IPOで求められる内部統制とは?クラウドERPで実現する5つの要件と失敗回避策【2026年版】

監査法人との最初の打ち合わせで、「この支払は、誰がいつ承認しましたか」と聞かれる。

経理の担当者は、メールとExcelをさかのぼって探し始めます。

IPOの準備で、内部統制が急に身近になる瞬間です。

内部統制とは、4つの目的を達成するために業務に組み込まれ、組織の全員で行うプロセスです。

4つの目的は、業務の有効性と効率性、報告の信頼性、法令の遵守、資産の保全を指します(金融庁の基準の要約)。

IPOでは、これを5つの要件とIT統制の3階層に分けて整えると、抜けが見えやすくなります。

人の手による確認を減らし、ERPの標準の機能で自動にできる統制を増やす。

そうすれば、統制と本業の速さは両立できます。

ただし、整備しただけでは足りません。

監査法人が評価できる「運用の記録」を残す期間が要ります。

では、上場の予定の期から逆算して、どの期に何を終えておけば間に合うのか。

答えの目安はN-3(上場予定の期の3期前)の着手です。

その中身は第7章で扱います。

本記事は概要です。

実際の要件は、監査法人・主幹事証券・会計士にご確認ください。

目次

この記事で分かること

  • 内部統制の定義と、2024年4月以後の改訂のポイント
  • IPOで求められる内部統制の5つの要件
  • IT統制の3階層(IT全社的統制・IT全般統制・IT業務処理統制)
  • ERPで整えられること・人が決めること、NetSuite以外が合う場合
  • N-3から逆算した進め方と、よくある失敗3つ

J-SOXは、金融商品取引法にもとづく内部統制報告制度の通称です。

N-3は上場予定の期の3期前、N-1は申請の直前の期を指します。

ERPは、会計・販売・購買・在庫などのデータを一つにまとめて扱う仕組みです。

内部統制とは|IPOで問われる4つの目的

定義(金融庁の基準)

金融庁が公表した改訂後の基準では、内部統制を「4つの目的」と「6つの基本的要素」で定義しています。

4つの目的6つの基本的要素
業務の有効性及び効率性統制環境
報告の信頼性リスクの評価と対応
事業活動に関わる法令等の遵守統制活動
資産の保全情報と伝達
モニタリング(監視活動)
IT(情報技術)への対応

基準では、4つの目的が達成されているとの「合理的な保証」を得るためのプロセスとされています。

業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって行われるものです。

(出典:金融庁 企業会計審議会の意見書、2026年9月確認)

内部統制は、不正を防ぐルールだけを指すのではありません。

4つの目的を組織として達成するための、仕組みそのものです。

IPOの準備で特に重く見られるのは、財務報告の信頼性です。

株主・投資家に正しい情報を開示するため、財務の数字の正しさを支える仕組みが求められます。

なぜIPOで内部統制が問われるのか

上場企業に内部統制が求められる背景には、J-SOXがあります。

金融商品取引法は2006年6月7日に成立し、2008年4月1日以後に始まる事業年度から適用されました(出典:金融庁資料、2026年9月確認)。

米国では、エンロン事件などをきっかけに企業改革法(SOX法)が定められました。

日本の制度は、この流れを受けて整えられたものです(出典:金融庁 企業会計審議会、2026年9月確認)。

上場企業には、経営者による内部統制報告書の提出と、監査人による内部統制監査の2つが求められます。

新規上場の会社は、上場後3年間、内部統制監査の免除を選べます(2014年の改正)。

ただし、資本金100億円以上または負債総額1,000億円以上の会社は対象外です。

免除されるのは監査で、内部統制報告書の提出は必要です(出典:金融庁資料、2026年9月確認)。

2024年4月以後の改訂のポイント

基準と実施基準は2023年4月7日に改訂が公表され、2024年4月1日以後に始まる事業年度から適用されています(出典:金融庁、2026年9月確認)。

改訂の点中身
目的の言葉「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」になり、非財務の情報も含む形に
リスクの評価不正のリスク(動機・機会・姿勢)を考えることを明記
ITの統制評価の頻度を、ITの環境の変化にもとづいて決める
経営者による無視経営者が統制を無視するリスクへの対応の例を示した
評価の範囲「売上の概ね3分の2」などの目安を機械的に当てはめない

IPOの準備をする会社も、改訂後の基準を前提に整えます。

統制と速さは両立できるか

「内部統制を厳しくすると、業務が遅くなるのでは」。

そう悩む経営者は少なくありません。

統制を重くしすぎれば現場の生産性は下がり、緩めすぎれば審査で指摘を受けます。

鍵は、人の手による統制(手順書・二重の確認)を減らし、システムで自動にできる統制を増やすことです。

観点人の手による統制システムで自動にする統制
例上長が紙やExcelを見て承認印を押す金額に応じて承認者に自動で回る
漏れ忙しい時期に確認が抜けやすい設定どおりに毎回動く
記録別に残す手間がかかる操作の履歴が自動で残る
監査での説明サンプルを集めて説明する設定と履歴で説明できる

(一般的な比較です)

すべてを自動にする必要はありません。

リスクの高い取引ほどシステムで守り、低い取引は権限を委ねて速さを保ちます。

IPOで求められる内部統制の5つの要件

要件目的例
①職務の分担一人で不正を完結できないようにする購買が仕入先を登録、経理が仕訳、財務が支払
②承認の設定金額や重要度に応じた承認者を決める10万円未満は部長、10万円以上は社長が承認
③業務の文書化人に依存する業務をなくす業務記述書で、後任でも同じ品質で回す
④システムの連携とIT統制データの受け渡しの誤りや改ざんを防ぐ固定資産から会計への連携を手作業にしない
⑤3点セットの作成整備の状況を客観的に説明する業務フロー・業務記述書・RCM

5つの要件には、システムで支えられる部分と、人が決める部分があります。

要件システムで支えられること人が決めること
①職務の分担ロールで使える機能とデータを分ける誰にどの役割を持たせるか
②承認の設定承認のルーティングとワークフロー金額の基準と承認者
③業務の文書化標準の業務の流れと、操作の記録業務記述書の中身
④システムの連携一つのシステムにまとめ、手作業の転記を減らすどこまでを一つにするか
⑤3点セット統制の証跡をシステムから取り出すリスクの洗い出しと統制の設計

(NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットによる区分です)

システムは、統制を守る道具にすぎません。

何を統制するかを決めるのは、経営と各部門です。

職務の分担

経理の担当者が、支払先の登録・仕訳・支払を一人でできる状態を考えてみてください。

これでは、架空の仕入先への送金を防げません。

職種に合わせて、使える機能とデータを分ける必要があります。

承認の設定

リスクの低い案件は権限を委ねて速さを保ち、高い案件には適切な承認を求めます。

効率と統制は、この線引きで両立させます。

業務の文書化

優秀な経理の担当者が一人で経理・財務・与信を担い、退職で業務が止まる。

こうした事態は、内部統制の上でも大きなリスクです。

業務の流れと中身を業務記述書に残し、後任でも同じ品質で回せる状態を作ります。

システムの連携とIT統制

固定資産の管理は別のシステム、会計へはExcelで手作業、という状態はよくあります。

手作業の移し替えには、誤入力や改ざんのリスクが残ります。

システムの間は、できる限り自動の連携でつなぎます。

3点セット

文書中身
業務フロー業務の流れを図にしたもの
業務記述書各ステップの詳しい手順を文章にしたもの
RCM(リスク・コントロール・マトリクス)業務ごとのリスクと、対応する統制の一覧

監査法人に提出を求められ、内部統制の整備の状況を説明する土台になります。

IT統制とは|3つの階層

改訂後の基準でも、6つの基本的要素の一つに「ITへの対応」があります。

IT統制は、影響の広い順に3つの階層で整えます。

階層対象主な中身ERPで支えられること(NetSuiteの例)
IT全社的統制全社のITの管理体制情報セキュリティの方針、ITの組織ロールの設計、全社のルールの反映
IT全般統制(ITGC)システム全体の管理アクセス・変更・運用・開発の管理ロールによる権限、システムノート、取引の監査証跡
IT業務処理統制(ITAC)個々の業務の処理自動の仕訳、承認、入力のチェック承認のルーティング、ワークフロー、期間のロック

3つの階層はつながっています。

上の階層の統制が働いていないと、下の階層の統制も信頼できません。

IT統制の3つの階層 IT統制は、影響の広い順にIT全社的統制、IT全般統制、IT業務処理統制の3階層で整える。上の階層の統制が働いていないと、下の階層の統制も信頼できない。 IT統制の3つの階層 影響の広い順 IT全社的統制 全社のITの管理体制 情報セキュリティの方針、ITの組織 IT全般統制(ITGC) システム全体の管理 アクセス・変更・運用・開発の管理 IT業務処理統制(ITAC) 個々の業務の処理 自動の仕訳、承認、入力のチェック 上の階層が働いていないと、 下の階層の統制も信頼できない
IT統制の3つの階層

IT全般統制は、アクセス管理・変更管理・運用管理・開発管理の4つです。

誰がどのデータを見られるか、設定やプログラムの変更を誰が承認したか、バックアップや定期の処理が回っているか、開発や作り込みを統制しているかを見ます。

IT業務処理統制は、承認の設定、入力時のチェック(必須の項目・桁数)、自動の仕訳や集計の正しさです。

「10万円以上は部長の承認」というルールを、システムで強制する仕組みが典型です。

指摘を受けやすい論点

論点起きがちなこと先に決めておくこと
アクセスの権限退職者のIDが残る、担当外の権限がついたまま権限の申請・承認・定期の見直しの手順
変更の管理設定の変更の理由と承認の記録がない変更の申請と承認、本番への反映の手順
開発と運用の分離作った人がそのまま本番で直している開発・テスト・本番の役割の分け方
データの移行移行した残高の正しさを説明できない移行前後の照合の方法と記録

監査法人は、権限が職務の分担と合っているか、変更の記録が改ざんできない形で残っているかを見ます。

こうした論点は、ERPを入れた後から直すと手間がかかります。

要件の整理の段階から、手順として組み込みます。

ただし、IT統制を整え、業務をERPに正しく落とし込む役割を、社内に持つ会社は多くありません。

情報システムの担当は管理で手一杯、各部門は自部門の業務が中心です。

全社を横断して業務を設計する人が足りないことが、IPOの準備の成否を分けます。

ERPで内部統制を整える理由

データが一つにそろう

ERPは、会計・販売・購買・在庫などを一つのシステムにまとめます。

部門の間のデータのずれがなくなり、業務の間の整合のチェックも自動にできます。

監査のときにデータを取り出す手間も、軽くなります。

変更の記録が自動で残る

NetSuiteのシステムノートは、レコードの変更の日時・変更者・変更した項目・変更前後の値を記録します。

Oracleのヘルプでは、システムノートはユーザー・スクリプト・アプリのいずれも編集できないとされています。

取引の作成・変更・削除の履歴は、取引の監査証跡のレポートで追えます(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)。

権限・承認・締めをシステムで守る

  • ロールで、職種ごとに使える機能とデータを分ける
  • 承認のルーティングで、誰が承認できるか、承認者のレベルと部門ごとの上限の額を決める。より細かな流れはワークフロー(SuiteFlow)で作る
  • 期間締めのチェックリストで、売掛・買掛・給与の取引をロックし、期間を閉じる

(出典:Oracle NetSuiteヘルプ、2026年9月確認)

ロールの設計はNetSuiteのロールと権限、承認の作り方はNetSuiteの承認ワークフローで扱っています。

オンプレミスとクラウドの違い

観点オンプレミスのERPクラウドERP(NetSuiteの例)
変更の記録作り込みで実装することが多い標準のシステムノートで記録
アクセスの管理個別に設計するロールで標準の仕組みがある
版の更新そのたびに自社のプロジェクト年2回の大きなリリースを提供元が段階的に適用
提供元の統制の確認自社のサーバーの統制を自社で説明提供元の統制を監査法人がどう評価するかを早めに相談
海外の子会社拠点ごとに構築しがちOneWorldで複数の会社を一つの環境で扱う

(出典:Oracle NetSuiteヘルプ・公式、2026年9月確認。比較はベンチャーネットの整理です)

クラウドERPは、内部統制に要る仕組みの多くを標準の機能で持っています。

その分、作り込みを減らし、整備の期間を運用の記録づくりに回せます。

NetSuiteをIPO準備で使うときの特徴

NetSuiteは1998年に始まり、2016年からOracleの一員です。

NetSuite自身は、「世界初のクラウドカンパニー」と紹介しています。

世界220地域・44,000社以上で使われています。

「#1 AI Cloud ERP」も掲げています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。

190通貨・27言語に対応しています(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。

SuiteSuccessは、業種ごとのエディションとして用意された導入のパッケージです。

公式サイトでは、あらかじめ設定された、固定の費用のパッケージとして案内されています(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。

標準の業務の流れに合わせる考え方(Fit to Standard)で、整備の期間を縮める起点になります。

詳しくはSuiteSuccessとはをご覧ください。

将来の海外展開を考えるなら、OneWorldで複数の会社を一つの環境で扱えることも利点です。

海外の子会社を含めた統制を、同じ仕組みで整えやすくなります。

詳しくはNetSuite OneWorldで扱っています。

NetSuiteをIPO準備の基盤に選ぶかの判断は、NetSuiteがIPO準備に適している理由にまとめています。

判断の物差し|どの基盤が合うか

選択肢合う条件注意点
統合型クラウドERP(NetSuiteなど)拠点・子会社が増える。会計と販売・購買をまとめたい業務を標準に合わせる覚悟が要る
国産のERPパッケージ日本特有の帳票や商習慣が最優先変更の記録や権限の標準の仕組みを製品ごとに見る
会計ソフト+ワークフローの製品事業が単純で、取引の量も少ない仕組みの間の連携を手作業にしない
Odoo費用を抑え、自社で組み替えたい統制の設計と運用の力が自社側に要る
AIスクラッチ開発独自の業務そのものが強みIT統制の評価の範囲が広がり、統制も自社で作り込む

IPOの準備だからといって、必ずERPを入れ替える必要はありません。

次の3つに当てはまるなら、いまの仕組みを整える道があります。

  • 子会社や海外の拠点がなく、上場までに増える予定もない
  • 販売・購買の取引の量が少なく、手作業の転記がほとんどない
  • 権限の分担と変更の記録を、いまの仕組みで説明できる

逆に、上場の前後で子会社や拠点が増える会社は、後から入れ替えると統制の整備をやり直すことになります。

上場の前に土台を決めておくほうが、二重の手間を避けられます。

IPOの準備で、ERPの入れ替えは必要か 子会社や拠点がなく取引の量も少なく、権限の分担と変更の記録を説明できるなら、いまの仕組みを整える道がある。上場の前後で子会社や拠点が増えるなら、後から入れ替えると統制の整備をやり直すため、上場の前に土台を決めておく。 ERPの入れ替えは必要か IPOの準備で、 ERPを入れ替えるべきか 次の3つに当てはまる いまの仕組みを整える道がある 子会社・海外の拠点がなく、増える予定もない 取引の量が少なく、手作業の転記がほぼない 権限の分担と変更の記録を説明できる 上場の前後で子会社や拠点が増える 上場の前に土台を決めておく 後から入れ替えると、統制の整備をやり直す
IPOの準備で、ERPの入れ替えは必要か

N-3から逆算する|これから選ぶ会社、いまの仕組みを見直す会社

期ごとにやること

冒頭の問いへの答えは、この表です。

時期やること
N-3業務の棚卸し、基盤の選定、要件の整理。ERPの導入。監査法人・主幹事証券との相談
N-2整備した統制の運用を始め、記録を残す。3点セットを整える
N-1運用を安定させ、監査法人の評価に備える。不備を直す
N-3から逆算する内部統制の準備 N-3で業務の棚卸しと基盤の選定・導入、N-2で統制の運用と記録づくり、N-1で運用の安定と監査法人の評価への備えを行う。 N-3から逆算する準備 N-3 整備 業務の棚卸し、基盤の選定と導入 監査法人・主幹事証券に相談 N-2 運用の記録 整えた統制を回し、記録を残す 3点セットを整える N-1 評価への備え 運用を安定させ、不備を直す 監査法人の評価に備える 整備だけでなく、運用の記録を残す期間が要る
N-3から逆算する内部統制の準備

N-3で動き始める理由は、N-2の丸1期を運用の記録づくりに充てるためです。

ERPの導入は、要件の整理から稼働まで時間がかかります。

導入の期間と費用は、製品よりも導入の中身で大きく変わります。

ベンチャーネットがNetSuiteの導入を支援してきた中で、差を生む要因は4つあります。

機能範囲、開発(特に外部システムとの連携)、社内の体制、ユーザー数です。

情報システムの担当が少ない会社では、サポートを厚くする分、期間も延びやすくなります。

費用の見方は、NetSuiteの料金で扱っています。

これから基盤を選ぶ会社

N-3の最初の3か月は、次の順で進めると手戻りが減ります。

  1. 上場の予定の期と、それまでの拠点・子会社の計画を経営が決める
  2. いまの業務と仕組みを洗い出し、手作業の受け渡しを一覧にする
  3. 基盤の候補を2〜3に絞り、自社の業務の流れでデモを見る
  4. 監査法人に、基盤の選び方と統制の考え方を相談する

リプレイスの進め方は、基幹システムのリプレイス方法と注意点で扱っています。

いまの会計ソフトやERPを見直す会社

すでに仕組みがある会社は、入れ替える前に次の3つを見ます。

  1. いまの仕組みで、変更の記録と権限の分担を説明できるか
  2. 仕組みの間のデータの受け渡しに、手作業が残っていないか
  3. 子会社や拠点が増えたときに、同じ統制を広げられるか

3つとも問題がなければ、いまの仕組みを整える道もあります。

説明できない部分が多いなら、N-3の時点で入れ替えを検討します。

監査の負担を減らす考え方は、会計監査の重要性とNetSuiteを活用した効率化をご覧ください。

よくある失敗3つ

失敗1:申請の直前に着手して、運用の記録が間に合わない

起きること:N-1や申請の直前にERPの選定を始め、整備はしたが、監査法人が評価できる運用の記録がそろわない。

原因:内部統制は、整備するだけでなく、実際に運用された記録が要ることを見落としていた。

「本業を伸ばしてから」の先送りが積み重なった。

避け方:N-3から動きます。1年目で整備、2年目で運用の記録づくり、3年目で安定と監査法人への対応です。

「もう少し早く動けばよかった」は、IPOの準備でよく聞く言葉です。

失敗2:いまの業務をそのまま移し、作り込みすぎる

起きること:作り込みを重ね、誰も説明できない処理が新しいシステムに残った。IT統制のテストの量も膨らんだ。

原因:業務の棚卸しをせず、「うちは特殊だから」と標準の機能を使わなかった。

作り込みが多いと、版の更新のたびに確認が要り、保守の費用も続きます。

避け方:IPOの準備を、業務の棚卸しの機会にします。

惰性で続けている業務はやめ、残った業務は標準の機能と設定で吸収します。

最初から100点を目指さず、80点から始めて直します。

失敗3:IT統制を後回しにし、経営が当事者にならない

起きること:業務の統制ばかりに力を入れ、アクセスの権限や変更の記録の不備を監査法人に指摘された。上場の日程全体が遅れた。

原因:ERPの導入をITのプロジェクトとして、情報システムや経理に任せていた。

内部統制報告書を作るのは経営者です。

経営が関わらないと、現場は統制を重くしすぎるか、緩めすぎるか、どちらかに偏ります。

避け方:IT全般統制とIT業務処理統制の設計を、要件の整理の段階から並行して進めます。

経営者・CFO・情報システム・現場の4者で体制を組み、経営層が決定に責任を持ちます。

IPOのためのERPの導入は、ITのプロジェクトではなく経営のプロジェクトです。

失敗の詳しい点検は、IPO準備中の企業がNetSuiteで対応できる内部統制・監査対応チェックリストも参考になります。

ベンチャーネットならこう見る|統制は、業務の仕分けから

「監査法人に言われた統制を、全部システムに入れてほしい」

IPOの相談で、こう頼まれることがあります。

ベンチャーネットは、統制の一覧から始めません。

先に業務を見える化し、統制をかける業務そのものを減らします。

やめる業務に統制を設計しても、手間と証跡が増えるだけだからです。

型1:見える化→整理整頓→Fit&Gap

  1. 業務の見える化:受注・購買・支払・締めの流れと、手作業の受け渡しを描く
  2. 整理整頓:やめる・まとめる・そろえる業務を決める
  3. Fit&Gap:残った業務を、ERPの標準機能(ロール・承認・期間のロックなど)と照らし合わせる

Fit&Gapは、業務と機能の合う・合わないを一つずつ見る作業のことです。

ベンチャーネットの進め方:見える化→整理整頓→Fit&Gap→3つの選択 業務の見える化、整理整頓、NetSuite標準機能とのFit&Gap、そして標準に合わせる・開発する・残すの3択で決める。 ベンチャーネットの進め方業務の見える化いまの業務フローを現場に聞いて描く整理整頓やめる・まとめる・そろえる業務を決めるFit&GapNetSuiteの標準機能と照らし合わせる3つの選択標準に合わせる/開発する/残す製品が決まっていても、見える化から始める
ベンチャーネットの進め方:見える化→整理整頓→Fit&Gap→3つの選択

型2:標準に合わせる/開発する/残す

Fit&Gapで合わなかった統制は、3つのどれかに決めます。

  • 標準に合わせる:承認の基準や締めの手順を、標準の仕組みで動く形に変える
  • 開発する:標準で守れない統制だけ、追加の開発で補う
  • 残す:システムに載せず、手順書と人の確認で続ける

IPOの準備では、2つ目を増やすほどIT統制のテストの対象が広がります。

3つ目を選んだ統制は、誰がいつ確認したかの記録の残し方まで決めておきます。

相談の最初に置く3つの問い

  • 上場の予定の期はいつか。いまはN-何期か
  • 子会社・拠点は、上場までにいくつになるか
  • 全社を横断して業務を設計できる人は、社内にいるか

最後の答えが「いない」なら、その役割を外から補う方法を先に考えます。

ベンチャーネットの導入では、PM兼コンサルタントが提案から稼働まで一貫して担当します。

週次の定例と課題管理表で、決めたことを文書にして共有します。

会計の側面では、馬場亮平公認会計士税理士事務所と連携した内部統制のパッケージも用意しています。

会計士の知見とNetSuiteの実装を組み合わせ、要件の整理から運用までを支援する形です。

CFO・経理部長と一緒にIPOに向けた会計と統制を整える、会計ブリッジ伴走サービスもあります。

伴走の考え方は、伴走型のNetSuite導入支援とはで扱っています。

今日できること|1時間で「手作業の受け渡し」を洗い出す

経理の担当者と一緒に、次の表を埋めてみてください。

受け渡し出す側→受ける側いまのやり方誰が見ているか
(例)固定資産の償却費固定資産の台帳→会計ソフトExcelで転記担当者本人のみ

「Excelで転記」「本人のみ」が多いほど、IT統制で指摘を受けやすい場所です。

この表は、監査法人やパートナーとの最初の打ち合わせで、そのまま使えます。

よくある質問

Q1. N-2から内部統制の整備を始めて間に合いますか

ぎりぎりです。

整備のあとに、運用の記録を残す期間が要ります。そのため、N-3からの着手が望ましいです。

N-2の着手では整備と運用を同時に進めることになり、現場の負荷が大きくなります。

Q2. 上場後3年間の監査の免除は使ったほうがよいですか

免除を前提に準備を緩めることはお勧めしません。

免除されるのは監査で、内部統制報告書の提出は必要です。

免除が終われば本格的な監査が始まります。監査法人と相談して決めてください。

Q3. クラウドERPで監査法人の監査は通りますか

クラウドERPであること自体は妨げになりません。

ただし、提供元の統制をどの資料で評価するかは、監査法人ごとに考え方があります。

導入の前に、監査法人に聞いておくと安心です。

Q4. IT統制とJ-SOXは別物ですか

別物ではありません。

J-SOXの基本的要素の一つが「ITへの対応」で、IT統制はその一部です。

業務の処理がシステムで行われる以上、IT統制が働かないと業務の統制も信頼できません。

Q5. NetSuiteの費用はいくらですか

ミニマム構成で月額20万円〜が出発点です。

モジュール・ユーザー数・オプションで変わり、規模や要件によっては数百万円規模になることもあります。

費用は、ライセンス・導入(要件の整理・設定・テスト・研修)・保守の3つで構成されます。

導入の費用と期間は、機能範囲・開発・社内の体制・ユーザー数の4つで大きく変わります(第7章)。

最終的なライセンスの金額はOracleの営業から提示されます。

Q6. デジタル化・AI導入補助金は使えますか

条件を満たせば対象になる可能性があります。

正式な名称は「デジタル化・AI導入補助金(旧 IT導入補助金)」です。

要件や補助率は年度ごとに変わるため、事務局の公式サイトで最新の情報を見てください。

活用の考え方はIT導入補助金を活用したNetSuite導入で扱っています。

Q7. IPOの準備に、ERPの入れ替えは必須ですか

必須ではありません。

事業が単純で、いまの仕組みで変更の記録と権限の分担を説明できるなら、整える道もあります(第6章・第7章)。

NetSuite導入でよく受ける質問は、NetSuite導入でよく受ける質問と回答にまとめています。

まとめ

  • 内部統制は、4つの目的と6つの基本的要素からなる。2024年4月以後は改訂後の基準で整える
  • IPOの要件は、職務の分担・承認・文書化・システムの連携・3点セットの5つ
  • IT統制は、全社的統制・全般統制・業務処理統制の3階層
  • ERPの標準の機能で統制を自動にすると、統制と速さを両立しやすい
  • 着手はN-3。N-2を丸ごと運用の記録づくりに充てる
  • 統制は「見える化→整理整頓→Fit&Gap」で業務を減らしてから、「標準に合わせる/開発する/残す」に分ける

冒頭の「誰がいつ承認したか」という問いに、メールとExcelを探さずに答えられるか。

それが、IPOの内部統制が整ったかどうかの一つの目安です。

まずは今日、手作業の受け渡しを一覧にするところから始めてください。

もう少し詳しく知りたい方へ

「いつかIPOを目指したい」という段階から、N-3・N-2の具体的な進め方まで、ご相談をお受けしています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

持田 卓臣(もちだ たくおみ)
株式会社ベンチャーネット 代表取締役

ヒューレット・パッカード社でITコンサルタントとして従事した後、2005年に株式会社ベンチャーネットを設立。
Oracle NetSuite Solution Provider Partner として、中堅・中小企業向けクラウドERP「NetSuite」の導入・運用支援を提供しています。
SEO・広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で培ってきたデジタルマーケティング領域の業務知見を活かし、NetSuiteを軸とした経営DXを支援しています。
著書:『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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