外に出せないものが、できあがった
ベンチャーネットは、記事の作成をAIに任せていた時期があります。
そこまでは、うまくいっていました。問題はその次でした。できあがった記事をもとに、AIにホワイトペーパーをまとめさせたのです。
出てきたものは、ひどく読みにくいものでした。文章は長く、話はあちこちに飛び、要点がどこにあるのか分からない。とても社外に出せる代物ではありませんでした。
怖かったのは、間違いそのものではありません。気づかないまま外に出していたら、会社の信頼を確実に下げていたという事実です。
AIは、堂々とした顔で成果物を出してきます。体裁は整っている。だからこそ、中身の弱さは見過ごされやすい。
そして、もっと厄介なことがあります。その場で直しても、翌週また同じものが出てくるのです。
直したはずのことが、なぜ元に戻るのか
多くの経営者が、同じ徒労を経験しています。
チャットで「もっと短く」と指摘する。その回はきちんと直る。ところが翌週、同じ依頼をすると、また同じように長い文章が返ってくる。
「AIは学習しないのか」と、うんざりした方もいるでしょう。
ここには、人の教育との決定的な違いがあります。
人に仕事を教えるとき、細かい指示をすべて言葉にする必要はありません。一度注意すれば、次からは察してくれる。その場の空気や、過去のやりとりから汲み取ってくれるからです。
バーチャル社員——人の指示を待たずに仕事を進めるAIエージェントは、そうではありません。
書いたことは忘れない。書かなかったことは、何度でも間違える。
この非対称が、すべての原因です。口頭やチャットで伝えた指摘は、その会話が終わった時点で消えます。次に依頼するときには、もう存在していません。だから毎週、ゼロからやり直しになるのです。
図1:同じ手直しでも、どこに書くかで結果は変わる。会話に流せば消え、依頼文か手順に書けば残る。
直したら、その場で一行戻す
やることは、拍子抜けするほど単純です。
手直しをしたら、その場で、依頼文か手順のどちらかに一行書き足す。これだけです。
後でまとめてやろうとすると、まず続きません。直した瞬間が、いちばん記憶が鮮明で、いちばん短い言葉で書けるタイミングです。
戻し先は、二つしかない
書き足す先は、次のどちらかです。
依頼文に戻す——今回のような依頼で、毎回効かせたい条件のとき。「文字数はこれ以内」「見出しは疑問形にしない」といった、その仕事の形に関わる指示です。
手順に戻す——業務そのものの決まりごとに関わるとき。「初回取引先のときは、この確認を追加する」といった、誰がやっても踏むべき段取りです。
判断に迷ったら、こう問いかけてください。「これは、この依頼だけの話か。それとも毎回の話か」
この依頼だけなら依頼文へ。毎回なら手順へ。それだけの区別です。
抽象的な指示より、お手本を一つ渡す
先ほどのホワイトペーパーの話に戻ります。
ベンチャーネットが実際にやったのは、二つでした。ひとつは、文字数を減らす条件を依頼文に足したこと。もうひとつは、自分たちが良いと思うホワイトペーパーを一つ選んで、「この形式で」と渡したことです。
やってみて分かったのは、後者の効きの良さでした。
「読みやすくして」という指示は、ほとんど効きません。何をもって読みやすいとするかが、伝わっていないからです。ところが良い見本を一つ渡すと、こちらが言葉にできていなかった条件まで、まとめて伝わります。
言語化できていない基準も、現物なら渡せる。これは、覚えておく価値のある手つきです。
図2:戻し先の判断は「この依頼だけか、毎回か」の一問で足りる。
ただし、戻せるのは基準がある領域だけ
ここは、正直にお伝えしておきたいところです。
ベンチャーネットが読みにくさに気づけたのは、良いホワイトペーパーの姿を自分たちが分かっていたからです。長年、資料を作り、読み手の反応を見てきた蓄積がありました。
裏を返せば、基準を持っていない領域では、そもそも「直すべきだ」と気づけません。AIが出したものを、そのまま良しとしてしまう。
これは、AIの性能の問題ではありません。任せた側に判断の物差しがあるかどうかの問題です。
だからベンチャーネットは、バーチャル社員を「勝手に賢くなる仕組み」とは考えていません。手順を育てるのは、あくまで人の側です。何が良くて何が悪いかを決める役割は、経営者や現場の手に残ります。
見方を変えれば、これは希望でもあります。長年かけて培ってきた、あなたの会社の「良し悪しの感覚」。それこそが、AIには持てないものだからです。
直しが、消耗から資産に変わる
戻す習慣がつくと、手応えが変わります。
これまで、手直しは消耗でした。同じことを何度も言い、進んだ実感がない。
戻すようになると、一回の手直しが次回以降ずっと効きます。依頼文と手順が、少しずつ厚くなる。バーチャル社員の仕上がりが、静かに上がっていきます。
そしてこの積み重ねは、その会社にしか作れないものです。誰でも同じAIを使える時代に、依頼文と手順だけは、自社の仕事の中からしか生まれません。
この考え方をもう一段広げると、「自社の経験を貯めて、使うほど賢くなる仕組みを持つ」という話になります。詳しくは自社の「学習ループ」を経営のIPにするをご覧ください。
よくある疑問
AIに学習させる必要があるのでは?
技術的な作り込みをしなくても、ここまでの話は成り立ちます。やっているのは、依頼文を書き足すことと、手順書を一行足すことだけです。特別な準備は要りません。
手順が増えすぎて、管理できなくならないか?
増えすぎるとしたら、たいてい依頼文に書くべきことを手順に書いているためです。迷ったら「この依頼だけか、毎回か」に戻ってください。また、手順は増える一方ではありません。使われていない項目に気づいたら、その場で削ります。
どのくらいで効果が出るのか?
一回書き足せば、次の依頼から効きます。ただし、直すべき点に気づくには、成果物をきちんと見る目が要ります。振り返りの時間を持たないまま戻す習慣だけを作っても、うまくいきません。
まず、次の一回から
手直しをしたら、その場で一行戻す。今日からできることは、これだけです。
隅々まで整った手順書を先に作ろうとしないでください。次の一回の手直しから始めれば十分です。
なお、そもそも「何を直すか」を選ぶには、定期的に立ち止まる場が要ります。人が自分の仕事を振り返る習慣については、わかる化を続ける——フィードバック分析という習慣で扱っています。
ベンチャーネット自身、冒頭のような失敗をしています。だからこそ、どこでつまずきやすいかも含めてお話しできます。
難しいのは、戻し方そのものではありません。自社のどの業務なら基準を持っていて、どこは持てていないのか——その見極めです。ここは社内にいるほど見えにくくなります。「うちの場合、どの仕事から任せるべきか」と迷われたときは、一度ご相談ください。
日々の業務にAIをどう組み込み、どこまで任せていくか。その全体の進め方は、生成AIによる経営革新の伴走でご紹介しています。


