コロナ禍が激しさを増す今、既存の事業戦略・組織構造から脱却を求められる企業は少なくないでしょう。不況期の「守り」は決して悪手ではないものの、大規模な意識変化や破壊的イノベーションの大波に対応するためには、攻守両面に長けた経営が大切です。そこで「深化と探索」を旨とする「両利きの経営」に着目してみましょう。ここでは、既存事業強化+新規事業開拓を柱とする「両利きの経営」の理論と実践、そこで役立つツールを紹介します。

両利きの経営とはなにか

よく、経営は攻守のバランスが大切だと言われます。しかし、どのように守り・攻めるべきかについては、さまざまな議論があります。一般的には、「不況期にはコストを減らしながら既存事業を守るべき」といった論調が強いのではないでしょうか。しかし、コロナ禍のように特殊な変革期において、このような一般論は通用しないかもしれません。なぜなら、この危機を脱した後の意識変化に、ビジネスモデルがついていけない可能性があるからです。そこで、「攻守のバランス」ではなく、「方法の異なる複数の”攻め”のバランス」をとりながら不況期を乗り切る「両利きの経営」に注目してみましょう。

両利きの経営=探索と深化のバランス力

両利きの経営は、1991年にスタンフォード大学のジェームス・マーチ教授が発表した「Exploration and Exploitation in Organizational Learning(組織学習における探索と活用)」によって広く知られるようになりました。この論文で示された概念をもとに、チャールズ・オライリー教授とマイケル・タッシュマン教授が、実務の世界に適用可能な理論として磨き上げたと言われています。

両利き経営の要諦は「探索と深化」を意識し、既存事業の強化と新規事業の開拓を並行する点にあります。また、ここで言う「探索と深化」は、次のように定義できるでしょう。

  • 探索…認知の範囲を拡げ、新規事業の種を創り出すこと
  • 深化…探索した範囲から成功しそうなものをピックアップして深堀りし、ブラッシュアップすること

一般的に、企業はすでに利益を上げている既存事業に対し、ブラッシュアップやコスト削減を行い、さらなる利益獲得を目指します。これが「深化活動」につながるわけですが、そのためには新しい知見の獲得が必要です。また、新規事業を開始するためには、技術開発や市場リサーチ、人材獲得・育成などリスクを伴う探索活動が必須です。このように「リスクとコストを擁する探索活動」+「価値と成果をもたらす深化活動」のバランスをとりつつ、「積極的に二兎を追う」経営が両利き経営の本質だとされています。

「両利きの経営」は変化と破壊への処方箋

コロナ禍のように「不安」「不透明感」が先行する状況では、過度の「守り」に徹する企業が少なくありません。政府が主導する対策でも「事業の継続」「雇用調整」を目的とした補助金が大半であり、どうしても意識は「守り」に支配されがちです。さらに既存事業の維持と雇用を守るために探索活動が停滞(もしくは中止)させ、既存事業の強化につながる知見や、新規事業創出の土台が失われます。このような状況は、「コンピテンシートラップ」を加速させ、将来の成長力を奪ってしまうのです。

コンピテンシートラップとは、「既存事業の深化だけにリソースを傾けすぎた結果、知見を持つ領域が狭くなり、イノベーションが停滞すること」です。要は、得意分野だけに注力するあまり視野狭窄に陥り、新しい「稼ぎ手」を創り出す力がなくなってしまう状態です。

両利きの経営による「転身」が企業を守る

近年、国内外の大手・優良企業が両利きの経営を実践し、収益基盤の強化に成功しています。例えば、Amazonはネット通販事業の最大手として名を馳せたあと、素早くクラウドコンピューティングプロバイダ事業に投資して「AWS」をリリースしました。AWSは現在、世界三大クラウドプロットフォームのひとつにまで成長し、同社の主力事業です。国内では、ビール会社のキリンが発酵関連の知的財産を活かし、バイオ・農業の分野で事業を成立させました。

これらはまさに、深化と探索による両利き経営の賜物です。コロナ禍のように意識・生活様式の変化が起こる環境では、製品・サービスのニーズも激しく変動します。既存事業は常に収益力低下のリスクにさらされるうえに、予測も難しいのです。そのため、企業には「転身」を積極的に狙いながら、既存事業の収益も確保するという攻め方が求められます。

両利きの経営を成功させた企業に共通すること

両利きの経営を成功させた企業には、ある共通点があります。それは「コンピテンシートラップの回避」です。要は、得意分野だけに注力するあまり視野狭窄に陥り、新しい「稼ぎ手」を創り出す力を失わないよう、深化と探索のバランスを維持しているのです。両利きの経営を用いて収益基盤を強化した企業は、このコンピテンシートラップを上手に回避するため、意識的に「探索(新規事業に関する知見獲得や投資・育成)」を続け、中核事業を徐々に変化させながら、華麗なる転身を達成しているわけです。これは、コロナ禍で生ずる変化や破壊的イノベーションへの対応策として、極めて優れています。

両利きの経営の実践で必要なもの

では、両利きの経営の実践で必要な要素を、もう少し具体的に整理してみましょう。両利き経営は大企業の成功事例が多い理論ですが、今後は中小企業でも当たり前のように必要とされていくでしょう。大資本を持たない中小企業の場合は、「人」と「ツール」によって知的探索の効果を高めていく必要があると考えられます。

バーチャル社員活用

これまでの日本企業は「野球に勝つために野球に強い人材を集める」という人材獲得が当たり前でした。また、組織構造もどちらかといえば硬直的で、組織改編には大きな痛みとコストが伴うものでした。両利きの経営ではこうした既存の人材獲得戦略を見直し、積極的に転身を狙うために「ゆるやかで柔軟かつ適時性のある人の結びつき」を重視していく必要があります。具体的には、雇用形態・勤務時間・場所にとらわれない「能力ベース」の人材獲得です。

このような人材をベンチャーネットでは「バーチャル社員」と定義しています。バーチャル社員は「仮想的な社員」という意味ではありません。組織・雇用・勤務形態にかかわらず、純粋に「仕事の遂行」に必要な能力を持った「本質的」な人材です。バーチャル社員活用では「誰と何ができそうか」という視点から人材を抽出し、出会った人材に対しては、徐々に仕事の範囲を拡大させます。また、オンラインをベースとした付き合いを前提とし「必要なときに」「必要なスキル」を提供してもらいつつ、継続的な関係を築き上げます。

従来の人材獲得は、「既存分野の深化」に強みを発揮する方法論です。しかし今後は「新規分野の開拓」や「既存+新規事業の融合」という点で、欠落している組織能力を素早く補強する体制が必要になるでしょう。バーチャル社員活用は、現代企業が抱える知的探索活動の処方箋になりうると考えています。

半自動的かつ「人」のコストを最小化するITツール群

現在は、国内外のさまざまなソリューションベンダーから、企業内の業務を半自動化できるだけの機能を持ったツールが販売されています。小資本による両利きの経営では、こうしたツールをうまく活用し、業務プロセスの自動化を進めつつ、知的活動のバリューチェーンを強化する方法がおすすめです。

SFA「Salesforce」

SFA世界最大手の「Salesforce」は、組織形態に合わせたエ複数のディションを選択できることから、既存事業・新規事業のどちらにも対応できるシステム構築が可能です。

ERP/CRM/SFA「Netsuite」

NetSuite」はERP、CRM、SFAの機能を内包したツールです。ヒト・モノ・資金・情報など企業内の主要なリソースを管理しつつ、顧客管理や営業との連携など、業務プロセスの改善におけるベースになります。クラウド型であり、遠隔地で社員それぞれが異なる業務を進める環境にもマッチします。また、標準搭載されているWebサービスAPIを活用したアプリケーション連携も可能なことから、小規模な企業であれば既存業務プロセスの強化・効率化の核と成り得ます。

RPA「WinActor」

WinActor」は国内では300社以上への導入実績を有する、国内製RPAソリューションです。画像認識・HTMLタグ座標によるターゲット識別・VBAでの自動化スクリプトなどが可能で、既存事業の手作業を大幅に効率化できます。管理ロボ(WinDirector)のAPI連携機能が強化されたことで、新規事業の業務シナリオ構築にも適合する製品になりました。

MA「Eloqua」

Eloqua」は自動化に強みをもつMAツールで、オンライン、オフライン双方の顧客データを行動データと紐づけて管理し、他システムと連携させます。マーケティング・営業の連結が容易になるほか、CRMとのAPI連携によって顧客管理業務の自動化も可能です。

ベンチャーネットでは、こうした「人」と「ツール」の獲得によってバーチャルトランスフォーメーションが達成され、両利きの経営における「探索と深化」を小資本で推進することが可能だと考えています。

まとめ

本稿では、両利きの経営の理論を解説しながら、大資本を持たない企業が両利きの経営に必要な事柄を紹介してきました。両利きの経営においては、最終的に“予算・ルール・評価基準の対バランスをとるリーダーシップ”が重要だとされています。ベンチャーネットでは、経営者自身のリーダーシップを支え、小資本でも両利きの経営を実践に導く伴走型サービスを提供可能です。ぜひお気軽にお問合せください。


書き手:持田卓臣