「ERPは、いつから入れておけばいいのか」
IPO(新規株式公開:株式を証券取引所に上場すること)の準備で、よく聞かれる問いです。
内部統制とは、業務の有効性、報告の信頼性、法令の遵守、資産の保全という4つの目的のために、業務に組み込まれた仕組みです(出典:金融庁、2026年9月確認)。
上場の審査で問われるのは、仕組みがあることではありません。
一定の期間、実際に運用した記録です。
だからIPO準備の基幹システムは、記録を積む期間から逆算して入れます。
上場の時期が見えてから動くと、記録が足りなくなりがちです。
もう1つ、システムで整う統制には限りがあります。
承認・履歴・権限・締めは、ERPで仕組みにしやすい。
規程・組織・取締役会は、システムでは整わず、人と制度で整えます。
では、自社の空欄はどちらに多いのか。
4つの区分のチェックリストを埋めると、それが見えてきます。
この記事で分かること
- 上場の審査で内部統制が問われる理由と、制度の要点
- 4つの区分のチェックリストと、NetSuiteで対応できる範囲
- 整え方の選択肢(NetSuite以外を含む)と、導入にかかる期間・費用の幅
- 空欄を「制度」と「仕組み」に仕分ける方法
内部統制の要件そのものは、IPOで求められる内部統制とはで扱っています。
NetSuiteがIPO準備に合うかは、NetSuiteがIPO準備に適している理由をご覧ください。
IPO準備で内部統制が問われる理由
上場した会社は、経営者が自社の内部統制を評価し、監査人の監査を受けます。
この仕組みを内部統制報告制度(J-SOX)といいます。
金融庁の基準では、内部統制は6つの要素で成り立つとされています。
統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応です。
改訂後の基準は、2024年4月1日以後に始まる事業年度から適用されています(出典:金融庁、2026年9月確認)。
新規上場の会社は、上場後3年間、内部統制報告書の監査の免除を選べます。
ただし資本金100億円以上、または負債総額1,000億円以上の会社は対象外です(出典:金融庁、2014年改正、2026年9月確認)。
免除されるのは監査で、経営者による評価と報告の準備は要ります。
統制は、仕組みを入れた日から評価されるわけではありません。
記録が積み上がるには、時間がかかります。
「仕組みを作り、運用し、記録を残す」基盤は、早く整えるほど有利です。
4つの区分の早見表
| 区分 | 主な中身 | システムで整う度合い | 整える主な手段 |
|---|---|---|---|
| 全社的な内部統制 | 方針・組織・規程・取締役会 | 小さい | 規程づくりと会議の運営 |
| 決算・財務報告プロセス | 月次・年次の締め、連結 | 大きい | 締めの手順とERPの設定 |
| 業務プロセス統制 | 受注・発注・支払の承認 | 大きい | 承認の流れと職務分掌 |
| IT全般統制 | 権限・記録・バックアップ・証憑 | 大きい | ロールの設計とシステムの記録 |
【チェックリスト①】全社的な内部統制
会社全体に広く影響する統制です。経営方針・組織・規程などが含まれます。
- □ 経営理念・経営方針が文書になり、社内に共有されている
- □ 組織図と職務権限規程があり、責任の所在が明確である
- □ 経理規程・購買規程などの社内規程が文書になっている
- □ 取締役会と監査の体制が機能している
NetSuiteでの対応:この区分の中心は、規程やガバナンスなどの制度です。
システムだけでは整いません。
ただ、職務権限規程は、ロール(役割ごとの権限)の設定に落とし込めます。
設計の考え方は、NetSuiteの権限・ロール設計で扱っています。
【チェックリスト②】決算・財務報告プロセス
- □ 月次決算を、翌月の早い段階で締められる
- □ 決算に要るデータが、一か所に集まっている
- □ 手作業の集計・転記が減っている
- □ 締めた後の期間に、勝手に取引が入らない
- □ 連結が要る場合、子会社のデータを集められる
NetSuiteでの対応:販売・購買・在庫・会計を1つのシステムで扱い、販売の登録が会計に連動します。
締めには期間のロックの手順があります。
売掛・買掛・給与の取引を期間ごとにロックし、確認の後に期間を閉じます。
前の期間が閉じるまで、次の期間は閉じられません(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
日本の会計基準で押さえる点は、NetSuiteで財務会計を行う前に確認すべき3つのことにまとめています。
締めを速くする設定は、月次決算を5営業日で終えるNetSuite運用設計で扱っています。
【チェックリスト③】業務プロセス統制
日々の受注・発注・支払が、適正に行われるための仕組みです。
- □ 受注・発注・支払に承認の手順がある
- □ 申請する人と承認する人が分かれている(職務分掌)
- □ 承認と変更の履歴が記録されている
- □ 一定の金額以上の取引に、追加の承認が入る
職務分掌は、業務の担当を分けて、一人で取引を完結できないようにする考え方です。
NetSuiteでの対応:承認のルーティングで、承認者のレベルと部門ごとに承認できる金額の上限を決められます。
より細かい承認の流れは、SuiteFlowのワークフローで作れます(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
作り方は、NetSuiteの承認ワークフロー実装ガイドで扱っています。
【チェックリスト④】IT全般統制
業務システムが適切に管理・運用されているかを見る統制です。
- □ アクセスの権限が、役割ごとに適切に設定されている
- □ 誰が何を変えたかの記録が残り、後から書き換えられない
- □ バックアップと障害への対策がある
- □ 請求書・契約書などの証憑が、法令に沿って保存されている
NetSuiteでの対応:システムノートが、記録の変更を自動で残します。
変更の日時・変更した人・変更の経路・項目・変更前後の値が記録されます。
システムノートは、利用者・スクリプト・アプリのどれからも編集できません(出典:Oracle NetSuiteのヘルプ、2026年9月確認)。
NetSuiteのアカウントは、提供元のデータセンターで運用されます(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。
自社でサーバーを保守する負担は小さくなります。
証憑の保存は、NetSuiteと電子帳簿保存法・インボイス制度の対応をご覧ください。
4つの区分と、NetSuiteで使う機能の対応を図にまとめると、次のとおりです。
監査法人・主幹事証券とのやり取りを支える
IPOの準備では、監査法人や主幹事証券とのやり取りが続きます。
求められるのは、正確なデータを根拠とともに速く示すことです。
データが散らばり、履歴が残っていないと、問い合わせのたびに調べ直しになります。
基幹業務のデータが一か所にあり、承認と変更の履歴が自動で残っていれば、根拠をすぐ出せます。
答えの拠り所を、担当者の記憶からシステムの記録に移す。
そこが、外部の専門家と話を進める土台になります。
整え方の選択肢と、判断の物差し
整え方の比較
| 整え方 | 向く会社 | 注意点 | AIとの親和性 |
|---|---|---|---|
| 手作業・表計算 | 事業の初期で、取引が少ない | 履歴が残りにくく、監査で説明しにくい | 低い。データが散らばる |
| 会計ソフト+周辺のツール | 国内1社で、業務が単純 | 販売・在庫との間に手作業が残る | 中。会計のデータはそろう |
| 国産のERP | 国内中心で、日本の実務に沿って固めたい | 海外・グループへの広げ方を見ておく | 製品による |
| NetSuite | 販売から会計まで1つにし、グループや海外も見すえる | 業務を標準に合わせる見直しが要る | 高い。承認や履歴もデータとしてそろう |
データが一か所にそろうと、AIで異常な仕訳や承認の漏れを点検しやすくなります。
ただ、AIの点検は人の確認に代わるものではありません。
最後に判断し、責任を持つのは人です。
どれを選ぶか
NetSuiteが合いやすいのは、次のような会社です。
- 販売・在庫・会計の間に手作業の転記が多い
- 子会社や海外の拠点があり、上場後に増える予定もある
- 業務を標準に合わせて見直す覚悟がある
反対に、次のような会社には合いにくくなります。
- 上場まで1年を切り、仕組みを替えると運用の記録が足りなくなる
- 規程や組織の整備が先で、システムの見直しに手が回らない
- 社内にシステムの担当者を置けず、支援する会社も決まっていない
会計ソフトのままでよいのは、国内1社で取引が単純な会社です。
国内の実務に沿って固めたい会社は、国産のERPも比べてください。
比べ方は、NetSuiteと奉行V ERPクラウドを比較で扱っています。
導入にかかる期間と費用の幅
IPO準備では、稼働までの期間に、記録を積む期間が上乗せされます。
だから期間の見込みが、費用と同じくらい判断を左右します。
ベンチャーネットが支援したNetSuite導入の費用には、大きな幅があります。
3名程度で購買・販売だけなら、1.5か月・150万円程度でした。
100名程度で外部システムとの連携開発がある例は、1.5年・2億円程度です。
20名程度でも、社内に情報システムの担当がいない例では2年かかりました。
期間と費用を左右するのは、機能範囲・開発(特に外部連携)・社内の体制・ユーザー数の4つです。
詳しい表は、NetSuiteの料金・費用に載せています。
上場の予定の時期から、「稼働までの期間+記録を積む期間」を引いた日が、着手の目安です。
逆算のしかたを図にすると、次のとおりです。
これから整える会社と、いま別の仕組みで準備している会社
これから整える会社は、4つの区分のうち、決算と業務プロセスから始めます。
記録が積み上がるのに時間がかかる区分だからです。
規程は、システムの設計と同時に作ると、ずれが生まれにくくなります。
規程に書いた承認の手順が、そのままシステムの設定になるからです。
- 受注・発注・支払の承認の手順を決め、システムに載せる
- 月次の締めの手順と、期間のロックの運用を決める
- ロールと権限を、職務権限規程に合わせて設計する
- 運用しながら、監査法人の意見で直していく
いま会計ソフトや既存のERPで準備している会社は、まずチェックリストを埋めます。
空欄がどこに集まるかで、次の一手が分かれます。
空欄が決算や承認の「仕組み」に集中していれば、システムの見直しの候補です。
規程や組織に集中していれば、システムを替えても埋まりません。
替えると決めた場合は、移る時期に気をつけます。
記録を積む期間の途中で替えると、新旧の仕組みの両方で記録の説明が要ります。
移る時期は、監査法人と相談して決めてください。
よくある3つの失敗
失敗1:システムの整備を上場の直前まで先送りする
起きること:監査法人の指摘を受けて慌ててシステムを入れるが、運用の記録が足りない。
原因:「まず事業を伸ばす。システムは後で」と考えていた。
避け方:準備の早い段階で、承認と履歴が残る基盤を整えます。
7-3の期間の幅を見込み、運用の期間に余裕を持たせるのが、結局は近道です。
失敗2:表計算の属人的な運用のまま臨む
起きること:決算が特定の担当者にしかできず、誰がいつ直したかも分からない。
原因:集計や転記を手作業に頼り、記録が残らない形のままだった。
担当者が異動や退職をすると、運用そのものが止まるおそれもあります。
避け方:基幹業務をシステムに集め、「誰が・いつ・何をしたか」を自動で残します。
失敗3:今の業務をそのまま再現しようとして作り込む
起きること:統制の仕組みが複雑になり、更新にも追いつけなくなる。
原因:非効率な手順や属人的な統制まで、新しいシステムに持ち込んだ。
避け方:Fit to Standard(業務を標準の機能に合わせる考え方)を基本にします。
本当に必要な所だけを作り込み、それ以外は標準の機能を使います。
ベンチャーネットならこう見る|内部統制は「次へ」の段、土台は「守り」
NetSuite認定パートナー(Solution Provider)であるベンチャーネットは、ERPの定着の先を3段で考えます。
- 守り:業務が回る。販売・在庫・会計を1つにし、日々の業務を安定させる
- 攻め:データで打つ。売れ筋や在庫を分析し、作業を自動化する
- 次へ:経営が変わる。KPI、管理会計、そして上場に向けた内部統制
内部統制は、3段目の「次へ」にあります。
ただ、監査で見られる記録は、1段目の「守り」で日々積み上がるものです。
承認が通り、締めが回り、履歴が残る。
守りが固まっていない会社が、統制だけを先に作ろうとすると、記録が追いつきません。
導入のプロジェクト自体も、記録の練習になります。
ベンチャーネットでは、PM兼コンサルタントが提案から稼働まで一貫して担当します。
週次の定例と課題管理表で、決めたことを文書に残して共有します。
受け身で待たず、必要な情報はこちらから取りに行きます。
「誰が・いつ・何を決めたか」を残す習慣は、そのまま監査法人とのやり取りでも生きます。
最初の打ち合わせで伺うのは、次の3つです。
- 上場の予定の時期と監査法人の意見:いつまでに、何を運用していればよいか
- チェックリストの空欄の場所:制度の空欄か、仕組みの空欄か
- 経営者がプロジェクトの責任者になれるか:部門をまたぐ統制には、経営の判断が要る
今日できること
この記事の4つのチェックリストを印刷し、経理の責任者と1時間で埋めてください。
空欄の横に、「制度で埋める」か「仕組みで埋める」かを書き込みます。
仕組みで埋める空欄の数が、システムの見直しの優先度の目安です。
あわせて、月次の締めの作業を順に書き出し、表計算で転記している所に印をつけます。
印の多い所が、承認と履歴が残らない「統制の穴」になりやすい場所です。
よくある質問
Q1. システムの整備はいつから始めるべきですか
運用の記録を積める期間を見込んで早めに始めます。
上場の予定の時期から、稼働までの期間と記録を積む期間を引いて逆算します。
導入の期間は、1.5か月の例から2年の例まで幅があります(第7章)。
着手の時期は、監査法人と相談して決めてください。
Q2. freeeなどの会計ソフトから移るべきですか
国内1社で取引が単純なら会計ソフトで足りることもあります。
販売・在庫をまたぐ統制や、子会社のデータの集約が要るなら、ERPを比べてください。
Q3. NetSuiteを入れれば上場できますか
いいえシステムは上場を保証しません。
上場の可否は、事業・財務・ガバナンスなどで総合的に判断されます。
NetSuiteは、統制を仕組みとして支える基盤です。
Q4. 上場後の監査は、すぐに始まりますか
新規上場の会社は上場後3年間の監査の免除を選べます。
ただし資本金100億円以上、または負債総額1,000億円以上の会社は対象外です(出典:金融庁)。
Q5. 海外の子会社を作る予定があります。何に気をつけますか
上場の前後で子会社のデータをどう集めるかを先に決めます。
子会社ごとに別の仕組みを使うと、連結の作業と統制の説明が重くなります。
NetSuiteは190通貨・27言語に対応し、複数の子会社を1つのシステムで扱えます(出典:Oracle NetSuite公式、2026年9月確認)。
世界220地域・44,000社以上で使われています(出典:Oracle NetSuite公式サイト、2026年9月時点)。
Q6. 内部統制の整備は、自社だけで進められますか
自社で進める会社もありますが外部の知見を使う会社も多くあります。
統制の設計とシステムへの落とし込みには、専門の知識が要ります。
監査法人・主幹事証券との連携も踏まえ、必要に応じて支援を検討してください。
まとめ
- 内部統制は、運用した記録が問われる。上場の時期が見えてからでは間に合わない
- 4つの区分のうち、決算と業務プロセスはERPで仕組みにしやすい
- 規程・組織・取締役会は、システムでは整わない
- NetSuiteでは、期間のロック・承認のルーティング・システムノートが統制を支える
- 導入の期間は1.5か月から2年まで幅がある。記録を積む期間と合わせて逆算する
ERPをいつから入れるか。答えは、記録を積み始めたい日から逆算して決まります。
まずはチェックリストの空欄を、「制度」と「仕組み」に分けるところから始めてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
IPO準備の決算と内部統制の仕組みづくりを、システムの面からご相談をお受けしています。
