経営会議をAIで変える——数字が揃っても、会議が短くならない理由

経営会議をAIで変えるとは、資料づくりを速くすることではありません。事実の確認と差分の説明を会議の前に終わらせ、会議の時間を「決めること」だけに使える状態にすることです。

目次

数字は早く出るようになった。それでも会議は長い

ダッシュボードを入れました。月次の締めも早くなりました。以前は会議の直前まで数字が固まらず、資料が前日に届くこともありましたが、いまは前もって配れます。

それでも、経営会議は二時間かかります。

前半は数字の確認に消えます。「この数字、先月と定義が違っていませんか」「この部門の実績、どこまで入っていますか」。後半は説明です。各部門が順番に、計画との差がなぜ生まれたかを話します。

そして残り十五分で、今後の話に入ります。時間切れになり、「次回までに各自確認」で終わります。翌月、また同じ順番で始まります。

数字が出るのが早くなったのに、会議が変わらない。この違和感は、多くの会社が持っています。

道具を入れても会議が変わらないのは、変わったのが資料のつくり方だけで、会議の中身が変わっていないからです。

経営会議には、三つの仕事が混ざっている

経営会議で起きていることを分けると、三つになります。

経営会議には、三つの仕事が混ざっている 混ざったまま同じ二時間に入れると、前の二つが時間を食い切る ① 事実の確認 数字は合っているか ・定義はそろっているか ・どこまで計上済みか ・前月と比べられるか 渡せる ② 差分の説明 なぜそうなったか ・計画との差はどこか ・何が効いたのか ・一時的か、続くのか 下書きまで渡せる ③ 決定 次に何をするか ・何をやめるか ・どこに寄せるか ・いつまでに、誰が 人に残る 会議を変えるとは、①と②を前に倒して、③の時間を取り戻すこと

図1:経営会議に混ざっている三つの仕事。渡せるもの、下書きまで渡せるもの、人に残るものが違います。

① 事実の確認は、数字が合っているかを確かめる仕事です。定義がそろっているか、どこまで計上されているか、前月と同じ条件で比べられるか。

② 差分の説明は、なぜそうなったかを言葉にする仕事です。計画との差がどこで生まれ、何が効いたのか。一時的なものか、来月も続くのか。

③ 決定は、次に何をするかを決める仕事です。何をやめるか、どこに寄せるか、いつまでに誰がやるか。

会議が終わって何も決まっていないとき、原因はたいてい情報不足ではありません。三つが同じ二時間に入っていて、①と②で時間が尽きているのです。

そして厄介なことに、①と②は進行が楽です。順番に読み上げれば進みます。③だけが、誰かが不都合を引き受けないと進みません。だから自然と、時間は前の二つに流れていきます。

AIに渡せるのは、どこまでか

三つに分けると、AIの置きどころがはっきりします。

①の確認は、渡せます。 定義のずれ、未計上、前月との比較条件の違い。こうした「合っているかどうか」の点検は、決まった手順で見るものなので、機械が得意な仕事です。会議の場で人が目視で拾うより、前もって拾うほうが確実です。

②の説明は、下書きまで渡せます。 どこで差が出ているかを並べ、金額の大きい順に候補を挙げるところまではできます。ただし、そこから先は変わります。「値引きが増えた」は事実ですが、それが競合対応なのか、特定の担当者の判断なのか、期末の駆け込みなのか。この見極めには、数字に出ていない事情が要ります。だから下書きまでです。

③の決定は、残ります。 AIは資料をつくりますが、議題は決めません。何を問題として扱うかを選ぶのは、選ばなかったものを捨てるということです。その責任は経営者に残ります。

この線引きは、AIに任せる仕事と手放してはいけない仕事の話(「AIに任せる仕事、手放してはいけない仕事」)を、経営会議という一つの場に当てはめたものだと考えてください。

会議の前に終わらせる、三つのこと

では、実際に何を前に倒すのか。三つです。

会議の前・中・後で、やることを分ける 会議の前 ① 数字を確定させる(定義・計上・比較条件をそろえ、直しは会議前に済ませる) ② 差分の要因を下書きする  ③ 決めるべき論点を三つに絞って先に配る 会議の中 決定だけを行う。何をやめるか/どこに寄せるか/いつまでに、誰が 数字の質問が出たら、その場で直さず「会議前の工程の宿題」に戻す 会議の後 決定だけを残し、次の会議は前回の決定の確認から始める

図2:会議の前・中・後の役割分担。前で確認と説明を終わらせると、会議の中に決定の時間が戻ってきます。

数字を確定させる。 会議の場で数字を直さない、と決めることです。定義や計上のずれは、会議前の工程で片づけます。ここが甘いままだと、会議は毎回そこから始まってしまいます。数字がいつ出るかという話は「月次決算が『15日後』から『翌日』になる」で扱っています。

差分の要因を下書きしておく。 差が大きい順に、候補となる要因を並べておきます。会議の場で説明を一から聞くのではなく、下書きに対して「これは違う、実際は別の理由だ」と直してもらう形にします。ゼロから話すより、直すほうが早く終わります。

決めるべき論点を、先に配る。 ここがいちばん効きます。数字と説明を配るだけでは、会議は報告のままです。「今日はこの三つを決めます」と先に示すと、参加者は答えを持って会議に来ます。

この三つを支えているのは、数字を運ぶ仕事です。営業の数字、会計の数字、人の数字。それぞれ別の場所にあり、形もばらばらなので、誰かが集めて形をそろえています。締めが終わってから会議までの短い期間に、この作業が集中します。だから分析や示唆に時間が残りません。

この「運ぶ」部分こそ、いちばん先に機械へ渡すべきところです。 見せ方の設計そのものは「見るべき指標を、毎日見える形にする」に、どの数字を見るかは「中小企業が見るべき経営指標」にあります。

「決める会議」に要る、二つのもの

前に倒しても、それだけでは決まりません。二つ足りないものがあります。

一つめは、決定の線です。 どこからが経営会議で決めることで、どこからは現場が決めてよいことか。この線が言葉になっていないと、小さな案件まで会議に上がり、大きな案件は誰も持ち出しません。上げるべきか迷ったものは、たいてい上げられずに消えます。

線は、金額だけでは引けません。金額が小さくても、他の部門に影響するもの、いちど決めると戻せないものは経営会議です。逆に、金額が大きくても、方針が決まっていて実行するだけのものは現場です。影響が他に及ぶか、後戻りできるか。この二つで引くほうが実態に合います。

二つめは、決めたことの追跡です。 決定を記録するだけでは足りません。次の会議を、前回の決定の確認から始める。これだけで、会議の空気が変わります。決めたことが必ず追われると分かると、決める側は具体的に決めるようになります。

記録そのものをどう残すか、録音や議事録をどう扱うかは「会話が消える会社から、会話が資産になる会社へ」で扱っています。

AIを前に倒すと、何が変わるか

三つを分け、確認と説明を前に倒す。それだけで、四つのことが起きます。

会議が短くなります。 数字の確認に使っていた時間がまるごと消えます。説明も、下書きへの訂正だけになるので短くなります。同じ二時間でも、決定に一時間以上を割けます。会議を短くすること自体が目的ではありません。決める時間が増えることが、そのまま経営の速さになります。

議事録が、決定のリストに変わります。 発言の記録ではなく、「何を決めたか、誰が、いつまでに」の一覧です。これは次の会議の冒頭でそのまま使えます。読み返す人が出てくるのは、この形になってからです。

現場が、会議の前に数字を見るようになります。 数字が会議の場でしか出てこないうちは、誰も事前に見ません。前もって確定した数字が届き、しかも決める論点が示されていると、部門長は自分の数字を先に確認します。会議は、確認済みの人どうしの議論から始まります。

数字を運ぶ人が、分析に時間を使えるようになります。 集めて形をそろえる作業が減った分、「なぜそうなったか」「このあとどうなりそうか」を考える時間が生まれます。ここが増えると、会議に出てくる材料の質そのものが変わります。情報の流れが速い会社ほど経営が速いという話(「経営の速さは、情報の流れで決まる」)は、この工程に現れます。

よくある質問

Q. 議事録の作成をAIに任せてよいですか。
A. 下書きまでは任せられます。ただし、決定事項は人が確定させてください。「検討する」で終わったのか「やると決めた」のかは、その場の空気を知っている人にしか判断できません。ここを機械の要約に委ねると、決めていないことが決定として残ります。

Q. 数字が固まらないうちに会議を開くしかありません。
A. その場合は、確定した数字と、暫定の数字を分けて出してください。混ざっているから会議で確認が始まります。暫定と分かっていれば、その項目は決定の対象から外すという判断ができます。

Q. 小さい会社に、経営会議は必要ですか。
A. 会議体としての形式は要りません。ただし「決める場」と「決めたことを追う仕組み」は、規模に関係なく要ります。社長と数名なら、月に一度、一時間で足ります。短いほど、三つを分ける効果は大きくなります。

Q. 報告をなくすと、経営が現場を把握できなくなりませんか。
A. 報告をなくす話ではなく、報告の場所を変える話です。数字と説明は会議の前に配られ、参加者はそれを読んで来ます。把握の量は減りません。減るのは、全員がそろった二時間を使って読み上げる時間だけです。

Q. どこから始めればよいですか。
A. 次の一回の会議で、決める論点を三つだけ先に配ってみてください。資料の作り方を変えるより先に、これが効きます。決める論点を三つ挙げようとすると、いま何が決まっていないかが見えてきます。

Q. ダッシュボードを入れれば済む話ではないのですか。
A. ダッシュボードは①の確認を助けます。②の説明も一部は助けます。ただし、③の決定は増えません。見える数字が増えると、むしろ議題が増えて会議が長くなることもあります。見えるようにすることと、決まるようにすることは別の設計です。

まとめ——決まらないのは、情報が足りないからではない

経営会議には三つの仕事が混ざっています。事実の確認、差分の説明、決定。AIに渡せるのは確認と、説明の下書きまでです。決定は残ります。

だから、会議を変えるとは、資料を速くつくることではありません。前の二つを会議の外に出して、決める時間を取り戻すことです。

ただ、これを社内だけで進めると、たいてい途中で止まります。

止まる場所は、いつも同じです。「どこからが経営会議で決めることか」という線引きです。この線を引く議論は長くなります。しかも、線を引くというのは、誰かの裁量を狭め、誰かの裁量を広げることでもあります。だから議題の最後に置かれ、時間切れになり、翌月も同じ状態で始まります。

数字が揃っても、何を問題として扱うかは決まりません。それは数字の外にある問いだからです。ベンチャーネットが伴走の現場でいちばん難しいと感じるのも、毎回この一点です。

ベンチャーネットは、FDE型の伴走という形で、AIと基幹システムを使った経営の立て直しを支援しています。現場に入り、動くものを小さくつくり、使われるまで一緒に直していく進め方です。経営会議であれば、次の一回で決める論点を一緒に三つ選び、そのために前に倒す数字を決めるところから始められます。順番の全体像は「ERP×AIで組織を変えるロードマップ」にまとめました。

会議が終わって何も決まっていない。その状態が何か月も続いているなら、足りないのは情報ではなく、線かもしれません。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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