議事録の整理が、毎回同じ形で回るようになった。手直しも、ほとんど要らない。
そうなると次に浮かぶのは、「では、他の仕事も」という気持ちです。ベンチャーネットも同じでした。1本目が回ったときの手応えは、思っていたより大きいものです。
ただ、ここで広げる順番を間違えると、回っていた1本目への信頼まで揺らぎます。この記事では、2本目・3本目をどう選ぶかという「順番」の話に絞ってお伝えします。
なお、ここで言うバーチャル社員とは、雇用によらず会社の仕事を一緒に進めてくれる存在のことです。業務委託のプロや、AIエージェント(指示を受けて自分で作業を進めるAI)がこれにあたります。考え方の全体像はこちらの記事にまとめています。
「次は全部」と行きたくなる、その気持ち
1本目が回り始めると、社内の空気が変わります。
「意外といけるじゃないか」。半信半疑だった人ほど、評価を変えます。それ自体は、良い変化です。
そして経営者の頭には、任せたい仕事が一斉に浮かびます。請求書の発行、問い合わせの一次対応、在庫の集計、提案書づくり。どれも「早く手放したい」と思ってきた仕事ばかりです。
ここで多くの会社が、いちばん困っている仕事を2本目に選びます。いちばん時間を食っている仕事。いちばん人手が足りない仕事。気持ちとしては、自然な選び方です。
しかし、この選び方が、2本目でつまずく入口になります。
なぜ、2本目でつまずくのか
1本目とかけ離れた仕事を選ぶと、何が起きるか。1本目で手に入れたものが、ほとんど使えなくなります。
1本目を回すまでに、会社は目に見えないものをいくつも手に入れています。
- どんな材料を渡せば、まともな結果が返ってくるか
- どういう頼み方なら、一度で伝わるか
- どこまで任せて、どこから人が決めるか
- 誰が、どのタイミングで中身を確認するか
離れた仕事へ飛ぶと、この4つをまた一から作り直すことになります。1本目に1か月かかったなら、2本目もまた1か月です。
そして、いちばん怖いのはここです。離れた業務へ飛ぶのは、確認する人の目が届かなくなる合図でもあります。
1本目は、社長か、その仕事をよく知る担当者が中身を見ていたはずです。ところが、まったく別の部署の仕事を任せると、結果を見られる人がいなくなる。誰も中身を確かめないまま、成果物だけが流れていきます。
こうなると、間違いに気づくのは、お客様から指摘を受けたときです。そして「やはりAIは使えない」という結論が社内に出る。回っていた1本目まで、疑いの目で見られるようになります。
失うのは、業務改善の機会だけではありません。せっかく社内に生まれかけた信頼を失うほうが、痛手としては大きいものです。
次の1本は「隣」から選ぶ——3つの隣
では、どう選ぶか。ベンチャーネットの答えは単純です。遠くの新しい仕事ではなく、いま回っている仕事の隣を選ぶ。
隣とは、次の3つのどれかに当てはまる仕事です。
隣1:同じ材料を使う仕事
いま渡している資料やデータを、そのまま使える仕事です。
ベンチャーネットの1本目は、議事録の整理でした。使う材料は、打ち合わせの録音と過去の議事録です。この材料は、提案書の下書きにもそのまま使えます。誰が何に困っていて、何を宿題として持ち帰ったか。すでに手元にあるからです。
材料をそろえる作業は、任せる準備の中でいちばん手間のかかる部分です。そこが済んでいる仕事は、立ち上がりが速くなります。
隣2:同じ型で頼める仕事
頼み方の型を、そのまま流用できる仕事です。
「この材料を見て、この形にまとめて、この条件を満たしたら完了」。1本目でこの型ができていれば、中身を差し替えるだけで次に使えます。
議事録の整理と、記事づくりの下ごしらえは、頼み方がよく似ています。素材があり、決まった形があり、完了の条件を一文で言える。だからベンチャーネットでは、この2つが早い段階でつながりました。
隣3:同じ人が確認できる仕事
いま確認している人が、そのまま中身を見られる仕事です。
3つの中では、これがいちばん大事だとベンチャーネットは考えています。任せる範囲が広がっても、確認する人が変わらなければ、品質の目線がぶれません。おかしな結果が出たとき、その人はすぐ気づきます。
裏を返せば、中身を見られる人が思い当たらない仕事は、まだ2本目ではないということです。
図:次の1本は「隣」から選ぶ。3つのうち2つ以上に当てはまる仕事が候補。離れた業務へ飛ぶのは、確認する人の目が届かなくなる合図でもある。
隣へ増やすと、2本目からは速くなる
隣へ隣へと増やしていくと、何が変わるか。任せ方そのものが、会社に積み上がっていきます。
頼み方の型、材料のそろえ方、確認の段取り。この3つは、仕事が変わっても使い回せます。1本目でこれを作るのに時間がかかったとしても、2本目、3本目は目に見えて速くなります。
ベンチャーネットの代表・持田は、2020年の著書『レバレッジ起業』で「小さく始めて、やりながら考える」と書きました。当時は業務委託のプロと組む話でしたが、相手にAIエージェントが加わっても、進め方そのものは変わっていません。
ここで一つ、断っておきたいことがあります。隣へ広げるというのは、遠くの仕事を諦めるという意味ではありません。順番の話です。
いちばん困っている仕事ほど、たいてい判断が複雑で、材料も整っていません。それは3本目、5本目に回ってくる仕事であって、2本目に選ぶ仕事ではない。隣を伝っていけば、いずれそこへ届きます。
そして、任せる範囲がある程度広がると、別の問いが立ち上がります。人とバーチャル社員をどう組み合わせて、会社の形そのものを作り直すか。この話は人を雇う前に、まず”AI社員”を作るで扱っています。複数のAIエージェントを束ねて業務を回す仕組みに関心があれば、マルチエージェントとAIオーケストレーション入門もあわせてどうぞ。
判断と責任は、範囲を広げても経営者と現場に残ります。どこまで任せるかを決め、結果を確かめ、続けるかを判断する。増やすとは、この確認の輪を保ったまま範囲を広げることです。輪の外へ出た仕事は、増えたのではなく、放り出したことになります。
よくある質問と、つまずきやすいパターン
Q. 2本目は、1本目が完全に安定してから始めるべきですか?
完全でなくてかまいません。目安は、手直しなしで通る依頼が続くようになったころです。ただし、1本目の振り返りはやめないでください。2本並行になったとたん、確認が薄くなる会社は少なくありません。
Q. 何本まで同時に回せますか?
本数より、確認できる人の数で決まります。一人が中身まで見られるのは、多くて2〜3本です。それ以上に広げたいときは、確認できる人を増やすほうが先になります。
Q. どうしても、離れた業務から手をつけたいのですが
その場合は、2本目としてではなく、新しい1本目として始めます。その業務について、任せる仕事の切り出しをやり直してください。最初に任せる仕事を選ぶの4つの問いに、もう一度かけ直すということです。
Q. 全社で一斉に展開したほうが、速いのでは?
一斉展開は、任せ方が社内で言葉になってからの話です。型が固まる前に広げると、部署ごとにばらばらの頼み方が定着します。あとから揃えるほうが、手間はかかります。
つまずきやすいのは、次のパターンです。
- 1本目の勢いのまま、いちばん困っている仕事へ飛ぶ
- 確認する人を決めないまま、本数だけ増やす
- 2本目を始めた月から、1本目の振り返りをやめてしまう
まとめ——広げる順番が、任せる経営を育てる
1本回ったら、次は隣です。同じ材料を使う仕事、同じ型で頼める仕事、同じ人が確認できる仕事。この3つのうち2つ以上に当てはまる仕事を、2本目に選びます。
隣を伝っていけば、頼み方も、材料のそろえ方も、確認の段取りも使い回せます。だから2本目からは速い。遠くへ飛べば、そのすべてを作り直すことになり、確認の目も届かなくなります。
1本目をこれから始める方は、ひとつの業務が移るまで——最初の1か月の段取りから読んでみてください。
とはいえ、「どれが隣か」は、社外から見たほうが分かりやすいことがあります。中にいると、材料が同じであることにも、確認できる人が足りていないことにも、気づきにくいものです。ベンチャーネット自身、2本目を選ぶときに一度、遠くへ飛びかけました。
いま回っている1本の隣に、何があるか。広げる順番を一緒に描くところから、ベンチャーネットはお手伝いできます。私たちが実際に増やしてきた道筋を、そのままお見せしながら考えます。


