの理由が分かり、最後に打ち手へつなげる流れです。
ベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。事業部や拠点ごとの連結が重く、会計の要件が複雑な会社には、NetSuiteのほうが合う場合もあり、そのときはそうお伝えします。
4指標で損益構造を読む良い点と、気をつけること
4指標を同じ定義で毎月並べると、利益の額の裏にある流れが見えてきます。得られることと、先に知っておきたい負担を並べます。
良い点は、次の5つです。
- 利益の中身を分けて見られる:稼いだ粗利が固定費と人件費にどう流れたかを、4つの角度から映す
- 採用や昇給を数字で話せる:人件費に払った分の何倍を稼げているかを問い直すと、判断がしやすくなる
- 売上が落ちたときの耐性が読める:F/M比率が高い会社ほど、粗利が縮むとすぐに赤字までの距離が短くなる
- 単体の見誤りに気づける:労働生産性と労働分配率を並べれば、会社に残る利益が横ばいかどうかが分かる
- 材料が会計と工数の記録にある:粗利益・固定費・人件費は会計アプリから、総労働時間は工数や勤怠の記録から集める
気をつけることは、次の4つです。
- Enterprise版の会計が前提:4指標とも粗利益を使う。Community版で蓄積できるのは、工数や勤怠の記録まで
- 一律の目安はない:業種による差が大きい。自社の3期分の推移と、中小企業庁などの業種別統計で比べる
- 粗利益の定義を固定する:原価に含める範囲が変わると、4指標すべての推移が崩れる
- 勘定科目の使い方をそろえる:固定費と人件費を過不足なく集計できないなら、科目の使い方を先にそろえる
両方を1枚の図に並べました。
粗利益の定義と勘定科目の仕分けは、上の手順の1と2で先に決められます。版の区分は対応範囲(C/E別)で確かめてください。
対応範囲(C/E別)
| 指標 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| F/M比率 | 固定費の集計ができず対象外 | 会計のフル機能で算出できる |
| 労働分配率 | 人件費の集計ができず対象外 | 会計のフル機能で算出できる |
| 人件費生産性倍率 | 同上 | 会計のフル機能で算出できる |
| 労働生産性 | 分母の工数・勤怠の記録は蓄積できる | 粗利益と掛け合わせた算出まで可能 |
版ごとの対応範囲は改定されることがあるため、導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
損益構造の4指標のよくある質問
労働分配率の目安は、何パーセントですか?
一律の目安は示していません。業種・事業モデル・企業規模で、適正な水準が大きく変わるためです。
代わりに、自社の3期分の推移と、中小企業庁などの業種別統計で比べてください。
F/M比率が高いと、何が問題なのですか?
業績が悪化したときに、赤字へ届くのが早くなる点です。
F/M比率が高いのは、粗利のうち固定費で消える割合が大きい状態です。売上が落ちても、固定費はすぐには減りません。
労働分配率と人件費生産性倍率は、どちらを見ればよいですか?
逆数の関係なので、数字としてはどちらでも同じです。議論の目的で選んでください。
賃上げや配分を話すときは労働分配率、投資対効果を話すときは人件費生産性倍率が伝わりやすくなります。
Community版だけで、この4指標を追えますか?
4指標とも粗利益を使うため、そのままでは難しいのが実情です。集計には、Enterprise版の会計のフル機能が要ります。
ただし、労働生産性の分母になる工数の記録は、Community版でも蓄積できます。
労働分配率やF/M比率を毎月追うメリットは何ですか?
利益の額だけでは見えない中身が分かることです。
稼いだ粗利が固定費と人件費にどう流れたかを、4つの角度から見られます。労働生産性と労働分配率を並べれば、稼ぎの増加が取り分に回っただけかも確かめられます。昇給や採用の相談にも、人件費生産性倍率の推移で答えやすくなります。
まとめ:労働分配率もF/M比率も推移で読む
損益構造の4指標は、利益の額ではなく、利益の中身を映す手段です。
- F/M比率=固定費 ÷ 粗利益。粗利が固定費でどれだけ消えるかを見る
- 労働分配率=人件費 ÷ 粗利益。粗利をどれだけ人に配ったかを見る
- 人件費生産性倍率=粗利益 ÷ 人件費。逆数で、回収の目線に切り替える
- 労働生産性=粗利益 ÷ 従業員数または総労働時間。1人あたりの稼ぐ力を見る
- 一律の目安は示さない。自社の3期分の推移と、同業種の公表統計で比べる
1年後の月次会議では、粗利が増えた月も減った月も、まず「固定費と人件費のどちらに吸われたか」から話が始まっているはずです。昇給や採用の相談にも、人件費生産性倍率の推移を示しながら答えられるようになります。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「自社の損益構造を、どこまで数字で追える状態にできるか」という整理から、ご相談を承っています。粗利益の定義がまだ固まっていない段階でも構いません。
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