社内のメールも会議も、Microsoftの製品で回っている。付き合いのあるIT会社からは、Business Centralを勧められた。
一方で、Odooという選択肢も耳にした。どちらも「会計から在庫まで一つで扱える」と言う。違いが分からないまま、見積もりだけが増えていく。
この迷いには理由があります。Dynamics 365 Business Centralは、Odooと同じ土俵にいるからです。
どちらも中堅企業向けの統合型ERP(会計・販売・在庫などを一つのデータで扱う基幹システム)です。守備範囲が重なっているからこそ、違いは機能の外にあります。エコシステムと、ライセンスの思想です。この2つを軸に見れば、迷いはほどけます。
Odooは中核が公開されているため、中身を確認でき、支援先を変えやすい構造です(Odooの構造的な違い)。
この比較で、たとえば次のことが分かります。
- Business Centralの、Microsoftの製品群の一部という強みが活きる条件
- Odooのオープンコアという構造が意味すること
- 社内会議で使える、どちらに寄るかの確認リスト
- 日本の制度対応で、どちらも確かめたい領域
ただし、日本での実績と情報量では、Odooは大手ベンダーの製品に及びません。この差をどう補うかも、検討の論点です。
では、自社はどちらを選べばよいのか。判断の軸は4つあり、そのうち1つは機能比較の陰でいちばん見落とされます。答えは4つの判断の軸にあります。
両製品とも、仕様は変化します。最新の内容は、それぞれの公式情報でご確認ください。
CommunityとEnterpriseの区別について
Odooには無料のCommunity版と有償のEnterprise版があります。オープンコアという構造は、この無償版と有償版の関係を指しています。
Business Centralの強み|Microsoftエコシステムの一部であること
Business Centralは、Microsoftの製品群の一部です。これが最大の特徴であり、強みです。
Dynamics 365の製品ごとの違いは、Microsoft Dynamics 365とは?製品の違いと向いている会社 で整理しています。
すでに使っているなら、大きな利点
多くの日本企業は、表計算、文書作成、メール、会議でMicrosoftの製品を日常的に使っています。
すでに全社で使っているなら、同じ製品群の中にERPがあることには、はっきりした価値があります。
- 同じアカウントでログインできる
- 操作感が地続きになる
- 表計算との行き来がしやすい
- 情報システム部門が慣れている
これは軽視すべきでない要素です。ERPは「使ってもらえるか」が成否を分けます。慣れた環境に近いことは、定着を助けます。
定着の重要性については、Odooを社内に定着させる方法 をご覧ください。
Odooの構造的な違い|オープンコアで中身を確かめられる
Odooの特徴は、オープンコアという構造です。
中核部分がオープンソースとして公開され、その外側に有償の部分があります。詳しくは Odooのライセンスを解説 にまとめています。
この構造が意味すること
(1) ソースコードを確認できる
何がどう動いているかを、必要なら確認できます。データベースにも標準的な仕組みが使われています。
(2) 支援先を変えやすい
特定のベンダーにしか触れない状態になりにくい構造です。担当会社との関係が変わっても、仕組みごと手放さずに済む。長い目で見ると、この点には価値があります。
(3) 段階的に始めやすい
1アプリから無料で試せるプランもあります。詳しくは Odoo One App Freeとは? をご覧ください。
ただし、日本での実績と情報量
日本での導入実績や情報量では、大手ベンダーの製品に分があります。
- 日本語の情報の量
- 対応できる技術者の数
- 導入事例の蓄積
Odooは、日本ではまだ発展途上です。この点は、リスクとして正直に見ておくべきです。
Business CentralかOdooか、判断の軸は4つ
軸は、既存のIT環境、内製したい度合い、規模と成長の見通し、支援体制の4つです。全社で同じ製品群を使い情シスも慣れているなら、エコシステム型が有利です。自社で作り込みたい、中身を確かめたいなら、オープンコアが有利になります。規模が大きいほど、上位のERPも視野に入ります。
④の支援体制を後回しにしない
製品の機能を比べることに時間をかけて、支援体制の確認を後回しにする。そんなケースが少なくありません。
しかし実務では、ここが成否を分けます。製品の優劣より、この体制のほうが結果を左右します。
社内会議で使える確認リスト
4つの軸を、社内で答えられる問いに置き換えました。当てはまる項目が多い側が、自社の候補です。
Business Centralに寄る項目
Business Centralの持ち味は、同じアカウント・同じ操作感で使えることです。Microsoftの製品群の一部だからです(Business Centralの強み)。
- □ 全社のメール・会議・表計算が、すでにMicrosoftの製品でそろっている
- □ 社員のアカウント管理を、情報システム担当がその環境で回している
- □ 新しい画面に慣れる負担を、できるだけ小さくしたい
当てはまる項目が多いほど、慣れた環境に近いことが定着を助けます。一方で、Microsoftの製品を全社ではまだ使っていない会社では、この利点は小さくなります。
Odooに寄る項目
Odooの持ち味は、中核が公開されていて中身を確認でき、支援先を変えやすいことです(Odooの構造的な違い)。
- □ 業務に合わせて自社で手を入れたい、または中身を確かめたい
- □ 支援会社との関係が変わっても、仕組みを使い続けたい
- □ 1つの業務から小さく始めて、順に広げたい
当てはまる項目が多いほど、1アプリから始めて広げる進め方が活きます。一方で、日本での情報量や対応できる技術者の数では、大手ベンダーの製品に分があります。支援体制で補うことが前提です。
どちらでも先に確かめる項目
- □ 導入時と稼働後に、相談できる相手が決まっている
- □ 担当者が辞めたとき、代わりに対応できる体制がある
- □ 3〜5年後の拠点数や、海外展開の有無を見通している
日本の制度対応について|インボイス・電子帳簿保存法・給与
両製品とも海外で生まれています。日本の制度対応については、どちらも確認が必要です。
- インボイス制度への対応
- 電子帳簿保存法
- 日本の給与計算
- 商習慣(月末締めの合計請求書、帳票の様式)
「海外製ERPだから日本に合わない」という単純な話ではありません。ただし、確認すべき領域があることは共通しています。
Odooについては Odooの日本対応状況 にまとめています。
日本の制度対応を最優先するなら、Odooと奉行クラウドの違い で扱った国産パッケージのほうが適する場合もあります。
Business CentralとOdooで迷ったとき、ベンチャーネットが最初に確かめること
Dynamics 365 Business Centralを否定する立場ではありません。同じ土俵にある正当な選択肢で、Microsoftの製品群を全社で使う会社には有力な候補です。
ERP導入支援を手がけるベンチャーネットは、NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しています。そのうえで、この2製品で迷う会社とは次の順で話を進めます。
- 3〜5年後の会社の姿を先に聞く:拠点、人数、海外展開、連結決算の有無です。ここで規模が大きく出れば、2製品より上位のERPも候補に入れます。
- 今のIT環境を棚卸しする:Microsoftの製品をどこまで全社で使い、誰が管理しているかを確かめます。環境がそろっていれば、Business Centralの利点は本物です。
- 標準機能に業務を合わせられるかを見る:Fit to Standard(標準機能に業務を合わせる考え方)で確かめます。月末締めの請求や帳票など、日本の商習慣に関わる業務から先に見ます。
- 稼働後の相談相手を決める:導入後に誰が仕組みを直すのか、担当者が離れたらどうするのかを、製品選びと同じ重さで決めます。
- 合わないなら、合わないと伝える:Microsoftの環境に寄せたほうが自然な会社には、Business Centralを軸に検討するよう伝えます。
判断の目安は、次の表のとおりです。
| 状況 | 検討したい選択肢 |
|---|---|
| Microsoftの環境に統一しており、情シスも慣れている | エコシステム型が有利 |
| 内製や作り込みを重視し、中身を確認したい | Odooが現実的な選択肢 |
| 規模が大きく、グローバル連結や高度な内部統制が必要 | OdooとNetSuiteの違い を参照 |
| 業務が固有すぎてパッケージに乗らない | AIスクラッチ開発という選択肢 |
AIスクラッチ開発は、ライセンス費用がかからない代わりに、開発費と保守費が別途かかります。判断材料は パッケージERPかスクラッチ開発か にまとめました。
規模が大きく、Dynamics 365とNetSuiteを見比べたい場合は NetSuiteとDynamics 365の比較 をご覧ください。
よくある質問
Q1. OdooとBusiness Centralの一番の違いは何ですか?
エコシステムとライセンスの思想です。
Business Centralは、Microsoftの製品群の一部です。全社でその環境を使っているなら、同じアカウント、同じ操作感で使えます。Odooはオープンコアという構造で、中核が公開されているため中身を確認でき、支援先を変えやすくなっています(Odooの構造的な違い)。
Q2. 機能の差はどのくらいありますか?
どちらも、中堅企業向けの統合型ERPとして必要な機能を備えています。
機能の一覧を並べても、判断材料にはなりにくいと考えています。自社の要件を、それぞれがどう実現するか。それを確かめるほうが有効です。
Q3. Odooのほうが安いですか?
単純な金額では比べられません。課金の仕組みが異なるためです。
比べるべきは総額です。ライセンス費用に加えて、導入費用、カスタマイズ費用、運用にかかる人の時間を含めてください。考え方は Odoo導入にかかる費用の構造 をご覧ください。
Q4. 日本での導入実績が少ないのは不安です。どう考えればいいですか?
日本での実績と情報量では、大手ベンダーの製品に分があります。その不安には根拠があります。
一方で、Odooは世界的には広く使われています。日本語の情報が少ないという課題は、支援体制でどう補うかの問題です。
Q5. 選んだあとで、途中から乗り換えられますか?
どちらの製品からでも、移行そのものは可能です。ただし、作業と費用が発生します。
Odooはソースコードが公開されており、データベースにも標準的な仕組みが使われています。この点で、乗り換えの自由度は残りやすい構造です。
Q6. どちらを選んでも失敗しないのでしょうか?
どちらを選んでも、進め方を誤れば失敗します。結果を左右するのは、製品選びより進め方です。
目的を決めずに始める、現行のやり方をそのまま再現しようとする、定着の設計をしない。これらは製品を問わず失敗の原因になります。
考え方は Odoo導入の失敗パターンと回避策 にまとめています。
まとめ
Dynamics 365 Business CentralとOdooは、同じ土俵にいます。どちらも中堅企業向けの統合型ERPです。
違いは、エコシステムと、ライセンスの思想にあります。
- Business Central:Microsoftの製品群の一部。全社でその環境を使っているなら、同じアカウント、同じ操作感で使える価値がある
- Odoo:オープンコアという構造。中核が公開されているため、中身を確認でき、支援先を変えやすい
判断の軸は4つです。既存のIT環境、内製したい度合い、規模と成長の見通し、そして支援体制。とくに4番目は、機能比較の陰で後回しにされがちです。
日本での実績と情報量では、Odooは大手ベンダーの製品に及びません。この差を支援体制でどう補うかが、検討の論点です。
1年後の月次会議で、「あの製品で良かったのか」という話が出なくなっている。困りごとが出ても、担当者の名前ではなく決まった相談先で片づき、議題は在庫や売上の中身に移っている。そこまで見据えて、4つの軸の優先順位を決めてください。
もう少し詳しく知りたい方へ
ベンチャーネットは、ERP導入支援を手がける会社です。NetSuite・Odoo・AIスクラッチ開発を扱い、SAPからのリプレイスにも対応しているため、特定の製品に偏らない立場でご提案できます。
Microsoftの環境に統一している会社に、無理にOdooを勧めることはしません。 「自社の判断軸はどれか」を整理するところからご相談を承っています。
あわせて読みたい記事
