バーチャル社員の話をしていると、ある瞬間、相手の表情が少しだけ変わることがあります。口には出さないけれど、たしかに何かが浮かんでいる。その問いに、この記事で正面から答えたいと思います。
「じゃあ、人は雇わないんですか」
外部のプロに任せる。AIエージェントに任せる。そうやって仕事を回す話をすると、聞き返されることがあります。「じゃあ、人は雇わないんですか」と。
言葉の奥にあるのは、たぶんこういう気持ちです。人を雇わずに会社を回すのは、どこか冷たいのではないか。雇用を生まない経営は、経営者として胸を張れないのではないか。
この後ろめたさは、経営者の多くが口にしないまま抱えています。ベンチャーネットの代表・持田も、長く抱えてきました。
「雇うこと=人を大切にすること」は、本当か
この後ろめたさの根っこには、一つの等式があります。人を雇うこと、それ自体が、人を大切にすることだ——という等式です。
その背景には、たとえば稲盛和夫氏の教えがあります。経営者が社員の雇用を守ることは、大きな社会貢献である。持田はこの言葉に強く感化されました。いまも、素晴らしい考えだと思っています。
ただ、この等式には、気づきにくい前提が隠れています。「守る側」と「守られる側」という上下の構図です。会社が社員を守ってあげる。雇ってあげる。そう捉えた瞬間、二者は対等ではなくなります。
人を大切にするとは、本当に「守ってあげる」ことなのでしょうか。
順番を、わかっていなかった
持田には、正直に語ってきた失敗があります。
雇用を守る経営に感化され、勢いのままに人を増やした時期がありました。結果は、大きな赤字です。当時のベンチャーネットには、それを支え切る力がありませんでした。
長く振り返って、わかったことがあります。足りなかったのは覚悟でも情熱でもなく、順番でした。
会社は、まず利益を出せる体質をつくる。その仕組みができてから、仕組みの中に人を入れていく。この構造を作ったうえで人を迎えなければならない——当時の持田は、そこがわかっていませんでした。
仕組みのないところに人を入れると、何が起きるか。その人の仕事は、成り立たないまま始まります。成果が出る道筋がないので、本人の努力では埋まりません。そして数年後、経営者は「ごめん」と言うことになります。
それは、雇った人の数年を奪ったということです。安易に雇うことのほうが、ときに残酷なのだと思います。
対等でいられる条件は、温情ではなく構造
雇った人と会社は、対等であるべきだとベンチャーネットは考えています。
対等とは、会社が守ってあげる関係ではありません。互いに価値を出し合い、その価値が正当に返ってくる関係のことです。
そして、対等でいられるかどうかを決めるのは、経営者の温情ではありません。会社に利益を出せる仕組みがあるかどうか、という構造の問題です。
仕組みがあれば、その人の仕事には意味と成果が生まれます。成果が生まれるから、正当に報いることができる。報いることができるから、次の成長を渡せる。この循環があってはじめて、人は「守られる側」ではなく、対等な担い手になれます。
仕組みが先、人が後。冷たい話に聞こえるかもしれません。けれど順番はむしろ逆で、この順番を守ることこそが、人を大切にすることだと考えています。
同じ「人を雇う」でも、仕組みの前か後かで、その人に渡るものがまったく変わります。
バーチャル社員は、人を減らす道具ではない
ここまで来ると、バーチャル社員の役割が見えてきます。
バーチャル社員とは、雇用契約を結んだ社員ではなく、実質的に会社を支えてくれる存在のことです。業務委託や副業のプロがそうであり、いまはAIエージェント(指示を受けて自分で段取りを考え、作業を進めるAI)も加わりました。詳しくは「バーチャル社員」は、AIエージェントになったで書いています。
その役割は、人を減らすことではありません。人を入れる前に、仕事が成り立つ仕組みを立ち上げることです。
順番の話に戻せば、こうなります。仕組みができるまでの間、固定費を抱えずに会社を回す。その間に、利益の出る形を整える。整ったところに、人を迎える。バーチャル社員は、その「間」を支える手立てです。
人とAIをどう組み合わせて組織をつくるかは人を雇う前に、まず”AI社員”を作るで、そもそも人が採れない時代の構造については人手不足の本質と向き合うで扱っています。
一つ、はっきりさせておきたいことがあります。何を任せ、何を任せないかを決めるのは人です。その判断の結果に責任を持つのも、雇うと決める重さを引き受けるのも、経営者です。ここはAIには渡せません。
少なく雇い、雇った人を大切にしきる
ベンチャーネットの答えは、こうです。
少なく雇う。そのかわり、雇うと決めた人には、構造の整った仕事と、成長する場を渡しきる。バーチャル社員は、そのための土台です。
これは「人を雇うな」という話ではありません。むしろ逆で、雇うという決断を、もっと重く、もっと確かなものにするための話です。人を大切にする経営は、社員を守る気持ちからではなく、対等でいられる構造から始まる。ベンチャーネットはそう考えています。
正直に言えば、この順番は、ベンチャーネットが痛い思いをして学んだものです。だから「こうすれば大丈夫」と軽く言うつもりはありません。ただ、あの赤字のあと、ベンチャーネットは自らこの順番でやってきました。仕組みを先に整え、その中に人を入れる。手探りではありますが、言いっぱなしにはしていないつもりです。
やっかいなのは、この判断が自分ではしにくいことです。人を採りたいと思っているときほど、「うちはもう整っている」と思いたくなります。その思い込みは、中にいる本人にはいちばん見えません。
もし「うちは、いま人を入れていい状態なのだろうか」と迷うことがあれば、その問いを一緒に眺めるところから、ご一緒できればと思います。


