売上は伸びました。人も増やしました。決算を締めてみると、会社の利益は少し増えている。
けれど、一人あたりで見ると、減っています。社員の給与は思ったほど上げられず、社長の取り分も変わらない。増えたのは、人と、人の間の調整でした。
この形の話を、ベンチャーネットは何度も聞いています。そして、同じ形は統計にも表れています。2026年版中小企業白書の数字です。2024年度の一人当たりの付加価値は、中小企業が665.6万円、大企業が1,935.1万円(確認日2026-09-22)。付加価値のうち、利益として残る割合は中小企業で9.5%、大企業で36.0%です。
分け方の話をする前に、分けるものが残っていない。先に決めるのは制度ではなく、順番と相手です。分ける相手を先に決め、その相手で受け取れるように増やし方を設計する。では、資産が生む価値を、誰と分かち合えばよいのでしょうか。
「仕事が増えたら、人を増やす」という設計
一人あたりが減る会社には、共通の設計があります。仕事が増えたら人を増やす、という前提です。
この前提は、間違いではありませんでした。仕事は人がやるもので、人が足りなければ採るしかない。長いあいだ、それ以外の選択肢がなかったからです。
ただ、この設計には避けにくい性質があります。人を増やすということは、価値を分ける分母を増やすということです。売上が伸びても、分母が同じだけ伸びれば、一人あたりは変わらない。分母のほうが速く伸びれば、減ります。冒頭の会社に起きていたのは、これです。
ここで、問いが立ちます。増やし方と、分ける相手の順番が、逆になっていないか。
多くの会社は、増やし方を先に決めます。人を採り、売上を伸ばし、それから「余った分をどう分けるか」を考える。けれど、その順番だと、分ける段階で残っていません。分ける相手を先に決め、その相手で受け取れるように増やし方を設計する。順番を入れ替えると、見える景色が変わります。
分母を増やさず、少数のコアで受け取る
AI(バーチャル社員)を同僚とする前提で会社を設計し、人を増やさずに見える化・わかる化・儲かる化を回し続ける。この経営を、ベンチャーネットはバーチャル経営と呼んでいます。バーチャル社員は2種類です。AIによってひたすらタスクを回すAI社員と、AI×人間で成果ベースに自社の資産を築く外部の人やサービス、成果型バーチャル社員。
この設計で回すと、会社に資産が積み上がります。数字の基盤、言葉の基盤、AI社員のスキル、業務の地図、顧客基盤とブランド。買ってこられず、使うほど育つものです(資産を育てる経営)。
資産が育つと、そこから価値が生まれます。利益。時間。そして選択肢。この価値を、株主・役員・正社員という少数のコアで分かち合う。人を増やしていないので、分母が増えません。だから、一人あたりの取り分を増やしていける。
図1:資産が生む価値を、少数のコアで分かち合う。動かさない線が2本ある。
ただし、この考え方には、動かさない線が2本あります。
1本目。いまの仲間を、切らない。 分母を増やさないとは、減らすことではありません。人を減らして一人あたりを増やすのは、算数としては同じでも、会社としては別物です。ベンチャーネットの立場は切らずに、生き延びると「雇わない」は、冷たい経営かに書いたとおりです。増える仕事をAI社員と成果型で受け、いまの仲間で続ける。
2本目。外部の成果型バーチャル社員も、報われる。 コアで分かち合う、と書くと、外の人は蚊帳の外に見えるかもしれません。違います。成果型バーチャル社員は、成果に応じた対価という形で、生み出した価値を受け取ります。会社だけが得をする構造では、良い相手と長く組めません。成果の定義を先に決めて頼む形は成果型バーチャル社員の使い方へ。
この2本の線があって、はじめて「少数のコアで受け取る」は、冷たい話ではなくなります。
ベンチャーネットの代表・持田は、2020年の『レバレッジ起業』で二つの見出しを書きました。第1章の「レバレッジ起業がサラリーマンを救う」と、第8章の「リスクが少ない最強モデル」です。当時の主語は、起業する本人でした。自分を救う話です。AI時代の読み替えでは、主語が変わります。自分と、少数のコアと、成果で結ばれた外の仲間。救う相手が、一人から数人へ広がりました。章ごとの読み替えは『レバレッジ起業』AI時代アップデート版にあります。
分かち合う前に、決めておく3つ
考え方だけでは、絵に描いた餅です。分かち合う前に、決めておくことが3つあります。制度の話は、この3つの後です。
図2:分かち合う前に決める3つ。制度はその後。
1. 何を資産と呼ぶか。 5つの資産のうち、自社で育っているのはどれか。育っていないのはどれか。ここが曖昧だと、「資産が生む価値」が何を指すのか、社内で揃いません。棚卸しの方法は資産を育てる経営に書きました。
2. 価値を何で測るか。 売上でも、人数でもなく、一人当たりの付加価値です。売上から外に払った費用を引いたものを、人数で割る。定義は付加価値はどの構造から生まれるかへ。この物差しは、分母を増やすと下がります。だから「人を増やさずに伸ばす」設計と、物差しが揃います。
3. 誰がコアか。 株主・役員・正社員の線を、どこに引くか。成果型バーチャル社員には、成果で報いる。いまの仲間は、切らない。3つのうち、ここがいちばん決めにくい。線を引くということは、線の外を決めることでもあるからです。
そして、制度はこの3つの後です。賞与という形なのか、株式という形なのか、別の形なのか。会社ごとに違いますし、ベンチャーネットとして特定の制度をすすめることはしません。先に制度を決めると、相手が後づけになります。
ベンチャーネット自身は、どこにいるか
正直に書きます。分配の制度について、ベンチャーネットは、まだ考え方の段階です。
何を資産と呼ぶかは、お客様の会社で同じ作業を繰り返す中で、言葉にできるようになりました。価値を一人当たりの付加価値で測ることも、決めています。少数のコアで受け取り、成果型のパートナーには成果で報いる、という順番も決めています。
けれど、その先の制度は、途中です。だからこの記事の副題に「考え方」と付けました。決めた順番を先に公開し、制度は回しながら決めていく。答えは途中ですが、順番は動かしません。
よくある質問
Q. 結局、人を減らして一人あたりを増やす話ではありませんか?
A. 違います。減らすのではなく、増やさない。増える仕事を、いまの仲間とAI社員と成果型パートナーで受ける設計です。算数の上では同じ結果に見えますが、切った会社には資産が残らず、続けた会社には残ります。
Q. 外部のパートナーは、損をしませんか?
A. 成果の定義を先に決め、成果に応じて対価を払う形なら、損はしません。むしろ時間で払う形より、成果を出した人が正当に報われます。損をするのは、成果の定義が曖昧なまま頼んだときです。
まとめ:分ける相手を、先に決める
人を増やしたのに一人あたりが減るのは、努力の問題ではなく、設計の問題です。「仕事が増えたら人を増やす」は、分母を増やす設計だからです。
ベンチャーネットの考え方は、順番を入れ替えます。分ける相手を先に決め、その相手で受け取れるように増やし方を設計する。相手は、株主・役員・正社員という少数のコア。分母を増やさず、資産が生む価値を分かち合う。動かさない線は2本。いまの仲間を切らない。外部の成果型バーチャル社員も、成果に応じて報われる。
決めておくのは3つ。何を資産と呼ぶか、価値を何で測るか、誰がコアか。制度は、その後です。
ただ、3つの中で社内でいちばん決めにくいのは3番目です。「増やさない」と宣言することは、各部門に「増員を認めない」と伝えることと同じで、部門の側から分母を固定する案は出てきません。経営者が一人で線を引けば、押しつけになります。外から「いま、誰が価値を生んでいますか」と聞かれて、はじめて線が見えることが多いのです。
御社の資産を棚卸しし、一人当たりの付加価値を並べるところから、ベンチャーネットがFDE型の伴走としてご一緒できます。売り込みではなく、まず壁打ちから。
出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書」概要(2026年4月24日、一人当たり労働生産性・付加価値額の構成要素)
出典:『レバレッジ起業——普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる「バーチャル社員」があなたを救う』持田卓臣、KADOKAWA、2020年、第1章・第8章


