AIは、欲しがらない——想像力とワクワクが競争力になる時代の経営

目次

AIで速くなったのに、会社に勢いが出ない

AIを導入して、業務は確かに速くなった。議事録は自動でまとまり、資料の下書きは数分で出てくる。経理の処理も、以前よりずっと軽い。

それなのに、会社に勢いが出ない。そう感じている経営者が、少しずつ増えています。

会議で数値目標を掲げても、空気が動かない。効率化の成果を報告しても、どこか他人事のような顔が並ぶ。道具は良くなったはずなのに、組織の温度が上がらない。

ベンチャーネットがご相談を受けるなかでも、この違和感はよく耳にします。そして私たちは、この違和感こそが、AI時代の経営の入口だと考えています。

足りないのは能力ではなく、「欲」かもしれない

中小企業の経営には、不思議な足踏みがあります。

あとひと押しすれば伸びるとわかっているのに、なぜか踏み込めない。情報も道具も揃い、やり方も見えているのに、「もっとこうしたい」が湧いてこない。気づけば、現状維持が目標のようになっている。

能力の問題ではありません。資金の問題だけでもありません。切れかけているのは、「欲」です。

これは責められる話ではないのです。売上を上げる、利益を出す、雇用を守る。経営者は何十年も、周囲から求められることに応え続けてきました。求めに応える力が強い人ほど、ある時期から、自分自身が何を欲しいのかが見えなくなります。

私たちはこの状態を、「惜しい」と感じます。会社にも経営者にも力があるのに、欲だけが目減りしている。そしてAIの時代は、この目減りを容赦なく可視化します。実行はどんどん速く、安くなっていくからです。実行力で差がつかなくなったとき、残る差は「何を欲しがるか」だけになります。

欲望は、他者から受け取るもの

では、欲はどうすれば湧くのか。ここに、経営の急所があります。

人のワクワクは、ひとりでに湧いてくるものではありません。誰かから受け取るものです。

思い返してみてください。仕事に夢中になった最初のきっかけは、たいてい誰かの姿でした。生き生きと働く先輩、面白そうに商売を語る先代、夢中で何かを作っている仲間。その姿を見て、「自分もああなりたい」と思った。欲は、いつも人から人へ伝わってきたのです。

だとすれば、リーダーの仕事がはっきりします。

まず、実現したい未来のイメージを、鮮明に描くこと。数字の羅列ではなく、「実現したらこうなる」という情景まで思い浮かべられる解像度で描くこと。

次に、それをストーリーとして語ること。語られたイメージは、聞いた人の頭の中で動き出します。イメージは言葉でできています。語彙が豊かになるほど、描ける未来も豊かになります。

そして、ワクワク感を、自分も含めて生み出すこと。リーダーが本気で面白がっている姿は、それ自体が何よりのメッセージです。

ワクワクを受け取った組織は、躍動し始めます。そして面白いことに、躍動する組織を見て、今度はリーダー自身に新しい欲望が生まれます。与えたはずのものが、増えて返ってくる。この循環が回り始めた会社は、外から見てもわかるほど、生命力が違います。

ワクワクの循環が、組織の生命力になる リーダー イメージを鮮明に描く ストーリーとして語る 自分も本気で面白がる 組織 ワクワクを受け取る 躍動しはじめる 自ら動き、工夫が生まれる ワクワクが伝わる 新しい欲望が返ってくる 循環するほど 生命力が増す AIは、実行を担う。 ただし、欲しがるのは人だけ。

図:ワクワクの循環。リーダーが描き、語ると、ワクワクは組織に伝わる。躍動する組織の姿から、リーダーに新しい欲望が返ってくる。

ワクワクが生まれる「環境」をつくる

ここで、順序を一つだけ入れ替えることをおすすめします。

多くの会社は、「まず目標、それに向かって努力」という順序で動いています。しかし人が本当に動くときの順序は逆です。まず「やってみたい」が湧き、動いているうちに、目標は後から形になります。欲が先、目標は結果です。

目標を掲げても空気が動かないのは、この順序が逆立ちしているからです。では、欲が先に湧くようにするには、何ができるか。私たちは三つの手立てがあると考えています。

第一に、語る場をつくること。経営者が未来のイメージを自分の言葉で語る時間を、定例の中に確保します。数字の報告とは別枠で、です。うまく語れない時期があっても構いません。語ろうとすること自体が、イメージを鮮明にしていきます。

第二に、面白がれる状態まで「見える化」すること。人は、見えないものにはワクワクできません。自分の仕事が会社のどこにつながり、何を動かしているのか。それが見えたとき、初めて「ここをもっと良くしたい」という欲が湧きます。見える化は管理のためではなく、好奇心のための土台です。

第三に、任せて、観察すること。ワクワクは命令では生まれません。経営者にできるのは、湧きやすい環境を用意して、誰のどこに火がついたかをよく見ることです。火がついた人から、任せる範囲を広げていく。育てるというより、燃え移るのを待つ感覚に近いかもしれません。

『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ)には、「誰をバスに乗せるか」を何をするかより先に決めよ、という有名な話があります。もともと欲の火種を持った人を選ぶこと。それと、火が燃え移る環境をつくること。この二つは対立しません。選ぶことと育つ環境は、生命力のある組織の両輪です。

正直に言えば、この転換は簡単ではありません。「ワクワクしろ」と言われてワクワクできる人はいませんし、経営者自身の欲が枯れている時期に、無理に語っても空回りします。だからこそ、環境から始めるのです。欲は、環境の中で湧いてくるものだからです。

もう一つ、正直に付け加えます。自分のワクワクの火種がどこにあるかは、自分ではなかなか見えません。近すぎるからです。長く経営していると、他者の期待に応える回路ばかりが太くなり、自分の欲の在りかは案外わからなくなっています。外の目がひとつ入ると、火種探しは思いのほか進みます。

AIは、欲しがらない

ここまでの話を、AIの時代に重ねてみます。

AIは、実行します。しかも今後、実行の質と速さは上がり続けるでしょう。しかしAIは、欲しがりません。「もっとこうしたい」「こんな会社にしたい」という衝動は、AIのどこからも湧いてきません。

以前の記事で、判断と責任は最後まで人に残る、と書きました。同じことが、その手前でも言えます。何を判断するかを決めているのは、そもそも「何を欲しがるか」だからです。

ERPは記録し、人は判断し、AIは実行する。この役割分担の一番上流に、欲望と想像力が置かれています。ここだけは、どれほど技術が進んでも、人の側に残り続けます。

だとすれば、問いはこうなります。あなたの会社では、誰が欲しがっているでしょうか。そしてその欲は、いま、組織に伝わっているでしょうか。

欲望をドリブンとした、生命力のある企業へ

AI時代の生存戦略というと、導入や効率化の話になりがちです。しかし私たちは、その先にあるものこそが本題だと考えています。

人間の欲望を発露させること。経営者が想像力を働かせ、イメージを描き、ストーリーを語り、ワクワクの循環を回すこと。欲望をドリブンとした、生命力のある企業をつくること。それが、実行がコモディティになる時代の、最も確かな競争優位です。

会社の存在意義を言葉にすること与えることから関係を始めることと、この話は地続きです。あわせてお読みいただければ、バーチャル経営の全体像が見えてくるはずです。

もし、自社のワクワクの火種がどこにあるのか、外の目を入れて探してみたいと感じられたら、ベンチャーネットにお声がけください。私たちは、NetSuiteのデータと生成AIを組み合わせた経営革新の伴走を通じて、道具の導入だけでなく、欲が湧く環境づくりからご一緒しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

目次