Odooの承認ワークフロー(Approvals)|「誰で止まっているか」が見える状態にする

「あの申請、承認もらえましたか」

社内でこの確認をしている時間は、意外と長いものです。

備品の購入、出張の申請、契約書の押印依頼、社外への持ち出し許可。どれも小さな判断ですが、止まると仕事が進みません。

そして止まっている原因を調べると、たいてい同じ結論にたどり着きます。

承認する人が、申請が来ていることを知らなかった。

チャットで送った申請が流れてしまった。メールが他の連絡に埋もれた。口頭で伝えた話が忘れられた。誰も悪くないのに、止まっています。

この記事では、Odoo(オドゥー:オープンソース由来の統合業務アプリ群)の承認ワークフローを、機能の各論として整理します。

⚠️ このアプリはEnterprise版限定です
Odooの承認アプリは、有償の Enterprise版 が対象と案内されています。無料の Community版では利用できません。この記事はEnterprise版を前提に書いています。

目次

承認が止まる原因は、たいてい「見えなさ」

まず構造から見てください。

承認依頼が複数の手段に分散している状態と、一覧に集約された状態の比較図 左側はチャット、メール、口頭、紙の回覧に承認依頼が分散し、申請者も承認者も現在の状態が分からない状態。右側は申請が一覧に集まり、未処理の件数と滞留している日数が誰にも見える状態を示しています。 依頼の経路がばらばら 1つの一覧に集まる チャットで依頼 メールで依頼 口頭で依頼 紙を回覧 承認者は依頼に気づかない 申請者は状態を確認できない 催促の連絡が業務時間を食う 記録も残らない 承認待ちの一覧 備品購入 2件/出張 1件 持ち出し許可 3件 承認者ごとに未処理が分かる 誰の手元で止まっているか分かる 申請者が自分で状態を見られる 催促の連絡が要らなくなる いつ誰が承認したかが残る

右側の形にすると、変わることは2つです。

  1. 承認者が、自分の未処理を1か所で見られる
  2. 申請者が、自分で状態を確認できる

2つ目のほうが効きます。「あの申請どうなりましたか」という確認が、そもそも不要になるからです。

記録が残ることの意味

もう1つ、副次的ですが大きな効果があります。いつ、誰が承認したかが残ります。

紙とチャットの運用では、後から「これは誰が決めたのか」をたどれません。監査や社内の振り返りで困るのは、この部分です。

承認ワークフローでできること

Odooの承認アプリは、おおむね次のような構成になっています(2026年8月時点の一般的な構成)。

承認の種類を定義する

  • 「備品購入」「出張申請」「契約書の確認」のように、承認の種類(承認タイプ)を作る
  • 種類ごとに、承認する人を設定する
  • 種類ごとに、何人の承認が必要かを設定する
  • 申請時に入力してもらう項目や、添付を求めるかを決められる

申請と承認

  • 申請者が、種類を選んで申請を作成し、提出する
  • 承認者の一覧に、未処理として表示される
  • 承認者が承認、または却下する
  • 申請者は、自分の申請の状態を確認できる

専門用語の整理:ここでいう「ワークフロー」とは、申請が承認を経て確定するまでの決まった流れのことです。回覧板の順番を、システム上に置いたものだと考えてください。

設定できる項目の細かな名称や範囲は、バージョンによって変わります。 検討時には対象バージョンの公式資料で確認してください。

設計は「何を承認しないか」から始める

ここが設計の要点です。

承認の仕組みを入れると、あれもこれも承認対象にしたくなります。 その結果、承認が業務の渋滞になります。

承認対象を金額や影響範囲で3段階に切り分ける設計例の図 承認が不要で事後報告のみとする範囲、上長1名の承認で足りる範囲、複数名の承認を必要とする範囲の3段階に分け、それぞれの判断基準と狙いを示した図です。 承認の重さを、3段階に分ける ① 承認しない 事後の記録だけ残す 日常の消耗品、少額の交通費など 止める価値より、待たせる損失が大きい範囲 この範囲を決めることが設計の出発点 ② 上長1名 その場で判断できる 部門の予算内で完結する支出、通常の出張 現場に近い人が判断したほうが速い範囲 大半の申請はここに入るのが健全です ③ 複数名 別の視点を必ず通す 高額の支出、契約、社外への情報提供 後戻りが難しい判断に限定する 増やしすぎると、通す作業になります

判断の基準

承認を置くかどうかは、次の1点で判断してください。

その申請を止めることで防げる損失が、待たせることで生じる損失より大きいか。

少額の消耗品を上長2名の承認にすると、防げる損失より、待っている時間の損失のほうが大きくなります。

承認を増やしすぎると起きること

  • 承認者が中身を見なくなる(通す作業になる)
  • 申請者が、承認の要らないやり方を探すようになる
  • 「承認したのに問題が起きた」ときの責任があいまいになる

3つ目が深刻です。 形だけの承認は、統制を強めるどころか弱めます。

例外の手続きを、必ずセットで決める

承認の設計でいちばん忘れられるのが、ここです。

必ず起きること

  • 承認者が休んでいる(出張、休暇、病気)
  • 急いでいる(当日中に決めないと機会を逃す)
  • 承認者本人が申請者になる

この3つは必ず起きます。そして、決めていないと現場が独自に回避します。

「部長が不在なので、とりあえず進めておきました」が常態化すると、仕組みそのものが形骸化します。

決めておくこと

場面決めること
承認者の不在代理の承認者を誰にするか。事前に設定するのか、その都度か
緊急時先に実行して事後承認とする範囲。その場合の記録の残し方
承認者が申請者上位の承認者に回すのか、別部門の同格者に回すのか

例外の手続きは、抜け道ではありません。 決めておくことで、記録に残る形の例外になります。決めていないと、記録に残らない形の例外になります。

承認は「監視」ではありません

強調しておきたい点です。

承認の仕組みを入れると、細かく管理する目的だと受け取られることがあります。 そうなると、現場の抵抗が生まれます。

目的の説明を、先にしてください

承認の目的は、次のどちらかであるべきです。

  • 判断の品質を上げる(一人で決めると見落とす点を、別の目で確認する)
  • 記録を残す(後から「誰が決めたか」をたどれるようにする)

「信用していないから確認する」ではありません。 ここを説明せずに導入すると、申請する側は「疑われている」と感じます。

実務上の勧め

  • 承認を置く理由を、種類ごとに1行で説明できるようにする
  • 説明できない承認は、置かない
  • 導入後、却下がほとんど発生していない種類は見直す

3つ目は有効な点検方法です。1年間ほぼ全件が承認されている種類は、承認である必要がないかもしれません。 事後の記録だけで足りる可能性があります。

社内への説明と定着の進め方は Odooを社内に定着させる方法 にまとめています。

各アプリに組み込まれた承認との違い

ここを整理しておかないと、設計が重複します。

Odooでは、いくつかのアプリに承認の仕組みがもともと組み込まれています。

対象どこで承認するか
立替経費の精算経費精算アプリの中
発注(購買)購買アプリの中
休暇の申請休暇管理アプリの中
工数の確定工数管理アプリの中

これらは、それぞれのアプリで完結させてください。 承認アプリで作り直す必要はありません。

では、承認アプリは何に使うのか

どのアプリにも属さない申請です。

  • 備品の購入依頼(発注の前段階の相談)
  • 出張や外出の届け出
  • 社外への持ち出し許可
  • 各種の社内手続き

つまり、紙の稟議書や申請書で回していたものが対象です。

経費と発注の各論は、それぞれの記事にまとめています。

Community版とEnterprise版の違い

Odooには、無料の Community版 と有償の Enterprise版 があります。

Community版はオープンソースとして無料で使えます。ただし、サーバの用意・アップデート・障害対応は自社の責任になり、公式サポートの対象外です。

承認アプリは、Enterprise版が対象です。Community版では利用できないと案内されています。

一方で、前章のとおり購買や休暇の承認は、各アプリの中に組み込まれています。 そちらはCommunity版でも利用できる範囲があります。

つまり、「承認アプリがないと承認ができない」わけではありません。 汎用の申請フォームが必要かどうかが、判断の分かれ目です。

どの機能がどちらの版で使えるかはバージョンによって変わります。 検討時には必ず対象バージョンで確認してください。

詳しくは Odoo Community版とEnterprise版の違い をご覧ください。

他のアプリとのつながり

アプリつながり方
経費精算精算の承認は経費側で完結する。役割を分ける
購買管理発注の承認は購買側で完結する。備品の購入相談は承認アプリ側
人事管理申請者・承認者の所属と上長関係の元データ
社内チャット申請ごとのやり取りが、その記録に残る
文書管理申請の根拠となる書類の最新版を、探さずに済む状態にする

詳細はそれぞれの記事にまとめています。

よくある質問

Q1. 承認の段階は、いくつまで作れますか?

種類ごとに承認者と必要な人数を設定できます。ただし、段階を増やすほど滞留します。

大半の申請は、上長1名で足りるはずです。 複数名の承認は、後戻りが難しい判断に限定してください。

Q2. 承認者が不在のときはどうなりますか?

代理の運用を、先に決めておいてください。

決めていないと、現場が独自に回避します。「不在なので進めておきました」が常態化すると、仕組みそのものが意味を失います。

Q3. スマートフォンから承認できますか?

Odooのモバイルアプリは、Enterprise版が対象と案内されています。承認アプリ自体もEnterprise版が対象のため、条件は揃います。

ただし操作性は実機で確認してください。 承認は移動中に行われることが多く、ここが使いにくいと滞留の原因になります。

Q4. 紙の稟議書と同じ様式にできますか?

同じ様式を再現しようとしないでください。 紙の様式には、紙だから必要だった項目が含まれています。

回覧の順序を記す欄や、押印欄はその代表です。再現すると、非効率まで引き継ぎます。

考え方は Odooの標準機能に業務を合わせる(fit to standard) にまとめています。

Q5. 承認の履歴は、どのくらい残りますか?

申請ごとに、承認の記録が残ります。保存期間の方針は、自社で決める必要があります。

監査で参照する可能性がある種類については、あらかじめ保存の考え方を決めておいてください。

まとめ

Odooの承認ワークフローが変えるのは、申請の速さそのものではありません。

今どこで止まっているかが、申請者にも承認者にも見えるようになること。 これが本質です。

承認者は自分の未処理を1か所で見られます。申請者は自分で状態を確認できます。その結果、「あの申請どうなりましたか」という確認が要らなくなります。

そして設計は、何を承認するかではなく、何を承認しないかから始めてください。

判断の基準は1つです。止めることで防げる損失が、待たせることで生じる損失より大きいか。 少額の消耗品を複数名の承認にすると、この計算は合いません。

例外の手続きも、必ずセットで決めてください。承認者の不在、緊急時、承認者本人が申請者になる場合。 この3つは必ず起きます。決めていないと、記録に残らない形の例外が生まれます。

最後に、承認は監視ではありません。 目的は判断の品質を上げることと、記録を残すことです。この説明を先にしないまま導入すると、申請する側は疑われていると感じます。

1年間ほぼ全件が承認されている種類があれば、それは承認でなくてよいのかもしれません。入れたあとに減らす点検を、運用に組み込んでください。

もう少し詳しく知りたい方へ

ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。SAP・NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発という4つの選択肢を扱っているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。

「今の稟議のうち、どれを承認から外すか」という整理からご相談を承っています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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