良いAIエージェントは、ほとんどAIではない——85%はコード、AIは”判断”の15%だけ

「AIエージェントに仕事を任せてみたい。でも、たまに間違えるのが怖い」。この感覚をお持ちの経営者は多いはずです。実はその不安、AIの性能の問題ではなく、「任せ方」の設計の問題かもしれません。海外の実務家が示した一つの答えが、「良いAIエージェントは、ほとんどAIではない」という逆説です。

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「たまに間違えるAI」に、経理は任せられない

ChatGPTなどの生成AIを試して、その賢さに驚いた方は多いと思います。文章の下書きも、調べものも、驚くほどこなしてくれます。

ところが、いざ業務に組み込もうとすると、二つの不安が出てきます。一つは精度です。十回に九回は正しくても、一回間違えるなら経理や請求は任せられません。もう一つは費用です。AIの利用料は使った分だけかかるため、毎月いくらになるか読みにくいのです。

この不安は、的外れではありません。調査会社ガートナーは2025年6月、エージェント型AIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されるとの予測を発表しています。理由として挙げられたのは、コストの増大、事業価値の不明確さ、リスク管理の不十分さでした。

つまり、世界中の企業が同じ壁にぶつかっています。では、うまくいっている現場は何が違うのでしょうか。

「良いAIエージェントは、ほとんどAIではない」という発想

まず言葉の確認から。AIエージェントとは、指示を一つずつ待つのではなく、目的を与えると自分で調べ、処理を進めてくれるAIのことです。

このAIエージェントの導入支援を米国で手がけるVarick Agents社の創業者が、2026年7月にX(旧Twitter)で公開した記事に、興味深い主張があります。同氏によれば、実際に成果を出しているエージェントの中身は、約85%が普通のプログラムで、AIモデルを呼び出しているのは約15%だけだというのです。

どういうことでしょうか。仕事を分解してみると、見えてきます。

  • 二つの数字が一致するか比べる——決まった処理
  • 条件に合うデータを探す——決まった処理
  • 金額に応じて担当へ振り分ける——決まった処理
  • システムからシステムへ転記する——決まった処理
  • 読みにくい書類から数字を読み取る——判断が要る
  • 初めてのケースを、どの型に当てはめるか考える——判断が要る

決まった処理は、昔ながらのプログラムで書けば、毎回必ず同じ答えを返します。間違えず、速く、費用もほとんどかかりません。AIの出番は、判断が要る部分だけ。この割り振りが、およそ85対15になるというわけです。

すべてをAIに任せると、決まった処理まで「その都度考えて」実行することになります。遅く、高く、たまに間違える。冒頭の不安は、ここから生まれていたのです。

良いAIエージェントの中身——85対15の割り振り 例外と最終判断 = 人(経営者) 線を引き、裁き、AIを育てる。責任はここに残る 約85% 決まった処理 = プログラム(コード) 比較する・照合する・振り分ける・転記する 毎回同じ答え。速い・安い・後から説明できる 約15% AI 読み取り 分類・下書き 判断が要る部分だけ すべてをAIに任せると——遅く、高く、たまに間違える。不安は「任せ方」から生まれる

図:良いAIエージェントの中身。約85%は決まった処理を担うプログラム、AIが働くのは判断が要る約15%だけ。そして例外と最終判断は、人に残る。

請求書処理で分解してみる——中小企業への翻訳

同氏の記事は売上10億ドル超の大企業向けに書かれていますが、この考え方は中小企業にこそ役立ちます。請求書の処理を例に、分解してみましょう。

  1. 請求書がメールで届く
  2. 書類から金額・支払先・日付を読み取る——AIの仕事(書式がバラバラなため判断が要る)
  3. 発注の記録と照合する——プログラムの仕事(一致するか比べるだけ)
  4. 一致すれば、支払い処理に回す——プログラムの仕事
  5. 一致しない「例外」だけを、担当者に知らせる——人の仕事(決めるのは人)

こうして組むと、大半の請求書は人が手を触れずに流れ、担当者のもとには「判断が要る例外」だけが届きます。処理は速く、AIの利用料は読み取り部分だけなので安く、そして「なぜこの請求書がここに回ったのか」を後から説明できます。決まった処理はプログラムなので、動きが毎回同じだからです。

ここで大事なのは、順番です。よくある失敗は二つあります。全社員にAIツールを配って個々に任せるか、業務ごとに専用ソフトを買い足すか。前者はバラバラなAI活用が乱立し、後者はツールが増えて現場が疲れます。月々のAI費用が膨らむ構造は、別の記事で整理しています。

そうではなく、いまある業務を「決まった処理」と「判断が要る処理」に分解することから始める。道具選びは、その後です。

精度は「育てる」もの——それでも最後の判断は人

「それでも、AIが担当する15%が間違えたら?」。もっともな疑問です。同氏の記事では、精度を支える仕組みが三つ挙げられています。

第一に、大半が決まった処理=プログラムであること。動きが毎回同じなので、そもそも間違いが入り込む余地が小さくなります。第二に、テストです。エージェントの答えだけでなく「どういう経路でその答えに至ったか」を検査し、想定外の動きを検知します。そして第三に、人の承認です。AIの仕事に人が「承認・修正・却下」で応えるたび、その結果がAIの学習材料になり、精度が週を追って上がっていくといいます。

お気づきでしょうか。この仕組みの中心には、最後まで人がいます。どの仕事をAIに任せ、どこから先を人に残すか。その線を引くのは経営であり、例外を裁き、AIを育てるのも人です。AIは実行を担う同僚にはなりますが、判断と責任は、これからも経営者に残ります。

経営の道具を「記録・判断・実行」の三つの役割で捉える見方は、別の記事に詳しく書きました。85対15の設計は、この「実行」の層を安全に組み立てる方法だと言えます。

よくある質問

Q1. プログラマーがいない中小企業でも、こうしたエージェントは作れますか?

社内にエンジニアがいなくても、始められます。大事なのは、プログラムを書く技術より先に、自社の業務を「決まった処理」と「判断が要る処理」に分解することです。この分解は、業務を知る現場と経営にしかできません。ただし、自社の業務は近すぎて、「決まった処理」と「判断」の境目が、中からは案外見えないものです。外の目が一つ入ると、分解は一気に進みます。実装も、外部と組む選択肢があります。内製か外注か、その間の「伴走」という道については、別の記事で整理しています。

Q2. 全社員にChatGPTを配るのと、何が違うのですか?

役割が違います。一人ひとりがAIに相談しながら働く使い方は、個人の作業を速くします。一方、この記事で扱ったのは、誰も操作しなくても背後で仕事を進める仕組みです。前者だけでは、業務そのものの流れは変わりません。両方に意味がありますが、費用対効果を測りやすいのは後者です。効果の測り方は、別の記事をご覧ください。

Q3. 精度が何%になったら、任せていいのですか?

最初から全面的に任せる必要はありません。まず「AIが下書きし、人が承認する」形で始め、承認の履歴が溜まって精度が安定した仕事から、順に手を離していきます。どこまで行っても、例外と最終判断は人に残す。この設計なら、精度が完璧でなくても、業務は安全に前へ進みます。

まとめ——「任せる範囲」を決めるのは、経営の仕事

この記事の要点をまとめます。

  • AIエージェントの「精度が不安」「費用が読めない」は、すべてをAIに任せる設計から生まれる
  • 成果を出すエージェントは、約85%が決まった処理のプログラム。AIは判断が要る約15%だけ
  • だから速く、安く、間違いにくく、「なぜそうしたか」を説明できる
  • 精度は、人の承認・修正で育っていく。育てる側にいるのは人
  • 何をAIに任せ、何をコードに、何を人に残すか——この線引きこそ、経営の仕事

なぜAI導入の多くが試験止まりで終わるのか経理の現場でどう始めるかも、あわせてお読みください。

もし、自社のどの業務が「決まった処理」で、どこに「判断」が潜んでいるのか、一度分解してみたいと感じられたら、ベンチャーネットにお声がけください。現場に入って業務を一緒に分解するところから、お手伝いしています。

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この記事を書いた人

持田 卓臣のアバター 持田 卓臣 株式会社ベンチャーネット代表取締役

株式会社ベンチャーネット 代表取締役
2005年に株式会社ベンチャーネットを設立後、SEOをはじめとするデジタルマーケティング領域のコンサルティングサービスを展開
広告・SNS・ウェブ・MA・SFAと一気通貫で支援を行っています
著書に『普通のサラリーマンでもすごいチームと始められる レバレッジ起業 「バーチャル社員」があなたを救う』(KADOKAWA、2020年)

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