席を用意するとは、バーチャル社員(AIに仕事を渡す形)を、人が会話している場所に置くことです。呼び出すたびに別の画面を開くのではなく、チャットや会議の中に居てもらう。そこまで来て初めて、AIは道具から同僚に変わります。
体の作り方はPCの社員化に書きました。席はチャット・メール・会議の3つで、始めるなら1つのチャンネルに1体からです。では、どこに座らせ、どんな作法で置けばよいのでしょうか。
AIは使っている。でも、会話の中にはいない
生成AIは契約している。社員も使っている。それでも、AIは別の画面の向こうにいます。
質問したいときだけ画面を開き、返ってきた文章をコピーして、チャットに貼る。この手間がある限り、AIは「たまに使う道具」のままです。
人の同僚なら、同じチャンネルにいて、会話を見ていて、名前を呼べば答えます。AIも同じ場所に置けるなら、そのほうが自然です。ただし、人の会話の場に置くからこそ、気をつけることがあります。
席を置く場所は、3つある
図1:席を置く3つの場所。置き方より先に、記録と戻し方を決めます。
① チャットは、いちばん始めやすい席です。チャンネルに置き、名前を呼ばれたときだけ答える形にします。会話がそのまま仕事の背景になるので、説明の手間が減ります。
② メールは、専用のアドレスを持たせ、転送で仕事を頼む形です。「この見積、確認して」と転送するだけで済みます。社外とのやり取りに出すのは、内容を人が確かめてからです。
③ 会議は、同席させて議事録と決定事項を残す席です。ここは人の発言が記録されるので、断りが要ります(後述)。
公式の仕様が示す、席の作法
Microsoftが公開しているTeamsの「チャネル エージェント」の仕様を読むと、席の作法が具体的に分かります。
- 1つのチャネルに置けるエージェントは1体だけ
- 後から別のチャネルへ移すことはできない
- プライベートチャネルには置けない(標準チャネルと共有チャネルが対象)
- 会議に招くこともできる
そして、注意書きも明記されています。エージェントは機密のラベルが付いた情報も使って回答し、ラベル自体は回答に表示されるものの、そのラベルの制御までは引き継がない。情報の壁(部門間で情報を分ける設定)を越えて文脈を集める可能性もある、と書かれています。なお、この機能は公開プレビューの段階です。(Microsoft Learn、2025年11月17日更新、確認日:2026年9月21日。提供状況は変わります)
ここから中小企業が受け取りたいのは、機能の詳細ではありません。席は「どこにでも置ける」ものではないということです。置ける場所と置けない場所があり、置いた席から何が見えるかが決まります。だから、見せてよい会話のある場所から置く。これが作法の第一歩です。
席を与えた国内の事例
NTTデータ:役割の違う3体を、案件のSlackに。同社の技術ブログでは、大規模案件のSlackにAI社員3体を常駐させた記録が公開されています。役割はそれぞれ違います。進行を見る役、技術の品質を見る役、前提の妥当性を問う役の3つです。稼働の前に、過去の決定と理由、案件固有の制約を文章に書き出して読ませたとされます。結果として、資料レビューの初回確認が約1時間から約20分に縮まったと報告されています。(NTTデータ 技術ブログ、2026年、確認日:2026年9月21日)
席を用意する前に、その席に座る相手が読むものを用意する。この順番が、この事例のいちばんの学びです。記憶の作り方は記憶を持たせるにまとめました。
食べログ:障害対応のスレッドに、呼ばれる形で。同社の技術ブログによると、障害対応のSlackスレッドにAIエージェントを置き、監視のアラートにあらかじめメンションを埋め込む設計にしています。障害が起きた瞬間から、人が関係者に連絡している間に調査が始まります。役割分担は明快で、AIは調査と提案まで、実行と承認は人。出力には必ず出典(実行したSQLや社内文書のリンク)を付け、調べた過程を同じスレッドに残します。(食べログ 技術ブログ、2026年2月16日、確認日:2026年9月21日)
この設計が優れているのは、呼ばれ方まで仕組みにしている点です。人が「AIに聞こう」と思い出す必要がありません。そして、勝手に発言しないよう、メンションされたときだけ動くようにしています。
会議に同席させる前に、決めておくこと
会議の席は、チャットより慎重に構えます。人の発言が記録されるからです。
道具の側にも、そのための備えがあります。Teamsには「録画と文字起こしに参加者の同意を求める」設定があります。有効にすると、録画や文字起こしが始まった時点で、他の参加者はミュートになります。カメラと画面共有もオフです。発言しようとすると同意を求められ、同意しない場合は閲覧のみの参加になります。なお、この設定の既定値はオフです。(Microsoft Learn、2026年5月更新、確認日:2026年9月21日)
そして、社員の会話をAIに読ませるときは、個人情報保護委員会が従業者のモニタリングについて示している留意点が参考になります。示されているのは4点です。
- モニタリングの目的をあらかじめ特定したうえで、社内規程等に定め、従業者に明示すること
- 実施に関する責任者と、その権限を定めること
- あらかじめ実施に関するルールを策定し、内容を運用者に徹底すること
- ルールに従って適正に行われているか、確認を行うこと
あわせて、重要事項を定める際には労働組合等へ事前に通知し、必要に応じて協議を行うことが望ましい、ともされています。(個人情報保護委員会のよくある質問、確認日:2026年9月21日)
これは監視のための規定ですが、考え方はそのまま使えます。何のために読ませるのか、誰が責任者か、どこまで読ませるのか。先に決めて、社内に伝えてから置く。黙って置いて後から知られるのが、いちばん印象を損ねます。
中小企業の始め方:1つのチャンネルに、1体
図2:1チャンネル1体、呼ばれたら答える、名前と役割、そして先に伝える。
1. 1つのチャンネルに、1体だけ。仕事が混ざりません。そして、見せてよい会話のある場所から置きます。人事や経営の相談が流れるチャンネルは、後回しで構いません。
2. 呼ばれたときだけ答える形から。勝手に発言する設定は、慣れてからです。食べログの事例のように、呼ばれ方を仕組みに埋め込むと、使われ方が安定します。
3. 名前と役割を書いておく。「見積の下書きをします。金額の最終判断はしません」。一言あるだけで、社員の使い方が揃います。頼み方の型は一度で伝わる頼み方へ。
4. 読ませる範囲と目的を、先に社内へ伝える。個人情報保護委員会の4点を、自社の言葉に直して社内規程やチャットの説明文に書きます。会議に同席させるなら、参加者への断りも先に決めます。
そして、稼働の記録を残します。いつ、誰に、何を頼まれ、何を返したか。記録の型は依頼の現在地を1枚で追うにまとめました。
よくある質問
Q. 全部のチャンネルに置いたほうが便利では?
A. 置ける仕組みでも、おすすめしません。読める範囲が広がるほど、見せたくない会話まで届きます。1つのチャンネルで1か月回してから、次を決めてください。
Q. 会議に同席させるとき、参加者にどう伝えますか?
A. 冒頭で「議事録をAIが作ります。録音と文字起こしが残ります」と伝えるだけで足ります。相手が社外の場合は、開始前の案内に一文入れておくのが確実です。
Q. 社員が使ってくれません。
A. 使う場所が別だと、思い出してもらえません。だから席をチャットに移します。それでも使われないときは、頼める仕事が曖昧なことが多いので、名前と役割の一文を見直してください。
まとめ:置き方より先に、伝え方を決める
席を用意するとは、チャット、メール、会議という人の場所に、バーチャル社員の居場所を作ることです。公式の仕様には、1チャネルに1体、プライベートには置けない、といった作法があり、置いた席から何が見えるかも決まります。国内の事例では、記憶を先に用意した会社と、呼ばれ方まで仕組みにした会社が成果を出していました。そして会議に同席させるなら、参加者への断りと、読ませる範囲の説明が先に要ります。
難しいのは、どのチャンネルなら置いてよいかを判断するところです。社内の会話は、自社の人ほど「これは見せてよい」の線が曖昧になります。ベンチャーネットはFDE型の伴走として、置く場所と読ませる範囲を決めるところからご一緒しています。いちばん相談が飛び交っているチャンネルを1つ思い浮かべて、まず壁打ちから。
次に読むなら
「体の作り方から知りたい」
→ PCの社員化——1台のPCを「1人の社員」にする手順
「読ませる記憶を用意したい」
→ 記憶を持たせる——Notionを「言葉の基盤」にして、バーチャル社員に読ませる
「権限と承認を設計したい」
→ 安全装置——権限・承認・ログ・線引きを、バーチャル社員に実装する
「他社がどう組んでいるか見たい」
→ 公開事例に見るPC社員の構成——各社は「席・記憶・手・安全装置・稼働記録」をどう組んでいるか
この記事で参照した公開情報
- Microsoft Learn「Teamsのチャネル エージェント」(2025年11月17日更新、公開プレビュー)
- Microsoft Learn「録画と文字起こしに関する参加者の同意」(2026年5月更新)
- NTTデータ 技術ブログ(2026年)
- 食べログ 技術ブログ(2026年2月16日)
- 個人情報保護委員会 よくある質問(従業者のモニタリングに関する留意点)
機能の提供状況は変わります。導入前に各社の公式情報をご確認ください。


