「止まったことはない。ただ、新しい取引形態を始めたいと言うと、システム側の返事がいつも重い」。
GLOVIAを長く運用してきた企業の経営者から、こうした声を聞くことがあります。止まらないシステムほど、見直しのきっかけはつかみにくいものです。
移行先の候補として、Odoo(オドゥー:販売・在庫・会計などをひとつにつなぐERP)は検討に値します。GLOVIAが掲げる「標準を保つ」考え方は、Odooでもそのまま通用するからです。業務を部品に分け、効果が見えやすい部品から動かせます。標準に手を入れていなければ、原則として年1回のメジャーバージョンアップでも、検証範囲は小さく済みます(「標準を保つ」考え方は移行後も役立つ)。
部品に分けて進めると、たとえば次のことが変わります。
- 「手を入れづらい」原因が、標準の制約・作り込み・承認プロセスのどれかが分かる
- 販売・在庫・購買のように、効果が見えやすい部品から動かせる
- 社内で培った「標準に合わせる」説明の下地を、移行後も使える
- 新しい取引形態を設定で試せるかを、その週のうちに確かめやすくなる
ただし、どうしても越えられない要件を持つ部品が業務の中核にあるなら、その部品は動かさない判断が合理的です(Odooが候補にならない条件)。ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、移行そのものを勧めるわけではありません。
では、移すか保つかの分かれ目はどこか。答えは、「手を入れづらい」と感じる原因にあります。切り分け方はGLOVIAの見直しの理由を切り分けるで扱います。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と、有償のEnterprise版の2つがあります。現場側の業務、つまり販売・在庫・購買・製造は両版で扱えます。
一方、財務諸表の出力や部門別の管理会計といった会計のフル機能は、「Enterprise版が前提」です。会計から動かすか、現場側から動かすかで、必要な版が変わります。
GLOVIAの設計思想を、まず押さえる
比べる前に、GLOVIAが自らをどう説明しているかを見ておきます。この章の内容は、いずれもメーカー公式サイトの記載にもとづいています(出典:メーカー公式サイト、2026年9月確認)。
「コンポーザブル」という考え方
公式サイトでは、この製品を「コンポーザブル型ERP」と説明しています。業務やシステムを部品化し、変化に応じて組み替えられる設計、という位置づけです。
「全部入りを一度に入れる」前提ではありません。業務ごとに部品を選ぶという発想が、製品の側から示されています。
「Clean Core」を前提にしている
もうひとつ、公式サイトが前面に出しているのが「Clean Core を前提に」という言葉です。現場で培われてきた改善や業務知見を、製品の標準機能と共存させる思想、と説明されています。
標準の中身に手を入れて作り込むのとは逆に、標準を保ったまま現場の工夫を活かす考え方です。
ベンチャーネットが長く掲げてきた「Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)」と、方向は同じです。この考え方になじんでいる会社にとって、Odooへの移行は思想の転換ではありません。
部品ごとに提供の形が違う
現行のラインアップは、会計、人事給与、販売、生産といった単位で整理されています。生産の製品は、標準機能と業種別テンプレートでカバーする形だという説明です。
提供の形も、部品ごとに記載の粒度が違います。会計の製品は「マルチテナントSaaSで最新・安全な環境を提供」と明記されています。
一方、他の部品の提供形態は、公式サイトで明記を確認できませんでした(2026年9月確認)。いま自社が使っている部品がどの形なのかは、個別に確認してください。移行の順序を考えるときの前提になります。
製品の全体像と、使い続けるかどうかの物差しは、GLOVIAとは?富士通の国産ERPとGLOVIA Oneで整理しています。
GLOVIAの見直しの理由を切り分ける
製品を比べるのは、見直したい理由がはっきりしてからです。
| 見直したい理由 | 先に打つ手 | 移行の理由になるか |
|---|---|---|
| 費用が事業規模と釣り合わない | 契約の見直し、または規模の適正化 | 契約で解けなければ候補 |
| 業務を変えたいときに手を入れづらい | どこが固いのかを特定する | 原因しだい |
| 業務範囲を広げたい | 対応範囲を確認する | なり得る |
| 他システムとつなげたい | 連携の可否を確認する | 移行とは限らない |
| 使っている機能が限られている | 契約範囲を確認する | 移行とは限らない |
| 更新の時期が来た | 継続か見直しかを判断する | 検討の好機 |
2行目を理由に挙げる場合は、注意が必要です。
製品の側は、GLOVIAの設計思想のとおり「部品として組み替えられる」設計を掲げています。それでも動かしづらいなら、原因は製品より、その上に積み上げてきたものにある可能性があります。
だから、最初にやるのは「手を入れづらい」の中身の特定です。標準機能の制約か、過去の作り込みの積み重ねか、社内の承認プロセスか。原因が違えば、打つ手も変わります。
過去の作り込みが原因なら、製品を替えても、同じ思想で作れば同じことが起きます。カスタマイズをどこまでにするかの考え方は、カスタマイズはどこまでやるべきかにまとめました。
経営会議では、次の問いに答えられるかを確かめてみてください。
- □ 「手を入れづらい」と感じた具体的な場面を、3つ挙げられる
- □ そのうち、標準の制約が原因のものと、作り込みが原因のものを分けられる
- □ 3〜5年後に増やしたい業務や拠点を、言葉にできる
- □ 次の更新時期と、それまでに判断すべき期限を把握している
答えられない項目が多いうちは、製品を比べる段階ではありません。
「標準を保つ」という考え方は、移行後も役立つ
思想は同じ、実装が変わる
Clean Core という言葉で表されている考え方と、Fit to Standard は同じ方向を向いています。標準の中身を書き換えず、その上で業務を回すという発想です。
そのため移行の局面でも、「なぜ標準に合わせるのか」を社内に説明する下地がすでにあります。ゼロから考え方を持ち込むより、合意は組み立てやすくなります。
Odooで「標準を保つ」とどうなるか
Odooでも、標準機能の中身を書き換えず、設定と拡張で業務に合わせるのが基本です。
画面や項目をノーコードで調整する仕組み(Odoo Studio)もあります。ただし、これはEnterprise版の範囲です。どこまでを設定で済ませ、どこから拡張に進むかは、最初に方針として決めてください。
考え方はFit to Standardという方針で詳しく扱っています。
標準を保つと、バージョンアップが軽くなる
標準に手を入れていなければ、新しいバージョンが出たときの検証範囲は小さく済みます。
Odooのメジャーバージョンアップは、原則として年1回です。作り込みが少ないほど、この周期についていく負担は軽くなります。
どの部品からOdooへ動かすか
現場の動きが数字になる入り口から
販売・在庫・購買は、現場の動きがそのまま数字になる入り口です。ここが動くと効果が見えやすく、社内の納得も得やすくなります。
Odooでは、この範囲をCommunity版・Enterprise版の両方で使えます。最初の一歩を小さく始めやすい領域です。
製造は、難しい要件から先に確認する
製造には、業種固有の要件が集まりがちです。ロットの扱い、配合、外注工程、製番。ここを後回しにすると、構築が進んでから行き詰まります。
順序としては、「もっとも難しい要件から先に検証する」こと。越えられないなら、その部品は移さないという判断もあります。詳しくは製造業のOdoo活用で扱っています。
会計は「どこまで」を先に決める
会計は、どこまでを同じ基盤で扱うかを先に決める部品です。請求書発行までなら両版で扱えます。財務諸表の出力や部門別の管理会計まで求めるなら、Enterprise版が前提です。
給与は、別の仕組みと組み合わせる前提で考える
Odooの給与計算は、日本のローカライズが公式に提供されていません。給与は国産ソフトと併用する形が現実的です。
部品として切り離して考えれば、これは移行の障害になりません。
部品ごとにOdooへ移す良い点と、気をつけること
部品に分ける進め方は、GLOVIAで培った考え方を生かしたまま移る方法です。版ごとの違いも含めて、得られることと負担を並べます。
良い点は、次の4つです。
- 小さく始めやすい:販売・在庫・購買はCommunity版・Enterprise版の両方で使え、効果も見えやすい
- 標準化の考え方をそのまま使える:Clean CoreとFit to Standardは同じ方向で、社内で合意を組み立てやすい
- バージョンアップが軽くなる:標準に手を入れなければ、新しいバージョンの検証範囲は小さく済む
- 動かさない部品を残せる:すべてを同時に切り替える必要はなく、残す部品とのつなぎ方も決められる
気をつけることは、次の4つです。
- 会計のフル機能はEnterprise版が前提:請求書発行までは両版で扱え、財務諸表や部門別の管理会計はEnterprise版
- 製造は難しい要件を先に確かめる:ロットの扱い、配合、外注工程、製番は後回しにすると行き詰まる
- 給与は国産ソフトと組み合わせる:Odooの給与計算は、日本のローカライズが公式に提供されていない
- 部品ごとにばらばらにしない:データがつながる形を最初に描かないと、二重入力が戻ってくる
両方を1枚の図に並べました。
気をつけることの避け方は、移行で失敗しないための注意点で扱います。
Odooではどこまで扱えるか(版ごとの対応範囲)
| 業務 | Community版 | Enterprise版 |
|---|---|---|
| 販売(見積・受注)・在庫・購買・製造 | 使える | 使える |
| 請求書発行など基本的な範囲の会計 | 使える | 使える |
| 会計のフル機能(財務諸表、分析会計、部門別の管理会計) | 対象外 | 使える |
| 画面・項目のノーコードでの変更(Odoo Studio) | 対象外 | 使える |
| 表計算で自由に組むダッシュボード(スプレッドシート機能) | 対象外 | 使える |
| ホスティング・保守・障害対応 | 自社責任 | 公式サポートに含まれる |
標準で用意されたダッシュボードは、両版で見られます。版ごとの対応範囲は改定されることがあります。導入を検討する段階で、Odoo公式のエディション比較ページで最新の内容をご確認ください。
運用の置き場所は3つです。Odooが提供するクラウド(Odooオンライン)、開発環境つきのクラウド(Odoo.sh)、自社サーバーでの運用(オンプレミス)。ただし、Community版はOdooオンラインの対象外です。詳しくはOdooの提供形態にまとめています。
Odooが候補にならない条件
次の場合は、Odoo以外の選択肢を検討してください。
- どうしても越えられない要件を持つ部品が、業務の中核にある:その部品は動かさない判断が合理的です
- 規模が大きくなり、海外展開や連結決算が視野に入る:NetSuiteなど上位のERPが合ってきます
- グローバルで複雑な要件がある:SAPも視野に入ります
- 給与を同じシステムで扱いたい:Odooの給与計算は、日本のローカライズが公式に提供されていません
- 業務が固有すぎてパッケージに乗らない:必要な機能だけをAIスクラッチ開発で作るほうが現実的なこともあります。この場合、開発費と保守費が別途かかります
規模で迷うときは、OdooとNetSuiteの違いも判断の助けになります。海外拠点や連結決算まで視野に入る場合の比べ方は、NetSuiteとGLOVIAの比較ガイドで扱っています。
GLOVIAの見直しで、ベンチャーネットが最初に確かめること
ベンチャーネットはNetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。製品を決める前に確かめる順番は、次のとおりです。
ステップ1:「手を入れづらい」を具体的な場面に分解する
最近断念した変更や、見送った新規事業を一緒に洗い出します。そのうえで、標準の制約か、作り込みか、承認プロセスかに振り分けます。
ステップ2:3〜5年後の姿から逆算する
増やしたい拠点、取引形態、事業の範囲を先に聞きます。いまの課題だけで選ぶと、数年後にまた選び直すことになりかねないからです。
ステップ3:業務を部品に分け、いちばん難しい要件を先に試す
販売・在庫・購買、製造、会計、給与に分けます。製造などの越えにくい要件は、構築の前に実現できるかを確かめます。
ステップ4:動かす部品と、残す部品を決める
すべてを同時に切り替える必要はありません。効果が見えやすい部品から始め、動かさない部品とのつなぎ方も同時に決めます。
ステップ5:標準を保つ範囲を、経営として合意する
どこまでを設定で済ませ、どこから拡張に進むか。ERPはITではなく経営のプロジェクトなので、この境界は経営者と決めます。
途中で「今回は動かさないほうがよい」と分かれば、その結論をそのままお伝えします。Odooが合わない案件を、Odooに寄せることはしません。
GLOVIAからの移行で失敗しないための注意点
「部品ごと」と「ばらばら」を混同しない
部品単位で進めることと、部品ごとに別々の仕組みを増やすことは違います。
分けて進めながらも、データがつながる形を最初に描いておいてください。つながらないまま増やすと、二重入力が戻ってきます。
積み重なった作り込みを、そのまま持ち込まない
長く使ったシステムほど、当時の事情で入れた設定が残っているものです。
それをそのまま再現しようとすると、費用も期間も膨らみます。標準を保つという方針が役に立つのは、まさに移行のときです。
データの取り出し方を早めに確認する
公式サイトには、他システムとのデータ連携について、具体的な手段の記載は見当たりませんでした(2026年9月確認)。
何をどの形式で取り出せるのかは、早い段階で確認してください。ここが移行の前提条件になります。進め方はOdooのデータ移行にまとめました。
よくある質問
一度にすべてを切り替えず、段階的に移行できますか?
できます。
Odooは、アプリ単位で始められる仕組みです。1アプリのみ無料のOne App Freeから、2つ目のアプリを足した時点で有償プランに切り替わります。部品ごとに順番を決めて進めることも可能です。
いまの標準化の考え方は、移行後も使えますか?
使えます。
標準の中身を書き換えず、設定と拡張で業務に合わせるという発想は、Odooでもそのまま通用します。社内での説明も、ゼロから始める必要がありません。
自社の製造の要件は、Odooで再現できますか?
再現できるかどうかは、要件を書き出して切り分けるまで判断できません。
標準機能で足りるもの、設定や拡張で対応できるもの、対応が難しいもの。この3つに分けるには、要件を具体的に書き出す必要があります。難しいものから先に確認してください。
日本の会計や税制には対応できますか?
対応状況を確認したうえで検討する必要があります。インボイス制度や電子帳簿保存法などの日本固有の要件は、検討の初期に確認すべき項目です。
なお給与については、日本向けのローカライズが公式には提供されていません。国産の給与ソフトと組み合わせる形が現実的な選択になります。
GLOVIAからOdooへ移すメリットとデメリットは何ですか?
標準を保つ考え方を生かせる一方で会計と給与の扱いを決める必要があります。
販売・在庫・購買のように効果が見えやすい部品から、両版で小さく始められます。標準に手を入れなければ、バージョンアップの検証範囲も小さく済みます。一方で、会計のフル機能はEnterprise版が前提で、給与は国産ソフトとの組み合わせになります。両方の一覧は部品ごとにOdooへ移す良い点と、気をつけることにあります。
まとめ:GLOVIAからの移行は、部品に分けて順番を決める
- 「手を入れづらい」の中身を特定する。標準の制約か、過去の作り込みかで打つ手が変わる
- この製品が掲げる「部品として組み替える」「標準を保つ」という考え方は、移行後も使える
- 業務を部品に分け、難しい要件から先に検証し、効果が見えやすい部品から動かす
- 会計はどこまで同じ基盤で扱うかを先に決める。フル機能はEnterprise版が前提
- 給与は切り離して、別の仕組みと組み合わせる前提で考える
基幹システムの見直しは、これから変えたいことに仕組みが追いつけるかを測り直す作業です。技術の判断であると同時に、経営の判断でもあります。
1年後、受注から出荷までの動きはOdooの上でつながり、給与は国産ソフトと組み合わせて回っています。新しい取引形態を始めたいという話が出ても、システムの返事を待たずに、設定で試せるかをその週のうちに確かめられるようになっています。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
「業務を部品に分けたとき、どこから動かすのが現実的か」「そもそも今回は動かすべきか」という整理から、ご相談を承っています。
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